離れてゆく秋

萩原恭次郎




かもめはシグナルのやうに飛びふ!
海底に私はれた火薬として沈む!
赤いマストは折れてドテツ腹を突き通してゐる!
君の心臓には黒い無為の切手が刷つてある!
いかりの上らない程の海の憂愁は
幾匹もの魚を胸に泳がせる!
寒流である――――――――● ● ●
はさみで切られてゐる空だ!
握手にのみ充満と爆発はひそむ!
すでに秋は海底から熱情にびをあたへる!

「さようなら!」





底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「死刑宣告」長隆舎書店
   1925(大正14)年10月18日
入力:hitsuji
校正:染川隆俊
2024年10月23日作成
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