ある八百屋さんの店に きうりが山のやうに 積んでありました。その山のてつぺんで 一本の 大きなきうりが ぐうぐう眠つてゐました。初めは 一番下にゐたのですけれども、どんどん仲間を押しのけて、いつの間にかてつぺんによ
そこへ 一匹のきりぎりすが きうりを買ひに来ました。
きりぎりすが、きうりを 大好きな事を 知つてゐる八百屋さんは
「一本四銭よりやすいきうりは 一本もありません。」と倍位も高く 言ひました。
きりぎりすは 困つてしまひました。
「どうか二銭に 負けて下さいませんか。」と たのみました。八百屋さんは
「いーや、どうしても 四銭より 負けられませんわい。」と プリプリして、ことわりました。
それから、きりぎりすと、八百屋の主人は口々に
「どうぞ、負けて下さいませんか。」
「いーや、負けられませんわい。」
「どうぞ、どうぞ、負けて下さいませんか。」
「いーや、いーや負けられませんわい。」
と 言ひ争ひました。
八百屋さんは もともと 大さう気の短い人でしたから、とう/\、かんしやくを起して、いきなり足の先で、
「えいツ この面倒くさいきりぎりすめ!」
と きりぎりすを 力まかせに けつとばしました。けれども、風のやうに 身の軽いきりぎりすは その時
「えいツ」と身をかはしたので、八百屋さんの足は、きうりの山の てつぺんで、気持よささうに さつきから お昼寝してゐたあの横着きうりの 横ツ腹に ドカンとぶつつかりました。
「あ、いたた、いたた、いたた。」びつくりした横着きうりは 目を
きりぎりすは 二つに折れたきうりの 半分をひろつて、八百屋さんに言ひました。
「一本が四銭なら、半分は二銭でせう。ですから、二銭お払ひして、この半分を頂いて参ります。私は生れつき 少ししか食べられませんから、これ
そして、きりぎりすは 八百屋さんに 銅貨を二枚 チンチンとわたして、横着きうりの半分を 買物籠の 中へ入れて、帰つて行きました。
八百屋さんは、腹が立つて わめきたくなりましたけれども、いくら 指を折つてかぞへて見ても、四銭の半分は 二銭ですから、おこるわけには 行きませんでした。仲々りかうな きりぎりすですね。さう思ひませんか?