狂言の買冠

三遊亭円朝




「へい今日こんにちは、八百屋やほやでござい。「ナニ八百屋やほやか、けふはさかなやが惣菜そうさいをおいてつたからまづいゝね。「是非ぜひさうでもございませうが、八百やほ半兵衛はんべゑが、狂言きやうげんしろ物を沢山たくさんもつてましたから、なんぞ買つてくださいナ。「ナニ八百やほ半兵衛はんべゑ狂言きやうげんしろものだ、そいつはありがたい、買ひませう/\、なにがありますね。「エヽ猿若座さるわかざ開業式かいげふしきでことふきのとう、二十四かうたけ山門さんもん五三のきぼしり、うすゆきの三にんわらび、たい十の皐月さつき政右衛門まさゑもんのたゝみいわし、なぞトふところでございます。「成程なるほど、イヤかんしん/\。「みなひませう、そこへおかつし/\。「ありがたうございます。「シテあとはなんだね。「へい、あとはちとしぶいものでございます。「ナニしぶいものとはなんだね。「へい、成田屋なりたやのこんくわゐでござります。「ナニこんくわゐはありがてえ、シテしたのはなんだね。「へいしたのはいもせやま橘姫たちばなひめで、きぬかつぎといふいもでございます。「なるほど、いもくわゐもおいてゆかつし、其外そのほかなにかまだ長いものが見えるぢやアねえか。「へい、あれは助高すけたかやもので、おほたばの若菜わかなひめでございます。「なるほど、わかなひめけつこう、こゝへさつし。「へいこれでござります。「イヤこれは助高屋すけたかやものできれいごとだと思つたら、ごみとかれで、梅幸おとはや世話物せわものでつかひさうだ。「へい、そのかはりにごくやすうございますア。「イヤ/\安くつても感心しねえ。「そこが狂言きやうげんで。「はてね、これ狂言きやうげんとはね。「されば安菜やすなだからくずの葉もあります。





底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
   2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
   1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年6月19日作成
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