東の磯の離れ岩、
その褐色の岩の背に、
今日もとまつたケエツブロウよ、
何故にお前はそのやうに
かなしい声してお泣きやる。
お前のつれは何処へ去た
お前の寝床はどこにある――
もう日が暮れるよ――御覧、
あの――あの沖のうすもやを、
何時までお前は其処にゐる。
岩と岩との間の瀬戸の、
あの渦をまく恐ろしい、
その海の面をケエツブロウよ、
いつまでお前はながめてる
あれ――あのたよりなげな泣き声――
海の声まであのやうに
はやくかへれとしかつてゐるに
何時まで其処にゐやる気か
何がかなしいケエツブロウよ、
もう日が暮れる――あれ波が――
私の可愛いゝケエツブロウよ、
お前が去らぬで私もゆかぬ
お前の心は私の心
私も矢張り泣いてゐる、
お前と一しよに此処にゐる。
ねえケエツブロウやいつその事に
死んでおしまひ!その岩の上で――
お前が死ねば私も死ぬよ
どうせ死ぬならケエツブロウよ
かなしお前とあの渦巻へ――
その褐色の岩の背に、
今日もとまつたケエツブロウよ、
何故にお前はそのやうに
かなしい声してお泣きやる。
お前のつれは何処へ去た
お前の寝床はどこにある――
もう日が暮れるよ――御覧、
あの――あの沖のうすもやを、
何時までお前は其処にゐる。
岩と岩との間の瀬戸の、
あの渦をまく恐ろしい、
その海の面をケエツブロウよ、
いつまでお前はながめてる
あれ――あのたよりなげな泣き声――
海の声まであのやうに
はやくかへれとしかつてゐるに
何時まで其処にゐやる気か
何がかなしいケエツブロウよ、
もう日が暮れる――あれ波が――
私の可愛いゝケエツブロウよ、
お前が去らぬで私もゆかぬ
お前の心は私の心
私も矢張り泣いてゐる、
お前と一しよに此処にゐる。
ねえケエツブロウやいつその事に
死んでおしまひ!その岩の上で――
お前が死ねば私も死ぬよ
どうせ死ぬならケエツブロウよ
かなしお前とあの渦巻へ――
――東の磯の渚にて、一〇、三、――
*ケエツブロウ=海鳥の名。(方言ならん)
[『青鞜』第二巻第一一号・一九一二年一一月号]