お正月が近づいて来たので、お
「お父さん、ここに石けんの広告が出て居ますよ。これを使つたらどうかしら。何しろ、お猫さんは大変なおいたで、ふだんから、お風呂がきらひなので、まるで、どぶねづみみたいによごれてゐますからね。」
「どれ、どれ。
その石けんはラツクスといつて、人間でもめつたには使はない上等の石けんですから、お猫さんの
石けんを買つて来たお母さんは、お猫さんをお風呂に入れました。長いあひだはいらないものですから、
お父さんもお母さんも自分の子ながら、あんまり美しいので、思はず、
ところが、お猫さんのおとなりにお
二人は、いや、二匹はお家をとび出して、町の方へ遊びに出かけました。
「あなたは真白でとてもいいわね。ステキよ。」とお黒さんが言ひました。「あなた真黒で、とてもハイカラよ。」とお猫さんが言ひました。二匹は生れついた色がきらひで、他人のものがよく見えて仕方がありません。人間の子供みたいです。
ところが、町の化粧品やさんで、大売出しをやつてゐました。楽隊がプカプカドンドンと鳴つてゐて、それは面白さうでした。二匹はそこへかけつけて行きました。
化粧品やさんでは、「毛皮の染めかへ」薬を売出してゐました。
「さあ、どなたでも、ためしにお染めかへいたします。売出し中はお金はいたゞきません。さあ、どなたでも。どなたでも。」
お猫さんとお黒さんは胸がドキドキして来ました。「どう? そめてもらはない? たゞだつて」
二匹は顔と顔とを見合はせてモジモジしてゐましたら、化粧品やのおぢさんはすぐに「さあ、染めてあげませう。」と言つて、お猫さんを真黒に、お黒さんを真白に染めかへてくれました。
二人はよろこびました。とてもうれしくて、自慢で、早くお父さんやお母さんに見せようと思つてとんでかへりました。
お猫さんのお父さんお母さんは、お黒さんに言ひました。「お猫さんや。」お黒さんのお父さんやお母さんはお猫さんに「お黒さんや。」と言つて、二匹をとりちがへてしまひました。二匹はおどろいて、わけを話しましたが、どうしてもお父さんやお母さんたちはそれが分りません。二匹はかなしくなつて泣きました。
そこへ近所の犬さんが通りかかつて、
お
それから一月たちました。二匹の毛の色はだん/\染がはげて来て、二匹とも、ねずみ色になつてしまひました。人間からいふと、ねずみ色といふ色も、なか/\よい色ですけれども、猫の世界では、一番いやな色だと思はれてゐます。猫とねずみは一ばん仲がわるいのですからね。
そこで、お猫さんとお黒さんのお父さんやお母さんたちは、二匹を病院にでもつれて行つて、早く毛の色を落してしまひたいと思ひました。けれども、お猫さんも、お黒さんも、なか/\、病院に行くことを承知いたしません。病院といふところは、こわい所だと思ひ込んでゐましたから。
「なぜ、病院へゆくのはいやなの? 早く毛をきれいにしないと、学校へ上れませんよ。」お母さんたちはかうおつしやいました。
「だつて、お昼間、こんななりして外へ出るのはいやだから。」とお猫さんとお黒さんは申しました。病院がこわいなんていふことは言ひません。人間の子供でもさうですが、猫の子供は本当に心配だと思ふことはいはないくせがあります。
そこで、お父さんやお母さんは、夜の病院をさがしました。幸なことに、
お猫さんとお黒さんは、そこへ行くことにきまりました。
「本当は、病院に行くのがいやなの

それから一週間たちました。お薬はせつせせつせと、ぬりましたが相変らず、色はなか/\さめません。少しはさめたのですが、まるで、むらになつてしまつて二匹とも、ます/\みつともなくなつて来ました。
お猫さんとお黒さんは泣きました。もうお
二月号には、お
みんながそれ/″\に泣き出したので、さすがのふくろう先生もどうしたらよいかと、さんざん工夫いたしましたが、どうしても思ふやうにまゐりません。けれども、さすがは、病院の院長さんだけあつて、大決心をして、お父さんやお母さんたちに言ひました。
「さて、お子さんの毛については、いろ/\苦心いたしましたが、これはもう普通のことではよくなりません。手術をするより外ありません。」
お父さんやお母さんたちはおどろいて目をまはしさうになりましたけれども、仕方がないと思つたので、
「どうか、その手術をお願ひいたします。」と、泣きながら言ひました。
ふくろう先生は、別の部屋で、早速その手術をいたしました。十五分位ですみました。
「さあ、手術はすみました。」とふくろう先生がおつしやいましたので、お父さんやお母さんたちは手術室へ走つて行きますと、お猫さんと、お黒さんの毛を一本ものこさず、かみそりで、すりおとしてありました。
お父さんやお母さんたちはどんなにうれしかつたでせう。血なんぞ一滴も出てゐないのですから。
それから、ふくろう先生は二匹に
「涼しいやうな、暖いやうな気持がするわ。」と言ひましたので、みんな大笑しました。
それから、十日程の間に、お猫さんには真白な、お黒さんには真黒の毛が立派に生えそろひました。二匹はふくろう先生にお礼を言つて退院いたしました。
お父さんやお母さんたちもやつと安心いたしましたが、なか/\お父さんやお母さんといふものは心配が多いものですね。
お
その日は丁度、お天気がよくて、暖い日が照つてゐました。お猫さんとお黒さんはお
すると、お隣りのお庭に、それは/\きれいな小さいお
「あら、あんな所にお
「あれは、お隣りの犬のベルさんのお
お猫さんは言ひました。
「そんな事ない。ベルさんなんかに、あんな美しいお
そして、お猫さんは遠慮なくその小さいお
お
「もし、もし、お猫さん、お黒さん、起きて下さい。こゝは
「お猫さん、矢張りこれはベルさんの
お猫さんとお黒さんは後も見ずに走つてお家へ帰りましたけれども、晩のごはんもろくにのどに通りませんでした。矢張りわるい事をしたのだといふことは分つてゐましたからね。
その晩中に、ベルさんのお鼻をひつかいたことが、街中に知れわたつてしまひました。
「お猫さんに引つかかれた時につける
「もうお外へ行つてはいけません。」とお猫さんとお黒さんのお母さんはおつしやいました。
さて、お
「おとなしくお留守をしていらつしやい。今日一日おとなしくしてゐれば、
お猫さんとお黒さんはいたづらつ子でしたけれども仲々学校が好きなものですから、今日はほんとにおとなしくしてゐようと思ひました。
もう一週間も学校を休んでゐるのですからね。
初めのうちは
「とてもよく似合つてゐるわ。」とお猫さんはお黒さんに云ひました。
「とてもよく似合つてゐるわ。」とお黒さんはお猫さんに云ひました。
二人はすつかり大人になつたつもりで部屋中をゐばつて歩きまはりました。
その時、おげんくわんで、「ご免下さい。」といふ声がきこえました。
お猫さんとお黒さんは二匹そろつて、おげんくわんに出て行きました。まるで、お父さんとお母さんのやうに気取つて。
ところが、二匹はお客さまの顔を見ると、
「いらつしやいませ」とも云はず「キヤーツ」と声を出してお部屋へにげてかへりました。
お
お母様がおいしいお夕はんを買つて来て下さつたのですが、それも、食べられません。
お母さんが、
「
「学校なんていや。行きたくない。」と云ひました。が、明日になれば、どうしても学校へ行かなければなりません。
身から出たさびとはいひながら、仲々、つらいことですね。
「今夜はあひるさんのお誕生日ですから、着物をおきかへなさい。お顔も、手も足もきれいに洗ふのですよ。」とお
「はい。」と二匹はお返事しました。そして、顔を洗ひましたが、手と足はめんどくさかつたので洗ひませんでした。
それから二匹はあひるさんところへ行きました。
おごちさうが山ほど出て来ました。
「さあ、ごゑんりよなく、沢山めしあがつて下さい。」とあひるさんが言ひました。
お黒さんとお猫さんは大よろこびで、おいしいおごちさうをいたゞかうとしましたが、何分、おめでたい日なので、電燈は三百

やがて、主人のあひるさんが立ち上つて言ひました。「皆さん、どうも今夜はわざ/\おいで下さつてありがたう存じました。ところが、さつきから見てゐますと、お猫さんとお黒さんは少しもおごち走をめし上がりません。さあ、どうぞ御遠慮なく。」と申しました。すると、
「さあ、どうぞ、どうぞ。」と言つて、おごち走を二匹の前へ集めました。
二匹は顔を見合はせて泣き出しさうにしました。しかし仕方がありません。
すると一人のお客様が言ひました。
「まあ、お二人のお手のきれいなこと

すると、お客様はみんな一度に笑ひました。あひるさんは主人だけあつて、すぐにかう言ひました。
「なに、大したことはありませんさ。石けんで洗へばきれいになるんですからね。」と、そして二匹を洗面所へつれてつて、手を洗はせて下さいました。帰つて来るとお客様たちは笑ひながら言ひました。
「まあ、お猫さんとお黒さんのお手のきれいになつたこと

二匹は赤い顔をしましたが、それからは大ゐばりで沢山おごち走をいたゞきました。
大へん暑くなりました。なにしろ、お
ところが、すぐ近いところにプールが出来ました。お猫さんがそれを見つけて来ました。
「お黒さん、
途中まで来ると、
「お猫さんとお黒さん、どこへ行くの?
もう少しゆくと、今度は仔豚さんを二十匹つれた豚さんに会ひました。豚さんは、
「お猫さんたち、暑いですね。どこか涼しい所へ一緒に行きませう。」といひました。お猫さんはあわてゝ
「私たちとても暑い所へ行くところなんですから御一緒にまゐれません。」といひました。
それから、にはとりさん、ねずみさんなどにあひましたが、みんなうまいこといつてことはりました。そしてやつとのことでプールへつきました。
水泳の先生のあひるさんが、五六羽、プールの中で、それはそれは上手に泳いでゐましたが、お猫さんとお黒さんの外には、誰一人泳ぎに来てをりません。二匹は泳ぎははじめてですから、とても先生ばかりの中へは、はづかしくてはいつて行けません。
「みんな一緒につれて来るといいのにあなたが勝手にことはつてしまうんだもの。」とお黒さんはブツブツおこりました。「だつて、満員になつたら困ると思つたんだもの。」とお猫さんは言ひかへしました。二匹はフクレツ面をして、顔を見合せましたが、顔といはず、
そこへ、さつきあつた、仔犬さんをつれた犬さん、仔豚さんをつれた豚さん、にはとりさん、ねずみさん、みんなぞろぞろやつて来ました。お猫さんとお黒さんは、どんなに恥しかつたでせう。でも、着物をぬぐ所を教へてあげたり、仔どもたちに水着を着せてあげたりしたので、誰も二匹を悪くは思ひませんでした。
みんなで夕方までおよぎました。それでやつと涼しくなりました。
そろそろ学校の
でも、たうとう八月三十一日になりました。八月三十一日は、学校の始る前の日です。
お猫さんとお黒さんは、本も、帳面も、鉛筆も、洋服も、
二匹はベツトの上にならんで横になつて休みました。そして、二匹は、お互ひの顔をつくづくとながめました。二匹のお顔はまるで、エスキモー犬のやうに毛がのびてゐました。お猫さんはいひました。
「あなたのお顔といつたら、まるでくまそみたいね。毛がもぢやもぢやで。」さういはれたお黒さんはおこつていひました。
「あなたこそくまそみたいぢやないの。」二匹はめいめい自分の顔はみえないものですから、自分の顔はまるで、玉子に目鼻をつけたやうにつる/\と美しいのだと思ひ込んでゐるから大変です。今にも、ひつかき合ひがはじまらんばかりの形勢になつて来ました。お母さんがとんできていひました。さあ、けんかはやめて、床やさんへいらつしやい。そして十銭玉を二つづつ下さいました。
二匹は床やさんへでかけました。途中でも、一言も話をしません。二匹ともカンカンになつておこつてゐたからです。
床やさんに行きますと、床やさんは二匹を見て、あんまりよくはえてゐるので、ゲラゲラ笑ひました。二匹は大変恥しくて、顔が赤くなりさうになりましたが平気な顔をして、
「お二人とも、おそろひの型にお切りしませうね。」と、すると、二匹はいきなり顔を横にふつて、「いやです!」といひました。床やさんの鋏は、その時、ガチヤリと下へそれて、二匹の大事な大事なおひげを、チヨツキンと切り落してしまひました。お猫さんとお黒さんは泣きました。床やさんはあわてました。
そして、切り落したおひげを探しましたが、あひにくなことに、扇風機をかけてゐたので、おひげは風にふきとばされてどこへ落ちたのやら。
月日のたつのは早いもので、お
そこで、遠くの町にゐる
伯母さんは洋服やさんでしたから、二匹が一年に一度づゝ遊びに行つた時に、それはそれは美しい洋服を一着づゝ、二匹に下さることになつてゐました。
二匹は、前の日からそれを楽しみにして、夜があけるとすぐに出かけました。御飯も食べないで。
伯母さんのお
牛乳やさんが通りました。新聞やさんが通りました。おとうふやさんが通りました。それから、お役所や、会社へ行く人が通りました。みんな二匹の方を見て、「おや、おや、迷ひ猫だ。」と言ひました。
お猫さんとお黒さんはそれから二時間もそこにがんばつてゐましたが、段々にお
それから又二時間もたつて、そろそろお昼になるのに、お店の戸があきません。
朝来たおとうふやさんがお昼のおとうふをかついで、歩いて来ました。
そして、二匹を見て云ひました。
「
「伯母さんところへ来たんだけど、お店があくのを待つてるの。」と二人は言ひました。
おとうふやさんは、
「やれやれ
二匹はそれを見て、がつかりしました。それと一緒に、土の上にへたばつてしまひました。お
おとうふやさんはおどろきました。どうしたらよからうかと思ひました。
「仕方がない。こゝへおはいり。」さう言つておとうふやさんは、二匹の首すじをつまんで空いた方のとうふおけへ入れました。
それから、二匹を
「まあ、大変なものに乗つかつて。」と、言つて、お母さんと伯母さんがお
でも、二匹はどうにもなりませんので、ごはんを、おさじでたべさせて、ベツトへねかしました。
まるで、赤ちやんになつたみたいですね。あんまりせつかちだとこんな事になります。
グニヤグニヤになつたお
あひるさんはお猫さんとお黒さんの洋服を見ると、すぐに、お母さんに言ひました。
「お母さん、私にも、あんな洋服買つてちようだい。」
お母さんはお猫さんとお黒さんの洋服を前から
「ほんとに、よく出来たお洋服ね。うちのあひるさんにも、同じ所で買つてやりませう。どこで買つたの? そして、おねだんはいくらなの?」と聞きました。
お猫さんとお黒さんはいひました。
「おばさん、このお洋服は買つたんぢやないの。私たちの伯母さんがこさへて下さつたの。いくらお金を出しても、ほかの人にはこさへては下さらないわ。」
あひるさんはそれをきくと、メチヤクチヤに泣き出しました。
お猫さんとお黒さんはいひました。
「ほんとにしやうのないあひるさんね。ああ、やかましいこと。」
そして、さつさとお
ところが、あひるさんは泣いて泣いて泣き通しました。「あんな洋服がほしい。あんな洋服がほしい。」と、むりもありません。まだ子供なんですから。
そこで、仕方なく、あひるさんのお母さんはお猫さんとお黒さんのお
「どうか、うちのあひるさんにも、同じ洋服をこさへて下さるやうに、おねがひして下さいませんか。ほんとにお
お猫さんたちのお母さんは申しました。
「どうぞ、どうぞ、御遠慮なく。その
あひるさんのお母さんは大へんよろこびました。そして、「早速、注文にまゐります。あひるさんをつれて。」といつて、とんでかへりました。
それをきいてゐたお猫さんとお黒さんは顔を見合はせて、がつかりいたしました。
後で二匹はお母さんに大へん
「あんないぢのわるい事を言ふもんぢやありません。」と。
二匹の顔は
寒い寒い冬になりました。お
そこで、お猫さんのお母さんは、あひるさんのお母さんに手紙を書きました。
「大変おさむくなりまして、皆々様お変りもございませんか。私ども、鳥やけものは、冬になりますと、羽根や、毛がりつぱに生へそろひ、まことに美しくなるやうでございます。お宅のアー太郎さん、ヒー太郎さん、ルー太郎さんも、さぞ、さぞ、美しくおなりのことと思ひます。宅のお猫さんも、お黒さんも、大さう美しくなりました。それで、今晩ぜひとも、アー太郎さん、ヒー太郎さん、ルー太郎さんをおつれになつて、おいて下さいませ。おごちさうをたべながら、子供たちのじまんをいたしたうございます。かしこ。」
この手紙を出してから、お母さんは二匹をお
夜になりました。あひるさんのお母さんは、御自まんのアー太郎、ヒー太郎、ルー太郎さんをみがきたててつれて来ました。
「ガー、ガー、ガー、ガー」とあひるさんたちは大へんな声を出して、元気よく、お猫さんのお
「まあ、まあ、なんて、お立派な」といつて、お猫さんのお母さんがおどろいた程、あひるさんたちはきれいだつたのです。しかし、心の中では、「うちのお猫さんたちの方がもつときれいだ。」と思ひました。
あひるさんたちは、テーブルにすわりました。おごち走が出ました。
ところが、お猫さんとお黒さんはなかなか出て来ません。
「あの、失礼でございますが、お猫さんとお黒さんはどうなさいました。」とあひるさんのお母さんがきゝました。
「お猫さん、お黒さん、早くでて来たまへ。ガー、ガー、ガー、ガー」とあひるさんの子供たちがさわぎ出しました。
お猫さんのお母さんは、おごち走のおこしらへやら、あひるさんたちへの御あいさつやらで、かんじんのお猫さんたちのことはほとんど忘れてしまつてゐたのです。
お母さんは家中、さがしました。けれども二匹は見つかりません。それで、も一度さがしましたら、二匹はおねまきをきて、ベツドにはいつて、グーグーねてしまつて、どうしても起きません。
「どうも、すみませんが、どうしても起きてまゐりません。なにしろ、今日、お風呂に二時間もはいつてたもんですから、つかれてしまつたんでございませう。」とお猫さんのお母さんが申しました。ずゐぶん情なかつたでせう。
ところが、何やら、あたりが静かになつたと思つたら、テーブルについたまま、アー太郎さん、ヒー太郎さん、ルー太郎さん、みんなグーグーねこんでしまひました。
「どうもすみません。なにしろ、今日、お風呂に二時間もはいつてたもんですから。」とあひるさんのお母さんがおつしやいました。
それで、その晩の、「子供自慢会」はお