一
一時間ごと、三十分ごとに、時計の上の方にある小さな戸を押し開いて、赤いくちばしをした
あるりつぱなお
「あれ、
「あれはね、時計のお
「どうしてゐるの。」
「巣をこしらへてゐるの。」
「どんな巣。」
「あれ、巣を御存知ないの。この間、門の前の
「あゝ、あれ。あれは、
「いゝえ、お時計の鳥は鳩ポツポですよ。だから、ポツポつてなくでせう。」
「でも、鶏が時をつげるものだつていふから、鶏ぢやないか。」
「まあ、坊ちやまのおりこうなこと、お父様やお母様に申し上げませう。そしたら、きつと大へんお
ばあやは、大した見つけものでもしたやうによろこびました。すると、一郎はます/\得意になつて、
「そいぢや、鳩ポツポなら、お豆をたべるだらう。」と、きゝました。
「えゝ、たべますどころぢやございません、ポウと一つなくとき、お豆を一つ、ポウポウつてなくとき二つ、ポウポウポウて三つなくときには三つお豆をたべますよ。」
ばあやもつい調子にのつて、でたらめなことを言つてしまひました。
「そいぢや、お豆をやるから、鳩を出しておくれ、ねえ、ばあや。」
「いえ/\、あれはね、時間にならなければ、お
「うん、でも、ぼく、鳩ポツポにあひたいんだ。そしてお話をきくんだから、鳩を出してくれよ、ばあや。ようつてば、よう。」
腕白な一郎がかう言ひ出したら、もうきゝはしません。とう/\ばあやは、お母様のところへ行つて、鳩を出して、一郎さまにお目にかけてもよろしうございませうかと、きゝました。お母さまは、そんなことをしたなら、時間が狂つていけないと、はじめは、なか/\お許しがなかつたのですけれど、一郎がどうしてもきかないので、とう/\根負けして、ぢや一度限りといふことで、やつとお許しが出ました。
乳母は時計の長い針を十二時のところまで、くるつと、まはしますと、上の方のふたが、パツと開いて、胸をつき出した小さな鳩が、
「ばあや、も一度、鳩を出して、も一度出して。」
一郎は、また
二
それから幾日かたちました。ある朝の十時過ぎ、一郎はたゞひとり、
「さあ、鳩ポツポ、出ておいで。」
一郎はさういひながら踏台の上にのつて、時計に手をのばしました。時計はインド
「困つたなあ。」と、一郎は、さも/\困つたやうな顔をしてゐましたが、ふと気がつくと、すみの方のテイブルに、この間、どこかのをぢさんが、お父さんのお土産にといつて、台湾から、
「いたい。こらツ、腕白、いたづらをするな。」
一郎はびつくりして、うしろを見ました。けれども
「こらツ、いたづらをしちやいかんといふのに、まだやめないか。」
それはまちがひもなく時計が言つてゐるのでした。あたりまへの子供なら、きやつと叫んで踏台からころがり落ちて、気絶でもするところですが、さすがに腕白の大将だけに一郎は、ほんのちよつとびつくりしただけで、かへつてステツキをふりあげて「
「
一郎もさう言はれると、むやみなことはできません。この時計は、お父さんが一ばん大事にしていらつしやることは、自分にもわかつてゐましたから。
「しかし、おまいは何だつて、おれの針なんぞをいぢるのだ。」と、時計は
「鳩を見るんだ。」と、一郎は少し鼻声になりました。「ぼく鳩が見たいんだ。出してみせてよう。」
「鳩が見たいのか。それなら、さうと言へばいゝのだ。しかし、鳩は、ちやんと時間が来なけりや、顔を出さないから、おまい、そこの
一郎もさういはれると、待つ気になつて、ひとまづ踏台からおりて
「まだかい。」
「まだ……三十秒きりたゝないぢやないか。」
「三十秒てどれだけ。」
「おまいは小さいから、まだよく時間を知らないんだ。おれが教へてやらう。おれの顔を見ておれよ。」
時計は、その眉毛のやうについてゐた針を平がなのくの字の反対の形に、ぴよいと曲げました。
「分つたか。これだよ。」
「分らない。」
「
「お豆をたべさしてやるんだ。」
「いけない。おまいはどうして、さういたづらなんだらう。」
「でも、ばあやが、鳩ポツポはお豆をたべるんだつていつたよ。だから、ぼく、ポケツトにいり豆をたくさん入れて来たんだ。」
一郎は自分のポケツトをたゝいてみせました。
「それはいけないよ、おれんところの鳩はお豆なんか
「ぢや、何を喰べるんだい。」
「さあ、何をたべるだらうね。」
「ぢや、お米をたべるの。」
「いゝえ。」
「ぢや、お魚。」
「いゝえ。」
「ぢや、牛肉。」
「そんなものなんか喰べるものか。」
「ぢや、何をたべるの。」
「いつてきかさうか。」
「うん。」
「あれはお年をたべるの。ちつとづつ、ちつとづつ、おまいのお年も
一郎は自分のものは何でもひとにやることがきらひなたちでしたから、お時計の鳩が自分の年を喰べるときくと、たいへんいやな気がして、いきなりステツキで時計の
「ばか、僕のお年なんかたべるんぢやない、ばか、ばか。」
一郎はさういひながら、今度はステツキで二つ三つ、つゞけて鳩を