ぼろぼろな駝鳥

高村光太郎




何が面白おもしろくて駝鳥だちょううのだ。
動物園の四つぼ半のぬかるみの中では、
あしが大また過ぎるゃないか。
くびがあんまり長過ぎるゃないか。
雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるゃないか。
腹がへるからかたパンも喰ふくううが、
駝鳥だちょうの眼は遠くばかり見てゃないか。
身も世もない様に燃えてゃないか。
瑠璃るり色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまゃないか。
あの小さな素朴そぼくな頭が無辺大の夢でさかまいてゃないか。
これはもう駝鳥だちょうゃないゃないか。
人間よ、
もう止せ、こんな事は。





底本:「近代詩の鑑賞」さ・え・ら書房
   1958(昭和33)年3月20日第1刷発行
   1971(昭和46)年4月10日第2刷発行
入力:倉本理恵
校正:Juki
※底本は新字旧仮名づかいです。なお拗音の小書きは、底本通りです。
※新仮名によると思われるルビの拗音は、小書きしました。
※表題は底本では、「ぼろぼろな駝鳥だちょう」となっています。
2014年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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