何でも秋の夜更けだつた。
僕は岩野泡鳴氏と一しよに、
その内にどう云ふ拍子だつたか、話題が当時評判だつた或小説の売れ行きに落ちた。すると泡鳴氏は傍若無人に、
「しかし君、新進作家とか何とか云つたつて、そんなに本は売れやしないだらう。僕の本は大抵――部売れるが、君なんぞは一体何部位売れる?」と云つた。
僕は
「皆そんなものかね?」
泡鳴氏は更に追求した。
僕よりも著書の売れ高の多い新進作家は大勢ある。――僕は二三の小説を挙げて、僕の
「さうかね。存外好く売れるな。」
泡鳴氏は一瞬間、不審さうに顔を曇らせた。が、それは文字通り、一瞬間に過ぎなかつた。僕がまだ何とも答へない内に、氏の眼には
「尤も僕の小説はむづかしいからな。」
詩人、小説家、戯曲家、評論家、――それらの資格は余人がきめるが好い。少くとも僕の眼に映じた我岩野泡鳴氏は、