天保のすえ、小石川御箪笥町 の稲生播磨守 の上屋敷。
諸士の出入りする通用門につづく築地塀 の陰。夕方。杉、八 つ手 などの植込みの根方に、中小姓税所郁之進 と、同じく中小姓池田、森の三人が、しゃがんで話しこんでいる。
池田は昂奮し、税所郁之進は蒼白 な顔で、腕を組み、うなだれている。
諸士の出入りする通用門につづく
池田は昂奮し、税所郁之進は
池田 君主は舟、臣は水。舟を浮かべるは水なり。舟を覆すもまた水なり。為政者 の心すべきところだ。それだのに殿は――。
森 しっ! 人に聞かれたらどうする。税所の迷惑を考えろ。
奥に何か催しがあるらしく、羽織袴の藩士たちが続々門をはいって来て、声高に談笑しながら、三人の横を通り過ぎて行く。
池田 いや、このたびの殿の御乱行には、彼らの中の心ある士 は、みな眉を顰 めておるのだ。聞こえたとてかまわん。
森 税所! 貴公の心中は察するぞ。いったいいつこんなことになったのだ。
郁之進 (二十四、五の美男。低いふるえ声で)もうその話は止してくれ。おれは何とかして忘れよう、この胸から取り去ろうと努めているのに、君らはそうやって僕を問い詰めるとは惨酷じゃあないか。
池田 (森と顔を見合わせて)もっともだ。そう思うのも無理はない――が、おれたちは貴公に同情して、友人として君を慰めようと――。
郁之進 その友情があったら、何も言わんでくれと頼んでおるのだ。
森 しかし、黙視するに忍びんから――。
郁之進 黙視できぬ? では、森に訊こう。どうしたらよいというのだ。
池田と森は無言に落ちる。
郁之進 (せせら笑って)それ見ろ。口を噤 むよりしようがあるまい。長いものに捲かれろという言葉もある。いや、さような俗言を藉 らずとも、先は殿だ。何のおれに、恨みがましい気持ちがあってなるものか。そんな心は微塵 もないぞ。(言いきる)
池田 藩主と家臣――藩主は、欲しいものがあったら、家来から何を奪ってもいいものだろうか。新婚の夢円 らかな妻をさえも――こういう主従の制度は、いったい誰が決めたのだ。
郁之進も森も、考えこむ。
池田 要するに、扶持米 を貰って食わせてもらっておるから、頭をさげる。それだけのことじゃあないか。おれは、こういう世の中の仕組みは、遠からず瓦解 するものと思う。何かしら大きな変動が来るような気がしてならんのだ。いや、来べきだ。どことなく、そのにおいがする。
森 (恐しそうに)おれたち武士 の先祖たちは、ほんとうに、主君に対して文字どおり絶対服従だったのだろうか。
池田 そりゃむろんそうだとも。おれたちもそれを教え込まれてきた。叩きこまれてきた――だが、おれは近ごろ、人間と人間とのそうした関係に、どうも疑いを持ちはじめてきたのだ。これでいいものかどうかと――。
森 主君の欲 するところには、絶対に服従する。ふふうむ、絶対に、理も非もなく――。
池田 何らの大義名分がなくとも、腹を切れと言われれば、即座に腹を切る――切れるか貴公。森、貴様はどうだ。
森 うむ、切る――つもりで、今日まできたが、すこしどうも変だな。
池田 そちの妻を夜伽 に――と言われたら?
郁之進 (狂的に両手で耳を抑さえて)またそれをいう。またそれを言う。
森 そうだ! 長続きせんぞ、こういう君臣の関係は。
池田 おれたちは若いから、世の移り変りを早く予感できるのだ。いずれ、何かある、何か起るぞ、きっと――。
郁之進 (顔色を変えて)いや! そんな馬鹿なことがあるものか。君臣の義は大磐石だ。また永代大磐石にするのが、われわれのつとめなのだ。そんな怪 しからぬ疑念を持って、どうして御奉公がつとまる! 不届きなことを言うやつだ。
森 貴公ほんとうにそう思うのか。
郁之進 そう思うかとは情ない奴だ。そう思わんでどうする。
池田 そうかなあ。この、遠くから近づいて来る世の大変革の跫音 が、君にはすこしも聞こえんのかなあ。
郁之進 (色を為 して)いかなる大変革があろうとも、君臣の大義が崩れてたまるものか。
池田 新妻を召し上げられても、君は今でもそう思っているのか。
森 本心を聞かしてくれ、本心を。
郁之進 本心もうそ心もあるものか。それとこれとは別だ。それはおれも、悩んださ。うむ、今でも悩んでおらんとは言わぬ。
森と池田は、ちらと顔を見合わせる。
池田 そうだろうとも。いや、人情そうあるべきところだ。
郁之進 お恥かしい次第だが、当座は、あの加世 の面影が、眼前にちらついて――。
森 藩中第一の美女、お加世どのだからなあ。じつは、あのお納戸役吾孫子 殿の娘御お加世どのは、誰の手に落ちるかと、われわれ一統、手に汗握る気持ちで眺めておったのだ。自薦運動も大分猛烈だったからな。
池田 (そっと森を小突いて)それを税所が、めでたく中原の鹿を射て、この春いよいよ華燭 の典を挙げた時には、なあ森、白状するが、少々嫉 けたなあ。
森 うむ、あの晩は大分あちこちで、自暴酒 をやった士 が多かった。面目ないが、おれと池田も、じつはその組で――。
池田 (うな垂れている郁之進を覗いて)それほど藩中の羨まれものだった貴公が、あんなに美しい掌中の玉、恋女房のお加世どのを殿に召し上げられたのだ。すこしは口惜しいと思わんか。
郁之進 それは人間自然の情で、口惜しいと思ったこともあるさ。
池田 (森に眼配せして)なに、口惜しいと?
郁之進 うむ、悲しみもした。苦しみもした。だが、その気持ちはみんな去った。今はもう何とも思っておらん。相手は殿じゃあないか。どうにもならん。ははは、いや、どうにもならんというよりは、あんな不束者 がお眼に留まって、お側へとのお声がかかり、おれはほんとうに光栄だと思っている。ありがたいと思っている。加世は、謹しんで殿へ献上したのだよ。どうかもう心配しないでくれ。
突如池田が足を揚げて、郁之進を蹴倒す。
池田 意気地なし! 武士の風上に置けんやつとは、貴様のことだ! 人心はすでに殿を離れておるのだぞ。この腐れかかった封建制度は、今にも倒れんとしているのだ。おれにはそれがよくわかる。誰か一人、ここで下剋上 の口火を切る者があれば、天下挙 って起ち上るのだ。臣下が主君に怨みを報ずる。じつに驚天動地の痛快事じゃあないか。それには今貴様は、絶好の立場におるのに――。
郁之進 (地面に転がりながら、冷静に)殿に恨みを報いる? なんでおれがそのような――考えるだにもったいない!
池田 貴様は、人間としてなっておらん。うぬ! こうしてくれる!
ぺっと唾を吐きかけて、池田は立ち去る。
郁之進 (倒れたまま、その唾を拭いもせず夢みるような独り言に)あの日、先殿様の御命日に、殿が随福寺へお成りのみぎり、選ばれてお茶を献じた加世めが、畏 れ多くもお眼に触れて召し上げられた――。
森 (同情するように、また焚きつけるように)うむ。そうだということだなあ。それも、娘のうちならまだしも、君という立派な良人のあることを、殿もよく御存じのくせに――いや、君も知ってのとおり、池田はすぐ激昂 する性 で、気の毒だったが、しかし、何といっても殿の今度のなされ方は、すこしお手荒だったよ。老臣たちはことごとく憂慮しておる。また、われわれ一同君の気持ちを察して、殿を憎んでおるのだ。
郁之進 お手荒? いやいや、そんなことはけっしてない。そこが君臣ではないか。殿をお憎み申し上げるなどとは、もっての外だ。
森 しかし、人倫 の大道に反く以上、殿といえども、そのままには――。
郁之進 いやいや! 滅相 な! 殿の一言一行こそは、善悪を超えて、そのまま人倫の大道と申すべきだ。もう言うな。加世がお側へ召されて、もう十日になる。お気に入るように勤めていてくれればよいが――。
森 (じっと相手の表情を注視して)聞くところによれば、お加世どのは君を慕って、泣いてばかりおるということだ。
郁之進 なんという不届きな! おれはそれを聞くと、加代の心得違いが情なくて、涙が出る。なみだが出る。(と泣く)
森 さあ、起てるか。
郁之進 池田の怒るのが、おれにはすこしもわからん。彼男 は、とんでもない邪悪な考えに取り憑 かれておる。うん、立てるとも。
森 (植込みの奥を見こんで)おう、もうお歌の会がはじまりそうだ。さ、行こう。
郁之進 おれはこの衣紋の崩れを直してから行く。貴公、構わず先に行ってくれ。
森 そうか。では、待っているぞ。(去る)
郁之進 (そのうしろ姿をじっと見送って、独り言)池田といい、森と言い、揃いもそろっておれを疑っておる。ああ情ない。どうしてこのおれの、殿に対して何らの異心も無いこの胸の内が通ぜぬのだろう。まだ誠がたらぬのか。(と地 に坐って考え込み、はてはぴたりと両手を突いて、うな垂れる)
―――――――――――――――――――――
奥の大広間。正面に開かれた襖の外に廊下、その向うに宵闇の迫る庭が見える。
お加世の父、お納戸役人吾孫子なにがしというおどおどした老人が、池田、森の両人と対坐している。
お坊主がはいって来る。
奥の大広間。正面に開かれた襖の外に廊下、その向うに宵闇の迫る庭が見える。
お加世の父、お納戸役人吾孫子なにがしというおどおどした老人が、池田、森の両人と対坐している。
お坊主がはいって来る。
坊主 (三人へ)ただいま殿には、お歌の会を御中座なされて、ほどなくこれへお渡りになります。
池田 さようですか。これはどうもお使い御苦労。(吾孫子老人へ、前からの話をつづけて)それが、いかに鎌を掛けても、けっして本音を吐かんのですよ。
森 気の弱い男だ。いや、あの、何のうらみも抱いておらぬという、あれがきゃつの本音なのさ。
池田 たといいくら気の強い男でも、相手が藩公ではなあ、はっはっは。
吾孫子 いや、寝覚めの悪い思いをします。こういうことになって、私も思わぬ出世をさせていただくとわかっておったら、もうすこし嫁入りさせずに置くんじゃった。ちと早まりましたて。
池田 なに、あの生 っ白 い税所輩が、生意気千万にも、絶世の美人お加世どのを妻にしたりするから、かようなことになるのだ。いや、いい気味というものだ。
森 そうだ。釣り合わぬは不縁の因 といってな。これでやっと腹の虫が納まったぞ。
池田 事に托して、あいつを蹴倒してやった時には、春以来のこの胸が、どうやらすうっといたしたよ、あはははは。
森 しかし、貴公のあの過激な議論には、ちょっと驚いたぞ。
池田 敵を欺 くには、まず味方をあざむけ、いや、第一に己れを欺けさ。なんにしても殿のお手で、あのお加世どのが税所のふところから取り上げられたのだから、こんな痛快なことはない。
吾孫子 いやどうも、何やかやと皆さまをお騒がせして、申訳ありませぬ。が、私は郁之進に気の毒で、あれの顔が見られん仕末で――。
正面の庭の燈籠に、腰元が灯を入れてゆく。殿の出御近しと知って、三人はいずまいを直す。二つ折りの褥を捧げた侍女がはいって来て、上手に座を設ける。
稲生播磨守 (廊下を近づく声)ああもう歌などどうでもよい。飽きた、飽きたぞ。
はいって来て座につく。四十五、六の癇癖の強そうな大名。刀を持った子供小姓、つづいてお加世、侍女三、四、それぞれの席にい流れる。
播磨 (平伏した三人へ)どうだ、税所の気が知れたかな。(と大欠伸をする)
お加世はうつ向く。
池田 恐れながら、かねての殿のお命令 に従い、きやつの胸に探りを入れてみましたところ、まったく異心は無いものと見受けましてござります。
播磨 ふむ、そうかな。いやあたり前だ。異心などあってどうする。
森 身にあまる光栄だと申して、よろこんでおりまする。
播磨 うむ。そうあるべきところだ。ははははは、いや、しごく当然の話だ。(振り向いて)加世、聞いたか。これでそちのその小さな胸も、晴れたであろう。この上は、心置きなく余の寵愛を受けい、なあ。
吾孫子 (ひれ伏して)なにとぞ、末始終お眼をおかけ下されまして――。
お坊主 (次の間の敷居ぎわへ来て)申し上げます。皆様彼室 でお待ちかねでいらっしゃいますが、お歌のほうは、もはや――。
播磨 歌はもうよしたぞ。重立った者だけ、こちらへ話しにでも来いと申せ。
池田 では、われわれは――。(と森へ眼まぜして、退 ろうとする)
播磨 いや、苦しゅうない。そこにおれ。
歌会の席から、家老矢沢某、ほか重役重臣ら二十人ばかりはいってくる。他藩の士も招かれて来ている。
中に、当時刀の観相家として知られた某藩の久保奎堂 も混っている。奎堂は五十がらみ、茶筅髪の学者型である。一同が提げ刀のまま入り乱れて席を譲り合いながら、座につこうとする時、ひとりの侍の刀の鐺 が、他の一人の刀に触れて、かちっと音を立てる。
中に、当時刀の観相家として知られた某藩の
その一人 おっと! これはこれは、とんだ粗相 を。なにとぞ御容赦のほどを――。
他の一人 いや、手前こそ、お邪魔になるところへ小長い刀 を突き出しておって、不調法をつかまつりました。平に御勘弁を。
両士は慇懃 に挨拶して、坐る。
播磨 や、それがいわゆる鞘当 て。いささかの意趣遺恨でもあろうものなら、その鞘当てからいかなる騒ぎになろうも知れぬところを、見事、平らに捌 いた両人の手並み、ちかごろ鮮やか、鮮やか、ははははは。
両人 鞘当てとはどうも、ははははは、それがまた自らなる御座興となって、殿の御感を得るとは。なんなら、いま一度お当て下されい。
たがいに会釈して笑う。
座の一人 いや、文字どおりの鞘当てでござりましたて。一時はどうなることかと、はっはっは。
その二 はらはらいたしました。まさか、ははははは。
一同爆笑する。
その三 お、そう申せば、その問題のお鞘は、いかさまお見事なる作りでござるな。卒事ながら、拝見願われますまいか。
刀をぶつけた侍 かようなやくざな刀 がお眼に留まるとは、恐縮です。とてもお歴々の見参に供 えるようなものではござりませぬが、お望みとあらば、お安い御用。どうぞ御覧を。
と人手をとおして、その刀を順送りに渡す。
受け継ぐ人々 ほほう、小柄 は祐乗 ですな。
おなじく二 糸輪覗き桔梗 の御紋は、これは御家紋で?
同三 彫りは、肥後の林重長と観 ましたが。
四 いや、お眼がお高い。
五 この鍔は、明珍の誰でござりますな?
所有主 義房作とか、伝えられておりますが、いや、お恥かしいもので。
一見を所望した侍 (受け取って)結構な蝋色鞘 ですな。失礼ながら、いい時代がついておりますて。ほ! お鍔の彫りは、替り蝶の飛び姿! いや、凝った凝った、大凝りですな。こうなると、ぜひ刀身 が拝見したくてぞくぞく致してまいる。お刀は?
所有主 いや、つまらぬもので。会津でござる。
座の一人 会津と申しますと、兼定 ? それとも、三善か若狭守か――。
所有主 兼定でございます。
播磨 初代か。
所有主 はっ。いえ、五代目でござりまする。
刀相家久保奎堂 すると、近江大掾 となった元禄の兼定ですな。
刀を見ている侍 その兼定ならば、定めし大物でしょう。悍馬 のごとく逸 って、こりゃ鞘当てもしかねますまいて。ははははは、いや、どうせのことに、ちょっと拝見せずにはおられぬ。(懐紙を口に銜 え、いずまいを正して播磨守に目礼)御免を――。
一、二寸抜きかける。
家老矢沢 (あわてて)これ、御前ですぞ。鯉口を拡げるはおそれ多い。御遠慮を、御遠慮を。
抜きかけた侍 (はっと気づいて)見たい一心に駆られて、つい心づきませんでした。粗忽のほどは、御前よしなにお取りなしを。
ぱちんと鞘へ返して、手を突く。
播磨 なんだ。構わぬ。抜け抜け。余も見たい。(矢沢へ)爺い! 余計な口出しして、興醒めな奴じゃ。大名だとて武士だぞ。白刃に驚くか。抜かせい。
矢沢 それでは、お許しが出ましたによって、御自由に。
抜きかけた侍 おそれいりまする。では、御前をも顧みませず――。(作法どおりすらりと抜いて、見入る)ううむ、物凄き作往 き!
隣の侍 やっ、斬れそうですなあ。
と覗き込む。刀は転々と座をめぐって、人々のあいだに感嘆の呟き起る。
久保奎堂 (受け取って、じっと刀身を見守る)ふうむ、威といい、品と言い、ちかごろにないよい気もちですなあ。
鞘を触れられた侍 一つ、その兼定に鞘当てされた某 の刀も、御列座の高覧に預かりたいもので、ははははは。
座の一人 御佩刀 は?
鞘を触れられた侍 国綱 です。
奎堂 粟田口 。それはまた時代な。いや、今宵は名刀揃いですな、さだめし他の方々も、素晴しいものを帯びておられることでしょう。
矢沢 (はたと膝を打ち、播磨守へ)殿にもお聞き及びと存じまするが、これなる久保奎堂氏は、剣相をよくつかまつります。刀の観相きわめて奇妙でござりまして、その効著しく、世上にてももっぱらの[#「もっぱらの」は底本では「もっぽらの」]評判――。
奎堂 いや、これは御家老、よしなきことをお耳にたっしては、拙者が困ります。
播磨 久保うじのことは聞いておるとも。うむ、刀にも相があるということだな。
奎堂 おそれながら、人相家相等と同じく、刀剣にも刀相、剣相というものがござりまして――。
矢沢 これなる奎堂先生は、帯剣の吉凶を相し、腰刀の禍福を試みて、その言い当てるところ、万に一つの誤ちもござりませぬよし。
奎堂 いえ、それは過褒 と申すもの――。
播磨 一段と興を覚えたぞ。その剣相の達人が幸い一座におるとは面白い。
矢沢 されば、今夕 のお慰みに――いや、おなぐさみと申しては、奎堂先生に失礼でござるが、一同の刀を相せしめましてはいかがで。
播磨 奎堂足下、皆の刀を一見して、吉凶禍福を申されよ。
奎堂 それでは、未熟ながら仰せにしたがいまして――。
と座を改めて、まず播磨守の佩刀を小姓に乞い受け、うやうやしく一覧する。
奎堂 さすがは太守のお腰の物、領民鼓腹、お家万代のはなはだ吉相、上々吉と観相つかまつりまする。相州 でございますな。正宗でございますな。まことに御名作で。
次ぎに家老矢沢の刀を観相し、同じく賞 める。それより席順に諸士の刀を受けては、相を案ずる。
奎堂 ははあ、陸奥守包保 、左文字大銘 に切ってござろうな。左陸奥守――いたって吉相。常用差しつかえござらぬ。(つぎの刀を受け取って)うむ、虎徹 が出ましたな。これも善相。いや、ちょっとお待ちを――ふうむ、少々相 が荒びておりますな。めったに鞘走 りいたしませぬように、ちと御用心を。
つぎつぎに刀を観 ていく。一同は帯刀を下げて、交 る代 る起って奎堂の前へ行き、相を受けては座に帰る。いつの間にか人々の背ろに、税所郁之進が来て坐っている。それと見て、加世は播磨守のかげに身をすくめる。
奎堂 これは佐々木一峰の作とお見受けいたす。吉凶あいなかば――次ぎ。筑前利次ですな。素直な相でござる。つぎ――守正でしょうか、安永でしょうかな。可も不可もなし。おつぎは――金道の二代目あたりと観ますが、これはいささか凶相を帯びております。お差料には御遠慮あったほうが、お身のおため――。
そのたびに、喜ぶ者、頭を掻くもの。笑声、讃嘆の声々湧き、播磨守をはじめ一座ことごとく感じ入る。
正面の庭に、月が昇る。
正面の庭に、月が昇る。
末座の一人 (左右を見廻して笑う)後は、この顔触れでは、あまり名刀も出ないようですな。一人ずつ奎堂先生をわずらわすほどのこともありますまい。それでは先生も大変だ。どうです、おあとはこみにして願っては。
その隣 さようさ。そうすれば、女難の相なぞ現れた場合に、誰のかわからぬから顔を赤らめずにすむというもの。名案名案。
一同笑い崩れる中に、言いだした侍が起って、残りの十人ほどの帯刀を一しょに集めて、ひとかかえ奎堂の前へ置く。まるで刀屋ですな、などという声がする。
奎堂 (その一本一本を抜いては手早く観相して)これは吉。これも吉。これは半吉。これはどうも凶ですな。が、むろん。たいした悪相ではござらぬから、けっしてお気にかけぬように――これは吉凶半々。これは大吉です。失礼ながら作はあまりよくはないが、刀相としては大福なので。
などと、片端から片づけてゆく。そのうちに、鞘を払ったとある一刀にじっと見入って、おや! という思い入れ。一座に、さっと真剣の気が流れる。
奎堂は無言で、長いこと凝然とその刀相を白眼 んだ後、ただならぬ面持ちで近くの燭台の下へ急ぎ、灯にかざして改めてとみこうみする。
奎堂は無言で、長いこと凝然とその刀相を
奎堂 (驚愕狼狽の表情で呻く)ううむ!
矢沢 (愕いて)いかが召された。何かその刀に、御不審の点でも――。
奎堂 (はっと心づきたる態)いや、なに――ははははは、何でもござらぬ、ははははは。
奎堂 (まだ刀を見詰めながら、思わず知らず)はてな? よもや――しかし、どう観てもこの線の切れが――(強く自分へ)いや! さようなことのあるべきはずはない。わしの気の迷い、気の迷い――。
恐しそうにその刀を下へ置き、次ぎを取り上げる。
奎堂 (虚ろな声で)これは吉相――。
言いかけてまた前の一刀を手にとる。
奎堂 うむ! そうだ! たしかに! ――いやいや! わしの眼の曇りであろう。恐しいことじゃ。
投げ捨てるようにその刀を置いて、つぎを取ろうとする。その手は顫 えている。一同はこの奎堂の異様なようすに、眼を瞠 り、粛然としている。
矢沢 (いきなり進み出て、つぎの刀を取ろうとする奎堂の手を押さえる)しばらく! ただならぬただいまのお言葉、気掛りでござる。その刀がいかがいたしました。かまわずお打ち明け下されたい。
奎堂 (ちらりと上座の播磨守を見やって)いやいや、何でもござらぬ。何でもござらぬ。拙者の眼違い、けっしてお気に支 えられぬよう。(と蒼白な顔でごまかして、いそいでつぎつぎに刀を見る)これも吉、これも吉、これは――。
矢沢 久保氏、其許 の挙動は、合点がいきませぬ。何かはばかりのあることですか。
奎堂 わたくしもとんと合点がいきませぬ。じつに恐しともおそろしき剣相――いやなに、いや、拙者の見誤りでござる。はは、ははははは。(青白く笑う)
播磨 (じっと奎堂を見つめていたが)奎堂足下、いかなることか、その刀相を述べてみるがよい。
奎堂 おそれながら、君子は怪邪魔神を談 らずとか。久保奎堂、荒唐無稽なることは、君前において申し上げかねまする。その儀は平に御容赦を。
播磨 ははははは、変ではないか。みょうではないか。刀の観相に絶対の自信を有する、当代無二の久保奎堂が、それなる一刀にかぎって荒唐無稽などとは――言えぬとあらば、なお聞きたい。
矢沢 お声掛りじゃ、久保殿。
奎堂 しかし、余のこととちがって、このことばかりは――。
播磨 (気を焦って)言えぬ? どうあっても言えぬか。
矢沢 他言をはばからば、拙者の内聞にまで、さ!
と奎堂の口許へ耳を持って行く。一座はしんとして、固唾を呑んでいる。奎堂は追い詰められたごとく、やむなく矢沢の耳へ何ごとか私語 く。矢沢は卒然として色をなし、にわかに恐怖昏迷の体。
矢沢 (一同の興味を他へ転ぜんと)なに、そんなことですか。さような微々たる――ははははは、殿、お庭を御覧じませ。美しき下弦 の月。昼間のお歌のつづきをこれにて。さぞや御名吟が――。
播磨 (脇息を打つ)ええいっ! ごまかそうとするかっ! いま奎堂の言ったことを申せ。余はその刀相が聞きたいのだ。
仕方がないと、矢沢と奎堂は二、三低声に相談して。
矢沢 しからば、お人払いを願いまする。
播磨 なにを大仰な! ならぬ! この、一同 のおるところで言えっ。
矢沢 (奎堂へ)御貴殿から言上――。
奎堂 いや、あなたよりよしなに――。
矢沢 しかし、観相なされたのは、貴殿ゆえ、貴殿より申し上ぐるが順当です。
播磨 早く言えっ! 聞こう。
奎堂 (観念して)では、その前にちょっと諸士に伺いますが、このお刀は、どなたの――?
一同顔を見合わす時、人々のうしろからぱっと税所郁之進が飛び出して、呼吸を弾ませて奎堂の前に手を突く。
郁之進 (臆病に)わ、わたくしの帯刀でござります。
奎堂 たしかめますが、この多門三郎景光でござるぞ。しかとお手前の刀 に相違ありませぬな。
播磨 郁之進の刀か。それがどうした。
奎堂 はっ、おそれながら、これはもっての他の凶相。手前、もはや三十年の余も刀相を観ておりますが、かような悪相は初めてでござりまする。
播磨 ほほう、どう悪い?
奎堂 必ずお気に留められませぬよう――主君に崇りをなす相が、ありありと浮かんでおりまする。(座中愕然とざわめき立つ)
播磨 なに、余に仇 を? 郁之進か――うふ、うふふ、思いあたることが無いでもない。
お加世は殿のかげに、いっそう身を縮める。
郁之進 (懸命に殿の前へいざり寄って、平伏する)と、とんでもない! この男は山師でござります。詐欺師でござります。(奎堂へ涙声で)これ! 刀相などと、好い加減なことを並べて、私の刀が殿に崇りをなすとは、む、無責任――め、迷惑にもほどがある! と、取消して下さい! 取消せ!
矢沢 他藩の高名なる大先生なるぞ。取り逆上 せるな、郁之進! 言葉を謹しめっ!
奎堂 (郁之進へ)いや、ごもっとも。あなたよりも、私が否定したいのです。鑑識 ちがいではないか、どうかそうあってくれればよいがと、御覧のとおり、何度見直したか知れぬ。が、見れば見るほど――さよう、明鏡のごとき観相の表を私情で曇らし、白を黒と言うことは、刀相に生くる拙者にはでき申さぬ! この多門三郎景光には、たしかに君を害し奉る相がある。うむ、秘かに殿に害心を抱く刀と観た。
播磨 なに、余に対して害心とな――?
郁之進 (おろおろして)あまりと言えば、あまりな! (播磨へ)殿! 御座興の一端と、お聞き流しを願いまする。奎堂先生はわたくしに、いかなるお怨みがあって、かような――。
奎堂 私心はござらぬ。刀相に現れしところを、そのまま申し述べたまで。
郁之進 いいや! お眼の誤ちでございます。この刀は、祖父から伝来のもので、父臨終 のきわにこれを汝に譲るぞ、この刀をば父と思って殿に忠勤を励めと、くれぐれも申し聞けられました景光にござります。(泣く。涙の眼で奎堂を白眼 む)しかるにこれを指して、口にするだも恐しい、君のお命を縮めまいらす刀相などとは――。
奎堂 (冷然と)凶相じゃ、凶相じゃ。そこもとが何といおうと、凶相じゃ。必ず思いあたることがあろうぞ。
矢沢 (あわてて)久保氏! あなたもまた、何もそんな不吉なことをそう言い張らんでも――。
奎堂 私が言うのではない。刀が語っているのです。相に出ておるのです。それを偽ることはできませぬ。
郁之進 ええ! まださようなことを! (掴みかかろうとする)
播磨 ははははは、よいよい、郁之進。騒ぐでない。相対で話をしよう。これ、皆の者、遠慮せい。
矢沢 しかし、殿。ただいまの奎堂先生のお説もござりますれば、ただお一人にて郁之進めと御対坐遊ばす儀だけは、せつにお思い止まり下さりますよう。
播磨 何を下らぬことを! 郁之進ごときが十人掛かっても、後退 ぐ余か。
矢沢 しかし、郁之進の刀は魔物と申すことですから、充分に御注意を。
播磨 みな退れ。加世、そちだけはここにおれ。
家老矢沢、久保奎堂をはじめ、一同は不安げな面持ちで、去る。お刀持ちの小姓も、追い払うように退げられる。後には、播磨守と郁之進。その播磨の陰に震え戦 くお加世の三人だけになる。
郁之進 (問題の多門景光を、どさりと殿の前へ差し出して)この一刀は、なにとぞお手許に――。
播磨 (笑って)近う! 男と男だ――なに、その刀を余の手に。ははははは、いや、それには及ばぬ。
郁之進 (はっとして)男と男――?
播磨 うむ、男と男の相対づくだ。遠慮するな。その凶刀を膝傍に引きつけて話をしろ。
郁之進 殿! そもそも剣相と申すこと、昔は聞きも及びませぬ。いつのころより始まりましたものか、わたくしはさようなこと、一向に信用いたしませぬ。将軍家第一の御宝刀は、本庄正宗のお刀と洩れ承 っておりますが、元この刀は酒田の臣、右馬助とやら申す者の佩刀で、この刀で右馬助が上杉の本庄殿へ斬りつけましたもの。さすれば、持主に崇った凶相の刀でござります。この悪剣が、将軍家代々の御宝刀とは、いかなる訳でございましょうか。
播磨 (にこにこして)わかっておる。余も刀相などは信ぜぬよ。
郁之進 (がたがた顫えつつ)刀というものは、君を守護し、また一身を守る道具。持ち主の心忠義に存すれば、刀も忠義のために働き、持ち主にして邪念不道なれば――。
播磨 五月蠅 いっ! つべこべ言うな。刀相などどうでもよい。余がその刀に事寄せて、そちと二人きりになりたかったのは、じつは、この加世のことだが――。
この時庭からの風で、ふっと燭台の灯一つ二つ消えて、あたり薄暗くなる。
郁之進 (独り言のように、陰々と)持ち主にして邪念無道なれば、刀もまた悪しき方へ役立つものと、愚考いたします。
播磨 (乗りだして)邪念無道? いや! なんでもよい。これ! 郁之進、この加世はなあ、この加世は――。
郁之進 (その播磨守の声を耳に入れまいと、呪文のように)いえ、その女めは、失礼ながら殿へ献上仕りましたもの――要は、刀に善悪なくして――。
播磨 ええい、解っておるというに!
郁之進 いいえ! おわかりではござりませぬ。刀に善悪はないのです。帯びる者の心で、凶相にも吉相にもなるのですっ。
播磨 (上機嫌に)よくぞ申した。そうだとも、そうだとも! そちの言うとおり。
起って、ぴたりと郁之進の前へ来て坐る。
播磨 刀を見せい。ささその主殺しの相あるという景光を、余は見たい。
郁之進 (恐懼して)いえ! とんでもござりませぬ。さような悪剣と観相されました以上、なにとぞ御免を――。
播磨 大事ない。これ、見せろというに!
と刀に手をかけて、引き寄せようとする。郁之進は必死に刀を押さえて、尻込みする途端、立ちかけた彼の手から、下に向けた柄の重みで、さっと鞘を辷って刀身が流れ出る。
播磨 (ぎょっと身を押し反らして)やっ! 抜いたな!
郁之進 (狼狽をきわめて)いえ! 抜いたのではござりませぬ。ひとりでに鞘走りして、これは、何とも申訳ない粗相を――。
播磨 いや、抜いた抜いた! 抜いたついでだ。見てやる。これ! 見せろっ!
郁之進 いえ、いえ――。(逃げようとする)
播磨 かまわぬ見せろというに!
と刀を取ろうとする途端、不意に、何ものか乗り移ったごとき郁之進、すらりと右手に景光を抜き放つ。
加世 あれ!
郁之進 家宝の一刀に由なき傷をつけたのみか、こ、この私めが、あろうことか、殿に対して害心を蔵するようなかの奎堂の言い草。彼をこのままにさしおいては、臣下の一分が立ちませぬ。この郁之進の胸が納まりませぬ。おのれ! 久保奎堂を真っ二つに――。
播磨 待て! (追い縋 って留める)
郁之進 (争って)いえ、この多門三郎景光、はたして凶相か吉相か、久保奎堂の身体 に問うてみるのですっ! 殿、お放し下さいっ。
刀を振り被 って行かんとする。立ち塞がる播磨守を払い退けようとして、その拍子に、まるでひとりでに手が動いて、横殴りに一刀深く斬りつける。
播磨 (脇腹を押さえて、後退 ぐ)や! き、斬ったな――。
加世 (転び寄って郁之進に縋りつく)あなた! ま、そのお刀を――。
郁之進 (呆然と驚きあわてて)ややっ! こりゃ殿を――しまった! あ、ああどうしたらよいやら。
郁之進 (自ら愕然として)やっ、また! おお、この刀は魔性だ! 心にもなく手が滑って、二度までも――殿、御免なされて――。(刀を投げ捨てて、倒れた播磨守を抱き起す)ああ、これはいったいどうしたというのだ。殿! お傷は軽うございます。し、しっかり遊ばして!
播磨 なんの、これしき! ううむ、そうか。主 に仇 なす多門景光――ははははは、斬れ斬れ! だが、郁之進、この加世を、この加世をそちに返すぞ!
郁之進 (顛倒して)ああ俺は、殿に刃向った。殿にお手傷を負わせ申した。この手で殿を斬った! なんという恐ろしい! うむ、そうだ、この上は――(刀を拾って)御免!
どっかと坐り、手早く腹を寛 げて突き立てようとする。
播磨 (その手を抑さえて)早まるな、主君と家来ではない。人間と人間、男と男として、おれの言うことをひととおり聞いてくれ。この加世は、いまだに立派にそちの妻だぞ。側へ召し上げて以来、そちを想う加世の純情を見るにつけ、余は、自分の乱行に眼が覚めた――。
郁之進 えっ! (茫然たることしばし、ふたたび腹を切ろうとする)
播磨 (傷に苦しみながら、郁之進を制して)おれは加世によって、人間の美しい愛情を、はじめて見たぞ――今までの女は今まで余の手をつけたすべての女は、余を主君とのみ観て、みな絶対無条件に、死んだようになって余の意志に従った。が、おれは、男として、人間として、そのたましいの脱けた人形のような女たちには、飽き飽きしてしまったのだ――。
郁之進と加世は、苦しげな播磨守のようすにおどろいて、あわてて左右から支える。
播磨 ううむ、それで、それで、理不尽にも加世を奪り上げたのだが、彼女 は、いかにしても拒みとおすのみか、日夜良人を慕って泣く加世の純真な姿に、おれは、おれは、長らく求めてえなんだほんとうの女を見たのだ――加世だけはこのおれを、馬鹿大名と扱ってはくれなかった。憎むべき一個の男として、拒絶しとおしてくれたのだ。おれはそれが嬉しい。何よりもうれしい! おれはこれを探していた。おれの望んでいたものは、これだったのだ! どんなにそれを捜し求めたことか、おれのその味気ない胸中は、だ、誰も知らぬ。うむ、誰も知らぬ――加世の拒絶によって、おれは初めて男になった。加世はおれを、人間にしてくれたのだ。おれはもう馬鹿大名ではないぞ。郁之進と同じ人間だぞ、一人の男だぞ。それが郁之進と加世を争って、み、見事に負けたのだ。ははははは、ああ愉快だ、ああ愉快だ! 加世のおかげで、おれはやっと、この人間らしい、男らしい晴ればれとした気持ちを、とうとう味わうことができたのだ。その大恩人の身体 に、どうして触れられよう! 郁之進! 加世は潔い身体だぞ。す、末長く、仲よく添い遂げい。
郁之進 (狂乱して)殿! お気を確かに――私はこの場に屠腹 して、お詫びつかまつります。
播磨 ええいっ、馬鹿め! わからぬか。それでは余の念が届かぬ。
どやどや跫音 を乱して家老矢沢、吾孫子老人、池田、森ら多勢走り込んでくる。一同この場の仕儀に愕然として、物をも言わず郁之進を召し捕りにかかる。
播磨 (すっくと起って、大手を拡げて郁之進と加世を背 ろに庇 う)何をするかっ! 郁之進に斬られて、余は今、生まれて初めて、日本晴れの気もちが致しておるところだ。うういや、郁之進が斬ったのではない。多門三郎が余を斬ったのだ。者ども、郁之進に手をつけることはならん! (矢沢へ)爺い! いかさまあの久保奎堂は、刀相の名人だて。当ったぞ、適中いたした、ははははは。(よろばいながら、笑う)郁之進は腹を切るには及ばぬ。禄を召上げるにも、閉門を命ずるにも及ばぬ。追って加増の沙汰をいたす。が、憎くき下手人はその刀じゃ。多門三郎景光を、獄門にかけい、はははははは。