むかし、ファネットの田舍に、ジェミイ・フリールという青年が母と二人でくらしていた。
ジェミイの家からすぐ近くに、くずれかけた古いしろがあって、「小さい人たち」すなわち
「母さん、ぼくはいい運をさがしに、おしろにいってみます。」
母はおどろいて、おしろにどんなこわいことがあるかもしれないととめたけれど、だいじょうぶ、すぐ帰ってきますといってでていった。
いも畑をつっきると、もうそこにしろが見えた。窓々にはあかあかと燈火がついて、夜の林の木々にまつわるかれ葉も黄ろく金いろに見えていた。木立のかげにたってジェミイは
小人たちは新しいお客を見ると、みんながよんだ。「ようこそ、ジェミイ・フリール! ようこそ、ようこそ!」このようこその声が傳わってしろじゅうのみんなが「ようこそ」といいあった。
時間がたって、ジェミイはゆ快になっていると、主人がわの妖精がいった。「われわれは今夜ダブリンまで遠乗りして、おじょうさんを一人ぬすんでこようと思うんだ。一しょにゆかないか、ジェミイ・フリール?」
「うん、ゆくよ。」
数頭の馬が入口にたっていて、その一つに乗ると、馬はすうっと空中にとび上り、妖精たちの一隊と一しょにもうすぐジェミイの母の家の上をとびこえて、高い山や低い山もどんどんとびこえ、深い湖もこえて、町々や村々の上をとんで行った。地上の人たちはたのしい萬聖節のお祝いにたき火で「くるみ」を燒いたり、林ごをたべたりしているのだった。アイルランドの國じゅうをとびまわるのかとジェミイが思っていると、デリイの市にきた。お寺の高い塔の上をこえるとき、「ここがデリイだよ」と一人の
とちゅうのどこの市にきてもジェミイはいちいちその名を教えられて、やっとのことダブリンにつくと、銀の鈴のような小さい声々が「ダブリン、ダブリン、ダブリン!」と教えてくれた。
妖精たちの目あての家はスティヴンスのおかのりっぱな住宅の一つだった。かれらが窓の近くで馬をおりると窓のなかのりっぱなベッドにねむっている美しい顏がジェミイにみえた。妖精たちはおじょうさんをだいて外につれだし、その代りに一本のぼうをベッドにおくと、それがおじょうさんのすがたに変った。
一人の妖精がおじょうさんを自分の前にのせて少し行くと、またべつの妖精にわたし、ゆくときのとおりに町々の名をよびながら馬を走らせる。だんだん自分の家の近くまできたことがわかるとジェミイはいった。
「みんなが代りばんこにおじょうさんを乗せているね、ぼくも、ちょっとでも乗せてあげたい。」
「よろしいとも、お前もおじょうさんをのせてあげな。」妖精たちがきげんよくジェミイにいうので、ジェミイは大事なおじょうさんをしっかりかかえて、いきなり、母の家の入口にとびおりてしまった。
「ジェミイ・フリール、ジェミイ・フリール、こすいことをするな!」
ジェミイはしっかりおじょうさんをだいていた。ここまでくるみちみち
「ジェミイ・フリールはおじょうさんをとってしまったけど、いいことはないよ。私は、おじょうさんをつんぼのおしにしてやる!」そういってかの
妖精たちは失望してさってしまうと、ジェミイは家のかけ
「まあ、ジェミイや、妖精たちはどうしたの?」母は心配したが、むすこはへいきだった。
「母さん、とても運がよかったよ。母さんの話相手にこんなきれいなおじょうさんをつれてきた。」
母はおどろいて「まあ、まあ!」というだけだった。ジェミイは今夜のできごとを話して、おじょうさんが妖精たちにつれて行かれて、まよい兒になってはかわいそうだから、助けてきたといった。つんぼのおしのおじょうさんはうすいねまきで寒そうにふるえながら火のそばによっていた。
「かわいそうに、おとなしいきれいなおじょうさんだね! こんな貧ぼうな家でも、何かきせてあげるものはないかしら?」母はしばらく考えて、自分の寢部屋にいって、日曜日の教会ゆきにきる茶いろの外とうをだした。それから別のひきだしから、白い靴下や、雪のようにまっ白いリンネルの上着と白いぼうしをだした。おむかえぎといって長い前から用意された死衣しょうなのだが、母はおしげもなくそれをおじょうさんにきせると、おじょうさんはだまってきせられて、それからろのそばのこしかけにしずみこんで、両手で顏をかくしていた。
「あなたのようなりっぱなおじょうさんを、私たちが養ってゆけるかしら?」母は心配したが、ジェミイはその日から、お母さんとおじょうさんのためにむちゅうになって働いた。おじょうさんはそれからも長いあいだ悲しそうにしていたが、だんだんジェミイの家の生活になれてくると、ぶたの世話をしたりにわとりのえをやったり、古い毛糸でソックスをあんだりするようになって、一年の月日がすぎた。また萬聖節の祭日がまわってくると、ジェミイはぼうしを持って母にいった。
「母さん、ぼくはいい運をさがしに、もう一度おしろに行ってきます。」
ジェミイは去年のとおり林ごの木立のかげにたって、窓のなかの明るい燈火をながめ小人たちのさわぎをきいていると、中ではかれのうわさをして「去年はジェミイのやつがひどいことをしたね、きれいなおじょうさんをさらって行って」と一人がいっている。すると小人の女が「だから私がしかえしをしてやったのよ。あのむすめはつんぼのおしで何もできはしない。私のこのコップの水を三てきだけ飮ませれば、すっかりなおるんだけど、ジェミイはそんなこと知らないんだ。」
ジェミイは心がおどるようで、内にはいって行くと、
「ジェミイ・フリールがきた! ようこそ、ジェミイ、よくきてくれた!」その歓げいの声がしずまると、小人の女がコップをだした。
「ジェミイ、私たちの健康を祝って、このコップから飮んでね。」
ジェミイはコップを取るがはやく入口をかけだした。まるでむちゅうで、走って走って家にとびこむと、ろのそばにしりもちをついてしまった。きちがいのようにいも畑をかけてくるときコップの水がこぼれてしまったけれど、まだすこし残っていて、三滴の水を大いそぎでおじょうさんに飮ませてあげると、おじょうさんはすぐに口がきけて、まずジェミイのしんせつのお礼をいうことができた。
朝になっておじょうさんは紙とペンとインキをだしてもらって、ダブリンのお父さんに手紙を書いた。だが、その返事はこなかった。何度も手紙をだしても返事がないのだった。
おじょうさんはダブリンまで一しょに行ってくれとジェミイにたのんだが、ジェミイはダブリンまで馬車をやとうお金がなかった。とうとう二人はダブリンまで歩くことにして、遠い道を歩いていった。
ステーヴンスおかのお父さんの家では取次の下ぼくがでてきて「ここの家にはおじょうさんはありません。一人いらっしたのですが、去年なくなりました」とこのおじょうさんを内に入れようとしなかった。おじょうさんがお父さんかお母さんに会わせてくれとないてたのむので両親がでてきたけれど、
「うちのむすめはもう一年も前に死んでほうむられている。お前はかたりだろう」とどうしても受けいれてくれない。一年前にほうむったむすめのことを考えると、どんなによくにていても、かれらにはどうしても信じられないのだった。
「みんなが私をわすれたのね! 母さん、私のくびの『ほくろ』を見てください。私がわかりませんか?」母はそういわれてようやく自分のむすめだとわかったけれど、おかんに入れてほうむったむすめのことがどうにもふしぎに思われた。それでジェミイは去年の萬聖節の夜のぼう險から、おじょうさんが三滴の水の力で救われた話もきかせた。
おじょうさんはジェミイ
「ジェミイは
かたく決心しているので、それでは、ジェミイをおじょうさんのむこにしようとお父さんがいいだし、ジェミイのお母さんをりっぱな馬車でよんできて、すばらしい結こん式をした。
それから、ダブリンの家でみんな一しょにくらして、お父さんがなくなると、ジェミイとおじょうさんと二人がお父さんの財産をゆずられたのであった。