小ぐまさん の かんがへちがひ

村山籌子




 ある日小ぐまさんがみちばたであそんでゐますと、おねこさんが通りがゝりました。お猫さんは、ふところから 赤いものをとりだして
「小ぐまさん、これなんだか知つてる?」とききました。小ぐまさんは 一目みて、それがほゝづきだとわかりましたので、
「あら、いゝのね。ひとつでいいから下さいな。」といひました。
「まあ、ひとつ下さいですつて。とてもね、大事なのよ、あげられやしない。」とお猫さんはいひながら、皮をむいて、ほゝづきの実をだしました。それをみると 小ぐまさんは、とても欲しくなりました。そして、自分のうちの畑のすみに、一本 ほゝづきの木があるのを思ひだして、
「ね、いゝでせう? 明日あした、二つにしてかへすから、ひとつだけ下さい。うちにほゝづきの木があるの。」といひました。お猫さんは、
「まあ、二つにしてかへしてくれるのなら一つあげませう。ぢやあ、あした、きつとね。」と指切りをして、ひとつ、くれました。小ぐまさんはうれしくて うれしくて、その晩 一晩、そのほゝづきを手のなかにいれて、ながめたり、着物をきせてお人形さんにしたりしてあそびました。
    ×      ×      ×
 その翌日あくるひ、早く起きて、小ぐまさんは畑にゆきました。そしてお昼ころまで、あつちこつちをさがしましたが、ほゝづきの木の影も形もありません。やつと見付かつたのは、ほゝづきの木によく似た、まるで別の木なのでした。小ぐまさんは、すつかり考へちがひをして、これをほゝづきの木だと思つてゐたのです。小ぐまさんはどんなに心配したことでせう。お猫さんがこれをきいたらどんなにおこるだらうかと思つて、大きい声をだして泣いてをりました。
 小ぐまさんの声があまり大きいので、お隣りのあひるさんがやつてきました。あひるさんは、たづねました。
「どうしたのですか、私にはなして下さい。」
 小ぐまさんは自分の心配を、あひるさんにはなしましたら、あひるさんは小ぐまさんをかわいさうに思つて、わあわあ泣きました。二人の泣き声があまりに大きいので、昨日きのふのお猫さんがやつてきました。小ぐまさんは涙で目がみえないので、お猫さんだとはしらず、自分の心配をすつかりはなしましたら、お猫さんは「かわいさうに、かわいさうに。」と泣きました。その声をきいて小ぐまさんは飛びあがるほどおどろいていひました。
「お猫さん、ほんとにごめんなさい。」お猫さんは、そこでやつと、昨日小ぐまさんにほゝづきをあげたのは自分だといふことに気がつきました。
わたし、すつかり、そんなこと忘れてゐました。」これをきいて、小ぐまさんはお猫さんが、おこつてゐないので、どんなにうれしかつたでせう。三人でおひるのごはんをたべましたが、小ぐまさんはみんなの倍の倍も食べられました。





底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「子供之友」婦人之友社
   1928(昭和3)年7月
初出:「子供之友」婦人之友社
   1928(昭和3)年7月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年8月3日作成
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