一
昔、
お寺のそばには小さな村がありました。小さな村の人たちは、小さなお寺と、小さな和尚さんと、小さな小僧とのことを、
小さなお寺ですから用事も沢山はありません。毎朝仏様にお
ある日、豆小僧が柴を刈つて、束ねてゐますと、どこからかしら一人の
「まあ、豆小僧さん、お前さん本当に感心な子だね。毎日々々柴刈りに来て、よく
豆小僧は変な婆さんだと思つて黙つてゐました。なにしろ、
けれども、婆さんは案外深切さうで、にこ/\笑ひながら、
「お前さん余り働いたから、少し休んでおいでよ、わたしが刈つてあげるから。」と、言つて、豆小僧の手から
「さあ、これをもつておいで、なにをそんなに変な目つきをするのよ。決して重くはないよ。」
婆さんは、豆小僧が二日もかゝつて刈り集めるだけの柴を背中にのせてくれました。けれども、不思議なことには、それほど重たくないのでした。
「だがね、豆小僧さん、」と、婆さんは別れるとき念を押して言ひました。「わたしがお前さんに柴を刈つてあげたことを
婆さんはきつと豆小僧を
二
こんなことが毎日のやうに続きました。けれども豆和尚さんは、ちつとも気がつかないでゐましたが、
「どうしたわけもありません、
豆小僧はとぼけた顔で答へました。しかし豆和尚さんはなか/\承知しません。しきりに問ひ詰めますから、豆小僧はとう/\
「言はれません、言つたら、お
豆小僧が、うつかりお婆さんと言ひましたので、豆和尚さんも顔色をかへましたが、それつきり何とも言ひません。
けれども
「このお守札は、」と、豆和尚さんは言ひました。「
豆小僧ははい/\と言つて、浮かない顔をして、山に柴刈りに行きました。
三
山へ行つてみますと、その日も
「豆小僧さん、お前はわたしのことを豆和尚さんに言ひはしなかつたらうね。」
豆小僧は黙つて首を横に強く振りました。
「言はないことはあるまい。言つたら言つたと白状しなさい。
でも豆小僧はやはり首を横にふりました。自分でも、何にも言はないと、かたく信じてゐるのでしたから。
婆さんはそれを見ると
「お前さんの衣が大へん破れてゐるから、わしが縫つてあげよう。わしの
豆小僧は、もちろん
「さア/\早く着物をお脱ぎ、縫つてあげるから。」
婆さんが、さう言ひながら出した針を見ますと、馬の脚から血を取る三角針のやうな大きな針で、じつさい、それには血のかたまりが少しこびりついていました。
ですから豆小僧はすつかりおつかなくなつて、おちやうづをしたくなつたと言つて、はゞかりへ行かうとしました。婆さんは、恐ろしい顔をして、
「そんなことを言つて、逃げるつもりだらう。よし/\逃げるなら逃げてみろ、かうしてやるから。」と一方の手を鎖でしばつて、便所へやりました。
豆小僧は鎖をつけたまゝ便所へ入りました。けれども、これから先どうしたらいゝか分らず途方にくれてゐました。すると婆さんは外から待遠しがつて、きゝました。
「豆小僧まだか。」
「まだです。」
豆小僧は鎖をはづさうとしてみますが、どうして/\、とても堅くて、びくともしません。困つてゐると、又、
「豆小僧まだか。」と、婆さんがききます。
「まだ/\。」と、返事したとき、ふと手にさはつたのは、豆和尚さんから
婆さんは、豆小僧があまり出て来ないので幾度も――、まだか/\と呼びますと、そのたびに「まだまだ」と、返事をします。けれどもしまひには、とう/\待ちくたびれて、そつと便所の戸を開けて見ますと、小僧の姿は消えて、中には大般若のお守札が一枚落ちてゐました。それを見ると婆さんは、すぐ角の生えた悪魔の姿になつて、曲つた鼻で、犬のやうに足跡を
豆小僧が
悪魔はきり/\歯がみをして、しばらくその塀を睨んでゐましたが、何やら
四
又、もう二足三足で、豆小僧は悪魔におさへられようとする、あぶない目にあひましたので、今度は三枚目の
すると、豆小僧と悪魔との間に、さつと一つの大きな/\川が出来ました。
悪魔はもう一歩と、足を出しかけたところへ、急に、大きな川が出来たものですから、はづみをくらつて、あぶなくその川のなかへおち込むところでした。
川には水がまん/\とたたへて、その流れの早いことは、浮いてゐる
さすがの悪魔もぼんやりとして、そこに立つたきり、
もうお寺はすぐ前に見えてをります。豆小僧は、一生懸命、ちよこ/\と走りますが、何しろ、
豆小僧は今度こそと、四枚目の大般若のお守札をほうりますと、土の中からポツと火が出て、そこらぢう一面に
悪魔は不意を打たれて、手やら足やら顔やら
「こんどは逃がさんぞ!」
悪魔は大風の吹くやうな
「和尚さん助けて、あれ/\、悪魔が来ます、追つかけて来ます!」
豆小僧は泣声を出して、必死に走りました。早くは行けませんが、それでもお寺の門にいま一足でとゞくところになりました。が、悪魔の手も、もう一尺のびれば、豆小僧の襟がみをとらへるところになりました。あゝ、あぶない、あぶない!
そのとき和尚さんが門のうちから走り出して、何やらお経を読みながら悪魔の頭を