装甲弾機
萩原恭次郎
近代的都市の飛躍雑踏中に
我は装甲の巨大なる弾機を見る
気まぐれなる煙りを吐き乍ら
鈍重なる無愛嬌者
彼は軍隊式に声を発し
都会の嗜好す
甘美や色彩や繊細を知らず
強い黄色の煙りを吐きちらし
都会をよごし気をわるくし
驚き易い心臓を圧迫さす
彼は弾丸や群集の心に従はない
最も真赤き野蛮な心臓をもつ
意のまゝ飽くまで
資本化した雑踏の世界に耐へ
混乱への強い強い出現!
おゝ 過敏なる女性美文明に
幅広い肩をゆるがす無愛嬌者
喜びも悲しみも現せない
醜い顔をして
されど彼が泣く如き
強き頑迷なる心臓の閃き!
彼が熱意!
彼が力量!
彼が破壊!
彼が創造!
彼がまことなる強力の運転!
文明への争闘!
あゝ 見る 我は現在!
巨大なる装甲の弾機!
美しき近代都市の飛躍雑踏中に
底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
1970(昭和45)年4月15日初版発行
1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「死刑宣告」長隆舎書店
1925(大正14)年10月18日
初出:「東京日日新聞」
1922(大正11)年3月6日
入力:hitsuji
校正:染川隆俊
2024年4月27日作成
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