深夜

三富朽葉




影と銀の乱れる夜へ
月は死葉しにばを刈り立てる。
(魂は忍びを聞く。)

虚空の淵にゆすられる
星のりんを響かす。
(魂は灰を見つめる。)――

渦巻く雲よりのぞ
烈しい闇の裸形らぎやう
(魂は火を失ふ。)――

いつも地平をさまよふ獣の群よ、
いつも雪の降る薄明りよ、
いつもわが閉ぢた窓に映る幻よ、
いつもだんをとる寒い魂よ、
いつも我を裏ぎる我の
心のわなよ 肉の恐怖おそれよ。

いつもいつもつまづくわが神経のいらだたしさ……





底本:「日本の詩歌 26 近代詩集」中央公論社
   1970(昭和45)年4月15日初版発行
   1979(昭和54)年11月20日新訂版発行
底本の親本:「三富朽葉詩集」第一書房
   1926(大正15)年10月15日発行
入力:hitsuji
校正:きりんの手紙
2022年7月27日作成
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