「大国主命」

坂口安吾




 どの時代も興味深いが、今が戦争のあとで同時に戦争の前夜のようでもあるから、今に通じている時代に特にひかれるが、実は案外にも、日本の歴史は神話以来一貫して、乱世にまた現代に通じているようです。全然戦争などということにとりあわずに大らかな敗北ぶり無関心ぶり風流ぶりを残している大国主のミコトのようなノンキな大人物は異風(威風と言いたいが)堂々。概して神話や上代は現代のマーケット興亡史に類似していますね。どの時代も今と同じようにコセコセもしているし、無邪気でもない。どの時代を扱うにしても、歴史小説というものは、いつの世もコセコセと無邪気ならぬ人間の仕業に明るい夢を織りこんで涼しい風を吹き流したいな。





底本:「坂口安吾全集16」ちくま文庫、筑摩書房
   1991(平成3)年7月24日第1刷発行
底本の親本:「読売新聞 第二六七八三号」
   1951(昭和26)年7月9日発行
初出:「読売新聞 第二六七八三号」
   1951(昭和26)年7月9日発行
入力:持田和踏
校正:ばっちゃん
2022年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード