さきに『ホトトギス』五百号を記念するために改造社から『五百句』という書物を出した。これは私が俳句を作りはじめた明治二十四、五年
私は本年
昭和十八年五月十九日
鎌倉草庵にて
高浜虚子
註 改造社発行拙著『五百句』の百六十一頁「天の川」の句は取消す。
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一月二日 武蔵大沢浄光寺。旭川 歓迎会。
枯れ果てしものの中なる
一月四日 百花園偶会。水竹居、あふひ、花蓑、実花。
物売も
一月五日 武蔵野探勝会。目黒不動、大国家。
一月八日 謡俳句会。百花園。
渋引きしごと
一月十八日 谷中 本行寺 。播磨屋 一門、水竹居、たけし、立子、秀好。
二月十六日 楠窓 東道の下に、章子を伴ひ渡仏の途に上る。午後三時横浜解纜 箱根丸にて。
我心春潮にありいざ行かむ
二月十九日 神戸碇泊 。花隈、吟松亭、関西同人句会に列席。
二月二十一日 朝、門司著。萍子 招宴、三宜楼。
二月二十六日 箱根丸船中。
春潮や窓一杯のローリング
二月二十九日 朝、香港 出帆。
顔しかめ居る
裸なる印度ますらを
晩涼や
三月四日 新嘉坡 著。石田敬二、東森たつを来訪。次で三井物産支店長松本季三志夫妻、三菱商事支店長山口勝、宮地秀雄等来船。敬二東道の下に章子を帯同、一路自動車にて奥田彩坡 経営の士乃 の護謨 園を訪ふ。横光利一 同道。帰途タンジヨン・カトンの玉川ガーデン、敬二居等に立寄り、今日の吟行地植物園に下車。それより空葉居に一憩、新喜楽にて晩餐 。俳句会。
稲妻のするスマトラを
三月五日 新嘉坡碇泊。日本人共同墓地に二葉亭四迷 の墓を弔ふ。敬二、楠窓同道。章子は途中空葉居に下車。帰途敬二居に立寄り帰船。正午出帆。
稲田あり
三月六日 彼南 著、上陸。
月も無く沙漠暮れ行く
三月二十一日 午後三時、蘇士 入港。陸路カイロに到りメトロポリタン・ホテル一泊。
宝石の大塊のごと春の雲
四月十九日 箱根丸にて楠窓、友次郎と協議の末、米国経由帰朝のことを断念。午後、松岡夫妻、楠窓、町田一等機関士、章子、友次郎等とサンフリート村に花畑見物。
舟橋を渡れば
両岸の梨花にラインの渡し舟
梨花村の直ぐ上にあり雪の山
四月二十一日 ライン河。
木々の芽や
四月二十一日 シユロツス・ホテル、バルコニーよりハイデルベルヒの町を望む。
四月二十二日 午後一時五分発、車中雑詠選に没頭。夜、伯林 著。三菱商事藤室益三夫妻に迎へられ大和旅館に入る。沿道触目。
四月二十四日 藤室夫人東道、日本人の学校参観、講演。「あけぼの」にて昼食。それよりオリムピツク敷地一見。カー・デー・ベー百貨店に立寄り帰宿。大毎社員加藤三之雄来訪。夜、三菱商事支店長渡辺寿郎邸にて晩餐会。井上代理大使夫妻、孫田日本学会主事、藤室夫妻等と小句会。
春風や柱像屋根を
四月二十六日 渡辺夫人、藤室夫妻東道、ポツダムに赴く。恰 も日曜日。ポツダム宮殿。
四月二十六日 更に桜の名所ヴエルダーに車を駆る。藤室夫人携ふるところの日本弁当を食ふ。群衆怪しみ見る。
国境の駅の両替
四月二十七日 藤室夫妻と再び日本人学校に赴き、日本人会にて昼食。午後一時五十分伊藤夫妻、迪子、バーミング、ビユルガ姉妹、京極、篠原、高田、寺井、昌谷、世良、仙石に送られツオ駅発、独蘭国境に向ふ。
四月二十八日 朝七時前ハーウツチ港著。それより汽車にてリバプール・スツリート・ステーシヨン著。上ノ畑楠窓、八田一朗、松本覚人、槙原覚、河西満薫、有吉 義弥、高橋長春、常盤の主人岩崎盛太郎の出迎を受く。それより覚人君嚮導 の下に楠窓、一朗両君と倫敦市中一見、デンマーク街の常盤本店にて休息。タフネルパークロードの常盤別館に入る。駒井権之助、朝日新聞社古垣鉄郎氏来訪。晩餐を待つ間小句会。
名を書くや春の野茶屋の記名帳
四月三十日 覚人東道、沙翁 の誕生地ストラツトフオードに向ふ。楠窓、一朗、友次郎、章子同行。
春の寺パイプオルガン鳴り渡る
四月三十日 シエクスピア菩提寺 。
売家を買はんかと思ふ春の旅
四月三十日 三時頃シエクスピア菩提寺より帰途に就く。
五月二日 キユーガーデン吟行。同行者八田一朗、十時 春雄、伊藤東籬 、有吉瓦楼 、森脇襄治 、大林、古垣鉄郎、池田徳真、槙原夫人、保柳夫人、小野龍人、保柳才喜、小野静女、友次郎、章子。夕刻日本人会に戻り食後披講。
五月六日 朝九時、川村、伊藤、松本、河西夫人、八田、岩崎に見送られヴイクトリア・ステーシヨン発、正午頃ドーヴアー駅著。英吉利 船にて海峡を渡り午後一時半頃仏蘭西 のカレー駅より乗車、五時頃巴里 著。上野に迎へられ直ちにマゼスチツク・ホテルに入る。アルフレツド・スムーラを帯同して松尾邦之助来訪、うち連れて佐藤醇造を誘ひヂユリアン・ヴオカンス訪問。晩餐。席にアルベール・ポンザンありて一同と共に仏蘭西のはいかい談に花を咲かせ記念撮影。ヴオカンス邸即興。
ハンカチの蝶と細りて
五月八日 午前十時、馬耳塞 著。郵船会社に立寄り箱根丸乗船。山下馬耳塞領事来船。四時出帆。友次郎は山下領事等と共に波止場に立ち長く見送る。港内にて清三郎乗船の筥崎丸 と行違ふ。
紅海に船
五月十四日 スヱズ運河通過、紅海に入る。
熱帯の海は日を
この暑さ火夫や狂はん船やとまらん
五月十七日 紅海航行。暑さいよ/\劇 し。
スコールの波
五月二十一日 初めてスコールに遇 ふ。
扇風機まはり熱風吹き起る
五月三十日 朝、新嘉坡入港。奥田彩坡、古根勲、森野熹由、山口勝、宮地義雄、志村空葉夫妻、玉木北浪来船。玉川園に行き日本人会に於ける俳句会に赴き、転じて森野の招宴に列し再び日本人会に赴く。深更帰船。
六月八日 朝七時、上海著。堀場定祥、大内水、下村非文、星野露頭仏、中田秋平、中原大烏来船。上陸、南市の半淞園 に行きそれより三菱商事の招宴にて月廼家にて田中三菱商事支店長等と会食。午後五時、閘北の新月花壇のすみれ会に列席。十一時から三菱銀行上海支店の竹内良男の説明にて、フランス租界八仙橋の黄金大戯場に支那芝居を観 る。
船涼し
六月十日 雑詠選了。対馬見え壱岐見え来る。大阪朝日九州支社より、帰朝最初の一句を送れとの電報あり。
戻り来て瀬戸の夏海絵の如し
六月十一日 朝六時甲板に立出で楠窓と共に朝靄 深く罩 めたる郷里松山近くの島山を指さし語る。
夏潮を
六月十一日 神戸入港。名古屋の丹治蕪人、加藤霞村、加藤了谷。高松の村尾公羽、安藤老蕗。京都の松尾いはほ、平尾春雷、田中八重、田畑三千女、其他京阪神の諸君五、六十名の出迎を受く。蘆屋のとしを居に赴き晩餐。旭川、泊月に続いて『猿蓑 』輪講のため三重史、大馬、涙雨、九茂茅、蘇城来り小句会。それより輪講に加はり午前一時頃帰船。
濁り
六月十九日 家庭俳句会。発行所隣室にて。
朝顔の苗なだれ出し
六月二十二日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
七月十八日 風生招宴。麹町 永田町、逓信次官官邸。
月青くかゝる
七月十九日 発行所例会。丸ビル集会室。
航海やよるひるとなき雲の峰
七月二十六日 大阪玉藻会投句。
八月七日 家庭俳句会。愛宕山 、茶店。
麻の中雨すい/\と見ゆるかな
八月十四日 草樹会。丸ビル集会室。
秋の浪
八月十八日 神戸にて友次郎帰朝を迎ふ。
宮様の今
八月十九日 甲子園朝日新聞社席に全国中等学校野球仕合を見る。
俳諧の
八月二十日 新大阪ホテルに在り。旭川 邸、元 忌出句。
はる/″\と人
八月二十日 神戸駅前相生 町、三ツ輪亭南店に牛鍋をつゝき、それより泊月、鍋平朝臣、年尾 、立子、友次郎と共に岡山に矢野蓬矢 を訪ふ。
秋の風衣と
八月三十日 家庭俳句会。深沢、水竹居邸。七夕祭。
九月六日 武蔵野探勝会。成田山吟行、印旛沼 を舟にて渡る。
一夜明けて
よく見たる秋の扇のまづしき絵
庭石に
つくばひに
九月九日 水竹居招宴。越央子貴族院議員就任祝賀会。きん楽。
命かけて芋虫憎む女かな
九月十一日 草樹会。丸ビル集会室。
九月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。
目さむれば
九月十七日 京都一泊。
必ずしも
九月二十七日 水竹居招宴。永田青嵐主賓。築地 きん楽。
欄干によりて無月の
十月一日 偶成 。
我が息を吹きとゞめたる
飛んで来る物恐ろしき野分かな
十月三日 二百二十日会。清水谷公園、皆香園。
芭蕉忌や遠く
十月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。
十月十五日 つるばみ会主催、近江国志賀郡真野村曼陀羅 山松茸狩。年尾、友次郎、王城、いはほ等と共に。
十月十五日 大津紅葉館別館にて晩餐。
十月十六日 関西同人会。阪急沿線曾根、星ヶ岡茶寮。
秋の水木曾川といふ
十月十八日 名古屋牡丹会大会吟行。日本ライン遊園地に向ふ。
十月十九日 遠藤韮城東道。昨夜は飛騨下呂 温泉、湯の島旅館宿泊。今朝高山に行く。角正にて精進料理。
げてものは
十月十九日 げてものは白川郷 が本場なりとのこと、げてもの展覧会場あり。
今の世も月
十月二十四日 池上 本門寺 。三世中村歌右衛門建碑式。歌右衛門肖像画に賛。
十一月一日 往年横川 中堂にてはじめて渋谷慈鎧 に邂逅 。今は京の真如堂の住職。その還暦祝に句を徴されて。
手をたゝき
十一月九日 大崎会。丸ビル集会室。
十一月二十一日 木の芽会。鬼子母神 境内。吉右衛門邸にて披講。
人に
神は唯
推し量る神慮かしこし初詣
十二月七日 偶成。
雪の暮茶の
十二月十日 大正五、六年頃か、鎌倉能楽堂にて「鉢木 」を演ぜし時川越守男ワキを勤めくれたり。其後茶掛 に句を所望せられたるに書きたる句を打ち忘れ居たるを近藤いぬゐ先頃川越の茶会に招かれ其軸を示されたるを覚え来れりとて教へくれたるもの。川越は久田家の茶の宗匠なり。
十二月十一日 柚木湘水 追悼句。嘗 て湘水亭に一泊せしことあり。
枯芭蕉棒もたしかけありにけり
十二月十一日 草樹会。丸ビル集会室。
羽子板を
十二月二十五日 鎌倉俳句会。大仏境内、南浦園。
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日ねもすの
一月二日 武蔵野探勝会新潟行。篠田旅館泊。みづほ、素十等の歓迎を受く。
一月四日 二百二十日会。きん楽。
七草に更に
一月七日 川崎利吉息安雄結婚披露。
一月八日 草樹会。丸ビル集会室。
太陽を
一月十一日 友次郎と共に鎌倉駅にて電車を待つ間偶成。
画家去りぬ
一月十五日 家庭俳句会。小石川植物園。
マスクして我と
一月二十三日 青邨 送別を兼ね在京同人会。向島 弘福寺。
羽ひらきたるまゝ流れ
鳴くたびに枝踏みゆるゝ寒鴉
一月二十五日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
化粧して気分すぐれず春の風邪
一月二十八日 丸之内倶楽部俳句会。
そのまゝに君紅梅の下に立て
一月三十一日 深沢、水竹居邸。青邨送別会。実花あり。
客ありて梅の
二月七日 武蔵野探勝会。相州下曾我梅林。加来金升邸。
二月十九日 家庭俳句会。芝公園蓮池。
かりそめの情は
二月二十一日 発行所例会。丸ビル集会室。
三月五日 家庭俳句会。渋谷桜ヶ丘、遠藤韮城邸。
折り/\て
三月七日 武蔵野探勝会。武州大沢梅林。
一枚の葉の
三月八日 大崎会。丸ビル集会室。
雨晴れておほどかなるや春の空
三月十四日 謡句会。
たとふれば
三月二十日 『日本及日本人』碧梧桐追悼号。碧梧桐とはよく親しみよく争ひたり。
四月二日 家庭俳句会。葉山、平、畠山別邸。
別荘を出て別荘へ花の坂
幹太く大いなるかな
四月八日 七宝会。大磯、高木別邸。
花の如く月の如くにもてなさん
四月九日 田中家新築披露扇の句。女将に代りて。
畦塗るや首をかしげて
四月十二日 大崎会。丸ビル集会室。
さま/″\の情のもつれ暮の春
四月十八日 発行所例会。
折の
四月二十三日 鎌倉俳句会。葉山、水竹居山荘。
四月二十六日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
重の内
五月六日 二百二十日会。銀座六丁目、実花宅。
目立たぬや同じ色なる
五月十日 笹鳴会。丸ビル集会室。
麦の穂の
五月十三日 七宝会。武蔵境 、望田邸。
五月十四日 草樹会。丸ビル集会室。
此宿はのぞく
えにしだの黄色は雨もさまし得ず
五月十六日 発行所例会。丸ビル集会室。
たゝみ来る
五月二十一日 家庭俳句会。水竹居祝賀。不忍池畔雨月荘。
五月二十四日 「玉藻十句集(第四回)」
老い人や夏木見上げてやすらかに
六月五日 水竹居祝賀会。築地、きん楽。
藻の花や
六月六日 武蔵野探勝会。我孫子 、谷口別邸。
桑の実や父を従へ村娘
六月十一日 草樹会。丸ビル集会室。
見るうちに
六月十四日 大崎会。丸ビル集会室。
六月十七日 白草居自祝招待会。とんぼ。
六月十九日 白草居退職祝賀会。日比谷松本楼。
玉虫の光を引きて飛びにけり
六月二十日 発行所例会。丸ビル集会室。
料理
六月二十四日 丸之内倶楽部俳句会。
三等
七月三日 家庭俳句会。東京駅附近写生。発行所にて披講。
親竹に若竹添へて三幹竹
七月三日 『山彦』五周年記念句会。三信ビル。
ユーカリを仰げば夏の日
七月十一日 二百二十日会。鎌倉、瑞泉寺 。
引いて
七月十四日 銀座探勝会。松屋裏、観音堂。
肌ぬぎし如く
七月十八日 発行所例会。丸ビル集会室。
へこみたる腹に
七月二十二日 丸之内倶楽部俳句会。
月あれば
七月二十四日 夜、偶成。
七月二十六日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
泳ぎ子の潮たれながら物
釣堀の
八月一日 武蔵野探勝会。真鶴 、日本水産会社大敷網。
避暑の浜
八月八日 五月雨会。水神八百松。
夏山やよく雲かゝりよく晴るゝ
八月二十五日 箱根町、箱根ホテル。
九月五日 武蔵野探勝会。芝区海岸通リ[#「海岸通リ」はママ]、日本水産株式会社冷凍部芝浦工場。
屋根裏の窓の女や秋の雨
九月十日 銀座探勝会。木挽町 三丁目河岸、朝日倶楽部。
稲妻をふみて
九月十一日 二百二十日会。丸ビル集会室。
子の
九月十九日 大連 の吉田弧岳、亡妻三周年の忌日も内地に帰れず事変の為 め足留めをくひ居れり、亡長男の七周年忌日が丁度子規忌当日なりと申越しければ。
九月二十七日 「玉藻十句集(第八回)」
此谷を一人守れる
十月十一日 笹鳴会。丸ビル集会室。
力なく
十月十一日 大崎会。丸ビル集会室。
老人と子供と多し秋祭
十月十五日 家庭俳句会。氷川 神社、あふひ居。
落花生
十月十六日 発行所例会。丸ビル集会室。
実をつけてかなしき
十月二十七日 「玉藻十句集(第九回)」
目つむれば今日の
十月三十一日 阪神線甲陽園播半。ましこ招宴。
智照尼は昔知る人
今も
十一月三日 京都牧野滞在。光悦寺に行き、祇王寺 を訪ひ嵐山に遊ぶ。
月の子はかぐや姫にはあらざりき
十一月八日 旭川 より桜坡子はじめて男子を得しとのこと言ひ来る。返事に、序 あれば桜坡子に言づてよとて。
秋天に赤き筋ある如くなり
秋空や玉の如くに
十一月十日 銀座探勝会。松屋裏尼寺。
静さに耐へずして降る落葉かな
十一月十四日 臨時句謡会。あふひ邸。
人去りて冷たき石に
十一月十九日 家庭俳句会。杣男 山荘。
身の上に法
十一月二十二日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
一足の石の高きに登りけり
十一月二十四日 二百二十日会。鎌倉山、千穂山荘。
雑炊や
十一月二十五日 丸之内倶楽部俳句会。
枯るゝ庭ものの
黒きしみつとあり
此庭も夫唱婦随の枯るゝまゝ
十一月三十日 風生居招宴。
鼻の上に落葉をのせて
落葉敷く荒波を敷く如くなり
十二月二日 家庭俳句会。植物園写生、椎花邸招宴。
牛立ちて二三歩あるく短き日
十二月五日 武蔵野探勝会。横浜在子安 、子安農園。
鉄板を踏めば叫ぶや冬の
十二月八日 銀座探勝会。松屋裏、尼寺。
砲火そゝぐ
かゝる
寒紅梅
十二月九日 東京朝日新聞社より南京陥落の句を徴されて。
女を見
十二月十一日 二百二十日会。松坂屋写生、実花居。
我生や今日の短き日も惜しゝ
十二月十三日 夜。大崎会。丸ビル集会室。
首巻もせよ祝つても
十二月十五日 風早浦の人還暦祝の句を認 むとて。
話のせて車まつしぐら暮の町
十二月十七日 家庭俳句会。あふひ邸。
かる/″\と上る
十二月十八日 発行所例会。丸ビル集会室。
冬木中生徒の列の現れ
十二月二十二日 『立子句集』出版記念会。上野公園梅川。
寒雨降りそゝげる中の
冬
十二月二十四日 鎌倉俳句会。要山 、香風園。
十二月二十五日 句謡会。向島百花園、千歳。
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初句会浮世話をするよりも
一月一日 旭川、年尾、友次郎と共に初句会。
粛々と群聚はすゝむ
一月二日 武蔵野探勝会。明治神宮初詣。日本青年館。
一月三日 向島弘福寺。旭川、秋琴女歓迎。
一月七日 家庭俳句会。百花園、千歳。
せはしなく暮れ行く老の短き日
一月八日 二百二十日会。木挽町、田中家。
一月十日 夜。大崎会。丸ビル集会室。
一月十四日 草樹会。丸ビル集会室。
一月二十一日 家庭俳句会。日比谷公園。
人形の前に
何事の頼みなけれど春を待つ
一月二十四日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
一月二十七日 「玉藻十句集(第十二回)」
一月二十七日 丸之内倶楽部俳句会。
焚火してくれる
一月三十日 句謡会。百花園、千歳。
旗のごとなびく冬日をふと見たり
二月四日 家庭俳句会。小石川植物園。
小ざつぱりしたる身なりや
町娘
二月七日 二百二十日会。白山招宴。銀茶寮。
病にも色あらば黄や春の風邪
二月十二日 草樹会。丸ビル集会室。
猫柳又現はれし
二月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。
二月十五日 奈王招宴。新橋灘万 。
猫柳ほゝけし上にかゝれる日
うしほ今
潮の中和布を刈る鎌の行くが見ゆ
二月十九日 発行所例会。丸ビル集会室。
二月二十日 鳴雪十三回忌を修す。丸之内倶楽部日本間。
橋に立てば春水我に向つて来
三月六日 武蔵野探勝会。和田堀、明治大学、本願寺墓地等。
遠ざけて引寄せもする
三月七日 二百二十日会。銀座五丁目東仲通、菊の家。
三月十一日 草樹会。丸ビル集会室。
桜貝波にものいひ拾ひ居る
三月二十四日 丸之内倶楽部俳句会。
竹林に黄なる
藁屋根に春空青くそひ下る
三月二十五日 鎌倉俳句会。名越 、立正安国論寺。
四月三日 武蔵野探勝会。神代 村、深大寺 。
四月四日 二百二十日会。深沢、水竹居邸。
語り伝へ謡ひ伝へて
四月十一日 大崎会。富士見町、三輪女邸。
四月二十一日 鎌倉俳句会。山の内、浄智寺。
遠足の野路の子供の列
四月二十五日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
手を上げて別るゝ時の春の月
四月二十八日 「玉藻十句集(第十五回)」
杉落葉して境内の広さかな
四月二十八日 丸之内倶楽部俳句会。
五月一日 武蔵野探勝会。小石川後楽園、涵徳亭 。
分け行けば
五月六日 家庭俳句会。駒込 、六義園 。
五月十三日 銀座探勝会。松屋七階貴賓室。
バスの
五月十七日 佐渡に一遊。
校服の
六月三日 家庭俳句会。日比谷公園。
六月五日 武蔵野探勝会。千葉在大巌寺、鵜の森。
新しき
六月十日 草樹会。丸ビル集会室。
梅雨傘をさげて丸ビル通り抜け
六月十七日 家庭俳句会。丸ビル写生。
欄干に
六月十八日 発行所例会。丸ビル集会室。
休んだり休まなんだり梅雨工事
六月二十日 田中家招宴。
六月二十三日 丸之内倶楽部俳句会。
箱庭の月日あり世の月日なし
六月二十四日 鎌倉俳句会。深沢村、寺分、陣出園温泉宿。
聞えざる涼み芝居を
七月四日 二百二十日会。浅草仲見世、万屋。女剣劇大江美智子一座。
七月八日 草樹会。丸ビル集会室。
句拾ふや
七月九日 句謡会。百花園、千歳。
七月十二日 銀座探勝会。東海堂屋上、朝顔を見る。ついで東海堂主人の本宅に招ぜらる。
泣きじやくりして髪洗ふ娘かな
喜びにつけ
七月二十五日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
七月二十七日 「玉藻十句集(第十八回)」
晩涼や謡の会も番すゝみ
八月二十一日 あるじ慰問、句謡会。本田あふひ邸。
病人に
九月一日 家庭俳句会。あふひ居。
棟
九月七日 七宝会。小石川高田豊川町、田原久吉邸。
友を葬る老の残暑の汗を見る
九月九日 草樹会。丸ビル集会室。
九月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。
九月十六日 家庭俳句会。あふひ邸。
山河こゝに
九月二十二日 丸之内倶楽部俳句会。
秋風や心の中の幾山河
九月二十九日 「玉藻十句集(第二十回)」
一面に月の
十月二日 武蔵野探勝会。宝生 能楽堂に野口兼資 の「江口」を観る。
もの置けばそこに生れぬ秋の蔭
十月三日 二百二十日会。木挽町、田中家。
十月八日 観月句会。大船、松竹撮影所。
十月十日 夜。大崎会。丸ビル集会室。
十月十五日 発行所例会。丸ビル集会室。
十月二十日 一行の中に年尾も加はり、高松栗林 公園内、掬月 亭俳句会。此夜高松古新町かしく泊。善通寺に正一郎伍長を訪ふ。
歴史悲し聞いては忘る老の秋
十月二十一日 屋島に遊ぶ。
病床の人訪ふたびに秋深し
十月二十五日 家庭俳句会。あふひ居。
並び
十月二十五日 東京朝日新聞より需 めらるゝまゝに武漢陥落を祝す句のうち。
真東に向はしめたる像の秋
これよりや
十一月三日 武蔵調布上布田 三〇四、新田霞霧園隣地、虚子胸像除幕式。
つやゝかな竹の
十一月六日 武蔵野探勝会。小金井 、大正園。
十一月七日 二百二十日会。清水谷公園、皆香園。
十一月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。
十一月二十六日 「玉藻十句集(第二十二回)」
十一月二十八日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。
大枯木己が落葉を慕ひ立つ
十一月三十日 比古、立子、汀女 、香雲と共に小石川植物園。
焚火そだてゐたりしが立ち歩み去る
十二月二日 家庭俳句会。あふひ邸。
枯萩の立ちよれば粗に遠のけば
掃きしあと落葉を急ぐ大樹かな
十二月四日 武蔵野探勝会。小石川植物園。共同印刷会社三階会議室。
うらむ気は更にあらずよ冷たき手
十二月九日 草樹会。丸ビル集会室。
十二月十日 句謡会。あふひ邸。
十二月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。
白眼に互に
十二月十二日 夜。大崎会。丸ビル集会室。
十二月十八日 和歌山市外三田和田、竈山 神社献句式帰路車中。
十二月十九日 京都山端平八に行く。素逝、王城、比古、年尾、紫尹と共に。
十二月二十日 京饌 寮。王城、比古、三千女と共に。
十二月二十一日 「玉藻十句集(第二十三回)」
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一月一日 明治神宮初詣。
雲乱れ
一月八日 武蔵野探勝会百回記念。鎌倉鶴ヶ岡八幡宮初詣。海浜院。
龍の
一月九日 笹鳴会。丸ビル集会室。
一月十三日 草樹会。丸ビル集会室。
一月十六日 二百二十日会。京橋、灘万。蓬矢招宴。
花のごと流るゝ
一月十九日 物芽会。品川、洲崎館。
其中に
一月二十日 家庭俳句会。あふひ邸。
一月二十三日 玉藻句会。丸ビル集会室。
一月二十五日 「玉藻十句集(第二十四回)」
石はうる人をさげすみ
紅梅の旧正月の
一月二十六日 丸之内倶楽部俳句会。
寒き
一月三十日 京都南禅寺瓢亭。いはほ招宴。いはほ、静子、王城、野風呂、雨城、のぶほ、千代子、比古。
暮れて行く枯木も加茂の
一月三十一日 下鴨 、糺 の森 。木屋町大千賀。王城等鹿笛同人招宴。年尾と共に。
取り乱し人に
かぼそくも
二月六日 二百二十日会。白山招宴。銀茶寮。
二月十日 草樹会。丸之内倶楽部別室。
春の波小さき石に
二月十二日 日本探勝会第一回。蒲郡 、常磐館にて。
二月十四日 銀座探勝会。西銀座、レデー・タウン。
二月十六日 物芽会。清水谷公園、皆香園。
ついて来る人を感じて
二月十七日 家庭俳句会。本田あふひ邸。
雪の
二月十八日 発行所例会。丸ビル四階、水産倶楽部。
春水に歩みより
二月二十四日 鎌倉俳句会。鶴ヶ岡八幡社務所。
紅梅の京を離れて住むは
二月二十五日 「玉藻十句集(第二十五回)」
そこを行く春の雲あり手を上げぬ
三月四日 句謡会。鎌倉、香風園。
花まばら
三月五日 日本探勝会。伊豆大仁 、大仁温泉ホテル。韮城会主。
たとふればすみ田の春のゆきしごと
三月九日 蚊杖 を通じ、老年にて身まかりたる名女将といはれし柳橋 林家女将追福の通袱紗 に句を乞 はれて。
物の芽にふりそゝぐ日をうち仰ぎ
三月十四日 夜。大崎会。丸之内倶楽部別室。
運命は笑ひ待ちをり卒業す
三月十八日 発行所例会。丸ビル四階、水産倶楽部。
三月二十二日 偶成。
土手の上に顔出し話す草を摘む
三月二十三日 丸之内倶楽部俳句会。
三月二十四日 鎌倉俳句会。明月院。
初蝶を夢の如くに見失ふ
三月二十九日 玉藻花鳥会。小石川植物園。
くもりたる古鏡の如し
四月四日 一江招宴。日本橋、浜田家。
黄いろなる真赤なるこの
細き幹伝ひ流るゝ木瓜の雨
四月六日 二百二十日会。鎌倉浄智寺、灘万別荘。おはん東道。
立上り
四月二十四日 玉藻俳句会。丸ビル四階水産倶楽部。
草餅をつまみ
四月二十六日 「玉藻十句集(第二十七回)」
五月六日 句謡会。鎌倉、香風園。
昔こゝ
五月七日 日本探勝会。武州金沢 、金沢園。
道々の
五月十三日 仙台俳句会兼題をおくる。
かはほりや窓の女をかすめ飛ぶ
五月十六日 青邨帰朝歓迎会。向島弘福寺。
麦飯もよし
五月十七日 丸之内倶楽部俳句会。
面つゝむ
五月二十五日 風生等と共に仙台俳句会に臨み、小樽 に高木一家を訪ひ、帰路大鰐に手古奈に会す。加賀助旅館。
五月二十六日 猿賀村、猿賀神社吟行。
みちのくの旅に覚えし薄暑かな
五月二十六日 大館 を経て湯瀬温泉に至る。
夏の月かゝりて色もねずが関
五月二十七日 湯瀬出発、尾去沢 鉱山一見、花輪に出で、瀬波温泉に向ふ。瀬波温泉にて、みづほ、素十等に会す。
五月二十八日 村上在、瀬波温泉、三島家旅館。
五月二十八日 亀田、綾華居。
相語り池の浮葉もうなづきぬ
五月三十一日 紅緑 上京。肋骨、鼠骨 と四人、不忍 、笑福亭に会す。
任重く心軽しや
六月二日 吉田週歩の満洲に行くを送る。
六月八日 七宝会。近藤いぬゐ邸。
六月十日 昨夜、夜汽車にて上野を発す。朝六時八分三日市著。直ちに黒部鉄道にて宇奈月に行く。延対寺泊り。蓬矢知事東道。
岩の上の大夏木の根八方に
夏山やトロに命を托しつゝ
雪渓の下にたぎれる黒部川
六月十一日 黒部峡探勝。
六月十一日 黒部峡探勝。つき来りし宿の婢に。
六月十六日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
遠目にはあはれとも見つ栗の花
六月十七日 発行所例会。丸ビル四階、水産倶楽部。
夏風邪はなか/\老に重かりき
七月一日 句謡会。鎌倉、香風園。
七月六日 朝日新聞の需 めにより。開戦記念日を迎ふる句のうち。
船揺れて
七月二十二日 日本探勝会。鎌倉丸乗船。有馬 行。午後零時三十分出帆。
七月二十三日 有馬温泉、兵衛旅館。
此上は
八月十四日 渋谷慈鎧 真如堂より毘沙門 堂門跡 に栄転せられしを祝す。
打水をよろめきよけて
九月二日(二百十日) 句謡会。鎌倉、香風園。
松の月暗し/\と
九月八日 草樹会。丸之内倶楽部別室。
秋風やうかとしてゐし一大事
九月十二日 二百二十日会。清水谷、皆香園。
秋風は
九月十三日 七宝会。市公園となりし百花園。
見苦しや残る暑さの久しきは
三日月のにほやかにして
九月十五日 大崎会。丸之内倶楽部特別室。
老松に露の命の人
老松のたゞ知る昔秋の風
九月二十二日 鎌倉俳句会。戸塚在、旧東海道松並木、老松茶屋。
母を呼ぶ
山の日は暑しといへど秋の風
九月二十四日 蓼科 高原。
山々の男振り見よ
九月二十四日 蓼科高原よりの帰路。
かき濁し/\して澄める水
九月二十六日 「玉藻十句集(第三十二回)」
月も
大空を見廻して月孤なりけり
九月二十六日 観月句会。深沢、三越倶楽部。
黄な蝶のつういと飛べば
十月七日 句謡会。鎌倉、香風園。
十月十日 二百二十日会。赤坂新坂、吉田旅館。
たかあしの
坂少し下りて
十月十五日 日本探勝会。比叡山本坊貴賓室にて。
秋雨や刻々暮るゝ
十月十六日 琵琶湖ホテルにて。木槿 会。
十月十七日 琵琶湖ホテル滞在。
淋しさの故に清水に名をもつけ
十月十七日 幻住庵句会。大津ホトトギス会主催。
思ひ
夜寒さを佗びてはなひる
十月二十三日 「玉藻十句集(第三十三回)」
野を浅くわたりし
老ぬればあたゝめ酒も猪口一つ
十月二十三日 玉藻俳句会。丸之内倶楽部日本間。
秋風やとある女の
十月二十四日 銀座探勝会。松屋裏、煉瓦亭 。
十月二十六日 物芽会。上野、梅川亭。
歴史悲し人の
十月二十六日 『鶏頭陣 』に菊山当年男 の寿貞尼の話を読みて悲し。王城の訃到る亦悲し。
十月二十七日 鎌倉俳句会。百二十回。片瀬河畔逍遥 。まさを居。
君と共に
十一月二日 王城追悼。
よき
行く人を待ちてとびつく草虱
十一月六日 玉藻吟行会。鎌倉松ヶ丘、東慶寺。
明治節大帝
十一月十日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
十一月十三日 笹鳴会。丸之内倶楽部日本間。
雨の
十一月十四日 玉藻例会。日本橋、高島屋。
しまひまで見ずに
十一月十七日 大崎会。丸之内倶楽部特別室。
十一月二十二日 丸之内倶楽部俳句会。
日と月をかゝげ
十一月二十五日 偶成。
十二月一日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
うか/\と咲き出でしこの帰り花
後ろにもうつれる人や
十二月二日 句謡会。鎌倉、香風園。
老しづかなるは二日も同じこと
十二月六日 玉藻吟行会。高島屋特別室。
十二月七日 二百二十日会。田中家、漾人 主催。
見送りし仕事の山や年の暮
十二月十四日 七宝会。芝、紅葉館。水竹居主催。
枯草に
高々と枯れ
もの皆の枯るゝ見に来よ百花園
十二月十六日 家庭俳句会。韮城・椎花古稀祝。百花園、千歳。
そこにあるありあふものを
十二月十九日 銀座探勝会。西銀座六丁目、滝山ビル、餅喜汁粉屋。
この後の一百年や国の春
十二月十九日 紀元二千六百年。
砂よけの垣あり冬木皆かしぎ
十二月二十二日 鎌倉俳句会。海浜院。
向き/\に
十二月二十三日 日本橋中洲、福井筒。吉村太一主催。
親心静に落葉見てをりて
某日 深川正一郎曹長を通じて、傷兵達に俳句を奨励する善通寺陸軍病院長坪倉大佐へ。
霜の
十二月二十七日 小田黒潮中佐歓迎会。丸之内倶楽部日本間。
十二月二十八日 丸之内倶楽部俳句会忘年会。京橋、万安。
一日もおろそかならず古暦
十二月二十九日 玉藻忘年会。鎌倉、香風園。
十二月三十一日 除夜詣。浅草観音。江の島料理のだや。
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初乗や
一月一日
羽子板を犬
一月八日 笹鳴会。丸之内倶楽部日本間。
大寒や見舞に行けば死んでをり
悴める手上げて見て
一月九日 さみだれ会。日本橋倶楽部。
福寿草遺産といふは蔵書のみ
松過ぎの又も光陰矢の如く
一月十日 玉藻俳句会。高島屋特別室。
一月十一日 七宝会。近藤いぬゐ邸。
寒といふ字に
大寒といふといへどもすめらみくに
寒
一月十二日 草樹会。学士会館。
まろびたる
万才のうしろ姿も
なりふりもかまはずなりて
雑踏や
一月十三日 二百二十日会。銀茶寮。
照り曇り心のまゝの冬日和
一月十五日 玉藻吟行会。麹町永田町、真下宅。
布団干しながら
一月十七日 物芽会。品川、洲崎館。
福引に一国を引当てんかな
一月十八日 家庭俳句会。丸之内倶楽部日本間。
春場所の
一月十九日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
日についでめぐれる月や水仙花
一月二十三日 「玉藻十句集(第三十六回)」
避寒して世を
一月二十五日 丸之内倶楽部俳句会。
水仙に春待つ心定まりぬ
一月二十六日 鎌倉俳句会。海浜院。
鎌倉に
寿福寺はおくつきどころ実朝忌
実朝忌
二月三日 句謡会。鎌倉、香風園。
又こゝに猫の恋路ときゝながし
二月九日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
桜餅女の会はつゝましく
二月十日 二百二十日会。麹町永田町二丁目、真下宅。
子を抱いて老いたる
二月十二日 笹鳴会。丸之内倶楽部日本間。
ものゝ芽や仕事は常に運びゐる
二月十六日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
尼寺に小句会あり
二月二十日 銀座探勝会。松屋裏、尼寺。
桜餅
二月二十一日 物芽会。銀座八丁目、キユーペル。
おほどかに日を
二月二十三日 鎌倉俳句会。たかし庵。
三月一日 家庭俳句会。丸之内倶楽部日本間。
語りつゝ歩々紅梅に歩み寄る
紅梅を折りて
三月九日 二百二十日会。木挽町、田中家。
窓の灯の消えて
三月十四日 「玉藻五句集(第三十八回)」
繕ひし垣根めぐらし隠れ
三月十五日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
蝶もとびふるさと人もたもとほり
四月三日 玉藻例会。高島屋特別室。
花の宿ならざるはなき都かな
病む子あり花にも一家楽しまず
四月五日 家庭俳句会。あふひ女史追悼。芝公園、花岳院。
四月七日 夢中に得たる句。
春眠の一句はぐくみつゝありぬ
春眠を起すすべなく見まもれり
春眠や
春眠の一ゑまひして美しき
四月八日 笹鳴会。丸之内倶楽部別室。
花散るや鈍な
四月十一日 七宝会。芝公園、池の端茶店。
やゝ暑く八重の桜の日蔭よし
四月十七日 物芽会。紀尾井町、皆香園。
廻らぬは魂ぬけし風車
四月十八日 丸之内倶楽部俳句会。
ぼうたんに
四月二十一日 日本探勝会。横浜三渓園。待春軒に小憩、観月庵にて句会。聚楽邸 北殿の一部臨春閣を見る。
夏山の谷をふさぎし寺の屋根
四月二十六日 鎌倉俳句会。海蔵寺。
四月二十七日 二百二十日会。築地三ノ六、築地会館武原 はん方。
涼しさは
五月三日 家庭俳句会。九品仏 浄真寺。
ゆく春の書に対すれば古人あり
風吹いて暮春の蝶のあわたゞし
五月四日 句謡会。鎌倉、香風園。
浜砂に
五月五日 日本探勝会。小田原、斎藤香村居。
五月八日 玉藻俳句会。高島屋三階特別室。
五月九日 七宝会。杉並 大宮八幡遊園地茶店。
五月九日 楠目橙黄子 を悼 む。(五月八日午後三時三十分逝去)。
山里や軒の
五月十日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
軽暖や
五月十六日 深川正一郎歓迎句会。丸之内倶楽部日本間。
五月十七日 物芽会。吾妻橋 倶楽部。
背の順に坐り並びぬ
五月十七日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
風折々
五月二十四日 鎌倉俳句会。材木座光明寺。
頭にて突き上げ
五月三十日 丸之内倶楽部俳句会。
一院の
六月五日 玉藻俳句会。高島屋三階特別室。
鯉の水涼しく動きどうしかな
六月九日 日本探勝会。板橋区、豊島園 。
営々と
六月十四日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
六月二十七日 丸之内倶楽部俳句会。
松の雨つい/\と吸ひ
六月二十九日 鎌倉俳句会。藤沢遊行寺 。
父老健に
喜雨到る
六月三十日 大阪放送局より戦線の将士に贈る俳句といふを徴されて。
大木の幹に
七月七日 東子房・小蔦結婚披露俳句会。愛宕山、嵯峨野。
雷雲に巻かれ
八月三日 富士山麓 山中湖畔草廬 。
秋風の
八月七日 富士山麓山中湖畔草廬。
門前の坂に名附けん秋の風
八月八日 富士山麓山中湖畔草廬。
八月十六日 哈爾浜 俳句大会に寄す。
旅の秋
八月十七日 句謡会。元箱根、松坂屋。
霧の中小鳥
九月四日 玉藻例会。高島屋特別室。
徳川の三百年の夏木あり
九月六日 家庭俳句会。上野、梅川亭。
九月七日 句謡会。鎌倉、香風園。
秋風や相黙したる
九月九日 笹鳴会。丸之内倶楽部別室。
衰へし
九月十八日 物芽会。百花園。
我命つゞく限りの
九月二十日 「玉藻五句集(第四十四回)」
なつかしや花野に
九月二十日 大崎会。丸之内倶楽部特別室。
秋風や相逢はざるも亦よろし
九月二十四日 藤崎完より漢詩一篇を贈り来りしに返す。山中湖畔草廬。
名をへくそかづらとぞいふ花盛り
九月二十九日 日本探勝会。上野、寛永寺。
高原に立ちはだかりて秋高し
十月八日 二百二十日会。木挽町、灘万。奈王招待。
秋風に吹かれ白らめる
十月九日 玉藻俳句会。高島屋特別室。
荷船にも釣る人ありて
十月十一日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
芋の葉のいや/\
十月十二日 句謡会。鎌倉、香風園。
刈らるゝを待つ
十月十四日 笹鳴会。丸之内倶楽部特別室。
大杉に隠れて
十月十九日 京都鷹ヶ峰光悦寺、王城句碑除幕式。万竹堂にて句会。妻子を伴ふ。
秋の海荒るゝといふも少しばかり
拝謁や菊花の階を
拝謁を賜りければ菊の花
十月二十四日 別府亀の井を出て乗船。船中。
秋風や心激して口
十月三十一日 丸之内倶楽部俳句会。
秋晴や心ゆるめば曇るべし
十一月一日 家庭俳句会。丸之内倶楽部別室。
十一月八日 玉藻俳句会。渋谷道玄坂 上、二葉。
十一月八日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
十一月十日 紀元二千六百年式典に参列。
老い朽ちて子供の友や大根馬
十一月十二日 二百二十日会。銀座六丁目、実花宅。
大石に
十一月十四日 七宝会。向島 、百花園。
冬ぬくし老の心も
十一月十六日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
供へ置きし柿たうべばやと思ひけり
十一月十九日 銀座探勝会。松屋裏、尼寺。
立ち
よろ/\と
十一月二十二日 鎌倉俳句会。たかし庵。
墨の線一つ走りて冬の空
雲なきに
十一月二十八日 丸之内倶楽部俳句会。
立ち昇る炊煙の上に帰り花
十一月二十八日 「玉藻五句集(第四十六回)」
おでんやを立ち出でしより低唱す
十二月六日 家庭俳句会。日比谷公園。
十二月七日 句謡会。鎌倉、香風園。
草枯るゝ日数を眺め来りけり
十二月九日 笹鳴会。丸之内倶楽部別室。
十二月十日 二百二十日会。木挽町、田中家。
大仏に到りつきたる時雨かな
十二月十二日 七宝会。鎌倉大仏、南浦園。
十二月十三日 草樹会。一ツ橋、学士会館。
マスクして我を見る目の遠くより
我が生は淋しからずや日記買ふ
十二月十七日 銀座探勝会。東京朝日新聞社向側、ニユー・トウキヨウ。
橋をゆく人
十二月十八日 物芽会。浅草山内、岡田。
年忘れ老は淋しく
うち笑める眉目
十二月二十日 大崎会。丸之内倶楽部別室。
懐手して
懐手して俳諧の徒輩たり
懐手して論難に対しをり
懐手して宰相の
左手は無きが如くに懐手
十二月二十六日 丸之内倶楽部俳句会。赤坂永田町二ノ七、待月荘。
さまよへる風はあれども
美しく耕しありぬ
冬日濃しなべて生きとし生けるもの
十二月二十七日 鎌倉俳句会。海浜ホテル。
北風に人細り行き曲り消え
十二月三十日 東京句謡会。丸之内倶楽部日本間。
神前の落葉掃く
十二月三十一日 信濃 神社は宗良 親王を祀 る。奉納の句を徴さる。
伏して思ふ
十二月三十一日 霧島神社奉納句を徴さる。
伸び上り高く
人顔はやうやく見えず
十二月三十一日 除夜詣句会。浅草寺 境内、江の島料理。