幸福

加藤一夫




ほんの僅かな時でよい
生活のわずらいから脱れ
静な時をもつ事は――
おお 何と云う仕合せだろう

昨日 私は 書斎で
たった一人ッきりの私の世界で
海を越えた遠い国の 心の友の著書を読み
今日もまた 別の友のを読んだが

私は私のこころにふれ
私の一番懐しい私を
彼処に
そして 一人はもう此の世を去った過ぎし日に
時と処とを越えて見出した

ああ その歓び その深い歓び
永遠の自分を感じた霊の潤い
これこそ まことの私の幸福
それにしてもそれにしても
その僅な時をすら与えられないとは

友よ 取ろうではないか
この最もハンブルな 無形な幸福を――いやその幸福を 邪魔する間垣を破ろうではないか
永遠の人類のために――さあ
そのために此の身を捨てても進もうではないか
我等のつとめを果すために
(発表誌不詳 『社会派アンソロジー集成』別巻を底本)





底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「社会派アンソロジー集成 別巻」戦旗復刻版刊行会
   1984(昭和59)年5月
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年12月12日作成
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