ペンギン鳥の歌

原民喜




 森は雪におおわれて真白まっしろになりました。高い大きな枯木かれきの上で、カラスが拡声器をすえて、今しきりに、こんなことをしゃべっています。
ああああ ただ今 試験中です
ああああ ただ今 試験中です
ああああ ただ今 試験中です
 いつまで待っていても、ああああ とうばっかしなので、小鳥たちは顔を見あわせてくすくす笑いました。でも、何か始まるだろうと思って待っていました。
ああああ ええ ただ今 試験中です
ああああ ええ ただ今 試験中です
 また同じことをくりかえしています。小鳥たちは、また、くすくす笑いました。でも、何か始まるのかと思って待っています。
ああああ ただ今 試験中です
 カラスはまた同じことを平気でしゃべっています。ガガガガガ……拡声器の音が少し変って来ました。さあ、何かはじまるよ、と小鳥たちは静かにしていました。
ああああ ええ ただ今からペンギン鳥の歌をはじめます
 音楽がきこえて歌がはじまりました。
ペンギン鳥 ペンギン鳥は雪の上
ペンギン鳥 ペンギン鳥は雪の上
白熊 あざらし 走る風
海は真青まっさお 空も真青
雪は真白まっしろ 虹は七色
沖でくじらは潮を吹く
チンチンチンチン 鈴の音
すういすういと ペンギン鳥
ペンギン鳥の列はゆく
ペンギン鳥の列はゆく
夜でも朝でも ペンギン鳥
ペンギン鳥はペンギン鳥
ちょっと楽しく ちょっと立派で
ちょっと元気で ちょっと優しく
ちょっとかしこく ちょっと静かで
ペンペンペンペン ペンギン鳥
ペンギン鳥は 雪の上
ペンギン鳥は 雪の上
チンチンチンチン 鈴の音
すういすういと ペンギン鳥
ペンギン鳥の列はゆく
ペンギン鳥の列はゆく
 ふと拡声器がゴロゴロ鳴って、歌はやんでしまいました。
ああああ……
 またカラスの声がはじまりました。
ああああ……
 カラスは拡声器の前でしきりに気どっていました。
ああああ ええ ただ今から こんどは
カラスの歌をはじめます
 小鳥たちは顔を見あわせて、くすくす笑いだしました。





底本:「原民喜童話集」イニュニック
   2017(平成29)年11月15日第1刷発行
底本の親本:「近代文学 8月号」近代文学社
   1951(昭和26)年8月1日
初出:「近代文学 8月号」近代文学社
   1951(昭和26)年8月1日
入力:竹井真
校正:砂場清隆
2020年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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