“MONICO”

與謝野寛




MONICOモニコ ! MONICO ! TR※(アキュートアクセント付きE)Sトレ JOLIIEジヨオリイ !
今夜もモニコで飲みあかそ。
派手な巴里パリイに住みながら、
MONMARTOREモンマルトル に住みながら、
一人でるのも気がかぬ。

おお、行くほどに、さる程に、
ひとをばそそる火の明り。
赤い嵐がそよそよと
恋にこがれて吹くやうな
扇のかたの火の明り。

合せ鏡のなかにある
曲れる、曲れる、梯子段はしごだん
一段いちだんのぼればよろよろと、
二段にだんのぼれば恐らくは
生きて帰らぬ「夢」の塔。

二時を過ぎたる真夜中も、
此処ここ SABBATサバア のまつさかり。
土耳古、仏蘭西、西班牙エスパニヨル
意気な BASSEバツス CASTAGNETTEカスタネツト
RYTHMESリトム D'AMOUR'ダムウル しよんがいな。
赤いバスク踊子ダンスウ
あれ、まんまろく拡がれば
時を択ばぬ花が咲き、
黄金きんと、紫金しこんと、アルジヤン
虹をばかへすあの上衣ロオヴ

そこのすみではひそひそと
ちょいと此間このまひと BAISERベイゼ
見て見ぬ振のてれかくし、
まへ※(濁点付き片仮名ヱ、1-7-84)エルを軽く取る
此処のみじめな VERLAINE※(濁点付き片仮名ヱ、1-7-84)ルレエヌ

とまどひしたか、UNEウンヌ BEAUT※(アキュートアクセント付きE)ボオテ
たとへ虚偽うそでも、浮気うはきでも、
わたしの膝にのしかかり、
あま煙草たばこくちうつし、
どうして其れがにくからう。

あられ、霰、真赤まつかな霰、
カスタネツトの降るままに、
つて、かかへて、引くままに、
吸ひつく様な、飛ぶ様な
とろける様な一踊ひとをどり。
(一九一二年三月七日の夜巴里にて)





底本:「スバル」昴発行所
   1912(明治45)年4月号
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字を新字にをあらためました。
※底本の署名には、「よさの、ひろし」とあります。
入力:武田秀男
校正:門田裕志
2003年1月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について