七里ヶ浜の哀歌
三角錫子
一
真白き
富士の
根 緑の
江の
島
仰ぎ見るも
今は
涙
帰らぬ十二の
雄々しきみたまに
捧げまつる
胸と
心
二 ボートは
沈みぬ
千尋の
海原
風も
浪も
小さき
腕に
力もつきはて
呼ぶ
名は
父母
恨は
深し
七里が
浜辺
三 み
雪は
咽びぬ 風さえ
騒ぎて
月も星も
影をひそめ
みたまよ
何処に
迷いておわすか
帰れ早く 母の胸に
四 みそらにかがやく
朝日のみ
光り
暗にしずむ 親の心
黄金も
宝も
何しに
集めん
神よ早く
我も
召せよ
五
雲間に
昇りし
昨日の
月影
今は見えぬ 人の姿
悲しさ
余りて
寝られぬ
枕に
響く波の おとも高し
六 帰らぬ
浪路に
友よぶ
千鳥に
我もこいし
失せし人よ
尽きせぬ
恨に 泣くねは
共々
今日もあすも
斯くてとわに
――明43・2発表
底本:「日本唱歌集」ワイド版岩波文庫、岩波書店
1991(平成3)年6月26日第1刷発行
1994(平成6)年1月20日第5刷発行
※「七里ヶ浜」と「七里が浜辺」の「ヶ」と「が」の混在は、底本通りです。
※底本のテキストは、著者原稿によります。
※底本の編者による本文末の解説は省略しました。
入力:かな とよみ
校正:The Creative CAT
2023年1月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
●表記について
- このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。