作業機械

細井和喜蔵




材料は金属と木と革――有抵抗の物体――
構造は胴と軸と車と槓杆と発条
こいつには脳味噌がないんだ!
こいつには性慾がないんだ!

だが
月と日が惚れ合って
互に近づいて遂に性交したとき
流れ出た汚物の凝固したもの 石炭!
石炭は思い出から燃え上る 天然勢力!
機械は動く

調革ベルト…………調車ブウレイ
      シャフト
      歯車ギイヤ
      偏心輪エクセントリック
      槓杆レーバ……発条スプリング
回転 衝程 弧動――昇降
機械はまわる
 晩から朝まで 朝から晩まで

こいつを人間が使ってだ
人々がその慾望を楽々と慰められると思ったが
奴等 金持がにっこりと微笑したに止って
機械の運転者――職工――は機構の一部となってしまった
機械的労働
 十二時間
 十八時間
 徹夜!
寝ぼけてしまった職工
だが機械は疲れず高速度回転!
あっ? 機械が腕を喰った
 血……血……血………
(『鎖』一九二三年七月号に発表)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「鎖」
   1923(大正12)年7月号
初出:「鎖」
   1923(大正12)年7月号
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年9月1日作成
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