一
むかし、ある
村の人たちは皆仲よしでした。それで、子供たちも皆お友だちでした。
ある夏の初め、子供たちはいつものように、一しょにあつまって、村のうしろの森のはずれの原っぱで、
「にらめっこしようか」
「しよう」
原っぱの中にみんなは
だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
うむ……ときばって、息をつめて、両手を
子供たちはそれを何度もくり返しました。
いく度目かにまたみんなで、「だるまさん、だるまさん」をやりだした時です。ふいに、頭の上で、空のまん中で、わはははははと大きな笑い声がしました。
おや……と思って、息をつめたままで、上を見上げますと、森の上からぬーっと大きな顔がのぞき出して、それが空いっぱいの大きさになって、家のような大きな眼と鼻と口とで、わはははははと笑っています。とすぐに、その顔も笑い声も消えてしまって、日の光のきらきらしてる青い空ばかりになってしまいました。
「何だろう」
みんなびっくりして、それからふと恐くなって、村の中へ逃げかえりました。
二
そういうことが時々おこりました。うっかり「だるまさんのにらめっこ」をしてると、空いっぱいの大きな顔が頭の上で大きな声で笑うのです。びっくりして見上げると、そのとたんに顔も笑い声も消えてしまうのです。
初め子供たちはそれを恐がりましたが、だんだん
「今日はきっとあの顔が出て来るよ」
「出て来るかしら」
「出て来るとも。出て来るまでやろうや」
そしてみんなで、村のうしろの森はずれの野原にあつまって、
するうちに、いつのまにどこから来たのか、
みんなはふしぎに思って、その子供を取りまきました。
「君は誰だい」
「どこから来たんだい」
「何しに来たんだい」
「一人で来たのかい」
そんなふうに、みんなはかわるがわるたずねました。けれどその
「僕もにらめっこにいれてくれないか」
「ああいいとも」
みんなは喜びました。そして見馴れない子供と一しょに、また「だるまさん」を始めました。
ところが、その見馴れない子供が強いのなんのって、どんなおかしな顔をしても笑わないんです。二十人いたものが、一人ぬかされ二人ぬかされして、しまいには、一番強いので、「
「鬼瓦しっかりやれよ」
「初めて来たものに負けるな」
村の子供たちはそういって、わいわいはやしたてながら、二人のまわりを取りかこみました。二人はきちんと坐って、
だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
まわりのものまでみんな息をつめました。二人はじっとにらめっこをして、どちらも笑い出しません。「
とうとうたまらなくなって、「鬼瓦」はぷーっとふきだしました。みんなはわっとはやし立てました。がふしぎなことには、見馴れない子供の鼻は、勝つが早いかすっと引っ込んで、もとの通りになってしまいました。
「ずるいや、ずるいや。鼻をあんなに伸ばすなんて、ずるいや」
「鬼瓦」はそういってつめ寄ってきました。みんなもそれに味方しました。
「鼻を伸ばしといて踊らせるのはずるい」
見馴れない子供は、ただにこにこ笑っていましたが、みんなからずるいずるいとあまりいわれますと、それじゃも一度やり直そうといいました。みんなも賛成しました。
「やり直そう、初めから……。鼻を伸ばすのはなしだよ」
そしてまたみんなは一しょに、「だるまさん、だるまさん」を始めました。ところが、最初に笑い出したものから順々に一人ぬけ二人ぬけしてるうちに、いつのまにか、
「おや、あの子供はどこへいったろう」
「いない。消えちゃった」
みんなはきょとんとしてしまいました。いくら探してもどこにも見えません。
「わははははは……」
頭の上で笑い声がしましたので、見上げてみると、空いっぱいの大きな顔が笑っています。かと思うまに、すぐに消えてしまって、青々とうち晴れた大空ばかりになりました。
みんなはぼんやり空を見上げていましたが、次にはおかしくなって、くくくくっと、それからあはははっと、声をそろえて笑いだしました。
三
子供たちはおもしろがって、その話を村の
「それは悪い鬼にちがいない。悪い鬼がやって来て、子供をさらってゆくつもりで、初めはまずそんなふうに、子供をだまかしてるんだ」
「そんなことはないよ。もし鬼だったら、おもしろい鬼だよ」
そう子供たちはいい張りましたが、大人たちはききませんでした。そして
子供たちは悲しくなりました。けれど、大人たちがむりにいうものですから、
大人たちは、そうして子供たちを遊ばしといて、自分たちの方は、まだ鉄砲のない頃でしたから、弓や
子供たちは、いやでいやでたまりませんでした。あんなおもしろい鬼を悪い鬼だなどと言って大人たちがそれを待ち
するうちに、だんだん子供たちはやけになってきました。みんな立ち上がって、輪になってぐるぐる廻りながら、大声にどなりました。
だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
うむ……と
と、突然、わはははははと大きな笑い声がしました。はっと思って見上げると、空いっぱいの大きな顔が笑っています。かと思うまに消えてしまって、しいんとなりました。とこんどは、はははははと大ぜいの笑い声が聞こえました。
大人たちは初め、その空いっぱいの顔の
それを見ると、子供たちもわーっと笑い出しました。
その後、空で笑うのはきっと