囈語
芥川龍之介
一
僕の
胃袋は
鯨です。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々
潮も吐きかねません。
吼える声を聞くのには飽き飽きしました。
二
僕の舌や口腔は時々熱の出る度に
羊歯類を一ぱいに生やすのです。
三
一体
下痢をする度に大きい
蘇鉄を思ひ出すのは僕
一人に限つてゐるのかしら?
四
僕は腹鳴りを聞いてゐると、僕自身いつか
鮫の卵を
産み落してゐるやうに感じるのです。
五
僕は憂鬱になり出すと、僕の
脳髄の
襞ごとに
虱がたかつてゐるやうな気がして来るのです。
(大正十五年五月)
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