「現代戯曲全集第十七巻」の跋に代へて
岸田國士
芝居といふものを強ひて大勢に見せるものだと考へる必要はない。
或ることを云ふために芝居を書くのではない。芝居を書くために或ることを云ふのだ。
所謂「劇的」でない劇があつてもいゝ。所謂「小説的」でない小説があるやうに。
音楽を聴きに行くやうに芝居を観に行く人々――さういふ人々のために戯曲を書きたい。
芝居を観に行くのがいやになつたぐらゐで、芝居を書くことを止めはしない。
芝居を書くといふことのうちには、芝居を観る楽みも大方含まれてゐる。今日の舞台は――劇場は、俳優は――「昨日の戯曲」の為めに作られたものだ、と思つてゐてもいゝではないか。
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