としよりのお祖父さんと孫

ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm

金田鬼一訳




 むかし昔、あるところに石みたようにとしをとったおじいさんがありました。おじいさんは、目はかすんでしまい、耳はつんぼになって、ひざは、ぶるぶるふるえていました。おじいさんは、食卓おぜんにすわっても、さじをしっかりもっていられないで、スープを食卓布テーブルかけの上にこぼしますし、いちど口に入れたものも、ぎゃくもどりして流れでるようなありさまでした。
 おじいさんのむすこと、むすこのおかみさんは、それを見ると、胸がわるくなりました。そんなわけで、おおどしよりのお祖父じいさんは、とうとう、ストーブのうしろのすみっこへすわらされることになりましたし、むすこ夫婦は、おじいさんの食べるものを、素焼すやきのせともののお皿へりきりにして、おまけに、おなかいっぱいたべさせることもしませんでした。おじいさんはふさぎこんで、おぜんのほうをながめました、おじいさんの目は、うるみました。
 あるときのこと、おじいさんのぶるぶるふるえている手は、お皿をしっかりもってることができず、お皿はゆかへ落ちて、こなみじんにこわれました。わかいおかみさんは、こごとを言いましたが、おじいさんはなんにも言わずに、ためいきをつくばかりでした。
 おかみさんは、銅貨二つ三つで、おじいさんに木の皿を買ってやって、それからは、おじいさんはそのお皿で食べることにきめられました。
 三人がこんなふうにじんどっているとき、四歳よっつになる孫は、ゆかの上で、しきりに小さな板きれをあつめています。
「なにをしているの?」と、おとうさんが、きいてみました。
「お木鉢きばちをこしらえてるの」と、男の子が返事をしました、「ぼうやが大きくなったら、このお木鉢でおとうちゃんとおかあちゃんに食べさせたげる」
 これを聞くと、夫婦は、ちょっとのあいだ顔を見あわせていましたが、とうとう泣きだしました。そして、すぐ、としよりのお祖父じいさんを食卓へつれてきて、それからは、しょっちゅういっしょにたべさせ、おじいさんがちっとぐらい何かこぼしても、なんとも言いませんでした。





底本:「完訳 グリム童話集(二)〔全五冊〕」岩波文庫、岩波書店
   1979(昭和54)年8月16日改版第1刷発行
   1989(平成元)年5月16日第15刷発行
※表題は底本では、「としよりのお祖父じいさんと孫〈KHM 78〉」となっています。
入力:かな とよみ
校正:noriko saito
2021年4月27日作成
2022年3月6日修正
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