ニイナ・フェドロヴァ「家族」

宮本百合子




 ニイナ・フェドロヴァというロシア生れの女のひとの書いた小説「家族」は最近よんだ本の中で面白いものの一つでした。貧しい白系ロシア人の家族が天津テンシンで下宿屋をやって、日支事変の波の中に様々の経験を経てゆく物語ですが登場するイギリス人、支那人、日本人の生活を静かな公平な眼で見ていて、なかでもおばあさんの姿は実に立派で、小説の世界で光と暖さの源をなしているばかりでなく、私たちに生きてゆく何か一つの態度を教えます。
〔一九四一年十一月〕





底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「モダン日本」
   1941(昭和16)年11月号
※底本の「解題」(大森寿恵子)は、この作品名を「仮題」としています。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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