公開書架(Open-shelf-system)につきて

佐野友三郎




 米国にては、議院図書館、州立図書館、大学附属図書館のごとく、その成立状態において、参考図書館の性質を有するものを除き、一般の公共図書館に至りては、多く、図書の館外貸出を主とし、小規模の通俗図書館に至りては、館外貸出のみによるもの少なからず。かくして、十八、九年前、クリーヴランド公共図書館が始めて書架公開の制を実行し、普通閲覧室、参考室、児童室における十万冊の書架を公開して読衆の自由閲覧に委してより、大小の図書館これに倣うもの多く、その今日までの実験によれば、読衆は、これがために図書利用の効果を一層確実に収むることを得、図書館は、管理の困難、出納の手数を減じ、経費節約の好果を収め得たりというに帰着し、しかも、これがために図書館の蒙れる図書紛失のごとき損害に至りては、出納の手続を厳にする他の図書館に比して、毫も多きを加えずという。この書架公開式を採りて開館の当初より大規模に応用し、最も成功したる最大図書館は、二十余万冊を公開するフィラデルフィア無料図書館なりと称せらる。同館長ジョン・トムソン氏かつていわく、余は公開すべき図書の員数に何等の制限なきことを断言するに※(「足へん+寿」、第4水準2-89-30)躇せず。公開書架にして危険(保護の見地より)なりとすれば、フィラデルフィアのごとき大都会にありては、これが危険を感ずべき理なれども、事実は全くこれに反す。………。単に目録のみに頼りて図書を利用せんとする者は公開書架につきて親しく図書自体に接触する者に比すれば三分一の利益をも得ること能わずと。見るべし、書架の公開は、読衆にも、管理者にも、共に至便にして、敢て危険の虞なきこと、単に小規模の図書館においてのみ然るにあらざることを。
 余等は自ら好みて新奇を追う者にあらざれども、山口図書館現在の書庫は全く一時的設備に関り四十年度以降の増加図書を収容するに堪えざるをもって、ここに一時の急を支うる為め、普通閲覧室内に大書函八個を据付け、主として一般に需要ある通俗図書につき、(一)宗教、哲学、教訓類三百十四冊(二)教育二百三十八冊(三)文学、語学三百八十四冊(四)歴史、伝記、地誌、紀行四百十九冊(五)法制、経済二百三十一冊(六)数学、理学、医学三百七十六冊(七)工学、兵事、美術、産業四百二十九冊(八)辞書、事彙百四十九冊、計二千五百四十冊を選択し、別に、将来の増加書のために相当の余地を存し、四十年度以降、読衆のためにこれを公開することとなせり。余等は未だ正確にこれが利害を報告すべき時機に達せざれども、研究を目的とする読者はしばらく措き、少なくとも、館外帯出者のごときは、必ずしも目録について検索するを要せず、借受前、親しく図書の内容を点検するの便あるべく、図書紛失のごときは、断じて無かるべきことを確信す。
附記  小学校附設図書館の創立に際し、特に書庫を新設する場合は論外なれども、校舎の一部を使用してなるべく簡易に事を弁ぜんとならば、二十坪の普通教室([#ここから横組み]4×5[#ここで横組み終わり])を使用するものとして、その三面に三間宛六段の書架を取付くるにおいては、平均厚さ一寸の図書三千二百四十冊([#ここから横組み]3×3×6×6×10[#ここで横組み終わり])を収むるに堪うべく、中央には十数人の閲覧席を設けて外来の閲覧者を迎うるに足るべく、校内の児童には各自教室内にて閲覧せしむるも、図書を自宅に携帯せしむるも、管理者の随意なるべし。





底本:「個人別図書館論選集 佐野友三郎」日本図書館協会
   1981(昭和56)年9月7日第1刷発行
初出:「山口県立山口図書館報告 第八」
   1907(明治40)年5月
入力:鈴木厚司
校正:小林繁雄
2007年12月28日作成
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