『ホトトギス』が六百五十号に達したことを記念するために、六百五十句を選んだ。
これは号数に多少の食い違いがあるが、それは「句日記」(自 昭和二十一年[#改行]至 昭和二十五年)を材料にしたためである。
昭和三十年四月
鎌倉草庵にて
高浜虚子
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風の日は雪の
初笑深く
里人の松立てくれぬ
一月五日 立子等と共に稽古会。小諸山廬 。
いづくとも無く
一月六日 稽古会つゞき。
一月六日 引つゞき桃花会。桃花邸。
有るものを摘み来よ
何をもて
霜やけの手にする
一月七日 土筆 会。小諸山廬。
一月八日 土筆会つゞき。
みづほ母堂逝く
おのづから極楽へとる
一月八日
山の雪
大雪の家や
一月十二日 稽古会。小諸山廬。
日
小包で届く薬や冬籠
厳といふ字寒といふ字を身にひたと
一月十三日 稽古会つゞき。小諸山廬。
一月十九日 稽古会。小諸山廬。
寒燈の下に文章
耳袋して当りをる
一月二十日 稽古会つゞき。小諸山廬。
探梅や
水仙や母のかたみの
一月二十六日 稽古会。小諸山廬。
何物かつまづく辻や
我行けば枝一つ下り
見下ろしてやがて
一月二十七日 稽古会つゞき。小諸山廬。
針金にひつかゝりをる雪の切れ
二月二日 稽古会。小諸草庵。
道ばたの雪の
雪の
節分や鬼もくすしも草の戸に
二月三日 稽古会。小諸草廬。
雪の上に流しかけをり麦の
二月十日 稽古会。小諸草廬。
世の中を遊びごゝろや
二月十一日 稽古会。小諸草廬。
溝板の上につういと
風花はすべてのものを図案化す
紫と雪間の土を見ることも
二月十六日 稽古会。小諸草廬。
田一枚一枚づゝに残る雪
急流になか/\に
二月十七日 稽古会。小諸草廬。
春めきし人の
二月二十三日 土筆会。鎌倉草庵。
美しきぬるき炬燵や
三月三日 桃花会。四軒長屋、上野居。小諸山廬。
残雪の
草餅の重の
三月十三日 迷子 、孔甫 、泰、章子と共に。小諸山廬。
三月十四日 昨日の人に立子を加ふ。小諸山廬。
耕すにつけ読むにつけ
畑打つて
耕しの我のみ頼む
うるほへる
三月二十八日 紅花 、皐雨 、蕪城 来る。小諸山廬。
三月二十九日 高浪 、尭由来る。小諸山廬。
里の子と打交りつゝ草を摘む
三月三十日 昨日の人に泰を加ふ。小諸山廬。
人と蝶美しく
蝶飛びて
四月七日 長野ホトトギス会。小諸山廬。
洗ひたる
四月十八日 十五日より新潟医科大学田坂内科病室に在り。高野素十 邸偶会。
皿洗ふ絵模様抜けて飛ぶ蝶か
四月十九日 三柏会。新潟医大病院医務室。
大学は花に
婦長来て
四月二十日 引続き病室にあり。
四月二十一日 同上。
四月二十三日 同上。
初蝶の
円を
掌に移して種を大事かな
四月二十四日 大雪崩会。素十邸。
桃咲くや足なげ出して針仕事
四月二十六日 二十五日素十と共に帰諸。此日小諸散歩所見。
四月三十日 迷子、菖蒲園来る。小諸山廬。
藤の雨
五月十三日 句謡会。東京、丸ノ内倶楽部別室。
五月十五日 在京同人会。銀座探勝会を兼ね。丸ノ内倶楽部別室。
五月十九日 鎌倉、吉屋 信子邸句会。大仏裏、小谷戸。
五月二十一日 土筆会。小諸山廬。
五月二十三日 偶成。小諸山廬。
ところ/″\瀬の変りたる鮎の川
五月二十四日 小諸ホトトギス会。六供 、応興寺。
五月二十五日 長野ホトトギス会。小諸山廬。
稲妻にぴしり/\と打たれしと
五月三十一日 『ホトトギス』六百号小諸記念句会(六月二日)の兼題を作る。小諸山廬。
真赤なるもの干しにけり夏の草
老夫婦
六月十三日 迷子、筑邨 来合はす。小諸山廬。
田植留守庭の
早苗饗や
六月十五日 土筆会。小諸山廬。
六月十七日 句謡会。東京、丸ノ内倶楽部別室。
我生の今日の
六月十八日 波多野八瀬女追悼句会。鎌倉草庵。
手に当る五色
六月十九日 銀座探勝会。鎌倉草庵。
夏山を軒に大仏殿とかや
六月二十日 鎌倉俳句会。長谷 大仏境内、大仏殿。
涼しさや熱き茶を飲み下したる
六月二十二日 土筆会。鎌倉草庵。
六月二十四日 迷子と小諸に帰る。
いつ死ぬる金魚と知らず美しき
六月二十七日 小諸ホトトギス会。小諸六供、応興寺。
蛍見や声かけ過ぐる沢の家
道草にゆふべの露の落し物
六月三十日 中田みづほ・柴田隣花・吉田一千・鶴田吾郎来り会す。小諸山廬。
客を好む
胡瓜もみ世話女房といふ言葉
七月七日 桃花会。小諸草庵。
熱帯の海に落込む日のごとく
七月七日 昨年四月一日、久山舷楼、台湾沖バシー海峡にて阿波丸と共に遭難、久山初子より弔句を望まれて。
妻留守の衣かゝりし端居かな
七月十二日 神津 雨村追悼句会。志賀村、神津邸。
七月十五日 千住市場菖蒲園の新築祝句。小諸山廬。
虹を見て思ひ/\に美しき
人の世も
虹の輪の中に走りぬ牧の
七月十九日 迷子、孔甫来。小諸山廬。
夏痩の人こと/″\に腹を立て
夏痩の言葉
七月二十一日 小諸ホトトギス会。六供、応興寺。
葉の紺に染りて薄し
客のある山の
夕立のあとの
涼しさの
七月二十三日 名古屋牡丹会員来る。小諸山廬。
中堂に道は下りや
七月二十六日 埼玉不動岡、子 会員来る。小諸山廬。
夕暮の薄暗がりに
腹の上に寝冷えをせじと物を置き
七月二十八日 長野ホトトギス会員来る。小諸山廬。
風あまり強くて日傘たゝみもし
八月五日 桃花会。小諸山廬。
慈雨
浅間
この
立秋や時なし大根また
八月九日 稽古会、第一日。立子、杞陽 等と共に小諸山廬。
一塊の雲ありいよゝ天高し
物の本
八月十日 稽古会、第二日。小諸山廬。
朝の日を宿して落つる露の玉
白露の広き菜園
紺紙なる
雷に
八月十一日 稽古会、第三日。小諸山廬。
秋茄子の日に
いつもこの
八月十二日 稽古会、第四日。小諸山廬。
山里の盆の月夜の明るさよ
八月十三日 稽古会、第五日。小諸山廬。
秋灯や夫婦互に無き如く
八月十四日 稽古会、第六日。小諸山廬。
草花火たら/\落ちぬ芋の上
露草に似たる女を
人顔の西瓜提灯ともし行く
八月十五日 稽古会、第七日、終。小諸山廬。
膝に来て稲妻うすく消ゆるかな
稲妻の今宵は
八月十八日 小諸ホトトギス会。六供、応興寺。
向う
ころ/\と
八月二十二日 岡安迷子、島田紅帆、阿部けさを来る。小諸山廬。
とり出して祭提灯
お
ほつ/\と家ちらばりて秋野かな
八月二十五日 桃花会。伊賀、名古屋連中参会。小諸山廬。
川向ふ西日の
前通る人もぞろ/\橋涼み
橋涼み温泉宿の客の皆出でゝ
八月二十九日 小海線に搭乗、甲州下部 温泉に到る。下部『ホトトギス』六百号記念俳句会。
一本の秋の団扇も
寝るまでは明るかりしが月の雨
九月八日 二百二十日会。鎌倉長谷小谷戸、吉屋信子邸。
露けしと縁に
九月九日 句謡会。鎌倉草庵。
湯を
九月九日 土筆会。鎌倉草庵。
九月十一日 観月句会。小諸懐古園、山城館。
水鉢にかぶさり
九月十九日 子規忌を兼ね、『ホトトギス』六百号記念新潟句会。立子等と共に新潟行成亭。
汽車を見て立つや
九月二十日 新潟より秋田へ行く。秋田、高木餅花宅。金谷旅館泊。
秋風や静かに動く萩
九月二十日 京都『ホトトギス』六百号記念句会兼題。
九月二十一日 高木餅花宅滞在。
秋晴や
秋晴や
九月二十三日 秋田より能代 へ行く。『ホトトギス』六百号記念能代大会。金勇倶楽部。竹田旅館泊。
眼鏡越し
九月二十五日 亀田、其園宅、玉藻句会。
千年の秋の
十月六日 『ホトトギス』六百号記念長野俳句会。此行年尾等と共に。善光寺境内明照殿。円照坊宿泊。
十月九日 『ホトトギス』六百号記念金沢俳句会。盲非無同行。鍔甚 。
物
十月十日 金沢、浅野川畔逍遥。竹女邸披講。
百丈の
野菊
病む人に各々野菊折り持ちて
十月十二日 昨夜三国、愛居泊り。東尋坊一見。
十月十二日 愛子枕頭 小句会。
寺なれば秋蚊
十月十四日 京都、東山、ミューラー初子邸。立子等と共に。法然院に遊ぶ。
秋雨や旅の
十月二十二日 『ホトトギス』六百号記念諏訪俳句会。立子と共に。来迎寺 。
水の上をすれ/\に
時々はわかさぎ舟の
十月二十三日 上諏訪、八剣神社参詣。宮坂邸。
まつしぐら炉にとび込みし如くなり
十月二十五日 素逝 の追悼句を徴されて。小諸。
この杖の
十一月四日 立子帯同、四国、九州旅行。蘆屋 迄の車中。
十一月八日 此行年尾、立子等と共に箕面 、奈良鹿郎居。滝を見る。
伝奇にも
十一月十日 『ホトトギス』六百号記念、四国俳句大会。琴平公会堂。桜屋二泊。
鳥渡る浜の松原伝ひにも
十一月十一日 松山行車中。
それ/″\の形の墓を拝みけり
ひたすらに祖先の墓を拝みけり
十一月十二日 昨夜道後鮒屋泊。松山焼跡の明楽寺、蓮福寺、お築山等の墓に詣る。酒井黙禅居。
菊生けて配膳青き畳かな
十一月十四日 『ホトトギス』六百号記念別府俳句会。なるみ。
十一月十六日 小倉。玉藻俳句会。丸橋静子居。
一枚の
わが
父恋ふる我を包みて
十一月十八日 昨日『ホトトギス』六百号記念福岡俳句会に列席し、甘木 、上野嘉太櫨居一泊。秋月に父曾遊の跡を訪ふ。年尾、立子其他と共に。
水天宮
父を恋ふ心小春の日に似たる
十一月十八日 立花邸に於ける『ホトトギス』六百号記念柳河俳句会を終へ、久留米 、いかだ、小句会。一泊。
十一月二十日 二十余人バスに搭乗、玖珠 高原を横ぎる。由布院 休憩。別府乗船。
厚布団薄布団旅続けけり
十一月二十一日 別府より乗船、船中。
わが足にからまる一葉大いなり
十一月二十二日 蘆屋、年尾居偶会。
手伝ひの来しより
十一月三十日 みづほ、素十来る。小諸山廬。
もてなしは
火鉢に手かざすのみにて静かに
十二月一日 『ホトトギス』六百号記念北関東俳句会。高崎、宇喜代。成田山泊。
十二月五日 偶成。鎌倉。
山の日は鏡の如し
十二月八日 『ホトトギス』六百号記念関東同人句会。東京、木挽町、田中家。
枯萩にわが影法師うきしづみ
手あぶりの僧に火鉢の俗対し
エレベーターどかと降りたる町
十二月九日 句謡会。東京、丸ノ内倶楽部別室。
冬籠人を送るも一事たり
十二月十七日 秋吉花守送別会。小諸山廬。
風花に
十二月十九日 句一歩、占魚、健一、格太郎来。小諸山廬。
庭に下り四五歩歩くや冬籠
十二月二十二日 虚空、燕青 、光義来。小諸山廬。
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一月一日 長谷川ふみ子へ。小諸。
一月五日 桃花会。小諸山廬。
暖かや雪の
水仙の花
一月十一日 稽古会。小諸山廬。
一つ
口明けてやうやく啼きぬ寒鴉
一月十二日 稽古会。小諸山廬。
一月十八日 稽古会。小諸山廬。
寒燈下
一月十九日 稽古会。小諸山廬。
食
首縮め
一月二十三日 稽古会。小諸山廬。
寒灯下明暗もなき
二行書き一行消すや寒灯下
二月一日 「玉藻五句集」。小諸。
二月二日 桃花会。小諸山廬。
吹き込みし雪を掃き出す
二月十五日 即事。小諸。
君が住む
二月十九日 『斎藤八郎句集』の序に代へて。小諸。
雪あるを忘れて山家暮しかな
二月二十一日 即事。小諸。
山里の
二月二十一日 孔甫、春灯、文男来る。小諸。
春浅し
妻病みて春浅き我が誕生日
お茶うけの
燃え盛る
天井にとゞけと
二月二十二日 私の誕生日とて土曜会に招かれ故郷宅に行く。孔甫等も席にあり。小諸。
カレンダーめくりあらはる
三月二日 桃花会。小諸俳小屋。
虹の橋渡り
四月一日 病中愛子におくる。小諸。
春雨のかくまで暗くなるものか
恋めきて男女はだしや春の雨
四月十九日 「玉藻五句集」。小諸。
川
道迷ひつゝ春の水
五月四日 桃花会。小諸、押出、大塚牧場。
だき
五月五日 小諸山廬。米若来、小集。
又しても新茶到来僧
五月十八日 花守来諸。小会。俳小屋。
刈草を背負ひ帰るはあの
五月二十五日 信州、丸子、村松紅花宅に招かれて行く。
蛇や住むと思ふ故園の荒れやうや
六月六日 句謡会、鎌倉句謡会(爾後合併)。鎌倉草庵。
生かなし晩涼に坐し居眠れる
六月八日 東京在。玉川、上野毛 、仙男 山荘。
山登り
夏山にもて来て
六月九日 玉藻句会。逗子葉山堀の内、河合嵯峨邸。
故園荒る松を貫く
六月十日 土筆会。鎌倉草庵。
雨
急ぎ来る
五月雨の相合傘は
六月十五日 『花蓑句集』刊行記念会。上野公園梅川亭。
夏山の
七月一日 風生 、筑邨 、一都、虚空、燕青 来。文就、故郷も会す。小諸山廬。
髪の先蛇の如くに洗ひをり
七月五日 桃花会。小森松花来。小諸山廬。
連峯の
七月十二日 土曜会一周年。小諸故郷宅。折から来諸中の杞陽、柏翠、素顔 、香葎 、三拍子も出席。
夏蝶の
八月三日 桃花会。小諸山廬。
ありなしの簾の風を顧みし
豆の
八月五日 稽古会、第二日。小諸山廬。
浅間背に
流れ星悲しと言ひし女かな
八月六日 稽古会、第三日。小諸山廬。
掃き送る桐の一葉を
八月七日 稽古会、第四日。小諸山廬。
身に
秋草をたゞ
怪談はゆうべでしまひ秋の立つ
八月八日 稽古会、第五日。小諸山廬。
稲妻の包みて
もろこしの
膝に来て消ゆる稲妻薄きかな
稲
八月九日 稽古会、第六日。小諸山廬。
虹渡り
八月十六日 「玉藻五句集」。小諸。愛子を憶 ふ。
秋暑し二三度
八月十八日 埼玉大刀根会員来。小諸山廬。
秋暑し
八月二十一日 句謡会、第一日。小諸山廬。
大夏木日を
八月二十二日 句謡会、第二日。小諸山廬。
夕立や隣りの
八月二十八日 素十、春霞、立子と共に長野、山口燕青居に至る。一泊。
割合に
昼寝してゐる
八月二十九日 戸隠行。長野俳人、素十、春霞、立子と共に。犀川 東道。
いにしへの旅の心や
山霧の
八月三十日 戸隠宝光社、富岡滞在。
あまり
月の下生なきものゝ如く行く
九月六日 桃花会。小諸山廬。
新米や百万石を一握り
九月十一日 野本永久 より新米の初物といふを送り来りしに。小諸。
多かりし
有り合はすものにて祭る子規忌かな
何事も
九月十九日 子規忌(四十六周忌)小集。小諸山廬。
又一人来て向き合ひて
九月二十九日 及川仙石等来る。小諸。
山の月ぐん/\
萩の戸に寄り添ひ立てば昔めき
九月二十九日 月見句会。小諸 、山城館。
人々に更に
黄しめじを又つが
秋晴の名残の
十月五日 桃花会。小諸山廬。
十月十一日 土曜会。小諸、本町、掛川故郷居。
菊畑乱れて
十月十二日 五月会。小諸、応興寺。
十月十四日 長野俳人別れの為に大挙し来る。小諸山廬。
客も
十一月一日 句謡会。鎌倉草庵。
湖もこの辺にして
湖の
十一月六日 近江 、堅田 、中井余花朗邸宿泊。
十一月七日 近江、坂本、延暦寺。母五十年忌。
かく縁の高きに上り
十一月八日 堅田、千那寺懐古。それより内湖舟遊。
念力のゆるみし
うち仰ぎ
十一月九日 竹生島 行、船上句会。
大原は近し
十一月十日 バスにて堅田より途中越といへるを越ゆ。山端平八、真葛 句会。
もののふの
十一月十二日 宇治興聖寺、玉藻句会。
宇治川のほとりの宿の
十一月十二日 宇治河畔、亀石楼宿泊。
十一月二十二日 日本銀行俳句会。東京、日本銀行。
十一月二十八日 明日東京に於ける『玉藻』二百号記念会出席のため出京。句一歩の案内にて大森、内芝に泊る。
十二月十三日 東京タイムス社依嘱。鎌倉。
十二月十八日 トーキー撮影。恵方の句。鎌倉。
腰あげてすぐ又坐る
十二月二十五日 句謡会。鎌倉草庵。
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我こゝにかくれ終りし
一月二十四日 東京玉藻句会鎌倉に来る。鎌倉大仏殿。
二月十日 家庭会。鎌倉八幡社務所。
小説に書く女より椿艶
造化
二月十一日 草樹会。八幡社務所。
二月十一日 山田徳兵衛女人形を贈り来る。
庭散歩椿に向ひまた
三月四日 土筆会。鎌倉草庵。
屋根替へてほつそりとせし草の家
墓参して寿福禅寺の梅にあり
三月七日 草樹会。寿福寺。
三月十八日 物芽会。鎌倉、覚園寺。
もの芽出る
三月十九日 即事。(以下鎌倉といふこと一々記さず)
針山も見えて尼寺梅の花
尼寺の縁側近きもの芽かな
三月二十日 日本光学文化部俳句会。英勝寺。
岩伝ひ下り来る人や春の水
四月五日 伊勢玉藻会、伊勢砧会合同。伊勢湯の山温泉寿楼水雲閣。
四月七日 二見ヶ浦、朝日館泊。志摩周遊。
海女とても
四月八日 外海に海女の作業を見る。
昔男花に一句のありやなしや
四月九日 杞陽より、曾 て古島一雄に贈りたる句といふを聞き。
羽痛めたる蝶々の
春の
四月十六日 草樹会。寿福寺。
四月二十一日 偶成。
牡丹花見廻り客を待ちにけり
垣の竹青くつくろひ終りたる
四月二十三日 句謡会。草庵。
親雀人を恐れて見せにけり
五月二日 草樹会。寿福寺。
五月二十日 群馬県、桐生 、桐生句謡会。岡部公園、東泉閣。
尼寺の蚊は
五月三十日 本田あふひ十年祭。英勝寺。
古庭のででむしの皆動きをり
六月二日 物芽会。八幡前、角正。
六月十五日 北海道行き。自動車にて、札幌を経、登別 温泉行き。
よくぞ来し今
六月十六日 登別、滝の家泊り。カルルス温泉に遊ぶ。
冬海や一隻の舟難航す
難航の梅雨の舟見てアイヌ立つ
六月十七日 白老 海岸。
はまなすの
山の
六月十八日 支笏 湖畔翠明館にて俳句会。自動車にて札幌に向ふ。本願寺別院一泊。
理学部は薫風
楡新樹諸君は学徒我は老い
六月十九日 本願寺別院滞在。北大大講堂にて俳句大会。
アカシヤに
夏の雲徐々に動くや
六月二十一日 小樽 に向ひ、和光荘泊り。
毛布にくるまり
六月二十二日 氷川丸乗船、帰航。浪荒し。
六月二十三日 函館上陸、俳句会。帰船。
二三日朝寝昼寝や旅がへり
六月二十七日 鎌倉玉藻会。寿福寺。
夏の蝶
六月二十九日 句謡会。鎌倉草庵。
母と
七月二十一日 小諸、蔦屋 一泊。
髪洗ふまなくひまなくある身かな
仮の世のひとまどろみや蝉涼し
七月二十三日 稽古会第一日。小諸俳小屋。
里人に交りて日焼町
七月二十四日 稽古会第二日。小諸俳小屋。
夏痩の原因あらん心せよ
刻々と暑さ襲ひ
七月二十五日 稽古会第三日。小諸俳小屋。
この宮のいつ工
十人をかくす夏木と見上げたり
七月二十六日 稽古会第四日。小諸俳小屋。
七月二十七日 古川素水追悼。鎌倉。
縁ありて
八月八日 鎌倉草庵にてさゝやかなる守武忌を修す。
八月八日 宇治山田にての守武祭を追想。
何事もたやすからずよ菜
八月二十五日 長野句謡会。上林 温泉、塵表閣。
人々が心に描き子規祭る
九月四日 子規忌兼題。
荒るゝまゝその
魂の
九月十三日 土筆会。鎌倉草庵。
心易き
九月十七日 月見会。眷族 に信子、千代子を加ふ。
この頃の昼飯待たれ萩の花
九月二十八日 物芽会。鎌倉大仏裏、堀内金五郎邸。
霧
十月四日 我国燈台創設八十年記念の為め、燈台守に贈る句を徴されて、剣崎燈台吟行。大久保海上保安庁長官、橋本燈台局長、星野立子等と共に。
尼寺の戒律こゝに
十月十三日 鎌倉玉藻会。英勝寺。
秋天にわれがぐん/\ぐん/\と
十月十六日 草樹会。寿福寺。
秋日ちよと
十月十七日 句謡会。東京代々木、初波奈。
海苔
十月二十九日 栗音 招宴、横浜磯子 、音羽。老妻、立子と共に。
遠足の列とゞまりてかたまりて
水飲むが如く
十一月一日 昨夜夜汽車にて今朝京都著。午後迄柊屋 旅館に休憩。午後烏丸一条南中田余瓶 居に行き、小野竹喬 、福田平八郎、金島桂華、高倉観崖 、吉井勇 、谷崎潤一郎、年尾、立子と共に会席の饗に預る。
紅葉見や尼も小縁にかしこまり
大紅葉燃え上らんとしつゝあり
十一月四日 宝筺院 を出て厭離庵 、祇王寺 等嵯峨めぐり。関西ホトトギス同人句会。対嵐房にて。この日蘆屋年尾居泊。
十一月五日 氷川丸会。仁川、森信坤者 の紫緑山荘。
紅葉山
十一月十六日 物芽会。鎌倉大仏裏、堀内金五郎宅。
能衣装うちかけしごと庭紅葉
十一月十九日 句謡会。鎌倉草庵。
よき石によき小菊あり
十一月二十二日 玉藻俳句会。光則寺。
竹切りて道に出し居る行手かな
十一月二十三日 下部温泉行。句碑除幕。蓼汀 、真砂子、年尾と共に。湯本ホテル泊り。
柿を食ひながら来る人柿の村
十一月二十四日 山梨明見町大明見、柏木白雨居泊り。句碑除幕。
十一月二十五日 山中湖畔旧廬を過ぎて、旭ヶ丘桑原氏別荘、小句会。
枯木中仏に礼し僧帰る
十一月三十日 大崎会。光則寺。
照り
十二月十二日 草樹会。寿福寺。
やはらかき餅の如くに冬日かな
十二月十五日 土筆会。草庵。
われを慕ふ少女あはれや
十二月十九日 文章会の節、大岡龍男より昔かういふ句ありと聞き。
茶の間にもつゝましやかに初笑
十二月二十一日 来年一月二日に放送する新年句会録音。草庵。
幹事席火鉢一つに五六人
十二月二十五日 玉藻句会。東慶寺。
目を奪ひ命を奪ふ
十二月二十七日 緒方句狂を弔ふ句を奥本たかをにおくる。
十二月三十日 三十日会。いぬゐ、すゝむ、丶石 等来る。草庵。
雪の山詩の子を
十二月三十一日 深沢素哲長男昭一、南アルプス赤岩にて遭難。その遺墨を見る。詩多し。
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皆句作一度この炉によりしものは
一月四日 綾園句集に題句を乞はれ。
老いてゆく
一月八日 即事。
人々の
一月十四日 草樹会。寿福寺。柏翠などゝ共に墓参せしこと。
この辺に
冬山に両三歩かけ引返し
一月十五日 三笠宮 、立子と共に。大仏裏、吉屋邸。
大の字に子が
一月二十日 物芽会。堀内邸。
君が
一月三十日 無量子真如堂の逮夜 導師をつとむるといふに。
芸格といふものゝあり梅椿
二月三日 新潟の素十、春霞、伊勢の金襖子、水棹、それに立子、虚子偶会。
岩の
二月二十四日 句謡会。草庵。
手づくりの
三月四日 吉屋信子の贈り物。
雛納めしつゝ
三月五日 椎花 追悼会。英勝寺。偶 伊勢俳人数名来る。
三月二十日 草樹会。大森、交実寮。
三月二十四日 成田衆来る。草庵。
三月二十五日 句謡会。草庵。
四月二日 吉右衛門四谷見附 新居句会。
春の水
四月九日 亮木滄浪に句を望まれて。
何よりもとり戻したる花明り
四月十三日 盲素顔追悼句。
古竹に添へて青竹
青竹を曲げ繕ふや垣の
四月十五日 句謡会。草庵。
何事も花に
四月二十一日 立子と共に二十日より鳴海、宇佐美野生居に在り。桑名に向ふ。益女邸写生。年尾来り会す。伊勢玉藻会。照源寺。帰りて魚目、輝子仮祝言。
旅にあることも忘れて朝寝かな
四月二十四日 野生居。
四月二十六日 能登、七尾 に向ふ。柏翠、坤者同乗。七尾公園、七尾俳句会。和倉、加賀屋泊り。
能登言葉親しまれつゝ花の旅
四月二十七日 加賀屋にて句謡会。素十、桜坡子 来り会す。午後輪島に行き鳳来館泊り。
潮じみて重ね
四月二十八日 能登ホトトギス俳句大会。輪島。
四月二十九日 中島に行き蓮浄寺句会。大森積翠居泊り。
山吹の花の
老僧と
五月一日 加賀松任 在、北安田、明達寺に非無を訪ひ、永久 女を見舞ふ。
涼しさや子規のことなど聞え上げ
五月十日 芸術院会員、宮中御陪食。
五月十一日 土筆会。草庵。
夏蝶のつと落ち来りとび
五月十六日 大崎会。英勝寺。
一面に
大木といふにあらねど夏木立
五月十九日 物芽会。角正。
湯の島の薫風に舟近づきぬ
百尺の裸岩あり夏の海
遊船の女に少し波荒し
五月二十三日 浅虫温泉。前日青森高木餅花居に在り。立子、宵子と共に。
夏川の水美しく物捨つる
五月二十五日 大鰐 に行く。加賀助泊り。
つゝじ藤小一時間池ひとめぐり
五月二十六日 弘前、小泉邸。
静かさは
五月二十九日 潮会、双葉会合併。東京、浜離宮公園。
五月三十一日 草樹会。鎌倉、大仏殿。
六月四日 三笠宮妃殿下誕辰 祝。
六月五日 双葉会。鶴岡八幡社務所。
セルを著て暑し寒しと思ふ日々
老眼に炎天濁りあるごとし
六月十五日 土筆会。草庵。
新築の早古びけり
六月十六日 物芽会。角正。
たら/\と地に落ちにじむ
六月十九日 素十、すゝむ、行野、年尾等と共に。草庵。
六月二十日 大崎会。英勝寺。
六月二十四日 句謡会。草庵。
万緑の万物の中大仏
六月二十八日 草樹会。大仏殿。
濃く
梅雨眠し安らかな死を思ひつゝ
といふ間に用事たまりて梅雨眠し
七月三日 新人会立寄る。伊勢俳人も来る。草庵。
暑き日は暑きに住す
七月十五日 年輪会員来。草庵。
客を待つ夏
七月二十二日 句謡会。草庵。
銀河
銀河西へ人は東へ流れ星
虚子一人銀河と共に西へ行く
なつかしの戸締める隣月
七月二十三日 夜十二時、蚊帳を出て雨戸を開け、銀河の空に対す。
七月二十七日 柏翠並びに甲斐吉田連中来る。草庵。
炎天に
七月三十一日 遠藤韮城 逝く。
育てられ来りしものを
八月二日 実花芸者に復活。
旅衣汗じみしまゝ
八月三日 鶏二、野生北海道帰りとて立寄る。
あの音は
八月五日 実朝祭。八幡宮にて。
汗くさく
山ホテル滝に向つて応接間
大玻璃戸しめ暑からず滝の宿
八月十二日 嵯峨東道。箱根木賀随意荘に遊ぶ。若杉、ゆかり両殿下、立子と共に。
八月十三日 随意荘泊り。
葉をかむりつゝ
八月十七日 追川瑩風等あひる会員来る。
人生は陳腐なるかな
老人の日課の如く走馬燈
八月二十三日 新人会夏行第二日。鎌倉草庵。
本尊に茶を供ずれば秋蚊出る
八月三十日 句謡会。東慶寺。
九月八日 昨年松山正宗寺に於ける『ホトトギス』六百号記念会席上に、『ホトトギス』を創刊したる柳原極堂 もありし。同寺に建つる句碑の句を徴されて。
ものゝ絵にあるげの庭の
よき部屋の深き
よき家に
九月十八日 十五人会。新宿、浜野邸。
尼ひろひためたる栗を
九月二十一日 大崎会。英勝寺。
秋晴の浜に出る
九月二十五日 草樹会。大仏殿。
雲あれど無きが如くに
九月二十六日 句謡会。草庵。
十月五日 即事。
夏かげのこの道を取りかく行きし
十月六日 駒ヶ嶺不虚、子規の奥羽旅行のあとに何か句を題せよとのことに。
十月十二日 土筆会。草庵。
食ひかけの
十月十六日 草樹会。大仏殿。
似てゐても似てゐなくても
十月十七日 風生の胸像除幕式ある由、葉書に認 め遣 りたる句。其の胸像未だ見ず。
海底に
十月十九日 (十月十八日出発。四国九州の旅に上る)『竜巻』二百号記念俳句大会、高知市会議事堂。筆山荘泊り。
十月二十日 筆山荘に在り。
わが終り銀河の中に身を投げん
十月二十日 高知句謡会。林並木訪問。貫之 邸址の句碑を見、要法寺に於ける玉藻句会に列席。
十月二十一日 丸亀城址延寿閣に遊ぶ。
十月二十二日 波止浜 に向ふ。光潮館泊り。町長、今井五郎に贈る。
鶴子最も亡兄の墓をふし拝む
十月二十四日 (十月二十三日、松山大和屋別館泊り)松山玉藻会。姪 、今井鶴子は亡兄の養女。
墓参して直ちに海に浮びけり
秋の波たゝみ/\て火の国へ
十月二十五日 早朝別府に向ふ。別府、お多福泊り。船中。
十月二十八日 中津、遠入 たつみ居に至り、耶馬渓 に向ふ。山国屋泊り。
山川のくだくる水に秋の蝶
十月二十九日 俳句大会。山国屋。
遠足の子と女教師と薄紅葉
十月三十日 深耶馬を通り豊後 森に出で別府に帰る。お多福泊り。
家庭和楽秋風富めりといふに
十一月二日 須磨、播水 居。銀婚式俳句会。
十一月三日 年尾居。播水、哲也父子来、小句会。名古屋に行く。三栄ホテル逗留。
老友の学習院長霜の菊
十一月八日 下落合 目白、紅梅荘。草樹会。ルネ・クルッセ博士来らず。シャゼル来る。途中、安倍能成 を訪ふ。
十一月十三日 ふた葉会、どんぐり会合同。鶴岡八幡公文所 。若杉、ゆかり両殿下と立子と俥 にて行く。
だぶ/\の
十一月十八日 新潟連中来る。草庵。
寒雨降りもの皆枯るゝ庭の
庭のもの急ぎ枯るゝを見てゐたり
十一月二十四日 桜坡子、清流、青坡来。草庵。
庭紅葉くゞりつゝ来る
鎌倉の古き宿屋の松飾り
十一月二十四日 物芽会。角正。
十二月十八日 AK新年俳句会(一月二日)放送録音。草庵。
物貰ふ我も
老いてなほ
十二月二十日 需 めに応じて新年の句を作る。
朝寝もし
十二月二十日 土筆会。草庵。
松立ちし
十二月二十二日 物芽会。角正。
手で顔を
揺らげる歯そのまゝ大事
十二月二十三日 句謡会。草庵。
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一月二日 すゝむ、たけし、周平、寒月、真砂子、立子等。草庵。
死にし
大空の
一月四日 ホトトギス社員来。草庵。
美しき
一月十四日 吉屋信子母堂政子逝去。追悼。
二月二十四日 句謡会。草庵。
乳いぢる癖の女や
初蝶を見たといふまだ見ぬといふ
二月二十六日 二百二十日会。田中家。
一点の黄色は目白赤椿
二月二十六日 夜。横須賀 玉藻会。浦賀ドック寮。
闘志
春風の心を人に
三月十九日 喜寿祝賀同人会。丸ビル精養軒。
湯に入りて春の日余りありにけり
三月二十日 喜寿祝に参会せし同人続々来る。草庵。
大空にうかめる如き玉椿
三月二十三日 土筆会。草庵。
三月二十四日 玉藻句会。大仏殿。
春雨の音
三月二十五日 四月九日に催さるゝ大阪俳句会兼題。
葉ごもりに引つかゝりつゝ椿落つ
三月二十六日 桃花、紅花来る。小諸行を約す。
鎌倉のそここゝに垣
春山をすこし上りて四つ目垣
三月三十日 草樹会。寿福寺。
花の戸に汽車より
林なす
四月十日 八日立子と下阪。灘万泊り。十日年尾、立子等、数人と紀州に向ふ。途中串本 に降り、潮の岬に遊び、串本の俳人と黒潮館にて句会。湯川温泉喜代門泊り。
年を経て再び
千尺の神杉の上滝かゝる
滝見
四月十一日 那智の滝に遊ぶ。宿前に同じ。
老の杖とばし
本州製紙工場見物
四月十二日 新宮 に行き『熊野』三十周年記念俳句会に臨む。宿前に同じ。
温泉のとはにあふれて春尽きず
四月十三日 六時前天王寺著 、汽車にて帰阪。灘万泊り。喜代門所見。
四月十四日 京都下車、初子居に母堂を訪ふ。
障子今しまり春の
四月十六日 鎌倉山、森田たま居小集。若杉殿下も在り。
四月二十六日 即事。
拝観の
蝶とんでお文庫よりの
春惜む命惜むに
四月二十八日 吹上御苑 拝観。三笠宮様御催し。御苑内、霜錦亭にて俳句会。両殿下、侍従三人、立子、虚子。皇后陛下もお出ましになり、選句台覧 。
五月一日 喜寿祝賀句謡会。鎌倉、華正楼。
古家のキヽキヽと鳴るにや
五月三日 桑名、「砧」会員来る。草庵。
子にかまけ末女最も
五月二十日 大仏会。長谷大仏殿にて。
さま/″\の
五月二十一日 鉄線花会。鵠沼 、橋本邸。
竹の皮日蔭
五月二十四日 大崎会。鎌倉、英勝寺。
雨戸
五月三十日 新潟句謡会。かき正。二十九日新潟行。篠田旅館に泊る。真砂子、立子同行。杞陽も亦来る。
能舞台地裏に夏の山入り
五月三十一日 佐渡に遊ぶ。加茂湖畔、本間舞台泊り。
六月一日 佐渡、潟上、本間舞台滞在。此日新潟、篠田旅館に帰る。
はら/\と
六月一日 新潟玉藻会。新潟護国神社。
若葉照り
六月二日 「小さん」にて昼食。庫太郎邸にて句謡会。晩餐。篠田旅館所見。
五月
六月四日 三日帰宅。本間友英に一句を贈る。
庭もせに椿圧して
六月八日 観世俳句会員、たけしと共に来る。句会終りて、観世地にて「熊野 」。
朝顔や政治のことはわからざる
六月十日 句謡会。草庵。
白き猫今あらはれぬ
六月二十日 大崎会。英勝寺。
縁に腰して夏山に対しけり
夏山のすぐそこにある
六月二十六日 草樹会。大仏殿。
僧俗のまじりくつろぐ
六月二十八日 成田新勝寺。
六月三十日 吉右衛門招宴に列して後、海上保安庁にて句会。立子に従ひて行く。
わが庭の小緑蔭といふところ
七月十四日 句謡会。草庵。
炎天にそよぎをる
七月十八日 吉右衛門、千代、正子、清元梅吉、なつ子、徳穂、外に我家族の者と華正楼にて。
諸子会す
七月二十二日 京都春菜会、東京新人会合同俳句会。第一回。草庵。
暑き日々
七月二十四日 同、第三回。草庵。
待ちたりし赤朝顔の
鎌倉の山に響きて花火かな
朝花火海水浴の人出かな
七月三十日 名古屋、鳴海連中来。草庵。
鎌倉や
箱庭の翌日の
七月三十一日 偶会。
八月十八日 岩木躑躅 に送る。
朝顔の花に朝寝のあるじかな
八月二十六日 実花居。
萩一つ咲きそめ露の置きそめし
八月二十八日 家鴨会。草庵。
これよりは鹿と猿とを
九月六日 九月十六日、句一歩鹿野山 神野寺 晋山式 。句一歩に贈る。
秋風の
九月九日 句謡会。草庵。
天高し
九月十四日 いぬゐ、雷鳥来。
秋晴や客も
見る人に少しそよぎて萩の花
九月十七日 牧水、丹井等来る。
虫すだく中に寝て我
古家に
我袖も木の葉もそよぎ秋の風
九月二十四日 玉藻会。英勝寺。
月よしと木々の
月の庭ふだん気附かぬもの見えて
はら/\と月の
九月二十五日 草樹会、鶏頭会合併。長谷大仏殿。
老眼をしばだゝきけり秋の晴
九月二十六日 大崎会。英勝寺。
白芙蓉の白きより白きは無し
九月二十七日 土筆会。草庵。
秋風に庭の大木我隠れ
この落葉どこ
九月三十日 五月雨会。北鎌倉、好々亭。
白芙蓉松の
老いて
十月五日 新潟連中来り、句謡会。
菊の縄あら/\しくも縛られし
十月十三日 艶寿会、第二回。
水車場へ道は平らや
十月十九日 昨夜、小諸蔦屋泊り。
十月二十日 滞在。午後帰鎌。
朝寒の人各々の職につく
十月二十四日 大崎会。英勝寺。
今日寒し昨日暑しと住み
十月二十五日 土筆会。草庵。
十月二十五日 野本永久の句集序句。
十月二十六日 物芽会。角正。
彼一語我一語秋深みかも
十月二十八日 八幡文墨祭。
掃き
十月三十日 玉藻会。寿福寺。
十一月十日 『週刊朝日』に。
十一月十二日 即事。
初凪や
『みゆき』五十号に達すとか
冬日今松の上にあり
十一月十四日 新聞雑誌に句を徴されて。
倒れ菊起しもせずに掃かれけり
十一月十六日 句謡会。草庵。
母姉と謡ひ伝へて
十一月二十四日 新聞雑誌に句を徴されて。
此頃の
十一月二十五日 物芽会。角正。
秋風や白文唐詩選を読む
冬ざれや石に腰かけ
十一月二十七日 草樹会。大仏殿。
十一月二十七日 禅寺洞 自ら川にて釣りたりといふ干鯊を送り来る。
首巻をして
十一月二十八日 大崎会。英勝寺。
石に腰
十一月三十日 七宝会。草庵。
元日に
十二月十日 諸方より新年の句を徴されて。
大勢の子育て来し雑煮かな
舌少し曲り
今年
其他の事
両の手に玉と石とや老の春
十二月十三日 同。
この女此の時
十二月二十日 新年放送。
世の様の手に取る如く
十二月二十一日 土筆会。草庵。
十二月二十二日 大崎会。英勝寺。
熱燗にあぐらをかいて女
熱燗の女にしても見まほしき
十二月二十三日 物芽会。角正。
霜の菊
十二月二十四日 玉藻会。光明寺。
おでんやの娘愚かに美しき
門松を立てゝいよ/\
十二月二十七日 草樹会。大仏殿。
ストーヴの
十二月三十日 七宝会。草庵。