それは、ほんとうかどうか知らない。だが、小石をまとめた筒の巣のなかに棲んでいる川虫を、石筒のまま岩魚が呑み込んでしまうのは事実である。虫を消化すると、石は自然に排泄されてしまう。
山の漁師は、増水に備えるため岩魚は石を呑んでからだを重くし、水に押し流されない用心だと、言うが、それは台風がきたとき思い合わせた結果論ではないだろうか。それはとにかく、岩魚は悪食だ。共食いもやる。水を渡る
だから、親鱒は次第に痩せていった。ところで、ただ痩せるばかりでなく、池の鱒は一日ごとに数が減っていくのだ。池の水口には厳重な金網が張ってあるし、畔には跳ね返りをめぐらしてある。決して逃げられるはずがない。だのに、鱒の数は減っていくのだ。
雇人は不思議に思って、ある朝池を覗いたところ驚くべし、一尾の親鱒は自分より少し小さいくらいの親鱒を頭から呑み込み、その胴までを口にして、池の中を泳ぎまわっているのを見たのである。鱒は小さい形のものから、次第次第に大きい形のものの餌になっていたのである。
私は、その頃ちょうど六里ヶ原へ山女魚釣りの旅をしていたので、この話をきいたから、朝早く一匡邑の傍らを通るたびに、その池を覗いたのである。私もついに、大きな鱒が口も
鱒科の魚は、腹が空になれば何でも食う。