あるお
或日、お庭をさんぽしてゐると、とつぜん、目のまへの土がムクムクとふくれて、その中から小さい草の芽が 頭をだしました。お猫さんはそんなものを見たのは はじめてでしたから、腰をぬかさんばかりにおどろきましたが、心をしづめて、「こんにちは、もぐらもちさん」といひました。草の芽は大さうおこつて「私、もぐらもちぢやありませんわ。チユーリツプといふ花の芽よ。」
猫は鼻のさきで せせらわらつて、
「土の中から、ムクムク出て来るのは もぐらもちにきまつてゐるさ。」といひました。
「いいえ。私、チユーリツプよ。私の咲かせる花は あなたの首輪とおなじもゝ色だけれど、うつくしいことにかけては もつともつとうつくしいの。」まけぎらひなチユーリツプは、ツンとすましていひました。
お猫さんは、おほわらひしました。
「もゝ色の首輪をしたもぐらもちなんて、ぼくうまれて いちどもみたことないや。」
チユーリツプの芽は、腹がたつてもうがまんができなくなりました。
「ぢや、みていらつしやい、私がもぐらもちぢやなくて、チユーリツプだつてことを、たつたいまここでみせてあげるから。」さういつて、全身に力をいれました。ところが、あんまり力を入れすぎたので、みるみるうちにたいへんな、いきほひでのびました。またたくうちに屋根をこしてお二階のまどのところまで とどきさうになりました。チユーリツプはびつくりしてやつとのことで、ふみとまりました。そして、そこで それはそれは、うつくしいもゝ色の花をさかせました。
ちようどお二階のまどのうちで、あたゝかい日をあびて本をよんでゐた、
本子奥さんは、家ぢうをかけまわつてさがしましたが、二階のまどのとゞくやうな長つたらしいチユーリツプをいけられるやうな花瓶は、みつかりません。皆さんはあるとおもひますか? しかたなくはしごをかけて本子奥さんは屋根に上つて、チユーリツプのあたまだけとつて、小さい花瓶にさしました。
そんなわけで、お猫さんと本子奥さん以外には