手紙

慶応二年十一月 溝淵広之丞あて

坂本龍馬




本文溝渕ニ送りし状の草■御覧の為ニさし出ス(朱筆)

先日入御聴候小弟志願略相認候間、入御覧候。小弟二男ニ生れ成長ニ及まで家兄に従ふ。上国ニ遊びし頃、(ふかく)君恩の(かたじけなき)を拝し海軍ニ志あるを以、官請(かんにこひ)爾来欧心(ママ)刻骨、其術を事実ニ試とせり。独奈(ひとりいかん)せん、才(おろそか)ニ識浅く加之(しかのみならず)、単身孤(四字消)剣、窮困資材ニ(とぼしき)故に成功(すみやか)ならず、然に略海軍の起歩をなす。是老兄の知所なり。数年間東西に奔走し、屡※(二の字点、1-2-22)故人に遇て路人の如くす。人誰か父母の国を思ハざらんや。然ニ忍で之を顧ざるハ、情の為に道に(もと)り宿志の蹉躓(さち)を恐るゝなり。志願果して(ならずん)バ、復何為(なんのため)にか君顔を拝せん。是小弟長く浪遊して仕禄を求めず、半生労苦辞せざる所、老兄ハ小弟を愛するもの故、大略を(のぶ)。御察可下候。
十一月
頓首。
坂本龍馬





底本:「龍馬の手紙」宮地佐一郎、講談社学術文庫、講談社
   2003(平成15)年12月10日第1刷発行
   2008(平成20)年9月19日第7刷発行
※底本手紙の写真のキャプションに、(土佐山内家宝物資料館蔵)とあります。
※丸括弧付きの語句は、底本編集時に付け加えられたものです。
※「■」は塗りつぶされた箇所です。
※直筆の手紙の折り返しに合わせた改行は、省いて入力しました。
入力:Yanajin33
校正:Hanren
2010年7月28日作成
2011年6月17日修正
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