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この書の体裁は悉く藤島武二先生の意匠に成れり表紙画みだれ髪の輪郭は恋愛の矢のハートを射たるにて矢の根より吹き出でたる花は詩を意味せるなり
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夜の
歌にきけな誰れ野の花に紅き
血ぞもゆるかさむひと夜の夢のやど春を行く人神おとしめな
椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬ
その子
堂の鐘のひくきゆふべを前髪の桃のつぼみに
紫にもみうらにほふみだれ
紫の濃き虹説きしさかづきに
まゐる酒に
海棠にえうなくときし
水にねし嵯峨の
春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か
今はゆかむさらばと云ひし夜の神の
細きわがうなじにあまる
秋の神の
山ごもりかくてあれなのみをしへよ
とき髪に
雲ぞ青き来し
夜の神の朝のり帰る羊とらへちさき枕のしたにかくさむ
みぎはくる牛かひ男歌あれな秋のみづうみあまりさびしき
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
許したまへあらずばこその今のわが身うすむらさきの酒うつくしき
わすれがたきとのみに
人かへさず暮れむの春の宵ごこち
たまくらに
春雨にぬれて君こし草の
牧場いでて南にはしる水ながしさても緑の野にふさふ君
春よ老いな藤によりたる
雨みゆるうき葉しら
さて責むな高きにのぼり君みずや
春雨にゆふべの
ゆあみする泉の底の
みだれごこちまどひごこちぞ頻なる百合ふむ神に
くれなゐの
旅のやど水に
春の夜の
水に飢ゑて森をさまよふ小羊のそのまなざしに似たらずや君
誰ぞ
悔いますなおさへし袖に折れし
なほ許せ御国遠くば
狂ひの子われに
今ここにかへりみすればわがなさけ
うつくしき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果してし今
わかき
ゆるされし朝よそほひのしばらくを君に歌へな山の鶯
ふしませとその
みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす
しのび足に君を追ひゆく
紫に
絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるき
しら壁へ歌ひとつ染めむねがひにて笠はあらざりき二百里の旅
嵯峨の君を歌に仮せなの朝のすさびすねし鏡のわが夏姿
ふさひ知らぬ
ひと枝の野の梅をらば足りぬべしこれかりそめのかりそめの別れ
鶯は君が夢よと[#「夢よと」は初出では「声よと」]もどきながら緑のとばりそとかかげ見る
紫の紅の
ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の
乳ぶさおさへ
神の
とや心朝の
ひく袖に
くれの春隣すむ
人にそひて
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見る
ゆあみして泉を出でしわがはだに[#「わがはだに」は初出では「やははだに」]ふるるはつらき人の世のきぬ
売りし琴にむつびの
うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる
恋ならぬねざめたたずむ野のひろさ名なし小川のうつくしき夏
このおもひ何とならむのまどひもちしその
おりたちてうつつなき身の牡丹見ぬそぞろや
その涙のごふえにしは[#「えにしは」は初出では「ゑにしは」]持たざりきさびしの水に見し
水十里ゆふべの船をあだにやりて柳による子ぬかうつくしき(をとめ)
旅の身の
おとに立ちて小川をのぞく乳母が
恋か血か牡丹に尽きし春のおもひとのゐの宵のひとり歌なき
長き歌を牡丹にあれの宵の
春
いづこまで君は帰るとゆふべ野にわが袖ひきぬ
ゆふぐれの戸に倚り君がうたふ歌『うき里去りて往きて帰らじ』
さびしさに百二十里をそぞろ来ぬと云ふ人あらばあらば如何ならむ
君が歌に袖かみし子を誰と知る浪速の宿は秋寒かりき
その日より魂にわかれし我れむくろ美しと見ば人にとぶらへ
今の我に歌のありやを問ひますな
神のさだめ命のひびき
人ふたり
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漕ぎかへる
あづまやに水のおときく藤の夕はづしますなのひくき枕よ
御袖ならず
夏花のすがたは細きくれなゐに
肩おちて
とき髪を
うながされて
われとなく
ゆあがりのみじまひなりて姿見に笑みし
人まへを袂すべりしきぬでまり知らずと云ひてかかへてにげぬ
ひとつ
ほの見しは奈良のはづれの
くだり船
師の君の目を病みませる
文字ほそく君が歌ひとつ染めつけぬ
ゆふぐれを籠へ鳥よぶいもうとの
ゆく春をえらびよしある
ぬしいはずとれなの筆の水の夕そよ墨足らぬ
母よびてあかつき問ひし君といはれそむくる片頬柳にふれぬ
のろひ歌かきかさねたる
笛の音に法華経うつす手をとどめひそめし眉よまだうらわかき
母なるが
わが歌に
かたみぞと風なつかしむ小扇のかなめあやふくなりにけるかな
春の川のりあひ舟のわかき子が
泣かで急げやは手にはばき解くえにしえにし[#「えにしえにし」は初出では「ゑにしゑにし」]持つ子の夕を待たむ
燕なく朝をはばきの
小川われ村のはづれの柳かげに消えぬ姿を泣く子
鶯に朝寒からぬ京の山おち椿ふむ人むつまじき
道たま/\蓮月が庵のあとに出でぬ梅に相行く西の京の山
君が前に李青蓮[#「李青蓮」は初出では「李春蓮」]説くこの子ならずよき墨なきを梅にかこつな
あるときはねたしと見たる友の髪に香の煙のはひかかるかな
わが春の
春はただ盃にこそ
さはいへど君が
人そぞろ宵の羽織の肩うらへかきしは歌か芙蓉といふ文字
琴の上に梅の実おつる宿の昼よちかき清水に歌ずする君
うたたねの君がかたへの旅づつみ恋の詩集の古きあたらしき
戸に倚りて
四十八
人の子にかせしは罪かわがかひな白きは神になどゆづるべき
ふりかへり許したまへの袖だたみ
夕ふるはなさけの雨よ旅の君ちか道とはで宿とりたまへ
春の日を恋に誰れ倚るしら壁ぞ憂きは旅の子藤たそがるる
うなじ手にひくきささやき藤の朝をよしなやこの子行くは旅の君
まどひなくて経ずする我と見たまふか
ながしつる四つの
奥の
人の歌をくちずさみつつ夕よる柱つめたき秋の雨かな
小百合さく小草がなかに君まてば野末にほひて虹あらはれぬ
かしこしといなみにいひて我とこそその山坂を御手に倚らざりし
鳥辺野は御親の御墓あるところ
御親まつる墓のしら梅
経にわかき僧のみこゑの
浮葉きるとぬれし袂の
こころみにわかき唇ふれて見れば冷かなるよしら蓮の露
明くる夜の河はばひろき嵯峨の
藻の花のしろきを摘むと山みづに文がら
牛の子を木かげに立たせ絵にうつす君がゆかたに柿の花ちる
誰が筆に染めし扇ぞ
おもざしの似たるにまたもまどひけりたはぶれますよ恋の
五月雨に
つばくらの
しら菊を折りてゑまひし朝すがた垣間みしつと人の書きこし
八つ口をむらさき緒もて我れとめじひかばあたへむ三尺の袖
春かぜに桜花ちる
憎からぬねたみもつ子とききし子の垣の山吹歌うて過ぎぬ
おばしまのその片袖ぞおもかりし鞍馬を西へ流れにし霞
ひとたびは神より更ににほひ高き朝をつつみし
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月の夜の
たけの髪をとめ
おもひおもふ今のこころに分ち分かず君やしら萩われやしろ百合
いづれ君ふるさと遠き人の世ぞと御手はなちしは[#「はなちしは」は初出では「はなしは」]
三たりをば世にうらぶれしはらからとわれ先づ云ひぬ西の京の宿
夢にせめてせめてと思ひその神に小百合の露の歌ささやきぬ
次のまのあま戸そとくるわれをよびて秋の夜いかに長きみぢかき
友のあしのつめたかりきと旅の朝わかきわが師に心なくいひぬ[#「いひぬ」は初出では「いいひぬ」]
ひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みし
いはず聴かずただうなづきて別れけりその日は六日
もろ羽かはし掩ひしそれも甲斐なかりきうつくしの友西の京の秋
星となりて逢はむそれまで思ひ出でな一つふすまに聞きし秋の声
人の世に才秀でたるわが友の名の末かなし
星の子のあまりによわし袂あげて魔にも鬼にも
百合の花わざと魔の手に折らせおきて拾ひてだかむ神のこころか
しろ百合はそれその人の高きおもひおもわは
さはいへどそのひと時よまばゆかりき夏の野しめし白百合の花
友は
その血潮ふたりは吐かぬちぎりなりき春を
秋を
かの空よ若狭は北よわれ載せて行く雲なきか西の京の山
ひと花はみづから渓にもとめきませ若狭の雪に堪へむ
『筆のあとに
京はもののつらきところと書きさして見おろしませる加茂の河しろき
恨みまつる湯におりしまの
秋の
わすれては谿へおりますうしろ影ほそき
京の鐘この日このとき我れあらずこの日このとき人と人を泣きぬ
琵琶の海山ごえ行かむいざと云ひし秋よ
京の水の深み見おろし秋を人の裂きし
山蓼のそれよりふかきくれなゐは梅よはばかれ神にとがおはむ
魔のまへに
魔のわざを神のさだめと眼を閉ぢし友の片手の花あやぶみぬ
歌をかぞへその子この子にならふなのまだ
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露にさめて
やれ壁にチチアンが名はつらかりき湧く酒がめを夕に秘めな
何となきただ一ひらの雲に見ぬみちびきさとし
神に[#「神に」は初出では「袖に」]そむきふたたびここに君と見ぬ別れの別れさいへ乱れじ
淵の水になげし聖書を又もひろひ
聖書だく子人の
神ここに力をわびぬとき
痩せにたれかひなもる血ぞ猶わかき罪を泣く子と神よ見ますな
おもはずや夢ねがはずや
君さらば
あまきにがき味うたがひぬ我を見てわかきひじりの流しにし涙
歌に名は
水の香をきぬにおほひぬわかき神草には見えぬ風のゆるぎよ
ゆく水のざれ言きかす神の笑まひ
百合にやる
ひとつ血の胸くれなゐの春のいのちひれふすかをり神もとめよる
わがいだくおもかげ君はそこに見む春のゆふべの
むねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子
うらわかき僧よびさます春の窓ふり袖ふれて経くづれきぬ
春にがき
ふた月を歌にただある三
わかき子が
夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘
見しはそれ緑の夢のほそき夢ゆるせ旅人かたり草なき
胸と胸とおもひことなる松のかぜ友の頬を吹きぬ我頬を吹きぬ
春を説くなその朝かぜにほころびし袂だく子に君こころなき
春をおなじ
みなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる
秋を人のよりし柱にとがめあり[#「とがめあり」は初出では「とがぬあり」]梅にことかるきぬぎぬの歌
京の山のこぞめしら梅人ふたりおなじ夢みし春と知りたまへ
なつかしの湯の香梅が香山の宿の板戸によりて人まちし闇
詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に
歌にねて
枝折戸あり紅梅さけり水ゆけり立つ子われより笑みうつくしき
しら梅は袖に湯の香は下のきぬにかりそめながら君さらばさらば
かづくきぬに[#「かづくきぬに」は初出では「かつぐきぬに」]その
それ終に夢にはあらぬそら語り
君ゆくとその夕ぐれに二人して柱にそめし白萩の歌
なさけあせし文みて病みておとろへてかくても人を猶恋ひわたる
夜の神のあともとめよるしら綾の鬢の香朝の春雨の宿
その子ここに
このあした君があげたるみどり子のやがて得む恋うつくしかれな
恋の神にむくいまつりし今日の歌ゑにしの神はいつ受けまさむ
かくてなほあくがれますか真善美わが手の花はくれなゐよ君
くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもひみだるる
そよ
とどめあへぬそぞろ心は人しらむくづれし牡丹さぎぬに紅き
『あらざりき』そは
行く春の
のらす神あふぎ見するに
そのわかき羊は誰に似たるぞの
あえかなる白きうすものまなじりの火かげの
紅梅にそぞろゆきたる京の山叔母の尼すむ寺は訪はざりし
くさぐさの色ある花によそはれし
五つとせは夢にあらずよみそなはせ春に色なき草ながき里
すげ笠にあるべき歌と強ひゆきぬ若葉よ
裾たるる紫ひくき根なし雲牡丹が夢の
紫のわが世の恋のあさぼらけ
このおもひ真昼の夢と誰か云ふ酒のかをりのなつかしき春
みどりなるは学びの宮とさす神にいらへまつらで摘む夕すみれ
そら鳴りの夜ごとのくせぞ
ぬしえらばず胸にふれむの行く春の小琴とおぼせ眉やはき君(琴のいらへて)
ひと年をこの子のすがた絹に成らず画の筆すてて詩にかへし君
白きちりぬ紅きくづれぬ
今日の身に我をさそひし
秋もろし春みじかしをまどひなく説く子ありなば我れ道きかむ
さそひ入れてさらばと我手はらひます
病みてこもる山の御堂に春くれぬ
河ぞひの
歌は斯くよ血ぞゆらぎしと語る友に笑まひを見せしさびしき思
とおもへばぞ垣をこえたる山ひつじとおもへばぞの花よわりなの
庭下駄に水をあやぶむ花あやめ
柳ぬれし
『いまさらにそは春せまき御胸なり』われ眼をとぢて御手にすがりぬ
その友はもだえのはてに歌を見ぬわれを召す神きぬ薄黒き
そのなさけかけますな君罪の子が狂ひのはてを見むと云ひたまへ
いさめますか道ときますかさとしますか宿世のよそに血を召しませな
もろかりしはかなかりしと春のうた焚くにこの子の血ぞあまり若き
夏やせの我やねたみの
こもり居に
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人に侍る
くれなゐの扇に惜しき涙なりき嵯峨のみじか夜[#「みじか夜」は初出では「みぢか夜」]
朝を細き雨に
人にそひて
くれなゐの襟にはさめる
桃われの前髪ゆへるくみ紐やときいろなるがことたらぬかな
浅黄地に扇ながしの
四条
さしかざす
舞姫のかりね姿ようつくしき朝
紅梅に金糸のぬひの菊づくし五枚かさねし襟なつかしき
舞ぎぬの袂に声をおほひけりここのみ闇の春の
まこと人を打たれむものかふりあげし袂このまま夜をなに舞はむ
三たび四たびおなじしらべの京の四季おとどの君をつらしと思ひぬ
あてびとの[#「あてびとの」は初出では「あでびとの」]
しろがねの舞の花櫛おもくしてかへす袂のままならぬかな
四とせまへ鼓うつ手にそそがせし涙のぬしに逢はれむ我か
おほつづみ[#「おほつづみ」は初出では「おほづつみ」]
われなれぬ千鳥なく夜の川かぜに
いもうとの琴には惜しきおぼろ夜よ京の子こひし鼓のひと手
よそほひし京の子すゑて
そのなさけ今日
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いとせめてもゆるがままにもえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春
春みじかし何に
そのはてにのこるは何と問ふな説くな友よ歌あれ
わかき子が胸の小琴の
松かげにまたも相見る君とわれゑにしの神をにくしとおぼすな
きのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ
歌は君酔ひのすさびと墨ひかばさても消ゆべしさても消ぬべし
神よとはにわかきまどひのあやまちとこの子の悔ゆる歌ききますな
湯あがりを
さればとておもにうすぎぬかづきなれず[#「かづきなれず」は初出では「かつぎなれず」]春ゆるしませ
しら綾に鬢の香しみし
夕ぐれの霧のまがひもさとしなりき消えしともしび神うつくしき
もゆる口になにを含まむぬれといひし人のをゆびの血は涸れはてぬ
人の子の恋をもとむる唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひ
ここに三とせ人の名を見ずその詩よまず[#「よまず」は初出では「よます」]過すはよわきよわき心なり
梅の渓の
ぬしや誰れねぶの木かげの
歌に声のうつくしかりし旅人の行手の村の桃しろかれな
朝の雨につばさしめりし鶯を打たむの袖のさだすぎし君
御手づからの水にうがひしそれよ朝かりし
歌筆を
春の宵をちひさく撞きて鐘を下りぬ二十七
手をひたし水は昔にかはらずとさけぶ子の恋われあやぶみぬ
病むわれにその子五つのをととなり[#「をととなり」は初出では「をとこなり」]つたなの笛をあはれと聞く夜
とおもひてぬひし春着の袖うらにうらみの歌は書かさせますな
かくて果つる我世さびしと泣くは誰ぞしろ桔梗さく
人とわれおなじ十九のおもかげをうつせし水よ石津川の流れ
卯の花を[#「卯の花を」は初出では「卯の衣を」]
夏花に多くの恋をゆるせしを神悔い泣くか枯野ふく風
道を云はず後を思はず名を問はずここに恋ひ恋ふ君と我と見る
魔に向ふつるぎの
消えむものか歌よむ人の夢とそはそは夢ならむさて消えむものか
恋と云はじそのまぼろしのあまき夢
君さけぶ道のひかりの
かたちの子春の子血の子ほのほの子いまを自在の
ふとそれより花に色なき春となりぬ疑ひの神まどはしの神
うしや我れさむるさだめの夢を
わかき子が髪のしづくの草に凝りて蝶とうまれしここ春の国
罪おほき男こらせと肌きよく黒髪ながくつくられし我れ
そとぬけてその
春の小川うれしの夢に人遠き朝を絵の具の紅き流さむ
もろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや
酔に泣くをとめに見ませ春の神男の舌のなにかするどき
その酒の濃きあぢはひを[#「あぢはひを」は初出では「あちはひを」]歌ふべき身なり君なり春のおもひ子
花にそむきダビデの歌を誦せむにはあまりに若き我身とぞ思ふ
みかへりのそれはた更につらかりき闇におぼめく山吹垣根
ゆく水に柳に春ぞなつかしき[#「なつかしき」は初出では「なつかしぎ」]思はれ人に外ならぬ我れ
その夜かの夜よわきためいきせまりし夜琴にかぞふる三とせは長き
きけな神恋はすみれの紫にゆふべの春の
病みませるうなじに
天の川そひねの床のとばりごしに星のわかれをすかし見るかな
染めてよと君がみもとへおくりやりし扇かへらず風
たまはりしうす紫の名なし草うすきゆかりを歎きつつ死なむ
うき身朝をはなれがたなの
さおぼさずや宵の火かげの長き歌かたみに詞あまり多かりき
その歌を
月こよひいたみの眉はてらさざるに琵琶だく人の年とひますな
恋をわれもろしと知りぬ別れかねおさへし袂風の吹きし時
星の世のむくのしらぎぬかばかりに染めしは誰のとがとおぼすぞ
わかき子のこがれよりしは鑿の[#「鑿の」は初出では「斧の」]にほひ
清し高しさはいへさびし
来し秋の何に似たるのわが命せましちひさし萩よ紫苑よ
柳あをき堤にいつか立つや我れ水はさばかり流とからず
打ちますにしろがねの鞭うつくしき愚かよ泣くか名にうとき
誰に似むのおもひ問はれし春ひねもすやは肌もゆる血のけに泣きぬ
春の虹ねりのくけ紐たぐります
消えて
歌の手に葡萄をぬすむ子の髪のやはらかいかな虹のあさあけ
そと秘めし春のゆふべのちさき夢はぐれさせつる十三絃よ