西部フリースランド(オランダ)にあるフラネッケルという名まえの小都会で、
五歳か
六歳ぐらいの女の子と男の子、まあそういったような
齢のいかない子どもたちが遊んでいました。
やがて、子どもたちは
役わりをきめて、
一人の男の子に、おまえは牛や
豚をつぶす人だよと言い、もう一人の男の子には、おまえはお料理番だよと言い、またもう一人の男の子には、おまえは豚だよと言いました。それから、女の子にも役をこしらえて、一人は女のお料理番になり、もう一人はお料理番の下ばたらきの女になることにしました。この下ばたらきの女は、
腸づめをこしらえる
用意として、豚の
血を小さい
容器に
受ける
役目なのです。
役割がすっかりきまると、豚をつぶす人は、豚になるはずの男の子へつかみかかって、ねじたおし、
小刀でその子の
咽喉を切りひらき、それから、お料理番の下ばたらきの女は、じぶんの小さないれもので、その血をうけました。
そこへ、
市の
議員がはからずとおりかかって、このむごたらしいようすが目にはいったので、すぐさまその豚をつぶす人をひったてて、市長さんの家へつれて行きました。市長さんは、さっそく議員をのこらず集めました。
議員さんがたは、この
事件をいっしょけんめいに相談しましたが、さて、男の子をどう
処置していいか、
見当がつきません。これが、ほんの子どもごころでやったことであるのは、わかりきっていたからです。ところが、議員さんのなかに
賢い老人が一人あって、それなら、
裁判長が、
片手にみごとな赤いりんごを、片手にライン地方で通用する一グルデン銀貨をつかんで、子どもを呼びよせて、両手を子どものほうへ
一度につきだしてみせるがよい。もし、子どもが、りんごを取れば、
無罪にしてやるし、銀貨のほうを取ったら、
死刑にするがよいと、うまいちえをだしました。
そのとおりにすることになりました。すると、子どもは、笑いながら
林檎をつかみました。それで、子どもは、なんにも
罰をうけないですみました。
あるとき、おとうさんが豚を
屠殺すところを、その子どもたちが見ました。やがて、おひるすぎになって、子どもたちが
遊戯をしたくなると、ひとりが、もうひとりの小さい子どもに、
「おまえ、豚におなり。ぼくは、ぶたをつぶす人になる」と言って、抜き身の
小刀を手にとるなり、弟の
咽喉を、ぐさりと突きました。
おかあさんは、上のおへやで、赤ちゃんをたらいに入れて、お湯をつかわせていましたが、その子どものけたたましい声をききつけて、すぐかけおりてきました。そして、このできごとを見ると、子どもののどから小刀を抜き取るが早いか、腹たちまぎれに、それを、豚のつぶしてであったもうひとりの子の
心臓へ突きたてたものです。
それから、たらいのなかの子どもはどうしているかと思って、その足でおへやへかけつけてみましたら、赤ちゃんは、そのあいだに、お
湯のなかでおぼれ死んでいました。
これが
原因で、
妻は心配が
嵩じて、やぶれかぶれになり、めしつかいの者たちがいろいろなぐさめてくれるのも耳に入らず、首をくくってしまいました。
夫がはたけからかえってきました。そして、このありさまをのこらず見ると、すっかり
陰気になって、それから
間もなく、この人も死んでしまいました。