珊瑚集

仏蘭西近代抒情詩選

永井荷風

永井荷風訳




死のよろこび

  シヤアル・ボオドレヱル


蝸牛かたつむりひまはる泥土ぬかるみに、
われ手づからに底知れぬ穴を掘らん。
安らかにやがてわれ老いさらぼひし骨をうずめ、
水底みなそこふかの沈むごと忘却わすれふちに眠るべし。

われ遺書をみ墳墓をにくむ。
死していたずらに人の涙をはんより、
生きながらにしてわれむしからすをまねぎ、
けがれたる脊髄せきずい端々はしばしをついばましめん。

あゝ蛆虫うじむしよ。眼なく耳なき暗黒の友、
なれが為めに腐敗の子、放蕩ほうとうの哲学者、
よろこべる無頼の死人はきたれり。

わが亡骸なきがらにためらふ事なくくい入りて、
死のうちに死し、魂失せし古びし肉に、
蛆虫よ、われに問へ。なおも悩みのありやなしやと。
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憂悶

  シヤアル・ボオドレヱル


大空重く垂下たれさがりてものおおふ蓋の如く、
久しくもいはれなき憂悶もだえに歎くわが胸を押へ、
夜より悲しく暗き日の光、
四方よもとざす空より落つれば、

この世はさながらに土の牢屋ひとやか。
虫喰むしばみの床板にかしら打ち叩き、
鈍き翼に壁をで、
蝙蝠かわほりの如く「希望のぞみ」は飛去る。

限りなくひきつゞく雨の糸は、
ひろき獄屋ひとやの格子にことならず、
沈黙のいまはしき蜘蛛くも一群ひとむれ
きたりてわが脳髄に網をかく。

かゝる時なり。寺々の鐘突如としておびえ立ち、
住家すみかなく彷徨さまよひ歩く亡魂なきたまの、
片意地に嘆き叫ぶごと、
大空に向ひていたましき声を上ぐれば、

送る太鼓も楽もなきひつぎの車
が心のうちをねり行きて、
あざむかれし「希望のぞみ」は泣き暴悪の「苦悩くるしみ
黒き旗を立つ、垂頭うなだれしわがこうべの上に。
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暗黒

  シヤアル・ボオドレヱル


森よ、なんじ古寺ふるでらごとくにわれを恐れしむ。
汝、寺の楽の如くゆれば、呪はれし人の心、
臨終の喘咽あえぎ聞ゆる永久とこしえの喪のへやに、
DE PROFUNDISデ プロフンデス[#ルビの「デ プロフンデス」は底本では「デ ブロフンデス」] 歌ふ声、山彦やまびことなりて響くかな。

大海おおうみよ、われ汝を憎む。狂ひと叫び、
が魂は、そを汝、大海の声に聞く。
はずかしめと涙に満ちし敗れし人の苦笑ひ、
これ、おどろ/\しき海の笑ひに似たらずや。

さればよるぞうれしき。空虚と暗黒と
赤裸々求むる我なれば、星の光おぼえある言葉となりて
われに語らふ、の光だになき夜ぞうれしき。

暗黒の其のおもてこそは絵絹えぎぬなりけれ。
亡びたるものども皆覚えある形して
わがまなこより数知れず躍りて出づれば。
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仇敵

  シヤアル・ボオドレヱル


若きわが世は日の光ところまばらに漏れ落ちし
暴風雨あらしの闇に過ぎざりき。
鳴るいかずちのすさまじさ降る雨のはげしさに、
わが庭に落残おちのこくれない果実くだものとても稀なりき。

されば今思想おもいの秋にちかづきて、
われすきくわとにあたらしく、
洪水でみずの土地を耕せば、洪水は土地に
墓と見る深き穴のみ穿うがちたり。

われ夢む新なる花今さらに、
洗はれて河原となりしかゝる地に
おい茂るべきやしなひをいかで求め得べきよ。

あゝ悲し、あゝ悲し。「時」生命いのちをくらひ、
黯澹あんたんたる「仇敵きゅうてき」独り心にはびこりて、
わが失へる血を吸ひ誇りさかゆ。
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秋の歌

  シヤアル・ボオドレヱル



吾等われらたちまちに寒さの闇におちいらん。
夢のなりき、強き光の夏よ、さらば。
われ既に聞いて驚く、中庭の敷石に、
たきぎを投込むかなしきひびき

冬のすべては――憤怒いかり憎悪にくしみ戦慄おののき恐怖おそれや、
ひられし苦役くえきはわが身のうちに返り来る。
北極の地獄の日にもたとふべし。
わが心は凍りて赤き鉄の破片かけらよ。

われ戦慄おののきて薪を投ぐる響をきけば、
断頭台くびきりだいひと築く音なき音にもまさりたり。
重くして疲れざる戦士のつちの一撃に、
わが胸は崩れ倒るゝ城の観楼歟ものみか

かゝるものうき響に揺られ、揺られて、何処いずこにか、
いともせは[#ルビの「せは」はママ]しくひつぎの釘を打つごとき……そは、
昨日きのうと逝きし夏を葬る声にして、秋来ぬと云ふ怪しき此声このこえは、
さながらに死者を葬る鐘にも似たり。


きれ長き君がまなこの緑の光ぞなつかしき。
いと甘かりし君が姿もなど今日の我にはにがきや。
君がなさけも暖かき火のほとりや化粧のへやも、
今のわれには海に輝く日にかず。

さりながら我をあわれめ、やさしき人よ。
母のごとかれ、忘恩のともがら、ねぢけしものに。
恋人かいもとか。うるはしき秋のさかえや、
又沈む日の如く束の間の優しさ忘れたまふな。

定業さだめは早し。むさぼる墳墓はかしこに待つ。
あゝ君が膝にわが額を押当てゝ、
暑くして白き夏の昔を惜しみ、
軟くしてきいろき晩秋の光を味はしめよ。
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腐肉

  シヤアル・ボオドレヱル


わが魂などか忘れん、凉しき夏の
晴れしあしたに見たりしものを。
小径こみちの角、砂利をしとね
みにくきしかばね

毒にされて血は燃ゆる
淫婦いんぷごとく脚そらざまに投出なげいだ
此れ見よがしと心憎くも
汗かく腹をひろげたり。

照付くる日の光自然をこや
百倍のやしなひに
すべてを自然に返すべく
この屍を焼かんとす。

青空は麗しき脊髄せきずい
咲く花かとも眺むれば、
はげしき悪臭野草のぐさの上に
人の呼吸いきをもとどむべし。

青蠅あおばえむれ翼を鳴らす腐りし腹より
蛆虫うじむしの黒きかたまりわき出でゝ、
濃きうみの如くどろ/\と
生ける襤褸らんるをつたひて流る。

此等のものすべて寄せては返す波にして、
鳴るや、響くや、ゆらめくや。
吹く風に五体はふくらみ
生きこゆるかとあやしまる。

流るゝ水また風に似て
天地怪しきがくをかなで、
ふしづく動揺うごきふるひ[#ルビの「ふるひ」はママ]の中なる
穀物の粒の如くにまい狂へば、

忘られし絵絹えぎぬおも
ためらひえがく輪郭の、
絵師はだ記憶をたどり筆をとる、
形は消えし夢なれや。

いわ彼方かなたに恐るゝ牝犬めいぬ
いらだつまなこに人をうかゞひ、
残せし肉を屍より
再びまんとまち構ふ。

この不浄この腐敗にも似たらずや、
されど時として君もまた
わが眼の星よ、わが性の日の光。
君等、わが天使、わが情熱よ。

さなり形体の美よ、そもまたかくの如けん。
終焉しゅうえん斎戒さいかい果てゝ、
肥えし野草のぐさのかげに君は逝き
白骨のうちに苔むさば、の時に、

あゝ美しき形体よ。接吻くちづけに、
君をばまん地虫に語れ。
分解されしわが愛の清き本質まことと形とを
われは長くもたもちたりしと。
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月の悲しみ

  シヤアル・ボオドレヱル


今宵こよいいよゝものうく夢みたり。
おびたゞしき小布団クッサンかざす片手も力なく、
まどろみつゝもそが胸の
ふくらみづる美女のごと

軟かき雪のなだれの繻子しゅすの背や、
仰向あおむきてよこたはる月は吐息も長々と、
青空に真白く昇る幻影まぼろし
花の如きを眺めやりて、

懶き疲れの折々は下界げかいおもに、
消え易き涙の玉を落す時、
眠りの仇敵きゅうてき、沈思の詩人は、

そがてのひらに猫眼石の破片かけときらめく
蒼白あおじろき月の涙をつみ取りて、
「太陽」のまなこを忍びて胸にかくしつ。
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そゞろあるき

  アルチユウル・ランボオ


あおき夏の夜や
むぎ野草のぐさをふみて
小みちを行かば
心はゆめみ、わが足さはやかに
わがあらはなるひたい
吹く風にゆあみすべし。[#「浴みすべし。」は底本では「浴みすべし。[#改行]」]
われ語らず、われ思はず、
われたゞ限りなき愛
魂の底に湧出わきいずるを覚ゆべし。
宿なき人の如く
いや遠くわれは歩まん。
恋人と行く如く心うれしく
「自然」と共にわれは歩まん。
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ぴあの

  ポオル・ヴヱルレヱン


しなやかなる手にふるゝピアノ
おぼろに染まる薄薔薇色うすばらいろゆうべに輝く。
かすかなる翼のひゞき力なくしてこころよ
すたれし歌の一節ひとふし
たゆたひつゝも恐る恐る
美しき人の移香うつりがこめし化粧のにさまよふ。

あゝゆるやかに我身をゆする眠りの歌、
このやさしき唄のふし、何をか我に思へとや。
一節ごとに繰返す聞えぬ程の REFRAINルフラン
何をかわれに求むるよ。聴かんとすれば聴く間もなく
その歌声は小庭こにわのかたに消えて行く、
細目にあけし窓のすきより。
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ましろの月

  ポオル・ヴヱルレヱン


ましろの月は
森にかゞやく。
枝々のさゝやく声は
しげりのかげに
あゝ愛するものよといふ。

底なき鏡の
池水いけみず
影いと暗き水柳みずやなぎ
その柳には風が泣く。
いざや夢見ん、二人して。

やさしくも、はてし知られぬ
しづけさは、
月の光の色に
よるの空より落ちかゝる。

あゝ、うつくしのや。
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道行

  ポオル・ヴヱルレヱン


寒くさびしき古庭に
二人の恋人通りけり。

まなこおとろへ唇ゆるみ、
さゝやく話もとぎれとぎれ。

恋人去りし古庭に怪しや
昔をかたるものゝかげ。

――お前は楽しい昔の事を覚えておいでか。
――なぜ覚えてゐろと仰有おっしゃるのです。

――お前の胸は私の名をよぶ時いつもふるへて、
お前の心はいつも私を夢に見るか。――いゝえ。

――あゝ私等わたしら二人くちと唇とをあわした昔
あやうい幸福の美しい其の日。――さうでしたねえ。

――昔の空は青かつた。昔の望みは大きかつた。
――けれども其の望みはやぶれて暗い空にと消えました。

烏麦からすむぎ繁つたなかの立ちばなし、
よるよりほかに聞くものはなし。
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夜の小鳥

  ポオル・ヴヱルレヱン


鶯は高き枝より流れに映る己れが姿を眺め水に落ちしと思ひて槲の木の頂にありながら常に溺れん事のみ恐れき。(シラノ・ド・ベルジユラツク)

霧たちむる河水かわみずに樹木の影は
   けむりごとくに消ゆ。
その時影ならぬ枝のあいだより何処いずことも知らず
   の小鳥は泣く。
あゝ旅人よ。いかにの青ざめし景色は、
   青ざめし君がおもてを眺むらん。
いかに悲しく、溺れたる君が望みは、
   高きこずえに嘆くらん。
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暖き火のほとり

  ポオル・ヴヱルレヱン


暖き火のほとり、灯火ともしびのせまきかげ、
片肱かたひじつきてかしら支ふる夢心地、
愛する人と瞳子ひとみあわすその眼とその眼、
語らふ茶の時、とざせる書物、
日の暮れ感ずるやさしき思ひ。
くらきかげ、静けきよるをまつ時の
いふにいはれぬ心のつかれ、
あゝわが夢心地、幾月のまちこがれ。
幾週日いくしゅうじつ遣瀬無やるせなさ、
なほ[#ルビの「なほ」はママ]ひたすらに其等それらを追ふ。
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返らぬむかし

  ポオル・ヴヱルレヱン


あゝ遣瀬やるせなき追憶の是非もなや。
衰へ疲れし空にひよどりの飛ぶ秋、
そよぎて黄ばみし林に、
ものうき日光ひかげ漏れおつる時なりき。

胸の思ひと髪の毛を吹く風になびかして、
ただ二人君と我とは夢み夢みてあゆみけり。
ひらめ目容まなざしとわがかたにそゝがれて、
輝く黄金こがねの声は云ふ「君が世の美しき日の限りいかなりし」と。

打顫うちふるふ鈴ののごとさわやかひびきは深く優しき声よ。
この声に答へしは心怯こころおくれし微笑ほほえみにて、
われ真心の限り白き君が手にくちづけぬ。

あゝ、咲く初花はつはなの薫りはいかに。
優しきささやきに愛する人の口より漏るゝ
しかり」と頷付うなづく初めての声。あゝの響はいかに。
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偶成

  ポオル・ヴヱルレヱン


空は屋根のかなたに
   かくもしずかにかくも青し。
は屋根のかなたに
   青き葉をゆする。

打仰ぐ空高く御寺みてらの鐘は
   やはらかに鳴る。
打仰ぐ樹の上に鳥は
   かなしく歌ふ。

あゝ神よ。質朴なる人生は
   かしこなりけり。
かの平和なる物のひゞきは
   街よりきたる。

君、過ぎし日に何をかなせし。
   君今こゝにだ嘆く。
語れや、君、そもわかき折
   なにをかなせし。
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  ピエエル・ゴオチエ


茂りし林の奥深く
黒く声なく沼は眠れり。
一度ひとたび微風そよかぜは水のおもてぬぐはず、
いさゝかの波の動きもの底よりおこりし事なし。

枯れたる枝の繁きがもとに
空には隠れ日に遠く、
重き月日の平和の底、
山毛欅ぶなのきの暗き木蔭こかげに沼は眠れり。

秋のあらしに、影のうち
ころもがれし梢は、
濁りて曇りし鏡の上に、
ひややかなる其のかんむりをぬぐまもあらず、

おつの葉のひとひらごとに
しわの刻みは眠れる水にひろがりて、
凋落ちょうらくを迎ふる水のおもてに、
おつる木の葉はゆるやかに流る。

一羽の小鳥も水飲まんとてきたりし事なく
いかなるまなこも其の水底みなそこうかがひし事なし。
――茂りし林の奥深く
黒く声なき沼は眠れり。
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  ヱドモン・ピカアル


わが胸は湿りし土地に水は死したる古池か。
凍りし風其処そこに絶え間なき叫びを放つ。
恐ろしき襲撃の跡をとどむる落雷の木立に、
岸のながめの哀れなるかな。

忘られし恋と消失せし友のよしみと、
むご運命さだめのいたましき宝物ほうもつは、おもむろに
黒き泥土でいどと色さめし花と共に、
眠りたる花瓶はながめの底に朽ちて行く。

陰鬱いんうつなる一隅いちぐうかな。されどせきたるこの深淵のうちよりは、
もしそれ、が弱き心、測量の綱をなげうちて、
沈滞の濁水だくすいを突如として打つ時は、

震動起りて一道の光ひらめき渡り、
底知れぬ愁情を照す睡蓮すいれんの花の星、
数ある記憶の明るき色、水のおもてに浮びてきたる。
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音楽と色彩と匂ひの記憶

  ヱミル・ヴオオケヱル


音楽と色彩とにおひの記憶われに宿る。
逝きし日を呼び返さんとせば、
花をつみとれ。われに匂ひの記憶あり。
音楽の記憶われに宿れば、
怪しき律のうごきは
ノスタルヂヤのわが胸に昔をさます。
花をつみとれ。がくかなでよ。
何人なんぴとか、何事か。忘れしものを思起おもいおこすに、
われには色の記憶あり。
われ思出おもいいづ、くれない黄昏たそがれに、
わが恋人は打笑みわれは泣きけり……
われには色の記憶ぞ宿る。
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秋のいたましき笛

  アア・ヱフ・ヱロオル


秋のいたましき笛は泣く、
おだやかならぬ夕まぐれ。
空は涙をすする時
ぬれし樹木じゅもくはをのゝきぬ。

花はおもむろに枯れしぼみ、
小鳥は飛び去る彼方かなたの野辺。
そこには四月の色もある
うれしき歌の聞ゆべし。

寒さ恐るゝ君は悲しく、
わが生命いのちの君は小径こみちを行く。
あおざめて旅する君は
声も曇りし歌を求むる。

あゝ二人して喜び聴きしの歌は
秋と云ひなば返り来じ。
何時いつの日かわれは又わらひて眺めん、
今ははや涙となりし君がまなこを。
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仏蘭西の小都会

  アンリイ・ド・レニエエ


起き出でゝわれあしたに街を出づれば
道の敷石に足音高くひゞきて
太陽の若き光は古びたるいらかを暖め
Lilasリラ の花は家々の狭き庭に咲く。

人の歩みにさきだちて足音の反響は
こずえそびゆるこけ土塀どべいの長きに伝はり、
り減りし敷石は白き砂道すなみちつらなりて
場末の町より野辺に走れり。

やがて険しく登る山道より
日に照らされて岡のふもとに、
悄然しょうぜんとして狭く貧しくしずかなる我がうまれし街の
見馴れたる懐しき屋根の見ゆるかな。

長々と彼処かしこに我が街はよこたはる。流るゝ河ありて、
その水は二度居眠りて二つの橋の下を過ぎ、
散歩の道に茂りし木立は街にそびゆる
鐘撞堂かねつきどうの石と共に古びたり。

うらゝかに澄渡すみわたりて狭霧さぎりなき空気に
わが街は太き響をわれに送りきたる。
洗濯屋のきね鍛冶屋かじやつちの音、
打騒ぐ幼児おさなご甲高かんだかくやさしき叫び。

変りなきわが街の浮世には思出おもいでもあらず、
繁華はんか光栄の美麗もなくて、
わが街はいつの世までも
今見るごとちさみやこに過ぎざらん。

わが街は耕せし野辺、高原、荒れし野に、
又は牧場まきばなかに立つ数ある街の一つなれば、
いずれとわかぬちさきフランスの街の名に、
旅する人はわが街の名さへ知らで過ぎぬべし。

しかれどもあしたよりゆうべに移る散歩そぞろあるき
長き思ひの一日ひとひは過ぎて、
むぎはたけのかなたに日はかくれ、
林に通ふ細道くれそめて、

物のあいろもわかぬ夜、
歩む足音険しき道にとゞろきて
せき越す水音みずおとはるかに聞え
吹く風運河の木立に騒ぐ時、

つかれて我は帰りくる街近く
ふと仰ぐあたりの家の窓。
帷幕とばりさへなきガラスし、ランプのつぼ
石油の黄金色こがねいろなす灯火ともしびの燃ゆるを見れば、

つえにてさぐる夜の道、おのづと足も急がれて、
われ思ひ知る。わが墳墓の国土こくど
懐しきまなこに闇のうちよりいとも優しく
わが手をとりて引くがごとしと。
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葡萄

  アンリイ・ド・レニエエ


死なんとばかり我は悩みしの夢知れる恋人よ。
さま/″\のかなはぬ望みに飢ゑつかれ
葡萄ぶどうの棚にみのりたる葡萄つまんと我は久しく、
種まく人のごといたずらに腕を振りけり。

しかるに君は優しき夢に微笑ほほえみて眠り給へる、
其のすげなくもしずかなる眠りぞ憎くき。
さわやかなる朝風は爽なるあしたのひゞきを伝へ
くれない東雲しののめかけて明け行けり。

いざ行かん。のぞみの光我等われらを導く美しき小山のかたに。
苗植ゑしわが手づからに待焦まちこがれたる果物くだもの
うつくしき葡萄のふさをわれは摘むべく。

されどもし、いささかの草の芽だにもなかりせば、
待つと云ふかのわざわいの夢のうち、いつも変らぬ
空しき夜明よあけを眺むべく夕暮に山を下らん。
[#改ページ]

われはあゆみき

  アンリイ・ド・レニエエ


久しくもわれは歩みき。落ちかゝる
朝見し夢のかず/\もや既に消えんとす。
そは君ならずや。一筋道ひとすじみちはてに美しき眺めよこた
はるかなる館のかたにわれを導きたまひしは。

かしこには不可思議なる月の光に照されて
眠れるいにしえの花園の咲きてむらがる花の中
屋根に鐘鳴る高楼たかどのそびえし塔の数多く
美しき異禽いきんを養ふ家も見えたり。

にしき小禽ことりその棲木とまりぎに居眠れば
池の底には黄金こがねうおのひらめきて
噴水のほとばしり切々としてささやきたり。

こけを踏む君が歩みに君がもすそは鳴り響きて
見えざるかぎの秘密を知れる柔かき
君が双手もろてはわが手を取りてたすけしものを。
[#改ページ]

夕ぐれ

  アンリイ・ド・レニエエ


夕暮の底遠くして海のほとりに
われかつて都をのぞみき。
鮮かなる銀色ぎんしょくめたるくれない
夕暮の底遠くして海のおもてに
その影を流す大理石と黒鉄くろがね
都をわれは嘗てのぞみき。

扉と家をもわれは見たりき。
(血の夕暮はその時海にあり)
風はあかる煖炉だんろの火も見ゆる
戸口の篝火かがりびをいらだゝしめ
はたとばかりにとぼそをとざしぬ。

「死」と「望み」とは過ぎ去りぬ。
暗き空の下、褪めたる銀色の海のおもて
その影と影とはただよひぬ。
わが身にはの時よりして
海に昇る夕暮の悲しかりけり。
[#改ページ]

  アンリイ・ド・レニエエ


枝より枝を渡る風は
あかるき夏とまた暗き日に、
黒きふくろうと白き鳩鳴く
老木おいぎこずえをゆする。

したたる雨の声、
やさしくも又ものうきは
さすらふ身には一歩ひとあし々々
「悲しみ」の忍び泣くと聞かれずや。

緑より黄に、黄よりしてくれない
黄金色こがねいろより黄金のいろに
木々のこずえの老い行けば、われは
秋より秋に散りて行くわが「過去」を思ふ。

林はそびえたるいただきよりして頂に
くれないかしと緑の松をうごかせども
吹く風はおごそかに声をみたり、
かの「くるしみ」と「海」のごとくに。
[#改ページ]

正午

  アンリイ・ド・レニエエ


正午まひるなり……真白き道は海に走れり。
あかるき日の光窓よりりて、
まだ暑からぬ部屋の床板ゆかいたに、
出入でいりの人の歩みにつきておち散りし
乾きてかゞやく砂を照す。
日曜と夏とのにおひに空気はさわやかなり。
日にやけし布と松脂まつやにかおりよ。如何いかんとなれば、
ぬの荒き日蔽ひおいには枝にさがりし
松の実のかげえがかれたり。
しずけさはそれさへもいと遠く思はるゝまでしずけさに、
おもいは去りて心空しき折からに
しづ/\とうごかして PARESSEものうし と呼ぶ女姿おんなすがた
更によく倦みし休みをあじわはんと、
伏目遣ふしめづかひの優しきまなこを閉ぢ合せ、
長々とよこたはる柳細工やなぎざいくの椅子の上、
真裸まはだかこころよさ、人目に触れぬ嬉しさにとほゝゑむ。
[#改ページ]

告白

  アンリイ・ド・レニエエ


まことの賢人は永遠とこしえの時のあいだには
一切の事すべて空しく愛といえどなお
空の色風のそよぎのごとく消ゆべきを知りて
砂上さじょうに家を建つる人なり。

されば賢人はほのおの燃え輝ききゆるがごとくに、
開きては又散る薔薇そうびの花を眺め
殊更に冷静沈着の美貌びぼうよそおひて
浮世の人と物とに対す。

疎懶そらんの手はあかつきの焔と
夕炎ゆうばえの火をあふらざれば
夕暮は賢者に取りていたましき灰ならず
明け行くの日は待つ日なり。

うつり行くものきえ行くものゝうちにありて
し過ぎ行く季節に咲く花の枯死かれしすは、
これそが定命じょうみょうとのみかんなば
また我も賢者の厳粛にやならひけん。

しかるに纏綿てんめんたる哀傷の心せつにして
われは悔いと望みと悲しみに
又慰め知らぬ悩みの闇の涙にくれて
わが身をひしぐ苦しみの消ゆる事のみ恐れけり。

いかにとや。砂上の薔薇そうび香気かんばせ
吹く風のさわやかさ、美しき空の眺めさへ
永遠とこしえの時のあいだにも一切の事すべて空しからずと、
我が哀れなる飽かざる慾の休み知らねば。
[#改ページ]

  アンリイ・ド・レニエエ


庭に来よ。黄昏たそがれは庭に
土と花、うるおふ影との薫る時なり。
そろひし黄楊つげの並木のかげ、狭き小径こみちく程に
いよ狭くいよ安らかに君があゆみを導かん。

庭の外なる野や道やあやうつじや、
鏡なす池の水とて何かあらん。
やがてしおれんの茎にあか/\と咲く薔薇そうびのみ
ただわづかあぢきなき君が浮世の形見なり。

ありとあらゆる「過ぎし日」はけるにつれ
庭のうちにぞよみがえる。敵意ある群集は
肥えし野草のぐされし道暗き林にはびこるを、

こゝのみは静けく優しき庭の隅。
土塀どべいに添へる果樹の列、黒き腕長く差伸べて
君をば守る此処ここばかり心安けくあゆめかし。
[#改ページ]

※(「缶+并」、第4水準2-84-68)

  アンリイ・ド・レニエエ


沈黙の碑、美の墳墓よ。
「悲しみ」は※(「缶+并」、第4水準2-84-68)かめに灰となりにし
夏の果実と秋の葡萄ぶどうを収めたる
この懐しき重荷のために声をみたり。

消えし時間と死したる季節と、
一度ひとたびひつ栄えつ、はげしく強くゆたかなる
薫をかぎしさま/″\の思ひいで
なおの底に残りてあれば、そがために

君は夏の形見の灰を収めし黄金こがね※(「缶+并」、第4水準2-84-68)かめたずさへて
いと暗き青春に彷徨さまよふ。あゝ「悲しみ」と呼ぶ君、
道行く女姿おんなすがたよ。われ君を迎ふるもまたれがめ。
沈黙の碑よ、美の墳墓よ。
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年の行く夜

  アンリイ・ド・レニエエ


の高いランプが
私のうつむいた机の上
ひらいた書物のなかに突立つて
音もなく燃えてゐる。
何かぢつと見詰めてゐるやうな
物哀れな老耄ろうもうした「月日」が
書斎の中をあちこち彷徨さまよひ歩く
の足音ももう聞えない。

低くかざす其手そのてを暖めやうと
あかる煖炉だんろそばに坐りかける老耄ろうもうした「月日」は、
着てゐる冬と云ふ灰色の着物のめに、
何となく謙遜けんそんらしく我慢づよく
しかも又真面目まじめらしく見えた。
丁度私がおもいの底を過ぎて
其の灰の上を歩くやうに思はれる軽い足音に、
老耄した「月日」の姿は
何となく優しく又何となく厳格おごそかにも見える。

夏と秋との手籠てかご
向うの壁の上に掛けられてあるが、
時々に其の籠を編む柳の枝のはじけて破れ、
茎も葉も枯れてしまつた花瓶はながめ
あしをば風がゆすぶる。
其の度々に私ははつと思つて
耳を澄まして[#「耳を澄まして」は底本では「耳を澄まして[#改行]」]
老耄した「月日」の顔を眺めると、
の老女は灰色の着物を着たまゝ身動きもせず、
真直に伸びてむちのやうにひらめ
柔かな柳の若枝の一条ひとすじ々々折りまげて、
笑つた夏の日
花籠を編みながら歌つた
その忘れた昔の歌をうたひもせぬ。

しかしその糸車ばかりは
何処どこかで蜂の鳴くやうに、
高く低く遠く近く
つぶやうなつて
あたか黄昏たそがれの糸をつむぐがやう。
高い処にかゝつてゐる時計は
鱗形うろこがたほりをした黄楊つげの箱から、
消え行く時間に又一時間を加へ、
夜半よわの十二時になるまで
時は次第々々に進んで行く。

すると桃色と灰色の着物きて
煖炉の傍に黙つて坐つてゐた「月日」は
立上つて消えた火をき起す。
希望のほのおはパツと燃え上つて、
黒ずんだ敷瓦しきがわらを赤く色付け、
こごえた「月日」の手先をあたゝめた。
私は早くも這入はいつて来る「時」の入口から、
「月日」の新しい顔が私の思想に向つて、
微笑んでゐるやうな心持がした。
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暮方の食事

  シヤアル・ゲラン


 歌ひながらに恋人は、飛ぶ蜂のつばさきらめく光のかげ、暮方の食事にと、庭の垣根の果実くだものと、白きパン、牛の乳とをととのへ置きて、いざや、より添ひて坐らんと、わが身のほとりに進み来ぬ。

 雨は晴れたり。空気はうるほひ、木立のにおひはみなぎりて、明け放ちたる窓の外、木葉このはに滴るしずくの音は、へやのすみ、いづこと知らずきいづる、虫の調しらべにまじりたり。

 食卓にひじつきて、さゝやかなる料理の皿もそのままに、二人ともども思ひに沈めば、言葉もなくだ折々に、恋人は、吹く風の冷き吐息に打顫うちふるふ、あらはなるの腕を、わが唇の上によこたへき。

 くもりなき水晶の花瓶はながめや、可笑おかしげにふくらみて、二人の顔のうつりたる、まろその横腹のおもてには、窓なる額縁に限られて、森の茂りと、古里ふるさとの空のこそえがかれたれ。

 かしこにぞ、秋の空はくれないに悲しめる。あゝ、長閑のどかなるなつかしきの恋の一刻いっこくよ。いつしかに黄昏たそがれは、花瓶のおもてにうつる空の色、二人が瞳子ひとみをくもらして、さゝやかの二人が世界の、物の彩色あいろを消してく。

 わが顔押あてし、恋人の胸はとゞろけり。吹く風ぬれたる木立を動かせば、おもいに沈める二人は共にとさめて、の庭に、おつひびきに耳を澄ます。

 かくて、吾等われら二人は、過来すぎこかたをふりかへる旅人か。また暮れく今日の一日ひとひを思ひ返して、燃えいずる同じ心の祈祷きとうと共に、その手、その声、その魂を結びあはしつ。
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道のはづれに

  シヤアル・ゲラン


道のはづれに
日はしづむ。
手を取らん、
接吻くちづけせしめよ。

疑へる心のごと
この泉は濁りたり。
渇けるわれに
君が涙をのましめよ。

日は暮れたり。
鐘が鳴る。
われにあたへよ、
君が胸打ふるふその恋を。

道はくだる。
幾里と長き真白の帯。
青き小山こやま
坂道つきぬ。

たゝずまん。行手ゆくてなる
森をながめよ。
屋根はかすみて
村は夢む。

わが眠らんとするは
彼処かしこなり。とぼそのかげ、
おつうずもるゝ
君が黒髪にいだかれて。
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ありやなしや

  シヤアル・ゲラン


よしや反響のきかれずとも、物にはすべしたがふ影あり。
よるきたれば泉は星の鏡となり、
貧しきものも人のめぐみに逢ひぬべし。
澄みて悲しき笛の土墻ついじは立ちて反響を伝へ、
歌ふ小鳥は小鳥をさそひて歌はしめ、
あしの葉は蘆の葉にゆすられて打顫うちふるふ。
憂ひは深きわが胸の叫びに答へん人心ひとごころ
あゝ、そはありやなしや。
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四月

  ギユスタアヴ・カン


あゝ花開くうつくしき四月よ。
されどし我が恋人われより遠く、
北の国なる霧の中にあらば、
何かせん、四月の新しき歌、
四月の白きリラの花、野ばらの花も、
こずえを縫ひて黄金こがねと開く四月の日光ひかげも。

あゝ花開くうつくしき四月よ、
わが恋人にまた逢ふ事の嬉しきかな。
あゝ花開くうつくしき四月よ。
恋人来れり。
四月のリラの花、黄金なす四月の日光。
始めてわれを慰めん。われ四月に謝す。
あゝ花開くうつくしき四月よ。
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ロマンチツクの夕

  伯爵夫人マチユウ・ド・ノワイユ


 夏よ久しかりけり。われ夏の恵み受けじといどみしが、今宵こよいついに打ち負けて、身中みうちつかるゝまでのこころよさ。

 われ小暗おぐらきリラの花近く、やさしきとち木蔭こかげけば、見ずや、いかで拒み得べきと、わが魂はさゝやくごとし。

 よろづの物われをまどわしわれを疲らす。く雲軽く打顫うちふるひ、慾情の乱れ、ゆるやかなる小舟の如く、しめやかなる夜に流れきたる。

 列車は過ぎたり。もゆるよろこびよ。そのひびき空気をつんざく。神経は破れて死ぬべくも覚えつゝ、いかにせん、又生きんとする願ひになやむ。

 あゝわれ此宵こよい、わが肩によりかゝる、若き男の胸こそ欲しけれ。ロマンチツクなる事やなぎのかげにも優りたるわが心のものうき疲れを、かの人は吸ふべきに。

 われの人に、「いざなひしは君ならず。そはあらゆる夜のさま、わが胸をして鳩のごとくにふくれしむ。

 されど君はあまりに若ければ、黄金こがねの血潮と溶け行く心、骨に徹する肉のかなしみ、われそを訴へんよるにのみ。

 あらゆる樹木は官能鋭く、あらゆる夜は打ち解けて、絶えざるすすり泣きの声、けむりし空にのぼり行けり。

 うるはしき夜のみ眺めて語りたまふな。いたましくも悩める君をのみわれは求むる。狂ひて叫ばん唇に、消えも失せなん心して、わが愛する人よ。泣きたまへ。ただ泣きたまへ。」と語るべし。
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九月の果樹園

  伯爵夫人マチユウ・ド・ノワイユ


 炎暑は地平線をくもらしたり。夏のあつさ。やはらかき毛織物。空気は重くとざして隙間すきまもなし。いさましく機織はたおる響のごとく、蜜蜂みつばちの群は果実くだものにおひにかしましくも喜び叫ぶ。われその蒸暑き庭の小径こみちを去れば、緑なす若き葡萄ぶどう畠中はたなかの、こゝは曲りし道のはて。家の戸口は開かれて、くわすき如露じょうろなぞは、きいろ日光ひかげに照されし貧しき住居すまいの門の前、色づく夕暮のうちよこたはりたり。

 われ、凉しき隠家かくれがうちに進み入れば、果実のにおいのいかに清凉なる。思はずためらひて、耳を澄す。ひやゝかなる円天井まるてんじょうの陰には、そよとの風もなく、あたり蕭条しめやかに、心おのずか長閑のどかなれば、屋根低く凉しき尼寺か。夏の匂のみなぎり流るゝ、幽暗なる地下室にもたとふべけん。庭と水との吐く熱気は、こゝに閉されて休みいこへり。あゝ。寺院の静寂、清浄の安眠よ。

 新しきなし林檎りんごの実とは、果樹園の群を去りて家の棚の上、空しき影のうちに熟してあり。そのくして甘きあじわひはしたたり、香気は池の水のごとくに沈みて動かず。鳴きつかれし細腰蜂ゲエプただ一つ、物音遠く静かなる、狭き硝子窓ガラスまどの四角なるおもてに、黒き点をえがきたり。

 おびたゞしき果実の匂ひかな。この匂は藍色あいいろ大空おおぞらと、薔薇色ばらいろの土とをて、暑き夏の造りかもせしものなれば、うつくしき果実の肉のうちには、明け行く大空の色こそ含まれたれ。心も清く気も新なるよろこびのその匂、その光、その流れ、大気と土壌のたわむれより生れたる濃厚の液汁、溶けたる砂糖。手桶の底に生れたる君こそは、冷たきわらの上なる小さき神なれ。木のたると鉄のすき、緑色なる如露の友よ。いざ、深密なる君が匂ひの舞踊まいおどる、甘き輪舞ロンドの列にわれを取巻け。

 あゝ、日毎ひごと暮るればこゝに来て、庭造る愛らしき器物うつわもの手籠てかご、如露のそばちかく、空想にふければ、あゝわがわかかりし折の思出おもいいで。幸福を歌ふすすなきは、心の底よりほとばしり出づ。われは静寂の来りて宿る果樹園の、うつくしく穏かなる生活を、今ぞ見たり、今ぞ知りたり、悟りたり。わが生命いのち、そがめにやかれたるおそろしき思ひを、いざなげうたん。

 慾望よ、われを去れ。われは十二の月々に、うぐいす駒鳥こまどりと、大麦の冠つけし神々と、ひたいみどり夕蝉ゆうせみと、いと高くいと優しく、また美しく静かなる、女神 Pomoneポモン御手みてによりて、匂はされたる大空の見渡す晴光はれと、共に踊らん。
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西班牙を望み見て

  伯爵夫人マチユウ・ド・ノワイユ


 乾きし庭のおもてに日は照りて、夕立にうたれたるダリヤの初花はつはなは、緑なす長き茎をば白き家の壁にせかけたり。海はとゞろきわたりて、若き牧神フォーンごとく吹く風は、其手そのておさゆるころもぎて、路上に若き女をはずかしめんとす。あたゝかく、うつら/\と暮れて行く Basqueバスク の里の夕まぐれ。われは彼方かなたに、忽如こつじょとして入日にそまりかがやける、怪異なる西班牙エスパンユをこそ望み見たれ。

 地平線の上にかいなを長くさしのべなば、われはもゆるかの土と紅色くれない石榴ざくろとに触れもやせん。金光きんこう燦爛さんらんたる国土かな。鳥飛ばず、曇りもえせず、色もあせざる空の下。乾きてきいろTobosoトボソ の谷の、身も焼けぬべきそゞろ歩きよ。唐辛とうがらしの紅色と、黄橙おらんじほのおの色に、絹の衣裳いしょうを染めなして、おと騒がしき西班牙エスパンユの、いらだつ舞ひのとゞろきや。又われは聞かずや。血まぶれの Tourbadourトルバドル 華美はでないさみの若者が、ほふ牡牛おうしAr※(グレーブアクセント付きE小文字)nneアレエヌ桟敷さじきも崩れん叫び声。

 Tol※(グレーブアクセント付きE小文字)de Andalousieトレド アンダルジイ の国々よ。燃上るの声もなき狂熱を、君いづこよりかもたらせし。おそろしき痴情ちじょうの狂ひかな。いとしの血に渇きたる Pasipha※(アキュートアクセント付きE小文字)パヂファエ は、命あらばさぞと覚ゆる壮漢ますらおが、刺されて流す血にひて、情慾と恐怖の身ぶるひに、快楽と敬神のおもひを合せあじわひしが、

 わが身はこゝに仏蘭西フランスの、やさしき大気のうちにつゝまれて、心おどろき胸重し。ほゝゑめる静けき Basqueバスク の山と水。雲は集りて、Gu※(アキュートアクセント付きE小文字)tharyゲタリー のいたゞきにいこへり。われ Rodrigueロドリグ を思ひ、聖女 Th※(アキュートアクセント付きE小文字)r※(グレーブアクセント付きE小文字)seテレズ を思ふ。さはやかなる匂を帯びて夕暮は、影と光に色ある砂を混ずる時、甘きタマリの一株ごとに並びたる、けはしき山のうしろより、Irunイラン をさして行く汽車の笛の響の聞えたり。

 神聖なる西班牙エスパンユ。あゝ今宵こよいわれ、君まく思ふ心の乱れに堪へぬかな。
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菊花の歌

  シヤアル・グランムウラン


だりやの花しお葡萄畠ぶどうばたけの取入れ終りて、
にあかぬしぎの鳴く音も絶えにけり。
さま/″\なる果実このみこと/″\く熟し
木苺きいちごの実摘尽つみつくされて花園今はあれにけり。

空かきくもりて霧立ちまよへば、
かの暮方の懐しさと寂しさとは夜明の空にも漂ひ
黄ばみし芝生に薔薇そうびは落ちて
その花びらの跡だにもなし。

さりながらこの揺落ようらくとこの風と、
またこの悲しき日かげに灰色したる空こそよけれ。
菊の花にはいとはしきはえと、
接吻くちづけもなければ。

霜枯れしくさむらにそもこの花のひらめきいず
清くも澄みし黄色こうしょく橙紅色とうこうしょくの目ざましや。
その中に東雲しののめかすみとばかり
垂れて緋総ひぶさに似るもあり。

さればや君が襟元えりもと黒髪にたばさむ花も
野路のじの菊花のあざやかに色もさま/″\めづらしければ、
よしや手づから恋しき人の捧げて来つる花束とても、
かの有りふれし巷の花にてあらば何かせん。

誇顔ほこりがおなる百合ゆりの花、ひややかに造りしやうなる椿つばきの花束、
何となく恐しき罪の戯れいざなふを、
野にさく菊の花束は露つ冷き風にゆらめきて、
蒸暑き夜宴やえんの都には因縁ちなみなし。

都の人の寒さに弱き歩みは早くも火を追ひ、
去りて跡なき荘園のしづけき小径こみち
風の嘆きのさびしさに、薄らぐもりの空を見て、
この花ひとり安らかに咲きぞみだるゝ。

そはただ詩人のみ。十一月葡萄のはたも牛飼ふ野辺も黄ばむ時、
しずかに来りて菊の花打眺うちながむるは唯詩人のみ。
心なきまじわりを忌みおそれ
胸打明けし友のいおりをたづぬるごとく。
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あまりに泣きぬ若き時

  フヱルナン・グレヱ


わけなき事にも若き日はただひた泣きに泣きしかど、
その「哀傷」何事ぞ今はよそ/\しくぞなりにける。
哀傷の姫は妙なる言葉にわれをよび、
小暗おぐらきかげにわれを招ぐもあだなれや。
わがまなこ、涙は枯れて乾きたり。
なつかしの「哀傷」いまはあだし人となりにけり。[#「なりにけり。」は底本では「なりにけり。[#改行]」]
折もしあらば語らひやしけん辻君つじぎみ
寄りそひ来ても迎へねば
わかれしのちは見も知らず。
何事もわかき日ぞかし。心と心今はかよはず。
[#改ページ]

沈みし鐘

  スチユアル・メリル


われは過ぎ去りし太古の世の君王くんおうにやあらむ。
其国そのくにの都は海の底に沈みて音もなし。
黒がねの声なき鐘も過ぎにし世には幾たびか
響も高く幾代いくよの春を告げわたりしに。

われは幾代のむかし消え失せし
あまたの妃の名をも知りたりけむ。
そは静けき夜半よわに散り失せし
しおれたる花にも似たりけり。

わが尊き宝を積み載せし重き船
沈みてきしはてはいづこぞ。
その時よりして我は波の底深く宝を探る
狂へる人とこそはなりにけれ。

そのむかし我に従ひし夥多あまたの蛮民
空高くわが勝利を叫びてわが為に黒き喪の旗を、
都に立てしの過ぎし世の光栄を、
何故にわれは今また見むことを願へるや。

今われはひややかなるまなこに、
月の光を望みて、つるぎを片手に、
大空おおぞら我名わがなをしるしとどめむものと、
次の世のきたるを待ちつゝあるか。

さはさりながら勝利の望み、
今わが胸は幽憤のおもいにふさがれたり。
うつり行く々の勝利。我は既にいくたびか、
あらしに消ゆる喇叭ラッパの声を聞かざりしか。

過ぎにし幾代の春を告げたりし黒がねの鐘の声。
今その鐘は沈みていづこに在りや。
我こそはに、その国の都は海の底に沈みて声もなき
過ぎにし太古のの君王なりけれ。
[#改ページ]

夏の夜の井戸

  スチユアル・メリル


寐入りし少女おとめの夢さへ覚ます月の光に
ゆる飼犬はたゞ真青まっさおな影かとばかり。
ほのおしずくの小さな星一ツ
旅籠屋はたごやの井戸の底に落ちたのを、
恋知りそめた子供のやうに
私等二人は眺めてゐた時。
お前の髪を解きほごす素早い私の指先から、
長いお前の髪毛かみのけ
旅籠屋の井戸の中へと流れ込んだ。
忘れはせまい。蟋蟀こおろぎは庭の小高いところから、
綱に引きけた洗濯物の
風にも動かず干されてある
河辺のほうまできしきつてゐた。
「恐れ」がさまよひ歩くと云はれた
向うの小山の森はいとも静けく
夜の暗さにつゝまれて
酒場で酒呑む人の高声たかごえ
しんとした冬ののやうに
すずの器や瀬戸物や
硝子ガラスさかずき照す灯火あかりと共に消えてゐた。

お前は何やら小声にさゝやいたが、
私はささやきをお前の唇の、
この六月に咲く赤い花弁はなびらの上に押潰おしつぶして、
ふるへるお前の両手をばお前の胸から引取つて、
私も同じやう何やらお前に云つたのだけれど、
今ははや何と云つたのか覚えてはゐない。

あらはなるお前のかいな
私は抱かれてゐる間もなく
森に通ふ街道に、それはさなが
沈黙と血の中にみ消したいと思ふやうな
物狂はしい思出おもいいでの夢かとばかり、
突然聞える酔払つた人達の騒ぐ声。

お前と私は、それなり、別れてしまつたのだ。
星の雫の降りそゝぐ井戸のほとりに。
[#改ページ]

奢侈

  アルベヱル・サマン


奢侈おごり生命いのちの樹になる死の果実。
羨望うらやみの歯の根をうごかす禁制の果実。

倦怠けんたい沙漠さばくに坐せる黄金こがね怪獣シメール
老いにし「慾情」と「よる」よりうまるゝけがれし女。

七重ななえなる綾羅うすものの下にちりばめし「悪徳」の金剛石。
火の火。血の血。骨の中なるずいの髄。

地の底の魔薬を持てる浮浪の魔女。
脳漿のうしょうを吸ひ取り精気をひしぐ魔女。

くぞたとへん。幽遠神秘の「奢侈おごり」。
あゝなるかな暗黒やみ宮殿みやいのこの「奢侈」。

奢侈は荘麗の位にく肉感の祭典。
耻辱の冠。汚濁の肩衣かたぎぬ

裸形ニュージテエ紅色くれないの気高き女体美の庭。
霊魂をむせび泣かしむる肉の天国。

駘蕩たいとうたる夜気をうごかす千丈の髪。
暗澹あんたんたる香気の妖術。黒き薫り。

とう々たる血の流れの歌。酔倒の欷歔すすりなき
快感の身顫みぶるいやわらかき接触の弥増いやまさる緩き波動。

神経をしびらす柔き接触……おわり知られぬ柔き接触。
眼光まなこあふるゝ柔き接触……魂も消える柔き接触。

堪へぬ甘味あまさの花蔭よりかなずる楽の音……消え行く心。
響なきいとを弾ずる歓喜よろこびばち疲労つかれ

あゝ唇よ唇よ。消え行く接吻くちづけ。歯に噛む接吻。
痴情の寝屋ねやの死のごとくに深き唇。

かくぞ譬へん。幽遠神秘の「奢侈おごり」。
あゝ偉なる哉。哀傷の空の赤き星なるこの「奢侈」。

奢侈は人骨の裏にひそめる細き毒蛇。
はさみさきのごとくにとがりし慾望。

不吉の時を歌ふ酔へる警鐘はやがね
清浄を嫉視しっしする夜陰やいんの尼なる魔界の天使。

覚醒かくせいいきどおる不眠症の荊棘いばら
睡眠の高き壁にうごめく悪魔が夜宴の大壁画。

乱れ打つ四竹よつだけの拍子につれて少しく開く綾羅りょうらとばり
羨望うらやみの神タンタルをおどろかす空虚のさかずき

もゆる氷塊。凍るほのお
歓楽の野獣眠るむさくろしきうまや

かくぞ譬へん。幽遠神秘の「奢侈」。
あゝ偉なる哉。※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みひらきて浮世を目戍みまも貪婪どんらんの眼の「奢侈」。

奢侈は熱帯の激烈なる幻想。
羽毛の飾と槍とを連ねし蛮土の王侯。

驚くべき GANGES 河ガンジュがほとりなる翡翠ひすいの宮殿。
広大なる庭園。香気の湖水。うずもれし黄金こがね

酷熱の赤道の恐るべき芽生月めばえづき
群飛ぶ甲虫こがねむし金色こんじきなす寂寞せきばく

羊毛と鋭き香気の眩暈げんうんと。
緑なす毒の沼池を照す血色ちいろの月。

かくぞ譬へん。幽遠神秘の「奢侈おごり」。あゝ偉なる哉。
恐怖すべき暗黒の偶像なるこの「奢侈」。

奢侈はおもて蒼白あおじろき狂乱の帝王がかしらの飾。
髪赤く丈高き娼婦のくびかざり。

節奏リトム舞踊ダンス擬容劇ミイムの女王。
黄金こがねにて築く D※(アキュートアクセント付きE)CADANCEデカダンス凱旋門がいせんもん

雄々しきとらと大理石とに取巻れし、
淫楽の皇帝のおそろしき夢。

うるおへる血の花。快楽と哀傷と。
花のうてなに甘さの限りを吸ひたる「死」。

炎々たる焔の中なる楽器のさま/″\。
墳墓の緑色なす灯火ともしびに親しむ「死」。

日輪の国の滅亡。無上の尊称。
偉大なる昂奮こうふん刺戟しげきの宗教。

燐光の技術たくみによりてひらめいで瞬間つかのまの、
最終いまわの遊宴……最終の呼吸……糸のごと臨終いまわ喘咽あえぎ

かくぞ譬へん。幽遠神秘の「奢侈おごり」。あゝ偉なる哉。
癩病らいびょうの崩れの金光燦爛さんらんたるこの「奢侈」。

奢侈は肉慾の胸より吐出はきいださるゝ熱き呼吸。
欲求と呼ばれしとどろ身顫みぶるいの赤き海。

快感の葡萄園ぶどうえん。熟して重き葡萄のふさ稀有けうの珍味。
相俟あいまつてたがいの性慾を狂奔せしむる性慾の酒。

恋愛のいたみしずむる妙薬。怨恨えんこんを激する昂奮剤。
心の旅路に彷徨さまよふ巡礼者の泊り宿。

瞬間によりて生じたる永遠の衝動。
幻想の怪獣走りつゝ水を飲むあふるゝ噴井戸ふきいど

世捨し人々の心を澄す処。おそるゝものゝ懼れぬ心。
奴隷の鴉片あへん。癩病者の牝犬めいぬ

渇ける唇に触れて離れぬ曇りなき水瓶みずがめ
強者の弱点。弱者の強所。

悔恨を殺す夜半の毒草。
死者の口をもひらかしむべき胡蘆ふくべ水入みずいれ

暴飲の海に帆を揚げていず
漠々たる郷愁ノスタルヂイ楼船やかたぶね

鼻孔を開き毛を逆立て、
虚無に向ひて突進する騎士の牝馬めうま

彼方かなた遥けく燃残る GOMORRHEゴモル の塔と、
SODOMEソドム の庭のほのおを望む硫黄いおう湖水みずうみ

この身のおわりを覚悟して見上みあぐる苦悩の大空おおぞら
殉教者。さいなまれし心に満る歓喜の涙。

火焔かえんうちに坐してけがれし祭典まつりする悪魔の王が、
永劫えいごう無窮むきゅうの祈願を凝らす闇の塔。

死を致す涜罪とくざいの食慾。渇きとうえ
底なきふち。影なき日輪。はてしなき渦巻。

神経の神経、酸素の酸素なる「奢侈おごり」。
呪はれし自滅の恋なる終の「奢侈」。

渾然を望む痙攣けいれん。絶対のうちなる饗宴。
世界の最後。天体回転の終局なる「奢侈おごり」。

哀願慈悲の聖女。黄金こがねの血の聖女。
貪慾どんよく無情の聖女。永久えいきゅうに聖なる聖女。

火焔の都。忘却の魔薬。黒鉄くろがねきり
堕落の聖女。地獄の NOTRE-DAMEノートルダーム

かくぞたとへん。幽遠神秘の「奢侈」。あゝ偉なる哉。
現世うつしよの不朽不死なるきさきにも譬ふべきの「奢侈」。





底本:「珊瑚集」岩波文庫、岩波書店
   1991(平成3)年11月18日改版第1刷発行
底本の親本:「荷風全集第十一卷」岩波書店
   1964(昭和39)年11月28日発行
初出:死のよろこび「讀賣新聞」
   1909(明治42)年5月18日
   憂悶「讀賣新聞」
   1909(明治42)年5月18日
   暗黒「讀賣新聞」
   1909(明治42)年5月18日
   仇敵「スバル 第七號」昴発行所
   1909(明治42)年7月1日
   秋の歌「スバル 第七號」昴発行所
   1909(明治42)年7月1日
   腐肉「スバル 第八號」昴発行所
   1909(明治42)年8月1日
   月の悲しみ「スバル 第八號」昴発行所
   1909(明治42)年8月1日
   そゞろあるき「新文林 第二卷第四號」白鳳社
   1909(明治42)年4月1日
   ぴあの「新文林 第二卷第四號」白鳳社
   1909(明治42)年4月1日
   ましろの月「女子文壇 第五年第四號」女子文壇社
   1909(明治42)年3月1日
   道行「女子文壇 第五年第四號」女子文壇社
   1909(明治42)年3月1日
   夜の小鳥「スバル 第九號」昴発行所
   1909(明治42)年9月1日
   暖き火のほとり「女子文壇 第五年第四號」女子文壇社
   1909(明治42)年3月1日
   返らぬむかし「スバル 第九號」昴発行所
   1909(明治42)年9月1日
   偶成「スバル 第九號」昴発行所
   1909(明治42)年9月1日
   沼「スバル 第十一號」昴発行所
   1909(明治42)年11月1日
   池「スバル 第十一號」昴発行所
   1909(明治42)年11月1日
   音楽と色彩と匂ひの記憶「スバル 第十號」昴発行所
   1909(明治42)年10月1日
   秋のいたましき笛「スバル 第十號」昴発行所
   1909(明治42)年10月1日
   仏蘭西の小都会「スバル 第十二號」昴発行所
   1909(明治42)年12月1日
   葡萄「スバル 第十二號」昴発行所
   1909(明治42)年12月1日
   われはあゆみき「スバル 第二年第一號」昴発行所
   1910(明治43)年1月1日
   夕ぐれ「スバル 第二年第一號」昴発行所
   1910(明治43)年1月1日
   秋「スバル 第二年第一號」昴発行所
   1910(明治43)年1月1日
   正午「三田文學 第一卷第一號」三田文學会
   1910(明治43)年5月1日
   告白「三田文學 第一卷第一號」三田文學会
   1910(明治43)年5月1日
   庭「スバル 第二年第七號」昴発行所
   1910(明治43)年7月1日
   ※(「缶+并」、第4水準2-84-68)「スバル 第二年第七號」昴発行所
   1910(明治43)年7月1日
   年の行く夜「三田文學 第一卷第八號」三田文學会
   1910(明治43)年12月1日
   暮方の食事「三田文學 第一卷第七號」三田文學会
   1910(明治43)年11月1日
   道のはづれに「三田文學 第一卷第七號」三田文學会
   1910(明治43)年11月1日
   ありやなしや「三田文學 第一卷第七號」三田文學会
   1910(明治43)年11月1日
   四月「秀才文壇 第九卷第十三號」文光堂
   1909(明治42)年6月15日
   ロマンチツクの夕「秀才文壇 第九卷第十三號」文光堂
   1909(明治42)年6月15日
   九月の果樹園「三田文學 第一卷第六號」三田文學会
   1910(明治43)年10月1日
   西班牙を望み見て「三田文學 第一卷第六號」三田文學会
   1910(明治43)年10月1日
   菊花の歌「花月 第七號」花月発行所
   1918(大正7)年11月1日
   あまりに泣きぬ若き時「新小説 第二十六年第三號」春陽堂
   1921(大正10)年3月1日
   夏の夜の井戸「三田文學 第二卷第十號」三田文學会
   1911(明治44)年10月1日
   奢侈「三田文學 第四卷第二號」三田文學会
   1913(大正2)年2月1日
※「憂悶」の初出時の表題は「憂鬱」です。
※「腐肉」の初出時の表題は「屍」です。
※「そゞろあるき」の初出時の表題は「感覚」です。
※「ぴあの」の初出時の表題は「ピヤノ」です。
※「偶成」の初出時の表題は「無題」です。
※「夕ぐれ」の初出時の表題は「夕暮」です。
※「告白」の初出時の表題は「宣言」です。
※「※(「缶+并」、第4水準2-84-68)」の初出時の表題は「瓶」です。
※「道のはづれに」の初出時の表題は「道のはづれ」です。
※「西班牙を望み見て」の初出時の表題は「西班牙を望みて」です。
※「夏の夜の井戸」の初出時の表題は「井戸のほとり」です。
※「奢侈」の初出時の署名は「金富参川」です。
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
※誤植を疑った箇所を、親本の親本「荷風全集第二卷」中央公論社、1950(昭和25)年2月20日発行の表記にそって、あらためました。
※「音楽と色彩と匂ひの記憶」の底本原詩での著者名は「Maurice Vaucaire」です。
※「菊花の歌」の底本原詩での著者名は「Charles Grandmougin」です。
入力:入江幹夫
校正:きりんの手紙
2021年11月27日作成
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