記憶に残る正月の思い出

宮本百合子




一、六つばかりの正月(多分)丁度旅順が陥落し、若かった母が、縁側に走り出、泣きながら「万歳!」と叫んだ時、私も夢中で「バンザイ!」と叫んでオイオイ泣いた。わけが分ってではない、母の感激に引き入れられたのでしょう。もう一つは、十六歳の正月。「何が正月お目出度い」と障子を睨んで陰気にしていたときの思い出。
二、雑煮、おにしめ。つめたい重のものを、ひるあついあつい御飯とたべる美味しさ。
〔一九二六年一月〕





底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「愛国婦人」
   1926(大正15)年1月号
※「一、一番深く記憶に残る正月の思い出。二、正月の御馳走の中で一番好きなもの、嫌いなもの。」は、との問いへの答え。
※底本の「解題」(大森寿恵子)は、この作品名を「仮題」としています。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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