愛は終了され
萩原恭次郎
母の胸には 無数の血さへにじむ爪の跡!
あるひは赤き打撲の傷の跡!
投石された傷の跡! 歯に噛まれたる傷の跡!
あゝそれら痛々しい赤き傷は
みな愛児達の生存のための傷である!
忘れられぬ乳房はもはや吸ふべきものでない
転居の後の如く荒れすたれ
あゝ 愛はすでに終了されたのだ!
さるを今 ふたゝび母の胸を蹴る!
新らしき世紀の恋人のため!
新らしき世界に青年たるため!
あゝ われ等は古き父の遺跡を
見事に破壊するを主義とする!
底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
1970(昭和45)年4月15日初版発行
1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「死刑宣告」長隆舎書店
1925(大正14)年10月18日
入力:hitsuji
校正:染川隆俊
2024年4月27日作成
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