日記

一九五一年(昭和二十六年)

宮本百合子




一月

 ことしは、筆まめでなければならない。いろいろ、現実的なノートをまめにしるさなければいけない。記憶にたよる――たよりきれないと知るべし。

一月二日

 火
“条件反射”論というのがある、セクト的に出している、それに対する批判。いつも右か左、いつもそれとのたたかい。

一月三日

 水
“潜行8氏は(一字空白)の庇護にはいってしまってもう手がつかないから、これからはもっぱら国際派――宮ケンさんに集注する方針です”そう申した由。

一月四日

 木
 のっぽ来、“やーどないしてるんや。宮ケンなんかにくっついてたらどもならんであかへんで――敵やぜ”カブト町の人のわんさいる中で大きい声を出してそう云ったガンモドキ。

一月五日

 金
 日共非合法化ということと日本の再軍備ということとがことし正月の maristmas
 アメリカの地球主義――Globalism

〔卓上日記に〕

一月一日

 月曜
 三人で御雑煮、おとそ、
 天気予報によれば、きょうは天気わるいはずだよ。
 二十八日の夜仔犬が生れた。
 犬の子の生れた正月、何だかいいこころもち。
 みや本のひと

一月二日

 火曜
 朝風呂
 みんないい気分。若い二人ははがゆがっている。肱がぬけている。
 十時ごろ、ホッとしたところへコンバンは。まあ珍しいよく来たこと! これで正月がほんもの。

一月三日

 水曜
 ショーギを出して遊ぶ。健坊奮戦。
 わたしのハサミショーギは顕、あんまりねむくなってひっくりかえってしまう。
 あと二階
 小説原稿のひと、あこ、がの靴

一月四日

 木曜
 夜十時すぎ正月終る。
 六尺、マメ、親方

一月五日

 金曜
 大いにカゼ気味となる。
 京城占領。
 午前十時すぎ目がさめたダダダダという音で。キカン銃のような音で。
 関治療、
 夜十二時十分B29の音、まざまざと耳についているその音。
 8をまわして下さい2をまわして、それから2―8その通りにしたら、もしもし駒込です、駒込のどちらです、ケイサツです、何のことか。

一月六日

 土曜 曇晴
 ○仔犬を八匹小舎に引越しさせる「筋肉がしっかりしているね」健坊椽の下へ這いこんでつかまえる、どれも茶、なかに一匹、白黒、キューキュー可愛い。
 ○年賀状の返事、コタツ暮し、ムルチン、B、C、
 ○咲、国、アタミへ出かけた
 ◎『東京』夕刊「海の友の会」「シー・ラヴァーズ16日に結成式・クラブ」「日本の今後の運命を托し得るのは海しかない」由、田中耕太郎、佐藤春夫、林芙美子
 健とツメショーギをする「勝たせようとしているのに」

一月七日

 日曜
 風邪気。コタツで年賀状のつづき。ムルチン、C、
 ○咲の弟来る。
 ○咲、国、夜十一時すぎに帰る
 ○健ちゃんとつみショーギをして 2076 まけ
 これだけの南京豆は何百匁だろうか。買ってやれるかな。

一月八日

 月曜
 ○改造縮冊のことで来訪。
 ○おきたら喉がつぶれていて声が出なかった。
 ○ケン坊、南京豆が心配で二階へあがって来た、起きたら、咲江ちゃんにくっついて。二つのビンにいっぱい(半分だけで)大いにふるまっている。

一月九日

 火曜
 ○縮冊装幀のことでもう一度来訪。
 ○風邪大分よろしい、しかし仕事はしたくない、ふーやんに手紙





底本:「宮本百合子全集 第二十五巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年7月30日初版
   1986(昭和61)年3月20日第4刷
入力:柴田卓治
校正:富田晶子
2021年1月27日作成
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