波多野邸

豊島与志雄




 波多野洋介が大陸から帰って来たのは、終戦後、年を越して、四月の初めだった。戦時中の三年間、彼地で彼が何をしていたかは、明かでない。居所も転々していた。軍の特務機関だの、情報部面だの、対重慶工作だの、いろいろなことに関係していたらしく言われているが、本人はただ、あちこち見物して歩いたと笑っている。実際のところ、本人の言葉が最も真実に近いものであろう。
 彼は事実をあまり語らなかった。意見を殆んど述べなかった。曖昧な微笑と掴みどころのない言葉とで、すべてをぼかしてしまった。故意にそうするのではなく、自然にそうなるかのようだ。大体に於て、所謂大陸ボケかとも思えるところがあった。あの人は少しぼんやりしている、というのが一般の印象だった。すくすくと伸びた体躯、肉附も普通で健康そうだったが、陽やけした顔の表情に、紙を一枚かぶせたような趣きがあった。然し、注意して眺めると、その重たそうな瞼の奥から、時折、両の眼があらわに露出してきて、表情を覆うている紙にそこだけ穴があくことがあった。
 破壊と建設とが話題になってる時のことだった。――破壊と建設とは二つのものと考えてはいけない。古い家屋を壊して、その跡へ新らしい家屋を建てると、そんな風に考えてはいけない。精神文化に於ては、壊すことは即ち建てることであり、建てることは即ち壊すことだ。急激にせよ、徐々にせよ、新たな建設には必ず破壊が伴い、新たな破壊には必ず建設が伴う。そして両者は同時的に同空間的に行なわれる。破壊と建設とを別々なものとする観方は、両者の間に空虚な時間と空間とを許容することであって、それは、吾々の精神の在り方に、生の在り方に、矛盾する。ここには、空虚な時間や空間はない。建設することによって破壊され、破壊することによって建設されるのだ。――そのようなことを話してる私達の方を、波多野洋介は黙って見ていた。私が見返すと、彼の顔は、濡れた紙を一枚かぶってその下でぼんやり微笑してるような工合だったが、眼のところだけ穴があいて、黒目がまじまじと覗き出していた。私の視線を迎えて、彼の重たそうな瞼は静にもちあがり、ぼんやりした微笑が眼にまで拡がって穴を隠してしまった。だが、消えてしまったその両眼の穴が、なにか私を冷りとさした。
 私達――彼をも含めて三四人の私達は、少しく酔っていたし、室は薄暗かったが、それでも、彼はあまり口を利かず、これが顔面筋肉の自然の姿態だというようなぼんやりした微笑を浮べていた。後になって、彼の時折の眼付にも私が見馴れてくる頃、彼は議論に加わることもあったが、特に頭に残るような意見も提出しなかったようだ。或る時、何かの機会に、実行の方法が決定しない前の議論は無意味で、議論は実行方法が決定してから後にやるべきものだというようなことを、彼が言い出し、それではまるで議論にも話にもならないと、反駁されたことがあった。それでも彼はやはり、ぼんやりした微笑を以て応じた。彼は何か言葉が足りないか言い方がまずかったのであろう。それともやはり大陸ボケだったのであろうか。
 私達がよく落ち合ったその家は、日本橋裏通りの小さな酒場だった。二つの街路に挾まれた二階家の、表の方は刳貫細工物の問屋になっていて、その裏口の階下、昔は倉庫ともつかない物置場であったらしいのを、山小屋風に改造したもので、広い土間と框の低い小部屋が一つ、窓が狭くていつも薄暗かった。商売はたいてい夕方から夜にかけてだが、電球の燭光が足りないのでやはり薄暗かった。椰子の実を灯籠風に刳り貫いたのへぽつりと灯火がともって、入口にかかげてある、それが目標しだった。中にはいると、長髪で没表情な大田梧郎が、また時には、いがぐり頭で愛想笑いを浮べてる戸村直治が、酒を出してくれた。日本酒、ビール、各種のウイスキー、時には焼酎もあったが、この焼酎だけはとびきり上等だった。料理は殆んど出来ず、ピーナツ、するめ、ハム、※[#「缶+権のつくり」、211-上-23]詰類に過ぎなかった。客はたいていインテリ層の顔馴染みの者で、見識らぬフリの客には居心地がわるかった。店の名前は、大田梧郎の名を取ってただ「五郎」で、飲み仲間では、五郎へ行こうとか、五郎さんとこへ行こうとか、そういう風に言われていた。
 この酒場のどこが気に入ったのか、波多野洋介はしばしばやって来た。もっとも、私達が彼を誘ってくることも多かった。彼は帰国後、当分の間はという殆んど無期限の有様で、ぶらぶら遊んでいた。読書だけは熱心にしているようだったが、そのほかは、友人たちとの私交、演劇や音楽会、散歩や酒、近県への一二泊の旅など、東京中心の土地を改めてなつかしんでいるかのようでもあった。これからどんな方向へ進み、どんな仕事をするつもりか、恐らく彼自身でも見当がつかなかったのではあるまいか。
 洋介のそういう態度は、外地からの帰還者ということを考慮に入れても、やはり非難の余地があった。深刻な食糧危機、政局の昏迷、社会情勢の不安、其他、あらゆる問題が堆積錯綜して、敗戦後の立ち直りが可能であるか否か、見通しさえもつき難かったのである。このことについて、彼の亡父の親友だった高石老人は、豪宕な調子で彼を揶揄したことがある。それに対して、彼は例の微笑を浮べた。
「そうですが、実際のところ、私にはまだ何も分らないのです。だから、いま、勉強中なんです。」
「さよう、大いに勉強してくれ。」と高石老人は真面目に言った。
 その勉強の機関、というほどでもないが、洋介が帰国してからの活動の足掛りとして、ささやかなものが、高石老人の発意で設けられていた。邸内の、故人の書斎と次の間とをそれにあて、名前だけは厳めしく、波多野文化研究所とされていた。戦争犯罪の摘発が行われ、官界や政界から公職追放者が続出しそうな形勢になった頃から、この文化研究所は既に発足していた。果して高石老人の見通し通りになって、この研究所では、文化一般を検討する仕事に取り掛ったが、資料も少く人員も足りなかった。故人の蔵書や高石老人が集めてきた記録などの外、故人と親しかった学者井野老人の蔵書も借りてこられた。それらを、午後一時から五時までの時間に、数名の研究員が、調査というよりも寧ろ各自の勉強のために読み耽った。謂わば一種の公開図書室で、図書払底の折柄、研究員として出入の許可を求めてくる者が多かった。高石老人と井野老人とがそれらを選択した。固より、研究員という名目については、無給でまた無料だった。
 高石老人はこの文化研究所を自慢にしていた。研究の成果などは問題でなく、研究の指導者さえも無かった。ただここに出入する研究員を通じて、壮青年層に、波多野洋介が一種の活動地盤を持つだろうということが、老人のひそかな目論見だったらしい。
 この研究所に、或る私立大学の教師をし、傍ら翻訳をやってる佐竹哲夫が、勤勉にやって来た。然し彼は他の人々とはあまり口を利かず、非常な速度で書物を読んだ。或る政党の書記局にいた山口専次郎も、しばしばやって来た。彼は書物などは殆んど見向きもせず、時事問題について誰彼の差別なく意見を求めた。有名な文士の吉村篤史も、時々やって来た。なにか小説の材料になる記録でも物色してるらしかったが、未亡人の室の方に招じられて話しこむことが多かった。其他いろいろな人が来たが、年若い人が多いし、この一篇の物語には関係が少いようである。波多野家に家族同様の待遇でいる魚住千枝子が、室の掃除や整頓に当っていたし、以前から寄宿してる一人の学生がそこに寝泊りしていた。
 ところが、波多野洋介はこの研究所を全然無視する態度を取った。そちらへ足を向けず、そこにある書物を一冊も読まなかった。彼は自分の八畳の書斎に若干の書物を持っていたし、なお読みたい書物は友人から借りてきた。友人が文化研究所のことを言うと、彼は例の通りぼんやりと答えた。
「あれはどうも、僕のものではないようだ。」
 茲に、なお一つ私の観たところを附け加えておくが、彼はすべてのことを甚だ漠然としか言わなかったけれど、その背後には、明瞭な、ややともすると烈しいほどの、好悪の念があったようだ。好きだか嫌いだか、それが根本の問題で、あとはただ漠然とした言葉となって現われた。だから表面上、彼は多くのことに無関心のようにも見えた。
 やがて彼が、文化研究所を高石老人の家に移転さしたい、さもなくば閉鎖したいと、漠然とではあるが強硬に言い出したことは、周囲の人々を驚かした。
 それから、これは一部にしか知られていないことだが、彼は酒場「五郎」のある建物を買い取った。戸村直治のひそかな斡旋によるものだった。刳貫細工物の問屋は多年の不況で、その建物を売りたがっていたのである。そして売買は行われたが、表面上は変化なかった。問屋一家はやはりそこに住んで、仕事を続けた。裏口の階下を借りてる「五郎」も元のままだった。ただ、裏梯子段の上の二室がこの酒場に殖えて、それは特別の小集会などにだけ使われることとなった。そのことが、店主の大田梧郎は固より、私達を、驚かせまた喜ばせた。
 それらのことを、波多野洋介は無関心な調子でやってのけた。時折やって来る井野老人を相手に、碁などうっている彼の様子は、無為徒食の一帰還者にすぎなかった。

 波多野洋介に対して、魚住千枝子は困った立場にいた。
 千枝子は未亡人の縁故者だったので、洋介のことは前から知っていたが、親しく接するのは初めてだった。洋介は博多港からの電報と殆んど前後して、飄然と帰ってきた。千枝子は古い女中のお花さんと一緒に、彼を迎え入れる支度にまごつき、次いで、玄関では、彼の荷物の少いのに却ってまごついた。彼はさっさと茶の間へ通った。そして彼が少しくくつろいだ頃、千枝子はしとやかに室へはいって、襖ぎわに両手をつき、低くお辞儀をした。
「お帰りあそばせ。」
 それきり、顔がなかなか挙げられなかった。
 未亡人房江が、彼女を洋介に引きあわせ、近くへと差し招いたが、彼女は席を進めかねた。その時のことが、彼女に一種の地位を決定してしまったかのようだった。つまり、小間使めいた地位に彼女を置いたのである。後になって、彼女はそのことを考えてみた。なぜもっと率直に振舞わなかったか、お帰りあそばせなどとどうして言ったか、それを考えてみた。然し自分でも訳が分らなかった。而も一度決定した地位からは容易にぬけ出せなかった。それかといって、彼女は小間使の仕事をしたわけではない。洋介の身辺の世話は、房江の手で、更にお花さんの手で、すっかり為されたし、彼女の仕事はおもに研究所の方にあった。ただ、家の中で、彼女はいつも、足音を忍ばせ小腰を屈めて、というほどではないが、目立たぬようにしとやかに振舞い、座席にも気を配った。そしてそれが一層ばかばかしいことには、彼女自身、知識も教養も相当に具えてる、三十歳の身の上なのである。
 洋介は、誰に対してもあまり話しかけなかったが、どういう時ということなく、ふいに、じっと人の顔を見る癖があった。その視線を受けると、千枝子はいつもより更に縮こまった。食事の時などは、彼の視線がいつじっと注がれるか分らないので、一層かたくなった。ただそういうこと以外、彼は彼女に無関心のようだった。その上、彼の日々はひどく不規則だったので、彼女が彼に接する機会も少なかった。それでも、彼の存在そのものが、いつも重々しく家の中に感ぜられた。彼に大変気を遣っているような房江の影響もあったらしい。
 お花さんだけは、何の遠慮もなく彼を昔通りに子供らしく取扱い、そして彼を「お坊ちゃま」と呼んでいた。その呼称が千枝子には羨ましかった。千枝子は彼を何と呼んでよいか困った。お坊ちゃまでは固より変だし、若さまとも言えないし、旦那さまもおかしいし、先生とも呼べなかった。仕方なしに、そこを省略する言い廻し方をしたが、第三者には往々、波多野さんと言った。
 気兼ねなくすらすらと出る「お坊ちゃま」を、彼女はお菊さんのところでも聞いた。
 お菊さんというのは、もと波多野邸にいた女中で、今では戸村直治の妻であった。彼等は空襲時に罹災して、一時は波多野邸に避難していたが、戸村はすぐ焼け跡に出かけてゆき、壕舎を作って、先ず自分一人そこに住み、地主に交渉して、可なりの地面を借り受けた。その素早いやり方を後で誉められると、彼は事もなげに笑った。
「なあに、ちょっと、骨惜しみをしなかっただけですよ、間もなく戦争はすむと、分っていたし、ほかに思案もありませんしね。」
 戦争がすむと、彼はそこに簡単な小屋を建てた。持ち金の殆んど全部を注ぎ込み、屋根瓦などは焼け跡から自分で拾い集めた。その六畳と四畳半と二畳の家に、妻と二人の子供とを引き取り、広い耕地を拵えた。そして午前中は耕作、午後から夜にかけては「五郎」へ出かけた。
 この戸村のところへ行くのが、魚住千枝子には楽しみだった。一升ばかりの米がはいってる袋をぶらさげて行き、袋一杯にかさばった野菜を持って帰るのである。この往来ははじめ、お花さんやお菊さんがしていたが、いつしか千枝子が進んで引き受けてしまった。袋の手触り、米にせよ、野菜にせよ、そのなにか新鮮な手触りが、書物などとは別な快感を与えてくれた。
 耕地はみごとだった。瓦礫の畦で幾つかに仕切られ、周囲にはやはり瓦礫の砦が築かれていて、全部で三百坪ほどもあった。その半分以上に、各種の野菜が植えられていた。蚕豆や莢豌豆にはかわいい花が咲いており、キャベツの大きな巻き葉が出来かかっており、時無し大根の白い根が見えており、胡瓜の髯が長く伸びており、其他さまざまな野菜類が、各自の色合と形とで日光に輝いていた。種類が多いだけに一層豊かに思われた。空いてる地面には、やがて薩摩芋が植えられることになっていた。いくら多く作っても、知人たちに分配するにはまだ足りないそうだった。麦を蒔いていないことが自慢で、地面を長く占領し肥料を多く吸収する麦は家庭園芸の範囲外のものとのことだった。
 このみごとな菜園を控えてる小屋へ、千枝子が米を一升ばかり届けると、お菊さんはその米を両手ですくってさらさらとこぼし、またそれを繰り返して、淋しく微笑んだ。
「やっぱり、お米が一番なつかしゅうございますね。この四五日、一粒も頂かないんでございますよ。」
 米の配給はどこでも遅延していたが、それでも……千枝子には意外だった。
「何をあがっていらしたの。」
「お魚と野菜ばかりで、もうがっかり致しました。」
 それも、千枝子には意外だった。魚や野菜は波多野家にはひどく乏しかった。
「まったく、不自然で不合理ですわ。」
 その言葉はくうに流れた。お菊さんは機械的に頷いただけで、茶を汲んで出した。
 耕地の片隅で、二人の子供が瓦や石を積んで遊んでいた。男の子は、女の子のように髪の毛を長く伸ばしており、女の子は、男の子のような絣の着物をきていた。千枝子はそちらへ行った。
「何をしているの。」
 兄は立ち上って、ちょっとお辞儀をした。
 朝早く、畠に出てみると、土瓶のように大きな蟇蛙がいた。それの宿にするため、中を空洞にして、瓦や石を積み上げているのである。むずかしくてなかなか出来なかった。千枝子も手伝った。
「ここに、蛙がはいると、怖いわ」と妹がふいに言った。
「なぜなの。」
「蛙にさわると、疣が出来るんでしょう。」
「嘘だよ。」と兄が叫んだ。「お父さんが、そんなことはないと言ったよ。」
「お母さんは、ほんとだと言ったわ。ねえ、どっちなの。」
 千枝子は返事に迷った。そこへ、お菊さんが籠を持ってやって来た。子供たちに疣のことを尋ねられると、彼女はにっこり笑って答えた。
「さわりかたが悪いと、疣が出来ますよ。さわりかたがよければ、疣は出来ません。」
 彼女は畠にはいりこんで、キャベツや大根や小蕪をぬいた。
 千枝子はそこにつっ立って、午前の陽光に照らされてる豊かな菜園を、しみじみと眺めた。男のように腰に両の拳をあてて眺めた。それから、お菊さんの後を追って行った。
「わたし、お願いがあるんですの。こちらの畠の仕事を、手伝わして下さいませんか。」
 お菊さんは振り向きもせずに答えた。
「あなたには無理でしょうよ。出来たものを採り入れるのは何でもありませんが、土を掘り返したり、肥料をやったり、作るまでが大変でございますよ。」
「それは、覚悟しております。」
 ひどくきっぱりした調子なので、お菊さんは振り向いた。血の気が引いて透き通ったかと見えるほど緊張した顔に、輝きを含んだ眼が、ひたと見開かれていた。お菊さんは当惑して、無意味に微笑んだ。
「それから、も一つ……あの五郎とかいう店へ連れていって下さいませんかしら。」
 お菊さんは、こんどは安心して微笑んだ。
「それは、わたくしには……。お坊ちゃまにお頼みなさいませよ。」
 お坊ちゃまという言葉を納得する間、千枝子は黙っていた。
「お酒を飲みに行くのではありません。あすこで働けるかどうか、見に行きたいと思っています。」
 お菊さんは返事をせずに、野菜の籠を取り上げた。そして二人とも無言のまま家の方へ行った。
 縁先に腰掛けて、お菊さんはしみじみと千枝子の顔を眺めた。
「つまらないことを考えるのは、おやめなさいませ。誰でもどんなことでも出来るというわけではございませんからね。」
「いいえ、ただ、何でもよいから一生懸命に働いてみたいと思います。」
「今迄どおり、御勉強なすったら宜しいではございませんか。」
「勉強よりも、働くことです。」
 お菊さんは口を噤んで、野菜を整理した。そこへ、戸村が姿を現わすと、千枝子は改まった御礼を言い、野菜の袋をさげて帰って行った。その後ろ姿を眺めながら、お菊さんは先刻の話を伝えた。
「あのひととは、なんだか話がしにくいわ。全くの本気らしいようでもあるし、こちらがからかわれてるようでもあるし……。」
 戸村は考えながらゆっくり言った。
「あのひとには、なにもかも本気だろう。ただ、頭がよすぎるから、ちょっと危いね。」
 千枝子の後ろ姿は、焼け野原の中に長く見えていた。かさばった野菜の袋をさげ、男みたいに肩を張り、頭をつんともたげてわきみもせず、ゆっくり足を運んでゆく、そのモンぺ姿は、青々と伸びてる麦の間を、電車通りの方へ、次第に遠く小さくなっていった。

 雨がちで冷かな数日の後、いやにむし暑い日が来た。その午後、西南の中天に真黒な雲が屯ろし、それが渦巻き拡がり重畳して、空を覆うていった。地平近い明るい一線も隠れ、黒雲は南から東へと急速に移動しながら、西に本拠を置き、北方に僅かな青空を残すのみとなった。天地晦冥といった趣きで、樹々の若葉がざわめいた。
 魚住千枝子は、暴風雨の用意にというほどではなく、ただなんとなくそこらを見廻る気持ちで、文化研究所の方へ行ってみた。日曜日のことで、研究所は休みだった。家に寄宿してる学生の小池章一が、縁先に腰掛け、煙草をふかしながら、空を眺めていた。千枝子が側へ行っても、ちらと振り向いただけで、また空を眺めた。
「何をしてるの。」と千枝子は言った。
「雲を見てるんです。面白いですよ。」
「面白いより、凄いわね。」
「こんな時に、竜が天に昇るって、昔の人はうまいことを言ったものですね。」
 黒雲はその厚みが測り知れないほど重畳していた。突風が表面を掠めてるらしく、砂塵をでも挙げるように灰色の煙が千切れ飛び、更に内部にも突風が荒れてるらしく、真黒な塊りが巻き返していた。日の光りは全く遮られて、薄闇が雲から地上へと垂れていた。
 大粒の雨が、ぽつりと来そうでもあり、一度にざあっと来そうでもあった。だが、雷鳴は少しもなく、大気は乾燥していた。
 千枝子は突然、小池に呼びかけた。
「小池さん、煙草を一本下さらない。」
 小池は彼女の方を眺めた。
「煙草を、どうするんですか。」
「勿論、吸うのよ。」
 彼女も縁先に腰掛けて、唇の先で煙をふかした。癖のない細そりした指と、貝殻のような美しい爪との、その手先は、映画女優のそれのようであり、薄い皮膚の張りつめた頬は、蝋細工のようだった。小池は雲の方をやめて、彼女の方を眺めていた。
「煙草なんか吸って、いいんですか。」
「わたしだって吸うわよ。」
「然し、今まで一度も……。」
「遠慮してたのよ。」
 そして彼女は、やはり空の雲から眼を離さずに、しみじみと言った。
「なんだか、窮屈になってきたわ。遠慮したり、気兼ねしたり、いつもそうでしょう。それが、こちらの……波多野さんが帰っていらしてから、殊にそうなの。別に、怖いわけじゃないけれど……変ね。」
「波多野さんは自由主義ですよ。あなたが遠慮してるのは、奥さんの方でしょう。」
「いいえ、小母さまには遠慮なんかないわ。」
「それでは、ここの、雰囲気かも知れません。」
「そうね。そんなものが、……帰っていらしてから、はっきりしてきたのかも知れないわ。そうだとすると、わたし、ずいぶん迂濶だったのね。」
「なにが迂濶ですか。」
「そんなことに、これまで、気がつかなかったのよ。小池さんは呑気でいいわね。煙草を吸ったり、酒を飲んだり、薪を割ったり……。」
「そりゃあ、僕は男ですもの。まあ、謂わば書生ですね。」
「小池さんが書生なら、わたしは何でしょう……一種の女中ね。書生がすることを、女中はしていけないでしょうか。」
「それは面白い問題ですね。波多野さんに聞いてごらんなさい。」
「ええ、聞いてみるわ。」
「返事はきまってますよ。書生がすることは女中もして宜しい、人がすることは誰でもして宜しい……波多野さんならきっとそう言われますよ。奥さんの方は分らないけれど。」
「そうかしら。」
「然し、あなたは女中じゃありませんよ。」
「それでは、何なの。」
「家族の一人ですね。だから、少し窮屈なんでしょう。」
「違うわよ。まったく逆よ。いえ、こんなこと、男には分らないでしょう。やっぱり、男と女とは、立場が違ってよ。」
「そうなると、僕にはよく分りませんね。」
 そんなことはどうでもよいという調子で、投げやりに言って、小池はまた空の方を眺めた。
 いつのまにか、強い明るみが地上に流れていた。黒雲は東へと移動し続けていて、西空の濃い本拠が拭われるように薄らいでゆき、真綿のように透いてきて、日の光りさえも洩れそうになった。
「降ればいいのにねえ。」と千枝子は言った。
「降らない方がいいですよ。」と小池は言った。
 そして二人はまた空を眺めた。東の空の黒雲は、もう渦巻きもせず、風に吹き飛びもせず、静に地平線の方へなだれ落ちていた。
「ひどく仲よさそうですね。」
 はずんだような声の調子で、山口専次郎がやって来た。櫛の歯跡が目立たぬほどに髪をふわりと梳かし、空色の縁取りのあるハンカチの耳を上衣の胸ポケットから覗かしていた。
 彼は研究所の中をわざとらしく見廻して言った。
「ああ、今日は休みでしたね。だいたい、日曜日を休みにするなんか、おかしいですよ。学校ではありませんからね。この点だけは、僕は不服ですね。」
 千枝子は空を見ながら言った。
「日曜日でも、書物を御利用下すって構いません。」
「いや、僕はあまり読書をしない方ですが……。」
 そこで言葉を切って山口は二人の様子をじろじろ眺めた。
「何か、お話中だったんですか。」
「ええ、書生と女中との話です。」
 挑むような言葉に、山口は眼をしばたたいた。然しそんなことに気を遣わないで、彼は言い出した。
「この研究所を閉鎖するという噂がありますが、本当でしょうか。本当だとすると、僕には波多野さんの考えが分りませんね。」
 そして彼は一人で饒舌りだした。――今までまだ、研究所はまとまった研究結果を挙げていないが、然しこういう施設は大変役に立つ。これによって、過去の文化の誤謬が発見され、将来の文化への一指針が確立されるだろう。その上、ここの研究員を中心にして、青年や壮年の優秀な分子を、一定の組織へと動員することも可能である。一千名ほどはたちどころに獲得出来る。その優秀な一千名は、やがて一万となり、十万ともなるだろう。これは波多野さんにとって、有力な活動地盤である。――嘗て高石老人が側近の者に洩らしたところを、山口はそのまま繰返した。
「それを、むざむざ打ち捨ててしまうというのは、僕にはどうも納得しかねますね。」
 それから彼は少し声をひそめて言った。――何とかいう酒場を、波多野さんが買い取ったという噂もある。そういうことは、将来のため寧ろ遠慮すべきであろう。文化研究所をやめて、酒場の主人になる、これほど不合理なことはない。
「波多野さんは何をやりだすか分りませんよ。周囲の者がよく注意していなければいけません。あなた方も、よく注意しておいて下さいよ。ところで、僕はこれで失礼します。」
 人の心を或る方向へ傾けさせるには、議論を封じて言いっ放しにしておくのが最も効果的だと、彼は信じていたらしく、そのまま立ち去りかけた。裏木戸からの研究所への出入口は、休みには閉め切ってあり、彼は玄関の方へ向った。
 千枝子は小池を顧みたが、小池はまるで無関係な者のように、薄すらと晴れてゆく空を眺めていた。
 千枝子は儀礼上仕方なく、山口を送っていった。
 玄関で、彼は囁くように言った。
「奥さんのところに、吉村さんが見えていましたよ。あの人、僕とは話がしにくいとみえて、殆んど口を利きませんね。いったい、小説家というものは、男に対してはひどく無口で、女に対しては愛想よく話をする、そういったものかも知れません。」
 山口の横額にある薄い汚点、なにか火傷か皮膚病かの名残りとも見えるその汚点に、千枝子はぼんやり眼をとめていた。
 機械的に彼を送りだして扉を閉めきると、彼女はそこにちょっと佇んだが、それから、玄関わきの応接室にはいって、ソファーの上に身を落した。
 吉村さんとも遠くなった……とそれだけの思いだった。――以前、彼女は吉村篤史のところへ出入りして、文学上のいろいろな話を聞くのを楽しみにしていた。師としての敬意以上に、なにか心の上の親しみまで感じていた。それが、文化研究所が出来てからは、断ち切られるような工合になった。吉村の方から研究所を訪れて来た。千枝子とも談話を交えた。然し彼は、千枝子の室には通らず、未亡人の室の方にばかり通った。そして次第に、千枝子は無視される地位に置かれた。こちらから吉村を訪問することも、なんとなく憚られる工合だった。
 ――どうしてこんな風になったのかしら。
 感傷的にではなく、理知的に、彼女はぼんやり考え沈んだ。
 室の正面には、多彩な政治家だった故人波多野氏の肖像画が掲げてあり、それと向いあって、孫中山の書がかかっており、一方の卓上には、画集や写真帖が置いてあり、他方の棚のケースには、銀製の種々の記念品や骨董品が並べてあり、煖炉棚には、古い壺や皿が飾られていて、その片端に、坐形の大きな人形が一つあった。足のところが少し損じてるきりで、顔から胴体まで、真白な泥土の肌は、光りを浮べて生々しく輝いていた。
 その生々しい肌色に、千枝子は無心に眼を据えていたが、突然、その眼を大きく見開き、透き通るほどに頬を緊張さして、人形を見つめた。彼女自身の顔も人形のようだった。そのまま数秒たって、彼女は立ち上り、人形の方へ行きかけたが、やめて、扉わきの細長い柱鏡の方へ行った。そして鏡の中で、自分の顔を眺め、手や指や美しい爪を眺め、頭に手をやって前髪のウェーヴを整えた。なにか高慢な気味合いがその白々しい額に浮んでいた。
 かすかにスリッパの音がした。彼女は不意を衝かれたかのように壁際に身をひそめた。
「明日、二時に……。」
 吉村のらしい声がそれだけ聞えた。あとは言葉もなく、吉村は立ち去り、未亡人房江らしい足音が静かに奥へ引き返していった。それでもまだ暫くの間、千枝子は壁際に身をひそめていた……。
 その翌日、房江はいつもより入念に化粧し、而もあまり目立たない衣裳で、午後から外出した。千葉の友人を訪れるので帰りは分らないと言い置いたが、その夜は戻らなかった。

 太陽は雲に隠れて、時間のけじめのつかない明るさだった。露に似た冷かさが大気にこもっていて、小鳥の声は爽かに響き、遠く、時後れの鶏の声もあった。竹の葉にさやさやとそよぐけはいがあるだけで、庭の茂みは静まりかえり、藤の花が幾房か重く垂れていた。
 その朝の気が、濡縁に屈んでる吉村篤史の眼にしみた。
 衣ずれの音がして、波多野房江が隣室から出て来た。彼女は縁先へは出ず、食卓の前の座布団に膝をおとし、両手を卓上に重ねて、うっとり思いに沈んだ。
 二人とも黙っていた。小鳥の声がひとしきり高くなった。
 吉村は立ち上り、室にはいって、房江と向い合いに坐りかけたが、俄に、身をずらせて、彼女の膝に顔を伏せてしまった。少しく白髪の交ったその髪の上に、彼女は片手をやった。それから静かに、彼の顔を挙げさせようとした。
 彼は頭を振って、彼女の膝にまた顔を押しつけた。
「どうしたの。」と彼女は囁いた。
「なんだか……。」
「また、極りがわるいの。」
 彼女は突然、彼の頭をかき抱いた。
「おかしな人ね、子供みたい。」
「だって……。」
「もういいのよ。なんでもいいの。ね、そうでしょう。」
 彼女の腕がゆるむと、彼は静かに顔を挙げた。近々と彼女の顔があった。その細く閉じかけた眼の、厚ぼったい重い瞼がおもむろに持ち上がり、額に幾つもの皺をこさえ、瞳が輝きを含んで微笑んでいた。
 何かが一変した感じだった。その厚ぼったい瞼と輝きを含んだ瞳、それから、額の皺としぼんだ乳房、両方が別々なものとなって吉村の眼に映った。彼は男性の矜りを取り戻した。坐りなおして、彼女を眺めた。彼女は伊達巻だけの姿だったが、粗い十字を浮かした大島の着物に、長襦絆のしっとりした縮緬の半襟で、鬢の毛には櫛の歯跡が清楚に見えた。彼は浴衣に丹前を重ねた自分のみなりの襟を合せた。がその後で、悪戯っ児のようにうそうそと笑った。
 彼女は彼の顔をひたと見つめた。
「おばかさん……。」
 それからがくりと折れるように、上半身の重みを彼の方へよせかけてきた。
「約束のように、出来るかしら。」
「約束なんか、どうだっていいですよ。なるようになるでしょう。」
 彼はちらと眉根をよせた。
「少し、飲みたいけれど。」
「どうぞ。わたしも飲むわ。」
 彼は卓上の眼鏡をとり、女中をよんだ。
 房江は帯をしめてきた。食卓にきちっと就くと、肉附きのよいその体は、磐石を据えたように見えた。彼女は庭を眺めやった。
「静かないい家ね。」
 そして庭から彼の方へ眼を移した。
「どうして、こんなことになったのかしら……後悔なさらない。」
「あなたも、後悔しませんか。」
 二人はまじまじと眼を見合った。非常にあらわな眼付だが、それでもなにか、互に遠くから見合ってるような工合だった。
 後悔などはなかった。それは初めから分っていた。四十五歳の未亡人の彼女と、世間に名を知られてる五十歳の文士、それが却って安全弁だった。体面への顧慮もあり、分別もあった。また、向う見ずな情慾も恐らくなかったろう、病気で田舎に行ってる妻が彼にあることは、万一の場合の堤防ともなる筈だった。条件が揃ってる安全な火遊びであった。否、火遊びといえるほどの積極的な意志もなく、自然の誘惑への無抵抗な陥没だった。彼の方にはただ甘える気持ちがあった。意力も体力も創作力も衰えてゆき、而もその衰弱を意識しないで、その日その日の自己満足に安んじていた。精神生活の停止もしくは低下に身を任せた安らかさだった。その安らかさに甘える気持ちは、無抵抗のうちに彼女へ倚りかかっていった。対象のない漠然たる甘え方が、彼女を得て、観念的要素を多く含んだ肉体的快楽までも伴った。そういう彼に、彼女も安らかに倚りかかった。政治や経済上の政策、つまりは手段とか方法とか謀略とか、そういう雰囲気の中にばかり生きてきた彼女にとって、彼の漫歩的な気質は、木の葉や草の葉のような新鮮さを持っていた。そして彼のとりとめのない談話によって、彼女は気分をいたわられ、感情の機微を擽られた。文化研究所だの、新たな政党だの、なにかざわざわした動きが周囲にあるだけで、未亡人たる自分の存在はいつしか忘れられかけてるような淋しさを、彼女はしみじみと感じていた、その中での支柱でも彼はあった。而もこの支柱は甘い砂糖だった――すべてそれらのことは、敗戦の打撃と彼等の属する階級とに根ざしてるものであったが、彼も彼女もそこまで考えなかった。もし考えていたら、二人の関係は単なる社交だけに終っていたかもしれない。
 秘蔵のコーヒーにウイスキーを注いで飲み、それから二階の室で書画を見、次いで焼け野原に夕日の沈むのを窓から眺めた。残照が消えてしまった時、二人の肩は相接していた。それをどちらも避けようとしなかった……。その時からのことである。
 彼は酒を好きだったし、彼女も少しは嗜んだ。
 一度に銚子を二本と、ちょっとした小皿物とを、女中は運んできて、黙ってさがっていった。吉村は眼を細めた。
「嬉しそうね。」と房江は言った。
 彼女は気のなさそうに杯を取り上げたが、それを干すと、彼の様子をじっと眺めた。
「あなたは、千枝子さんを好きではありませんでしたの。」
 彼は唇をちょっと歪めた。
「千枝子さんは、あなたを好きだったようではありませんか。」
 彼はまた唇を歪めた。ややあって言った。
「愚問には答えません。」
 彼女は揶揄するように眼を光らした。
「でも、あのひと、好かれるたちね。山口さんは、ひところ、だいぶ熱心のようでしたし、佐竹さんも、好意を持っていらっしゃるようですよ。」
「だから、私もそうだというんですか。」
 房江は頭を振って微笑んだ。
 吉村も微笑んだ。
「あのひとは、なんだか気の毒ですね。顔も綺麗な方だし、頭もよい方だから、一応はまあ誰にでも好かれるでしょうが……単にそれだけですね。」
「それだけ……ですって。」
「つまり、恋人にも、また妻にも、ふさわしくないところがありますよ。」
「どんなとこなんでしょう。」
「恋人としては、顔の表情があまりきっぱりしすぎていますし、妻としては、手があまり美しすぎますよ。」
「そんなことが、邪魔になるでしょうか。」
「なりますよ。一応は好きになっても、それから先が躊躇される……つまり、後味がわるそうだというのでしょうか。」
「まあ、後味が……。」
「そういう女が、それも、普通の婚期をすぎた女に、ずいぶんありますね。」
「でも、それは、男の方が卑怯だからではないでしょうか。」
「何がです。後味のことですか。」
「ええ、怖いんでしょう。」
「そうですね、後味がわるいというより、怖いと言ってもいいですね。」
「それで、あなたも、千枝子さんが怖かったんですの。」
「私が言ってるのは、ただ、一般的なことですよ。」
「一般的だけでしょうか……。」
「そうじゃありませんか。そうでなけりゃあ、こんなこと言いませんよ。」
 吉村はそれきり口を噤んだ。なにか淋しいものに突き当ったようだった――千枝子は、房江には家族同様な者であり、吉村にはまあ文学上の弟子だった。その千枝子のことを冷淡に、二人の甘えた情愛の餌食にしていたのである。それだけの自意識が、吉村の胸に来た。
「こんな話、もう止めましょう。」
 吉村は立ち上って、室の中を歩き、それから房江の肩にもたれかかって、彼女の体温のなかに顔を埋めた。
「私はあなたに、もっともっと甘えたい。甘えさして下さい。」
 房江は彼の頭を抱いて言った。
「わたしも……。」
 ぬるま湯のような静かな時間がたった。二人は更にも少し酒を飲み、簡単な食事をすまして、その家を出た。曇り空の薄ら日で、風もなかった。生籬や木立の多い道を、省線電車の方へ歩いた。
 その時、歩きながら、房江ははじめて、今までなんとなく言えなかったこと、洋介のことを話した。――洋介は房江の実子ではなく、故人が房江との結婚より数年前に他でもうけた子で、房江とは十年あまりの年齢の差しかなかった。それ故、二人の間には、或る程度の距りを置く遠慮が常にあった。その上、支那から帰還してきた洋介は、その思想や感情や生活態度などについて、房江の理解し難いものを多分に持っていた。母としての彼女の手から彼はもう脱け出してしまってるかのようだった。彼は彼女に何も相談しなかったし、打ち明けもしなかった。相談したり打ち明けたりするものを持っていないような様子だった。なにかぼんやりしてるようでもあった。
 それなのに、いつのまにか、文化研究所はよそへ移転されるらしいことになってきた。そういうことにしたのは彼だった。そればかりならまだよいが、彼はよそに料理屋を買い取っていた。ささやかな家ということだったが、彼は相当多額な金を引き出したらしかった。もとより、封鎖預金からの封鎖支払の形式によるものだったが、それが幾口にもなっていた。どうもささやかな小料理屋というだけではなさそうだった。今後とも、彼がどんなことを仕出来すか分らない不安があった。結婚の話などは笑うだけだし、今後の方針なども笑うだけだった。そういう彼について、房江はひどく気を揉んだが、どうにもならなかった。――そしてまた房江は、吉村とのことを彼に知られるのを、最も恐れていた。それはなんだか彼女の致命傷になりそうだった。最後の思い出に、吉村と一晩ゆっくり逢いたい、そしてもう後はさっぱりしたい、そういう約束だったのであるが……。
「今後とも力になって下さるわね。」と彼女は足先に眼を落しながら言った。
 ぽつりぽつりと、そのような語をしながら、二人はゆっくり足を運んだ。
 大きな椎の木が、道の上まで覆い被さっていた。椎の花のむせ返るような匂いが濃く漂っていた。吉村はハンカチで顔を拭きながら呟いた。
「椎の花、五月の匂いですね。」
「え、五月の匂い……。」
 房江はその言葉を繰り返して、椎の茂みの方を仰ぎ見たが、その瞬間、眩暈に襲われたかのように、よろけかかって吉村へ縋りつき、彼の胸に顔を伏せてしまった。

 高石老人と井野老人とが波多野邸で落ち合うことになった時、文化研究所の移転問題が公然と議せられた。未亡人房江は脳貧血の気味で寝ていたが、自分の代りに、魚住千枝子を席に侍らして、秘蔵のコーヒーとウイスキーを出させた。研究所に来ていた佐竹哲夫も呼ばれた。それから房江の発意で、吉村篤史も電話で呼び寄せられた。
 波多野洋介もそこに出席しなければならなかった。ところが彼は、井野老人と碁をうちはじめて、殆んど意見らしいものを述べなかった。
「高石さんのお宅へ移した方がいいと思いますね。」
 そもそもの初めから彼はそう言うだけで、而もそれが理由づけなしに決定的な響きを持っていた。高石老人の家には、母屋から廊下続きの別棟になってる恰好な室があった。
 彼の碁の相手になってる井野老人は、まだ髪の毛が濃く、痩身長躯、たいてい和服の着流しで、何よりも囲碁が好きだった。研究所には可なりの蔵書を貸与しているにも関らず、その移転などは問題にしなかった。
「研究所と言っても、たかが、まあ図書室だからな。何処だろうと、結構だよ。」
 全くそれに違いなかった。
 然し、研究所には数十名の優秀な研究員が附随していた。それを考えに入れなければならなかった。佐竹はこのことを取り上げた。
「こちらの事情などは、あまり顧慮しなくても宜しいと思います。研究員たちをどういう風に導いてゆくか、それが本質的な問題でしょう。つまり、今後の運営の方法によって、研究所の性格がはっきりして来ることと思われます。」
 これには、高石老人が最も賛意を表した。然し、それならばどうしたらよいかということについては、一向に無関心だった。そのようなことは先々の問題だった。ただ、研究員を重視することが気に入ったのである。
「まったく、彼等を糾合すれば、社会的な一つの勢力ともなるよ。」
 だから彼は、研究所を自邸に置くことにも不賛成ではなかった。嘗ては惑星的存在として政界に暗躍したことが、その肥満した体躯に、短く刈った半白の髪に、厚がましい顔の皮膚に、隠退してる今でも仄見えていた。そして彼はもう、波多野洋介に将来への期待を失いかけていたのである。
 こうした一座の空気を、吉村は敏感に見て取った。研究所の移転を議する立前ではあったが、移転そのものはもう決定してるに等しかった。吉村は黙ってウイスキーを飲んだ。
 研究所員の個人個人のことが噂に上った。だが高石老人は僅かな者しか知らなかった。
「山口を御存じでありましたね。」と佐竹は尋ねた。
「あれは知っている。わしのところへも何度か来た。」と高石老人は答えた。
 その山口専次郎について、佐竹はおかしな話を伝えた。――数日前、山口は日本橋裏の或る酒場に行ったらしい。すると、ビール一杯も飲まないうちに、そこにいた四五名の酔っ払った無頼漢に取り囲まれて、喧嘩をふきかけられたが、彼はそれを巧みにあやなして、外に出たらしい。その酒場がどうやら、波多野洋介が経営してる店らしい。あのような無政府状態の店は、改良する必要がある……。
 ただそれだけの、甚だ曖昧なそして簡単な話だったが、なにか割り切れない不純なものが感ぜられた。
 高石老人は眉をひそめた。素知らぬ顔で碁に耽ってる洋介に呼びかけて、こういう噂があるがと、佐竹の話をはじめた。
 洋介はそれを中途で遮って、ぼんやりした微笑を浮べて言った。
「あの時は僕もそこにいましたよ。よく知っています。」
「うむ、そこで、真相はどうなんだ。」
 洋介はまた微笑した。
「もっとも、僕も少し酔っていました。山口は、たしかに、ビール一本飲みました。それでもう、金が無くなったかして、出て行ったようです。ばかばかしい話ですよ。第一あの店は僕がやってるのではなく、僕はただ客の一人にすぎません。」
 そして彼はまた碁盤の方に向いた。
 相手の井野老人は高い声で笑った。
「つまらん話だね。だが、そこにはいつでもビールがあるのかね。それなら、僕もこんど案内して貰おう。」
「ええ、いつでも御案内しますよ。」
 ところで、実は、そのつまらぬ一件が起った時、私もそこに居合していたのである。――洋介も一緒に、私達は奥の小部屋で焼酎を飲んでいた。そこへ、山口が一人ではいって来て、土間の方の卓につき、ビールを註文した。大田梧郎がビール瓶と小皿物を出した。山口は視線を静かにあちこちへ移して、なにか探索してるようだった。ビールを一本飲んでしまうと、煙草をふかしながら、通りかかった大田に声をかけた。
「おい、ビールをもう一本くれ。」
 卓上に帽子を置き、身を反らして、天井に煙草の煙を吐いた。
 誂らえの品は手間取った。山口は叫んだ。
「おい、ビールだ。」
 その時、洋介が立ち上って土間の方へおりて行った。なにかただならぬ様子なので、私も後に続いた。
 洋介は真直に山口の方へ行き、卓上の帽子をぱっと払い落した。山口が先ず帽子を拾って、それを片手につっ立ったのへ、洋介は浴びせた。
「一本でたくさんだ。出て行きたまえ。」
 彼は左手を伸ばして、山口の上衣の襟を掴んでいた。そして右手を腰の後ろにやっていた。その右手に、瀬戸の重い灰皿を握りしめていた。私はその手首を捉えた。灰皿はすぐ彼の手を離れて私の手に移った。その時には、山口はもう数歩押しやられていた。そして山口はちょっとよろめき、表へ出て行った。
 洋介は元の席へ戻ってきたが、眉をしかめて黙っていた。大田が出て来て、殆んど[#「殆んど」は底本では「殆んで」]無表情の顔で言った。
「ビール一本、損しちゃいましたよ。」
 洋介も殆んど無表情で言った。
「あいつ、探偵気取りでいやがる。」
 それだけのことであった。然し、そのことは、洋介の隠れた一面を私達に啓示してくれたのである。
 その時のことを、もう洋介は忘れてしまったかのように、ぼんやり微笑んでいた。
 高石老人は詮索しなかった。
「それでは喧嘩にもならん。だが、君もあまり飲んでばかりいないで、研究所の方にも身を入れるんだな。」
 彼に反して、研究所の事務員として真剣に働きたいと言っている者があるのを、高石老人は打ち明けた。――魚住千枝子のことだった。今迄はただ、室の掃除や図書の整頓だけをしていたが、今後は、ほんとの事務員として働きたい。カードの整理をし、まだ備えつけてない必要図書の調査をし、研究員の希望事項を訊し、その他出来るだけのことをしたい。研究所がもし高石邸へ移転するようなら、毎日そちらへ出勤したい。その代り、すっかり事務員になりきるために金額の多少を問わず、手当を支給して貰いたい……。
 この最後のことを、高石老人は賞讃した。
「多少に拘らず手当を貰って、事務員として責任を持ちたいというのが、わしの気に入ったよ。無給でもよろしいというところを、千枝子さんはそうでない。あのひとならりっぱに仕事をしてくれそうだ。」
 何事にも一個の見解を提出する癖のある佐竹は、皮肉な調子で言った。
「手当の金など必要でない者が、手当をほしいと言いますよ。そしてほんとに必要な者は、ほしくないような顔をしますね。」
「然しこの場合は少し違いますね。」と吉村が言った。「手当を貰うことによって責任の自覚を自分に強いるという、心構えの問題でしょう。」
 そして二人の間に、近代人の逆表現と自意識とが、暫く話題となった。
 その時、当の千枝子がはいって来た。話が途切れて、人々の眼がちらと彼女に注がれ、瞬間にまた外らされた。彼女はそれを感じてか、頬から血の気が引いて透明になった。がすぐに、その頬を赤らめて、彼女は洋介のところへ行った。
「あの……小母さまが、呼んでいらっしゃいます。」
 洋介は碁盤から眼を挙げて、彼女を見つめた。なにかふしぎなものをでも見るようで、そして少し長すぎた。それから答えた。
「ええ、すぐ行きます。」
 高石老人は、ウイスキーのグラスを取り上げて、千枝子に言った。
「今あんたを、研究所の事務員として披露してたところだ。」
 千枝子はもう平然として静かな笑みを顔に浮かべた。
 洋介は黙って出て行った。
 房江は寝間着の上に丹前をひっかけて、寝床のそばに引きよせた机にもたれていた。洋介がはいってゆくと、そのはれぼったいような瞼を静かに持ち上げた。睫毛が白っぽい感じに見えた。
「いかがですか。」と洋介は言った。「横になっていらっしゃらなければいけませんよ。」
「いえ、もう殆んど宜しいんですけれど……。」
 彼女は何か考えてるようだった。洋介は待った。
 房江は遠慮ぶかそうに話した。――皆さんに食事を出すつもりでいるが、ごくつまらないものしか出来そうにない。急なことだし、いつも世話になってる野崎さんに頼むわけにもゆかない。千枝子と二人であれこれ相談していると、千枝子がふいに言い出した。自分にたくさん月給をくれるのなら、うまい御馳走を作ってあげるのだが、どうせお粗末な月給だろうから、お粗末なものでよかろうと、笑っている。それで房江はびっくりした。事務員として真面目に研究所の仕事をすることになったとは、聞いていたが、月給のことは、まだ聞いていなかった。而も、千枝子の方から高石さんに頼んだとのこと。そうなってくると、これは家の体面にかかわる。家族同様にしている千枝子が、僅かのことに月給を請求するなどとは波多野家の恥ではあるまいか。それが事実かどうか、高石さんに確かめてほしいし、事実なら取り消して貰いたい。千枝子はただ、心配なことはないとばかり言って、さっぱり要領を得ないとのことだった。
 洋介はその話に興味なさそうに言った。
「それはもうきまってることですよ。そして家の恥でもなんでもないことですよ。」
「わたしには分りません。」と房江は彼の象を見つめた。
 洋介は暫く黙っていたが、突然激しい調子で言った。――それでは、家の生活はいったいどうしているのか。地所を売った封鎖の金を内密に現金に代えたり、野崎さんに物乞いをしたり、謂わば寄生虫みたいな生活ではないか。千枝子が月給を求めたのは、労力に対する正当な報酬を要求したにすぎない。彼女はただ月給そのものを手に入れてみたかったのであろう。それを、吉村さんや佐竹は、近代人の心理問題だとして議論しているが、ばかばかしいことだ。
「あんな人たちには、食事を出すとしても、握り飯だけでたくさんです。」
 いつにない洋介のきっぱりした言葉に、房江は呆気に取られた。それにまた、終りの方の事柄は、彼女がそこに居合せなかった故ばかりでなく、よく腑に落ちなかった。彼女は机に肱をついた掌に額をもたせた。
「いつも家の体面のことばかり考えるのは、お母さんの悪い癖ですよ。これから、ただ人間としての体面だけを考えるようにしましょう。」
 房江は眩暈をでも覚ゆるように、両の掌で額を覆った。
 洋介は涙ぐんでいた。その涙が溢れかかると、ハンカチで眼を拭いた。
 それきり、二人とも長く黙っていた。やがて、二人の眼が合った時、洋介の顔にはなにか靄でもかかったような工合だったし、房江の顔には神経がこまかく震えていた。

 それから数日後、波多野邸から高石邸へ、文化研究所は移転した。個人の図書室というほどのものにすぎなかったが、それでも書物や器具など、トラックで運んで終日かかった。
 数名の研究所員が手伝いに来た。その中に交って働いてる魚住千枝子は、ひどく楽しそうでまた快活だった。動作も言葉もきびきびしていた。房江も時々姿を見せたが、淋しそうに眼を伏せて黙りがちだった。
 その晩、一同を犒うために簡単な酒食の用意が出来ていたが、当然その席に列なる筈の波多野洋介は見えなかった。それから井野格三郎老人も見えなかった。ただ高石庸明老人の頑健な風貌が、上席から一同を威圧していた。
 その頃、洋介と井野老人とは、酒場「五郎」でビールを飲んでいた。
 井野老人は珍らしく、古ぼけた背広を着ていた。少し頬骨が秀でて見えるくらいに痩せてる細長い顔に、凹んだ小さな眼が、近視と老視と張り合せの強度な眼鏡の奥から、子供らしい無邪気さで光っていた。
「一杯のコーヒーが飲めれば世界がひっくり返っても構わんと、不敵なこと言った男がいたが、私は、一杯のビールが飲めれば世界がひっくり返っても構わんと、敢て言うよ。」
 それでも彼は二三度研究所の方へ顔を出さないでもよいだろうかと、心配そうに洋介に尋ねた。電話をかけておいたから懸念はいらないと、洋介はその度に答えた。
「なるほど、電話があるんだな。表の店……いや、ここから言うと裏の店に、電話があるんだな。」
 その薄暗い小さな酒場に電話の便宜があることが、井野老人の注意を惹いたらしかった。
 酒場の土間の方には、棕櫚竹の鉢植が幾つも並んでいたが、それも井野老人の注意を惹いたらしかった。
「棕櫚竹がたくさん並んでいるが、なぜ棕櫚竹ばかりなんだ。」
 それには洋介は答えが出来なかった。だが答えはいらなかった。
「いや、なかなか宜しい。」
 二人は小部屋の方に坐りこんで飲んだ。洋介の飲み仲間が三人ほど一緒だったが、井野老人は前々からの知り合いのように遠慮なく振舞った。
 大田梧郎が幾度も、ビール瓶を新たに持って来て、空いてるのをさげていった。
「やあ、御主人か、度々どうも恐縮だな。然し、こんなに飲んでも構わんのかな。」
 大田は無表情に頷いた。
「いや、ますます宜しい。ここでは、たとい私が蟹であっても、自分で自分の手をもぎ落さないで済みそうだ。」
「蟹というのは、何のことですか。」と、洋介は尋ねた。
「弁慶蟹……あの赤い小さなやつ、知っているね。」
 井野老人はさもおかしそうに首を縮めた。――あの弁慶蟹は実にばかな奴だ。あれをつかまえて、さんざん怒らせて、火のついたマッチの棒を手にはさませるのである。蟹は怒って、マッチの棒を力一杯にはさんでいる。そのうちに、棒はだんだん燃えつきてゆき、手元まで燃えて、手が熱くなる。蟹は驚いて、目玉をつき立て手をうち振るが、やはりマッチをはさんでいる。手の鋏を開いてマッチの棒を捨てることを知らない。手があまり熱くなると、蟹は手を根本からぽろりと落して、逃げてゆく。もっとも、手はまた生えてくるものらしいが、それにしても、手を落してゆくくらいなら、初めから、鋏を開いて、マッチの棒だけを捨てればよさそうなものだ。
「子供の時、私はそんなことをしてさんざん遊んだものだよ。」
 一同はその話の続きを待った。井野老人はやがて言った。
「マッチの火は吾々の慾望だよ。吾々はそれを捨てることを知らずに、いつまでもじっと握ってるものだから、遂には、手か足か何か大事なものまで、捨ててしまわなければならないことになる。ところで、私にとっては、そのマッチはビールだ。世界がひっくり返っても飲みたい。その私に、ここでは十分に飲ましてくれる。つまり、手か足か何か大事なものを、ここにいる限りは、自分でもぎ捨てるようなことにならないで済むというわけだ。」
 一同は笑った。愉快になった。そして井野老人の蟹のため、盛んにビールを飲んだ。井野老人はますます楽しそうに酔っていった。
 洋介はいつもの通り、あまり口を利かず、ぼんやり微笑んでいた。ところが、突然、痛いほど私の腕を掴んで、囁くように言った。
「井野さんの蟹のマッチは、あれはこじつけだ。真意は、日本の社会を諷刺[#「諷刺」は底本では「諷剌」]してるのかも知れない。皆がそれぞれつまらないものにしがみついていて、それこそ手か足か何か大事なものを自分でもぎ落さなければならなくなるまで、それを放そうとしない。そうじゃないか。僕の周囲もだいたいそうだ。僕は帰国してきてからへんに息苦しかった。理由はそこにある。もっと自由にならなくちゃいけない。僕はうすうすそのことに気付いて、それとなく闘ってきたが、これからは公然と闘ってやる。」
 彼はひどく腹を立ててるようだった。私の腕を掴んでる力をますます強めた。その顔はなにか皮が一杯むけたかのように鮮かな血の気がさし、眼はぎらぎら光っていた。
「表の店の家賃は現金で払って貰う約束だ。ここの利益も、僕に歩合ではいってくる。生活の不安もなさそうだ。」
 彼はいきなりそんなことを私に打ち明けて、私の顔をじっと眺めた。もし少しでも不賛成か軽蔑かの色を見せたら殴られるかも知れないことを、私は感じた。それと共に、別種の訳の分らない恐怖をも私は感じた。
 彼は私の顔から眼を転じて、大田の姿を捜し求め、指でなにか相図をした。大田は立ち上って、焼酎の瓶を持って来た。洋介は焼酎をビールのコップについで飲んだ。





底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」未来社
   1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「展望」
   1946(昭和21)年8月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について