蛙料理
久生十蘭
むぐらをわけて行くと、むやみに赤蛙がとびだす。ふとフランスで食べた蛙料理を思ひだした。
牛酪焼の蛙の脚をつまんで歯でしごくと、小鳥よりもやはらかでなんともいへぬ香気が口の中にひろがる。
「おい、蛙のソーテは乙だつたな」といふと、並んで歩いてゐた石田が、
「おれもそれを考へてゐたところだ。こいつを忘れてゐたのは醜態だよ。おい、やらう」
「やつてもいゝが、皮を剥ぐのはごめんだ」
「脚首ンとこをむしつて、ぴいつとひつぱがすんだ。手袋をぬぐより楽だ。おれがやる」
三十何匹おさへつけて帰つたが、間もなく石田がソーテにして持つてきた。
なかなかよろしい。が、チトめうだ。
「こんな長い脛の蛙がゐたかなア」
「やや、見あらはされたか。どうも、やりかねてねえ、しやうがないから、隣にたのんで兎を一匹つぶしてもらつたんだ。おかげで八十円がとこ損をした」と頭を掻いた。
底本:「定本 久生十蘭全集 6」国書刊行会
2010(平成22)年3月25日初版第1刷発行
底本の親本:「朝日新聞」朝日新聞大阪本社
1946(昭和21)年10月7日
初出:「朝日新聞」朝日新聞大阪本社
1946(昭和21)年10月7日
入力:かな とよみ
校正:きゅうり
2020年3月28日作成
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