十和田湖の裸像に與ふ

高村光太郎




銅とスズとの合金が立つてゐる。
どんな造型が行はれようと
無機質の圖形にはちがひがない。
はらわたや粘液や脂や汗や生きものの
きたならしさはここにない。
すさまじい十和田湖の圓錐空間にはまりこんで
天然四元の平手打をまともにうける
銅とスズとの合金で出來た
女の裸像が二人
影と形のやうに立つてゐる。
いさぎよい非情の金屬が青くさびて
地上に割れてくづれるまで
この原始林の壓力に堪へて
立つなら幾千年でも默つて立つてろ。





底本:「婦人公論 第三十八巻第一号」中央公論社
   1954(昭和29)年1月1日発行
初出:「婦人公論 第三十八巻第一号」中央公論社
   1954(昭和29)年1月1日発行
※婦人公論の巻数表示は昭和23年頃から昭和29年まで乱れが生じているため公立図書館の蔵書検索では修正されています。底本も表紙に「第三十八巻第一号」と印刷されていますが、1954(昭和29)年1月1日発行は通巻441号で、公立図書館の蔵書検索では「第三十九巻第一号」に修正されています。
入力:The Creative CAT
校正:きりんの手紙
2023年2月28日作成
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