わがままな子ども

ヤーコップ、ウィルヘルム・グリム Jacob u. Wilhelm Grimm

金田鬼一訳




 むかし昔、あるところにわがままな子どもがあって、おかあさんのしておくれとおっしゃることを、なんにもしませんでした。それだものですから、神さまがこの子どもに愛想あいそをつかして、子どもを病気にかからせました。お医者さまはどうすることもできず、すこしたって、子どもは小さな寝台ねだいの上で息をひきとってしまいました。
 ところが、子どもがいよいよおはかのなかへうずめられて、その上につちがかけられると、いきなり、かわいいうでがにょっきりと出て、まっすぐに上へのびました。みんなしてその腕をなかへ入れて、その上に新しい土をかけましたが、なんのやくにもたたず、かわいい腕は、なんべんでも、にゅうっと出るのです。
 これをきくと、おかあさんは自分でお墓へ行って、むら[#ルビの「むら」はママ]でその腕をぶたずにはいられませんでした。おかあさんが腕をぶってやりましたら、腕はひとりでになかへひっこんで、これで、子どもはやっと土の下で楽々らくらくとなりました。

註 両親を打つと、死後に墓の中から手がはえるという俗信があります。第十六世紀の代表的職人詩人ハンス・ザックスの寓話詩「子どものしつけのおそろしい話」には、バイエルンのインゴルシタットのある家庭で、男の子を甘やかして育てたためにその子がわがままになって、母親をなぐったことがあり、その子が死ぬとお墓から手が出て、どうしてもひっこまない、そこで、大学の先生がたや坊さんたちの助言で、母親が出かけて行って、その手を笞で十八時間もなぐりつづけ、手が血だらけになったらやっとひっこんだ、という実話がうたわれています。





底本:「完訳 グリム童話集(三)〔全五冊〕」岩波文庫、岩波書店
   1979(昭和54)年9月17日改版第1刷発行
   1989(平成元)年5月16日第13刷発行
※表題は底本では、「一三一 わがままな子ども〈KHM 117〉」となっています。
入力:かな とよみ
校正:noriko saito
2024年11月23日作成
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