人魚の嘆き

谷崎潤一郎




むかし/\、まだ愛親覚羅あいしんかくら氏の王朝が、六月の牡丹ぼたんのやうに栄え耀かがやいて居た時分、支那しなの大都の南京ナンキン孟世※(「壽/れんが」、第3水準1-87-65)もうせいちゅうと云ふ、うら若い貴公子が住んで居ました。の貴公子の父なる人は、一と頃北京ペキンの朝廷に仕へて、乾隆けんりゅうみかどのおん覚えめでたく、人のうらやむやうな手柄をあらはす代りには、人から擯斥ひんせきされるやうな巨万の富をもこしらへて、一人息子の世※(「壽/れんが」、第3水準1-87-65)が幼い折に、此の世を去つてしまひました。すると間もなく、貴公子の母なる人も父の跡を追うたので、取り残された孤児の世※(「壽/れんが」、第3水準1-87-65)は、自然と山のやうな金銀財宝を、独り占めにする身の上となつたのです。
年が若くて、金があつて、おまけに由緒ある家門のほまれを受け継いだ彼は、もうれだけでも充分仕合はせな人間でした。しかるに仕合はせは其れのみならず、世にも珍しい美貌びぼうと才智とが、此の貴公子の顔と心とに恵まれて居たのです。彼の持つて居るおびただしい貲財しざいや、秀麗な眉目びもくや、明敏な頭脳や、其れの特長の一つを取つて比べても、南京中の青年のうちで、彼の仕合はせに匹敵する者は居ませんでした。彼を相手に豪奢ごうしゃな遊びを競ひ合ひ、教坊の美妓びぎを奪ひ合ひ、詩文の優劣を争ふ男は、誰も彼もことごとく打ち負かされてしまひました。さうして南京に有りと有らゆる、煙花城中の婦女の願ひは、たとへ一と月半月なりと、あの美しい貴公子を自分の情人にする事でした。
※(「壽/れんが」、第3水準1-87-65)は、う云ふ境遇に身を委ねて、ようや総角あげまきれた頃から、いつとはなしに遊里の酒を飲み初め、其の時分の言葉で云ふ、窃玉偸香せつぎょくとうこうの味を覚えて、二十二三の歳までには、およそ世の中の放蕩ほうとうと云ふ放蕩、贅沢ぜいたくと云ふ贅沢の限りを仕尽してしまひました。そのせゐか近頃は、頭が何となくぼんやりして、何処どこへ行つても面白くないので、終日やしき籠居ろうきょしたまゝ、うつらうつらと無聊ぶりょうな月日を送つて居ます。
「どうだい君、此の頃はめつきり元気が衰へたやうだが、ちと町の方へ遊びに出たらいゝぢやないか。まだ君なんぞは、道楽に飽きる年でもないやうだぜ。」
悪友の誰彼たれかれが、う云つて誘ひに来ると、いつも貴公子はものうげな瞳を据ゑて、高慢らしくせゝら笑つて答へるのです。
「うん、………おれだつてまだ道楽に飽きては居ない。しかし遊びに出たところで、何が面白い事があるんだい。己にはもう、有りふれた町の女や酒の味が、すつかり鼻に着いて居るんだ。ほんたうに愉快な事がありさへすれば、己はいつでもお供をするが、………」
貴公子の眼から見ると、年が年中同じやうな色里いろざとの女におぼれて、千篇一律の放蕩を謳歌おうかして居る悪友どもの生活が、むし不憫ふびんに思はれる事さへありました。しも女に溺れるならば、普通以上の女でありたい。若し放蕩を謳歌するなら、常に新しい放蕩でありたい。貴公子の心の底には、う云ふ慾望が燃えて居るのに、其の慾望を満足させる恰好かっこうな目標が見当らないので、よんどころなく彼は閑散な時を過して居るのでした。
しかし、世※(「壽/れんが」、第3水準1-87-65)の財産は無尽蔵でも、彼の寿命は元より限りがありますから、さういつ迄も美しい「うら若さ」を保つ訳には行きません。貴公子も折々れを考へると、急に歓楽が欲しくなつて、ぐづ/\しては居られないやうな気分に襲はれる事があります。何とかして今のうちに、現在自分の持つて居る「うら若さ」の消えやらぬに、もう一遍たるんだ生活を引きしぼつて、冷えかゝつた胸の奥に熱湯のやうな感情を沸騰させたい。連夜の宴楽、連日の讌戯えんぎひたりながら、なおむことを知らなかつた二三年前の昂奮こうふんした心持ちに、どうかして今一度到達したい。などゝ焦つては見るのですが、別段今日になつて、彼を有頂天にさせるやうな、香辣こうらつ刺戟しげきもなければ斬新ざんしんな方法もないのです。もはや歓楽の絶頂を極め、痴狂ちきょうの数々を経験し尽した彼に取つて、もう其れ以上の変つた遊びが、此の世に存在するはずはありませんでした。
そこで貴公子は仕方なしに、自分の家の酒庫さかぐらにある、珍しい酒を残らず卓上へ持ちきたらせ、又町中の教坊に、四方の国々から寄り集まつた美女の内で、殊更ことさら才色のめでたい者を七人ばかりえらび出させ、其れを自分のめかけに直して、各々七つの綉房しゅうぼうに住まはせました。酒の方では、づ第一があまくて強い山西さんせい※(「さんずい+路」、第3水準1-87-11)安酒るうあんちゅう、淡くて柔かい常州の恵泉酒ふぇいちゅあんちゅう、其の外蘇州そしゅう福珍酒ほちんちゅうだの、湖州の烏程潯酒うーじんちんちゅうだの、北方の葡萄酒ぶどうしゅ※(「女+乃」、第4水準2-5-41)ばないしゅ梨酒りしゅ棗酒そうしゅから、南方の椰漿酒やしょうしゅ樹汁酒じゅじゅうしゅ蜜酒みつしゅの類に至るまで、四百余州に名高い佳醴芳醇かれいほうじゅんは、朝な夕なの食膳にかわがわさかずきがれて、貴公子の唇を湿うるほしました。しかし此れの酒の味も、以前にび度び飲みれて居る貴公子の舌には、其れ程新奇に感ずる筈がありません。飲めば酔ひ、酔へば愉快になるものゝ、何となく物足りない心地がして、昔のやうに神思※(「風にょう+昜」、第3水準1-94-7)ひょうようたる感興は、一向胸にいて来ないのです。
「どうして内の御前ごぜんさまは、毎日あんなにふさぎ込んで、退屈らしい顔つきばかりなすつていらつしやるのだらう。」
七人の妾たちは、互ひにう云つていぶかりながら、有らん限りの秘術をつくして、貴公子の御機嫌を取り結びます。紅々と云ふ、第一の妾は声が自慢で、ひまさへあれば愛玩あいがん胡琴こきんを鳴らしつゝ、婉転えんてんとして玉のやうな※(「口+龍」、第4水準2-4-48)こうろうもてあそび、鶯々おうおうと云ふ、第二の妾は秀句が上手で、機に臨み折に触れては面白をかしい話題を捕へ、小禽ことりのやうな絳舌蜜嘴こうぜつみつしをぺらぺらとさえずらせる。肌の白いのを得意として居る、第三の妾の窈娘ようじょうは、ややともすると酔に乗じて、神々こうごうしい二の腕の膩肉じにくを誇り、愛嬌あいきょうを売り物にする第四の妾の錦雲きんうんは、いつも豊頬ほうきょう腮窩さいわを刻んで、さもにこやかにほゝ笑みながら、柘榴ざくろの如き歯列はならびを示し、第五、第六、七の妾たちも、それ/″\己れの長所をたのんで、しきりに主人の寵幸ちょうこうを争ふのです。けれども貴公子は、此の女たちのいずれに対しても、格別強い執着を抱く様子がありません。世間普通の眼から見ると、彼等は絶世の美人に違ひありませんが、驕慢きょうまんな貴公子を相手にしては、やはり酒の味と同じやうに、折角の嬌態が今更珍しくも美しくも見えないのです。う云ふ風で、次ぎから次ぎへと絶えず芳烈な刺戟を求め、永劫えいごうの歓喜、永劫の恍惚こうこつに、心身を楽しませようと云ふ貴公子の願ひは、なか/\一と通りの酒や女の力を以て、遂げられる訳がないのでした。
「金はいくらでも出してやるから、もつと変つた酒はないか。もつと美しい女は居ないか。」
貴公子の邸へ出入する商人共は、常にう云ふ注文を受けて居ながら、未だかつて彼の賞讃を博する程の、立派な品をもたらした者は居ませんでした。中にはまた、物好きな貴公子のうわさを聞いて、金が欲しさに諸所方々の国々から、えたいの知れないまやかし物を、はるばると売り附けに来る奸商かんしょうがあります。
「御前さま、此れはわたくし西安せいあん老舗しにせくらから見つけ出した、千年も前の酒でございます。何でも此れは唐の昔に、張皇后がおたしなみになつたと云ふ、有名な※脳酒げんのうしゅ[#「玄+鳥」、U+4CBB、39-15]だと申します。又の方は、同じく唐の順宗皇帝がお好みになつた、竜膏酒りゅうこうしゅださうでございます。嘘だとおぼし召すならば、よく酒壺の古色を御覧下さいまし。千年前の封印が、此の通り立派に残つてります。」
こんな工合ぐあいに持ちかけるのを、人の悪い貴公子は、黙々として聞き終つてから、さておもむろに皮肉を云ひました。
「いや、お前の能弁には感心するが、己をだまさうと云ふ了見なら、もう少し物識りになるがいゝ。其の酒壺は江南の南定窯なんていようと云ふ奴で、南宋以前にはなかつた代物だ。唐の名酒が宋の陶器に封じてあるのは滑稽こっけい過ぎる。」
う云はれると商人は一言もなく、冷汗をいて引き退さがつてしまひます。実際、陶器に限らず、衣服でも宝石でも絵画でも刀剣でも、あらゆる美術工芸に関する貴公子の鑒識かんしきは、気味の悪いくらゐ該博がいはくで、支那中の考古学者と骨董家こっとうかとが集まつても、到底彼の足元にすら及ばない事は確かでした。女を売りに来るやからも、うるさい程多勢あつて、めい/\勝手な手前味噌てまえみそならべ立てます。
御前ごぜんさま、今度と云ふ今度こそ、素晴らしい玉が見つかりました。生れは杭州こうしゅうの商家の娘で、名前を花麗春と云ふ、十六になるでございますが、器量は元より芸が達者で詩が上手で、づあれ程の優物ゆうぶつは、四百余州に二人とはございますまい。まあ欺されたと思し召して、本人を御覧になつては如何いかがでございませう。」
こんな話を聞かされると、毎々彼等に乗せられて居ながら、つい貴公子は心を動かして、一応の児を検分しないと気が済みません。
「それでは会つて見たいから、早速呼んで来るがいゝ。」―――多くの場合、彼はかくう云ふ返辞を与へるのです。
しかし、人買ひの手につれられて、貴公子の邸へ目見まみえに上る美人連は、余程厚顔な生れつきでない限り、大概赤耻あかはじかされて、泣く泣く逃げて帰るのが普通でした。なぜと云ふのに、其の人買ひと美人とは、最初に先づ、豪奢ごうしゃを極めた邸内の庁堂へしょうぜられ、長い間待たされた後、今度は更に鏡のやうな花斑石かはんせき舗甎ぶうせん[#ルビの「ぶうせん」はママ]んで、遠い廊下を幾曲りして、遂に奥殿の内房へ案内されます。見ると其処そこでは今や盛大な宴楽が催され、或る者は柱にもたれて簫笛しょうてきを吹き、或る者は囲屏いへいつて琵琶びわを弾じ、多勢の男女が蹣跚まんさんと入り交りつゝ、手に手に酒※しゅさん[#「王+戔」、U+7416、41-10]を捧げながら、雲鑼うんらを打ち月鼓げっこを鳴らして、放歌乱舞の限りを尽して居るのです。もう其れだけで、好い加減きもを奪はれてしまひますが、しかも主人の貴公子は、いつも必ず一段高い睡房すいぼうとばりの蔭に、錦繍きんしゅう花毬かたんの上へ身をよこたへて、さも大儀さうな欠伸あくびをしながら、眼前の騒ぎを余所よそにうつらうつらと、銀の煙管きせる阿片アヘンを吸うて居りました。
「成る程、四百余州に二人とない美人と云ふのは、此の児の事かな。………」
貴公子はやをら身を起して、ねむさうな眼でぢろりぢろりと二人を視詰みつめます。さうかと思ふと、直ぐに鼻先でせゝら笑つて、
「………だがしかし、四百余州と云ふ所は、己の内より余程女が居ないと見える。お前も人買ひを商売にするなら、後学の為めに己のめかけを見てやつてくれ。」
く云ふ主人の声に応じて、例の七人の寵姫ちょうきたちは、さながららされたはとのやうに、たちま綉簾しゅうれん隙間すきまから、ぞろぞろと其処そこへ姿を現はすのです。思ひ思ひの羅綾らりょうまとひ、思ひ思ひの掻頭そうとうかざした各々の寵姫の背後には、いづれも双鬟そうかんの美少年が、左右に二人づゝ扈従こしょうしながら、始終の長い絳紗こうしゃ団扇うちわで、彼等の紅瞼こうけんに微風のさざなみを送つて居ます。彼等は七人の女王の如く、光り耀かがや驕笑きょうしょうを浮べて、貴公子の周囲に彳立てきりつしたまゝ、互ひに顔を見合はせて、いつ迄でも黙つて居ます。黙つて居れば黙つて居る程、彼等の美貌びぼうきわ鮮やかに照り渡り、いかほど慾に眼のくらんだ人買ひでも、思はず知らず恍惚こうこつとせずには居られません。しばら茫然ぼうぜんとして、讃嘆のまたたきを続けた後、ようやく我にかえつた人買ひは、かえりみて自分の売り物の哀れさ醜さに心付くと、挨拶あいさつもそこそこに、ふ這ふのていで邸を逃げ出してしまひます。其の後ろ影を見送りながら、主人の貴公子は張り合ひのない顔つきをして、がつかりしたやうに、再びころんでしまふのでした。

やがて、其の年の夏が暮れ、秋が老けて、十月朝じえちょうの祭も終り、孔夫子こんふうつうの聖誕も過ぎてしまひましたが、彼の頭に巣喰すくつて居る倦怠けんたい幽鬱ゆううつとは、依然として晴れる機会がありません。「うら若さ」を頼みにして居る貴公子も、いよ/\来年は二十五歳になるかと思へば、房々ふさふさとした鬢髪びんぱつの色つやまでが、だんだん衰へて来るやうに感ぜられます。気分がふさげば塞ぐほど、心がさびしくなればなるほど、享楽にあこがれ、昂奮こうふんを求める胸中のもどかしさは※(二の字点、1-2-22)ますます募つて、うまくもない酒を飲んだり、可愛かわいくもない女をなぶつたり、十日も二十日も長夜の宴を押し通して、沸き返るやうな馬鹿ばか騒ぎを催したり、いろいろ試して見ますけれど、さつぱり利き目はありませんでした。それで結局は、あのばくと云ふ獣のやうに、阿片を吸つて夢をくらつて、荒唐無稽こうとうむけいな妄想の雲に囲繞いにょうされつゝ、終日ひもすがらぼんやりと、手足を伸ばして居るより外はなかつたのです。
貴公子のまゆの曇りは晴れやらぬまゝに、とうとう其の年が明けて、のどかな迎春の季節となりました。此の時分、大清だいしんの王化はあまねく支那の全土に行き渡り、かみ英明えいめいの天子をいただいた十八省の人民は、鼓腹撃壌こふくげきじょうの泰平に酔うて、世間が何となく、陽気に浮き立つて居ましたから、正月の南京の町々は近来にないにぎやかさです。ちやうど一月の十三日―――所謂いわゆる上燈しゃんてんの日から十八日の落燈ろてんの日まで、六日の間を燈夜てんやーと唱へて、毎年戸々の家々では夜な夜な門前に燈籠とうろうを点じ、官庁や富豪の邸宅などは、楼上高く縮緬ちりめん幔幕まんまくを張り綵燈さいとうを掲げて、酒宴を設け糸竹しちくを催します。又、市中目貫めぬきの大通りには、あたかも日本で大阪の夏の町筋を見るやうに、往来の片側から向う側の軒先へ、木綿の布をおおひ渡して燈棚てんぽんを造り、其れに紅白取り取りの燈籠とうろうをぶら下げます。さうして街上到る所に寄りつどうた若者は、法華ほっけの信者がお会式えしき万燈まんどうかつぐやうに、竜燈馬燈獅子しし燈などを打ち振り打ち振り、銅鑼どらを鳴らし金鑼きんらたたいて練り歩くのです。しかし、此のお祭りの最中にも、例の貴公子の顔つきばかりは相変らず沈み勝ちで、少しもえとする様子がありません。
上燈しゃんてんの晩から二三日過ぎた、或る日の夕方のことでした。貴公子は眺望のいゝ南面の露台に出て、とうもたれながら、いつもの通り銀の煙管きせるで阿片をすぱすぱと吸つて居ました。ちやうど其処そこからは、市街の雑沓ざっとうが手に取るやうにおろされ、今しも一斉に明りを入れた幾百千の燈籠は、白銀はくぎんのやうな夕靄ゆうもやの中にぎらぎらと流れて、たそがれの舗面をうろこのやうに光らせて居ます。とある広小路の四つ角には、急ごしらへの戯台が出来て、旗を掲げのぼりひるがえし、けばけばしい扮装ふんそうをした二人の俳優が、奏楽のにつれながら数番の傚戯つぉーひーを演じて居ます。長い間戸外の空気に遠ざかつて、宮殿の奥に蟄居ちっきょして居た貴公子の眼には、ふと、此れの光景が、一種異様な、云はゞ珍しい外国の都に来たやうな、奇妙な感じを起させたのでありませう、―――それとも又、阿片の煙に酔ひしれて、途方もない幻覚をつかんだのでもありませう、彼はいつの間にか手に持つて居た煙管を置いて、露台の欄杆らんかん頬杖ほおづえをついたまゝ、見るとはなしにちまたの騒ぎを視詰めて居るのです。折柄おりから其処へ通りかゝつた参々伍々の群集は、いづれもおどけた仮装行列の隊を組んで、あたかも貴公子の憂愁を慰めるやうに、きわ高く足拍子をみ歓呼の声を放ちました。続いて後から、さま/″\な魚鳥の形になぞらへた燈籠をかざしながら、所謂いわゆる行燈ひんてんの一団がやつて来ます。
其の時、貴公子の視線は、一つの不思議な人影の上に注がれて、長い間熱心に、其れを追ひかけて居るやうでした。其の男は、頭に天鵞絨びろうどの帽子をかむり、身に猩々緋しょうじょうひ羅紗ラシャ外套がいとうまとひ、足には真黒な皮の靴を穿いて、一匹の驢馬ろばかごかせて来るのです。さうして、折角の靴も帽子も外套も、長途の旅にほころびたものか、ところ/″\穴が明いたり、色がせたりして居ます。彼の前には、数十人の行燈ひんてんの人々が、五六けんもあらうと云ふ大きい眼ざましい竜燈を担ぎながら、数十ちょう蝋燭ろうそくを燃やして、えいやえいやと進んで行きますが、此の竜燈の一群と、其の男とは何の関係もないらしく、彼は時々立ち止まつて、さもさも疲労したやうな溜息ためいきらしつゝ、往来の喧囂けんごうを眺めて居ます。初めのうちは、仮装行列の隊伍に後れた一人のやうに見えましたけれど、だんだん貴公子の邸の傍へ近づくにしたがひ、驢馬や轎車きょうしゃを従へて居る風体ふうていが、どうも其れとは受け取れません。かつ其の男は、ただに服装ばかりでなく、皮膚や毛髪や瞳の色まで、全く普通の人間と類を異にして居るのでした。
「………あれは多分、西洋の人種に違ひあるまい。恐らく南洋の島国から漂泊して来た、阿蘭陀オランダ人か何かであろう。」
貴公子はさう思ひました。もっとも、其の頃は南京の町に、折々欧人の姿を見かける時代でしたが、う云ふ祭の最中に、しかも行列の人波にまれながら、素晴らしく眼に立つ風俗をして、くたびれた足を引き擦つて、乞食こじきの如くさまようて居る其の男の挙動には、どうしても不審を打たずには居られません。さうして猶更なおさら不思議な事には、ちやうど露台の真下へ来かゝると、彼は突然歩みを止めて、例のびろうどの帽子を脱いで、うやうやしく楼上の貴公子に挨拶あいさつをするのです。
見ると、その男は、驢馬ろばかせた車の方を指さしながら、貴公子に向つて、何かしきりにしやべつて居ます。
「此の車のかごの中には、南洋の水底みなぞこに住む、珍しい生物が這入はいつて居ます。私はあなたのうわさを聞いて、遠い熱帯の浜辺から、人魚を生け捕つて来た者です。」
表の騒ぎが激しい為めに、はつきりとは聞き取れませんが、彼は覚束おぼつかない支那語をあやつつて、う云ふ意味を語つて居るのでした。
何となく耳れない、をかしななまりのある西人の唇から、「人魚」と云ふ言葉を聞いた時、貴公子は自分の胸が、我知らずときめくやうに感じました。彼は勿論、生れてから一遍も人魚と云ふ者を見た事はありません。けれども、今はからずも南洋の旅人の口から、「人魚」と云ふ支那語が、一種特有な Umlaut を以て発音されると、其れに一段の神秘な色がこもつて居るやうに思はれたのです。
「これ、これ、誰か表へ行つて、彼処あそこに立つて居る紅毛の異人を、急いで邸へ呼び入れてくれ。」
貴公子は例になくあわたゞしい口吻こうふんで、近侍の※(「女+皎のつくり」、第4水準2-5-49)こうどうに云ひつけました。
程なく、驢馬は貴公子の邸内深く引き込まれ、第一の大門を入り、第二の儀門にいもんくぐり、後庭の樹林泉石の門をめぐつて、昼を欺く紅燈の光をたたへた、内庁ぬいでんの石階のほとりに据ゑられました。貴公子はいつものやうに、七人の寵姫ちょうきを身辺にはべらせながら、廊下の端近く倚子いすを進めると、其れを見た異人は再びうやうやしく地にひざまずき、支那流の作法につて稽首けいしゅの礼を行うた後、又もあやしい発音で、たどたどしく語り始めるのです。
わたくしが此の人魚を獲たのは、広東カントンの港から幾百海里を隔てゝ居る、蘭領の珊瑚さんご島の附近でした。或る日私は、其処そこへ真珠を採りに行つて、思ひがけなく真珠よりももつと貴い、美しい人魚を得たのです。人は真珠を恋することは出来ませんが、いかなる人でも人魚を見たら、の女を恋せずには居られません。真珠には冷やかな光沢があるばかりです。しかし人魚は妖麗ようれいな姿の内に、熱い涙と暖かい心臓と神秘な智慧ちえとを蔵して居ます。人魚の涙は真珠の色より幾十倍もきよらかです。人魚の心臓は珊瑚の玉より幾百倍もあこうございます。人魚の智慧は、印度インドの魔法使ひよりも不思議な術を心得て居ます。人間の測り知られぬ通力を持ちながら、彼女はたま/\背徳の悪性をそなへて居る為めに、人間よりも卑しい魚類におとされました。さうして青い青い海の底をおよぎながら、常に陸上の楽土らくどあこがれ、人間の世界をしとうて、休む暇なく嘆きもだえて居るのです。其の証拠には、人は誰でもの美しい人魚の顔に、幽鬱ゆううつうれいの影を認める事が出来ませう。………」
う云つた時、異人は不自由な人魚の身の上をあわれむが如く、自分もまたうら悲しげな表情を浮べました。
貴公子は人魚を見せられる前に、づ其の異人の容貌ようぼうに心を動かされたやうでした。彼は今迄、西洋人と云ふものを未開の種族と信じて居たのに、此の、乞食こじきのやうな蛮夷ばんいの顔を、つく/″\と眺めれば眺める程、其処そこに気高い威力がひそんで居て、何となく自分をさへつけるやうに覚えたのです。其の異人の持つて居る緑の瞳は、さながら熱帯の紺碧こんぺきの海のやうに、彼の魂を底知れぬ深みへ誘ひ入れます。又、その異人の秀いでたまゆと、広いひたいと、純白な皮膚の色とは、美貌びぼうを以て任じて居る貴公子の物よりも、遥かに優雅で、端正で、しかも複雑な暗い明るい情緒の表現に富んで居るのです。
「一体お前は、誰から私のうわさを聞いて、はるばる南京へやつて来たのだ。」
異人が物語る人魚の話を、しばら恍惚こうこつとして聴き入つた後、貴公子はう尋ねました。
「私はつい此の間、媽港マカオの街をさまようて居る際に、或る知り合ひの貿易商から、始めて其れを聞いたのです。し其の以前に知れて居たなら、恐らくあなたはもつと早く、私の人魚を御覧になる事が出来たでせう。私は此の珍しい売り物を携へて、およそ半年ばかりの間、亜細亜アジアの国々の港と云ふ港を遍歴しましたが、何処どこの商人も、何処の貴族も、決して此れをあがなはうとはしませんでした。或る者は値段が余り高過ぎると云つて、臀込しりごみをします。なぜと云ふのに、人魚の代価は亜拉比亜アラビアの金剛石七十箇、交趾支那コーチシナの紅宝石八十箇、其れに安南の孔雀くじゃく九十羽と暹羅シャムの象牙百本でなければ、取りへる訳に行かないのです。又或る者は、人魚の恋が恐ろしさに、竦毛おぞけふるつて逃げてしまひます。なぜと云ふのに、昔から人間が人魚に恋をしかけられれば、一人いちにんとして命をまっとうする者はなく、いつとはなしに怪しい魅力のわなに陥り、身も魂も吸ひ取られて、何処どこへ行つたか人の知らぬ間に、幽霊の如く此の世から姿を消してしまふのです。ですから、金と命とを惜しがる人は、容易に私の売り物へ手を着ける事が出来ません。私は折角、稀世きせいの珍品を手に入れながら、誰にも相手にされないで、長い間徒労な時と徒労な旅とを続けました。しも媽港の商人から、あなたの噂を聞かなかつたら、もう少うしで私は大事な商品を、持ち腐れにする所でした。其の商人の話にると、私の人魚を買ひ得る人は、南京の貴公子より外にはない。其の人は今、歓楽の為めに巨万の富と若い命とをなげうたうとして、抛つに足る歓楽のないのをうらんで居る。其の人はもう、地上の美味と美色とに飽きて、現実を離れた、しく怪しい幻の美を求めて居る。其の人こそは必ず人魚を買ふであらうと、彼は私に教へたのです。」
異人は相手が、自分の品物を買ふか買はぬかと云ふ事に就いて、少しも危惧きぐを感じて居ないやうでした。彼は貴公子の心を見抜いて居るやうな、確信のある言葉を以て語つたのです。しかもさう云ふ彼の態度は、相手に何等の反感を与へなかつたのみならず、むしみ難い焦憬しょうけいの念をさへ起させました。貴公子は、彼の説明を聴かされて居るうちに、此の男から必ず人魚をあがなふべく、命令されて居るやうな気になりました。自分が此の男から人魚を買ふのは、予定の運命であるかのやうに覚えました。
「其の商人の云つた事は真実だ。私はお前が、媽港マカオの人から聞いた通りの人間だ。お前が私を捜したやうに、私もお前を捜して居た。お前が私を信ずるやうに、私もお前を信じて居る。私はお前の売り物を一応検分する迄もなく、お前がさっき云うた代価で、今直ぐ人魚を買ひ取つて上げる。」
貴公子の此の言葉は、彼自身ですらハツキリと意識しない内に、胸の底から込み上げて来て、思はず彼の唇にのぼつたのです。さうして見る間に、約束通りの金剛石と紅宝石と孔雀くじゃく象牙ぞうげとが、或は五庫のひつの中から、或は苑囿えんゆうおりの中から、庭前へ持ち運ばれて、石階のもとうずたかく積まれました。異人は今更、貴公子の富の力に驚いたやうな素振もなく、静かに其れの宝物の数を調べた後、車上のかご布簾ふれんを掲げて、其処そこさびしくとざされて居た、とらはれの身の人魚の姿を示しました。
の女は、うつくしい玻璃はり製の水甕みずがめうちに幽閉せられて、うろこを生やした下半部を、蛇体じゃたいのやうにうねうねとガラスのへきへ吸ひ着かせながら、今しも突然、人間の住む明るみへさらされたのを恥づるが如く、うなじを乳房の上に伏せて、かいなを背後の腰のあたりに組んだまゝ、さも切なげにわつて居るのでした。ちやうど人間と同じくらゐな身の丈を持つ彼の女の体を、一杯に浸した甕の高さは、四五しゃく程もあるでせう。中には玲瓏れいろうとした海の潮が満々と充たされて、人魚のあえぐ度毎に、無数の泡が水晶の珠玉の如く、彼の女の口から縷々るるとして沸々ふつふつとして水面へ立ち昇ります。その水甕が四五人の奴婢ぬひかつがれて、車の上から階上の内庁ぬいでんの床に据ゑられると、室内を照らす幾十燈の燭台の光は、たちまち彼の女のあらはな肉体に焦点をらせて、いやが上にも清く滑かな人魚の肌は、さながら火炎の燃ゆるやうに、一層まばゆく鮮やかに輝きました。
「私は此れ迄、心ひそかに自分のひろい学識と見聞とを誇つて居た。昔からかつて地上に在つたものなら、如何いかに貴い生き物でも、如何に珍らしい宝物でも、私が知らないと云ふ事はなかつた。しかし私はまだ此れ程美しい物が、水の底に生きて居ようとは、夢にも想像した事がない。私が阿片アヘンに酔つて居る時、いつも眼の前へ織り出される幻覚の世界にさへも、此の幽婉ゆうえんな人魚にまさる怪物は住んで居ない。恐らく私は、人魚の値段が今支払つた代価の倍額であらうとも、きつとお前から其の売り物を買ひ取つたゞらう。………」
う云つたゞけでは、まだ貴公子は自分の胸にあふれて居る無限の讃嘆と驚愕きょうがくとを、充分に云ひ表はす事が出来ませんでした。なぜと云ふのに、彼は今、自分の前に運び出された冷艶れいえんにして悽愴せいそうな、水中の妖魔を見るや否や、一瞬間に体中の神経が凍り付くやうな、強い、激しい、名状し難い魂の竦震しょうしんを覚えたからです。さうして、いつ迄もいつ迄も、死んだやうに総身そうみ硬張こわばらせて彳立てきりつしたまゝ、燦爛さんらんたる水甕みずがめの光を凝視して居るうちに、いぶかしくも彼の瞳には、感激の涙が忍びやかににじみ出て来ました。彼は久し振りで、長らく望んで居た昂奮こうふんに襲はれたのです。有頂天の歓喜に蘇生よみがえることが出来たのです。彼はもう昨日までの、張り合ひのない、退屈な月日をかこつ人間ではなくなりました。彼は再び、豊かな刺戟に鞭撻むちうたれつゝ生の歩みを進めて行ける、心境に置かれたのでした。
「………私は地上の人間に生れる事が、此の世の中での一番仕合はせな運命だと思つて居た。けれども大洋の水の底に、く迄微妙な生き物の住む不思議な世界があるならば、私はむしろ人間よりも人魚の種属に堕落したい。あの瑰麗かいれいうろこきぬを腰にまとうて、此のやうな海の美女たおやめと、永劫えいごうの恋をたのしみたい。―――此の美女たおやめの涼しいひとみや、濃い黒髪や、雪白せっぱくの肌に比べると、私の座右に仕へて居る七人の妾たちは、まあ何と云ふ醜い、卑しい姿を持つて居るのだらう。何と云ふ平凡な、古臭い容子をして居るのだらう。」
さう云つた時、人魚は何と思つたか、ゆらりと尾鰭おびれを振り動かして、俯向うつむけて居た顔をもたげながら、貴公子の姿をしげ/\と見守りました。
博学な貴公子の鑑識は、書画骨董こっとうや工芸品ばかりでなく、支那に古くから伝はつて居る観相術にも精通して居ましたが、彼は今ようやく人魚の容貌ようぼうを眺めて、其の骨相を案ずるのに、到底自分の習ひ覚えた学問の範囲では、判断する事が出来ないやうな稀有けうな特長を発見しました。の女は成る程、絵にいた人魚のやうに、さかなの下半身と人間の上半身とを持つて居るには違ひありません。けれども其の上半身の人間の部分、―――骨組みだの、肉附きだの、顔だちだの、其れの局所を一々詳細に注意すると、日常自分たちが見馴みなれて居る地上の人間の体とは、全く調子を異にして居るのです。彼が修得した観相術の智識は、其処そこに応用の余地がない程、彼の女の輪廓りんかくは普通の女とおもむきを変へて居るのです。たとへば彼の女の、極度に妖婉ようえんな瞳の色と形とは、彼が知つて居る人相学の如何いかなる種類にも適合しません。その瞳は、ガラス張りの器に盛られた清洌せいれつな水をとおして、あたかりんのやうに青く大きく輝いて居ます。どうかすると、眼球全体が、水中に水の凝固した結晶体かと疑はれるほど、淡藍うすあい色に澄み切つて居ながら、底の方には甘い涼しいうるほひを含んで、深い深い魂の奥から、絶えず「永遠」を視詰めて居るやうな、崇厳な光をひそませて居ます。其処には人間の如何なる瞳よりも、幽玄ゆうげんにして杳遠ようえん暈影うんえいが漂ひ、朗麗にして哀切な曜映ようえいがきらめいて居ます。それから又、彼の女のまゆと鼻の形状は、一層気高い、一層異常な、「美」を構成して居るやうに感ぜられました。それの眉や鼻は、支那の人相学でとうとばれる新月眉しんげつびとか、柳葉眉りゅうようびとか、伏犀鼻ふくさいびとか、胡羊鼻こようびとか云ふ物とは、何処どこかしら様子が違つて居ます。けれども其処そこには習慣的な「美」を超絶した、人間よりも神に近い美しさがあるのです。因襲的な「円満」を通り越した、生滅しょうめつ者に対する不滅の円満があるのです。さうしての女が長いうなじをものうげに動かす時、暗緑色の髪の毛は海藻かいそうのやうにふるもだえて、柔かい波の底をゆらぎさまよひ、或ひは渾沌こんとんとした雲霧の如く彼の女のひたいに降りかゝり、或ひは絢爛けんらん孔雀くじゃくの尾の如く上方へ延び拡がります。彼の女の持つて居る「円満」は、ただに彼の女の容貌ようぼうの上にあるばかりでなく、人間の形を成して居る肉体のべての部分に認める事が出来ました。くびから肩、肩から胸へ続いて行く曲線の優雅な起伏、模範的な均整を持つ両腕のしなやかさ、豊潤なやうで程よく引き緊まつた筋肉の、伸縮し彎屈わんくつする度毎に、魚類の敏捷びんしょうと、獣類の健康と、女神の嬌態きょうたいとが、奇怪極まる調和を作つて、五彩のにじの交錯したやうな幻惑を起させます。就中なかんずく、最も貴公子の眼を驚かし、最も貴公子の心をとろかしたものは、実に彼の女の純白な、一点の濁りもない、皓潔無垢こうけつむくな皮膚の色でした。白いと云ふ形容詞では、とても説明し難いほど真白な、肌の光沢でした。其れは余りに白過ぎる為めに、白いと云ふより「照り輝く」と云つた方が適当なくらゐで、全体の皮膚の表面が、瞳のやうに光つて居るのです。何か、彼の女の骨の中に発光体が隠されて居て、皎々きょうきょうたる月の光に似たものを、肉の裏から放射するのではあるまいかと、あやしまれる程の白さなのです。しかも近づいて熟視すれば、此の霊妙な皮膚の上には、かすかな無数の白毫びゃくごうむく毛が、※(「髟/參」、第4水準2-93-26)さんさんと生えて旋螺せんらを描き、其の末端にさながら魚の卵のやうな、眼に見えぬ程の小さな泡が、一つ一つに銀色の玉を結んで、宝石をちりばめた軽羅けいらの如く、彼の女の総身そうみおおうて居ます。
「貴公子よ、あなたは私の予期以上に、人魚の価値を認めて下さいました。あなたのお蔭で、私は充分な報酬を得、一朝にして巨万の富を手に入れる事が出来ました。私は人魚を売つた代りに、此れの東洋の宝物を車に積んで、再び広東の港へ帰る積りです。さうして其処から汽船に乗つて、遠い西洋の故郷へ戻ります。私の国では、ちやうどあなたが人魚を珍重なさるやうに、此れ等の宝物を珍重する人が沢山あるのです。―――私が最後の願ひとして、どうぞ人魚に別れの接吻せっぷんを与へさせて下さい。」
う云ひながら、異人が水甕みずがめの縁に寄り添ふと、水中に水銀のおどるが如く、人魚はする/\と上半身を表面へ露出して、両手に異人のうなじを抱へたまゝ、ほおを擦り寄せてしばら潸然さんぜんと涙を流す様子です。其の涙は、睫毛まつげの端からあごへ伝はり、滴々とこぼれ落ちる間に、麝香じゃこうのやうな馥郁ふくいくたる薫りを、部屋の四方へ放ちました。
「お前は人魚が惜しくはないか。あれだけの値で私に売つたのを、今更後悔しては居ないか。お前の国の人たちは、なぜ人魚より宝石の方を珍重するのだらう。お前はどうして、此の人魚を自分の国へ持つて帰らうとしないのだらう。」
貴公子は、利慾の為めに美しい物を犠牲に供してかえりみない、卑しい商人根性をあざけるやうな句調で云ひました。
「成る程あなたがさうつしやるのは御尤ごもっともです。しかし西洋の国々では、人魚はそんなに珍しい物ではありません。私の国は欧羅巴ヨーロッパの北の方の、阿蘭陀オランダと云ふ所ですが、私の生れた町の傍を流れて居るライン河の川上には、昔から人魚が住むと云ふ話を、子供の時分に聞いた事がありました。の女は時とすると、人間のやうな下半身を持ち、或ひは鳥のやうな両足をそなへて、地中海の波の底にも大陸の山林水沢すいたくの間にも、折々形を現して人間を惑はす事があるのです。私の国の詩人や絵師は、絶えず彼の女の神秘を歌ひ、姿態を描いて、人魚の媚笑びしょうのいかになまめかしく、人魚の魅力のいかに恐ろしいかを、我れ我れに教へて居ます。それ故欧羅巴では、人魚ならぬ人間までも、ひたすら彼の女の艶容えんようを学んで、多くの女がいずれも人魚と同じやうな、白い肌と、青い瞳と、均整な肢体の幾分づゝを具備して居ます。し貴公子が其れをお疑ひなさるなら、試みに私の顔と皮膚の色とを御覧なさい。取るに足らない私のやうな男でも、西洋に生れた者は、必ず何処どこかに、此の人魚と共通な優雅と品威とを持つて居るでせう。」
貴公子は異人の言葉を、否定する事が出来ませんでした。いかにも彼の云ふ通り、人魚と彼とは、容貌ようぼうのうちに相似た特質のあることを、うから貴公子は心付いて居たのでした。讃嘆の程度こそ違へ、彼は人魚に魅せられたやうに、此の異人の人相にも少からず感興をそそられて居たのです。其の男には人魚のやうな、円満と繊妍せんけんとがない迄も、やがて其処そこへ到達し得る可能性が含まれて居るのです。其の男は、支那の国土に住んで居る、黄色い肌と、浅い顔とを持つた人間に比較して、むしろ人魚の種属に近い生き物らしく思はれました。
小さな汽船で、世界中の大洋を乗り廻す西洋人はかくも、其の頃まで地の表面を「時間」と等しく無限な物と信じて居た東洋の人間には、千里二千里の土地を行くのが、ほとんど百年二百年の時を生きるのと同じやうに、難事であると考へられて居たのでした。まして亜細亜アジアの大国に育つた貴公子は、流石さすがに好奇心の強い性癖を持ちながら、遥かな西の空にある欧羅巴と云ふ所を、鬼かじゃむ蛮界のやうに想像して、つひぞ此れ迄海外へ出て見ようなどゝ思つた事はなかつたのです。しかるに今、生れて始めて、しみ/″\と西洋人の風貌ふうぼうに接し、其の郷国の模様を聴いて、どうして其のまま黙つて居る事が出来ませう。
「私は西洋と云ふところを、そんなに貴いうるはしい土地だとは知らなかつた。お前の国の男たちが、ことごとくお前のやうな高尚な輪廓を持ち、お前の国の女たちが、悉く人魚のやうな白皙はくせきの皮膚を持つて居るなら、欧羅巴は何と云ふきよい、慕はしい天国であらう。どうぞ私を人魚と一緒に、お前の国へ連れて行つてくれ。さうして其処に住んで居る、優越な種属の仲間入りをさせてくれ。私はもう支那の国に用はないのだ。南京の貴公子として世を終るより、お前の国の賤民せんみんとなつて死にたいのだ。どうぞ私の頼みを聴いて、お前の乗る船へ伴つてくれ。」
貴公子は熱心のあまり、異人の足下にひざまずいて外套がいとうすそを捕へながら、気が狂つたやうに説き立てました。すると異人は、薄気味の悪い微笑をらして、貴公子の言葉をさえぎつて云ふのに、
「いや/\私は、むしろあなたが南京に留まつて、出来るだけ長く、出来るだけ深く、哀れな人魚を愛してやる事を、あなたの為めに望みます。たとへ欧羅巴ヨーロッパの人間が、いか程美しい肌と顔とを持つて居ても、彼等は恐らく、此の水甕みずがめの人魚以上にあなたを満足させる事は出来ますまい。此の人魚には、欧羅巴人の理想とするべての崇高と、凡べての端麗とが具体化されて居るのです。あなたは此処ここに、此の生き物の姚冶ようやな姿に、欧羅巴人の詩と絵画との精髄を御覧になる事が出来るのです。此の人魚こそは欧羅巴人の肉体が、あなたの官能を楽しませ、あなたの霊魂を酔はせ得る、『美』の絶頂を示して居ります。あなたはの女の本国へ行つても、此れ以上の美を求めることは出来ないでせう。………」
其の時、異人は何と思つたか、眉宇びうの間に悲しげな表情を浮べて、嗟嘆さたんするやうな調子になつて、急に話頭を転じました。
「さうして私はくれ/″\も、あなたの幸福と長寿とを祈ります。私はあなたが、既に彼の女を恋して居る事を知つて居るのです。人魚の恋を楽しむ者には早くわざわいが来ると云ふ、私の国の伝説を、あなたが実際に打ち破つて下さる事を祈るのです。私は人魚の代償として、あなたの大切な命までもいただかうとは思ひません。しも私が、再び亜細亜アジアの大陸を訪問する日のあつた時、幸ひあなたにお目に懸れたら、其の折にこそ私はあなたをお連れ申して上げませう。………けれども其れは、………けれども其れは、………私はあなたがお気の毒でならないやうな気がします。」
云ふかと思ふと、異人は又も慇懃いんぎん稽首けいしゅの礼を施して、人魚の代りに山の如く積み上げた宝物の車を、以前の驢馬ろばかせながら、庭前の闇へ姿を消してしまひました。

貴公子の邸は、人魚が買はれてからにわかにひつそりと静かになりました。七人のめかけは自分たちの綉房しゅうぼうに入れられたきり、主人の前へ召し出される機会を失ひ、夜な夜な楼上楼下を騒がせた歌舞宴楽の響きもんで、宮殿に召し使はれる人々は皆溜息ためいきをつくばかりです。
「あの異人は何といふ忌ま忌ましい、胡乱うろんな男だらう。さうして何と云ふ奇体な魔物を売り付けて行つたのだらう。今に何かしら間違ひがなければいゝが。」
彼等は互ひに相顧あいかえりみてささやき合ひました。誰一人も、水甕の据ゑてある内房のとばりを明けて、人魚の傍へ近寄る者は居ませんでした。
近寄る者は主人の貴公子ばかりなのです。ガラスの境界一枚を隔てゝ、水の中にあえぐ人魚と、水の外にもだえる人間とは、終日、黙々と差し向ひながら、一人は水の外に出られぬ運命を嘆き、一人は水の中に這入はいられぬ不自由をうらんで、さびしくあぢきなく時を送つて行くのでした。折々、貴公子はなげにガラスの壁の周囲を廻つて、せめてはの女に半身なりとも、かめの外へ肌をさらしてくれるやうに頼みます。しかし人魚は、貴公子が近寄れば近寄るほど、ますます固く肩をかがめて、さながら物にぢたやうに水底みなぞこへひれ伏してしまひます。夜になると、彼の女の眼から落つる涙は、成る程異人の云つたやうに真珠色の光明こうみょうを放つて、暗黒な室内にほたるの如く瑩々えいえいと輝きます。その青白いあかるいしずくが、点々とこぼれて水中を浮動する時、さらでも※(「女+皎のつくり」、第4水準2-5-49)ようこうな彼の女の肢体は、大空の星に包まれた嫦娥じょうがのやうにきよく気高く、夜陰の鬼火に照らされた幽霊のやうにすごのろはしく、惻々そくそくとして貴公子の心に迫りました。
或る晩の事でした。貴公子はあまりの切なさ悲しさに、熱燗あつかん紹興酒しょうこうしゅ玉※ぎょくさん[#「王+戔」、U+7416、60-11]に注いで、はらわたを焼く強い液体の、満身に行き渡るのを楽しんで居ると、其の時まで水中に海鼠なまこの如く縮まつて居た人魚は、暖かい酒の薫りを恋ひ慕ふのか、にわかにふわりと表面へ浮かび上つて、両腕を長く甕の外へ差し出すのです。貴公子が試みに、手に持つた酒を彼の女の口元へ寄せるや否や、彼の女は思はず我を忘れて真紅しんくの舌を吐きながら、海綿のやうな唇を杯の縁に吸ひ着かせたまゝ、ただ一と息に飲みしてしまひました。さうして、たとえばあの、ビアヅレエの描いた、“The Dancer's Reward”と云ふ画題の中にあるサロメのやうな、悽惨せいさんな苦笑ひを見せて、しきりにのどを鳴らしつゝ次ぎの一杯を促すのです。
「それ程お前が酒を好むなら、私はいくらでも飲ませてやる。ひややかな海の潮につかつて居るお前の血管に、激しい酔が燃え上つたら、定めしお前は一層美しくなるであらう。一層人間らしい親しみと愛らしさとを示してくれるだらう。お前を私に売つて行つた和蘭オランダ人の話にると、お前は人間の測り知られぬ神通力をそなへて居ると云ふではないか。お前には背徳の悪性があると云ふではないか。私はお前の神通力を見せてもらひたいのだ。お前の悪性に触れたいのだ。お前がほんたうに不思議な魔法を知つて居るなら、せめては今宵一と夜なりとも人間の姿に変つてくれ。お前が実際放肆ほうしな情慾を持つて居るなら、どうぞ其のやうに泣いて居ないで、私の恋を聴き入れてくれ。」
貴公子がう云ひながら、杯の代りに自分の唇を持つて行くと、窈渺ようびょうたる人魚の眉目びもくは鏡に息のかゝつたやうにたちまち曇つて、
「貴公子よ、どうぞ私をゆるして下さい。私をあわれんで赦して下さい。」
と、突然明瞭めいりょうな人間の言語を発しました。
「………私は今、あなたが恵んで下すつた一杯の酒の力を借りて、ようよう人間の言葉を語る通力を恢復かいふくしました。―――私の故郷は、和蘭オランダ人の話したやうに、欧羅巴ヨーロッパの地中海にあるのです。あなたが此の後、西洋へ入らつしやることがあるとしたら、必ず南欧の伊太利イタリーと云ふ、美しいうちにも殊に美しい、絵のやうな景色の国をお訪ねなさるでせう。その折し、船に乗つてメツシナの海峡を過ぎ、ナポリの港の沖合をお通りになる事があつたら、其の辺こそ我れ我れ人魚の一族が、古くから棲息せいそくして居る処なのです。昔は船人ふなびとが其の近海を航すると、世にもたえなる人魚の歌が何処どこからともなく響いて来て、いつの間にやら彼等を底知れぬ水の深みへ誘ひ入れたと申します。―――私はくもなつかしい自分の住みを持ちながら、ちやうど去年の四月の末、暖かい春の潮に乗せられて、ついうかうかと南洋の島国まで迷うて来たのです。さうして、とある浜辺の椰子やしの葉蔭にひれを休めて居る際に、口惜くちおしくも人間の獲物となつて、亜細亜アジアの国々の市場と云ふ市場に、恥かしい肌をさらしました。貴公子よ、どうぞ私をあわれんで、一刻も早く私の体を、広々とした自由な海へ放して下さい。たとへ私が如何程いかほどの神通力をそなへて居ても、窮屈な水甕みずがめの中に捕はれて居ては、どうする事も出来ないのです。私の命と、私の美貌びぼうとは、次第々々に衰へて行くばかりなのです。あなたが是非共人魚の魔法を御覧になりたいと思ふなら、どうぞ私を恋ひしい故郷へ帰して下さい。」
「お前がそのやうに南欧の海を慕ふのは、きつとお前に恋人があるからだらう。地中海の波の底に、同じ人魚の形を持つた美しい男が、夜昼よるひるお前を待ちこがれて居るのだらう。さうでなければ、お前はそんなに私をいとふ筈がない。つれなくも私の恋を振り捨てゝ、故郷へ帰る道理がない。」
貴公子がうらみの言葉を述べる間、人魚は殊勝げに瞑目めいもくしてこうべをうなだれ、耳を傾けて居ましたが、やがてしなやかな両手を伸ばしつゝ、シツカリと貴公子の肩を捕へました。
「あゝ、あなたのやうな世に珍らしいあでやかな若人わこうどを、私がどうして忌み嫌ふ事が出来ませう。どうして私が、あなたを恋せずに居られるやうな、無情な心を持つて居るでせう。私があなたに焦れて居る証拠には、どうぞ私の胸の動悸どうきを聞いて下さい。」
人魚はひらりと尾をひるがえして、水甕の縁へ背をたくしたかと思ふ間もなく、上半身を弓の如く仰向あおむきにらせながら、滴々としずくの落ちる長髪を床に引き擦り、樹に垂れ下る猿のやうに下から貴公子のうなじを抱へました。すると不思議や、人魚の肌に触れて居る貴公子の襟頸えりくびは、さながら氷をあてられたやうな寒さを覚えて、見る見るうちに其処そここごえてしびれて行くのです。人魚の彼を抱き緊める力が、強くなれば強くなる程、雪白せっぱくの皮膚に含まれた冷冰れいひょうの気は、貴公子の骨にみ入り髄をとおして、紹興酒の酔に熱した総身そうみを、たちまち無感覚にさせてしまひます。其のつめたさに堪へかねて、あはや貴公子が凍死しようとする一刹那いっせつな、人魚は彼の手頸てくびを抑へて、其れをおもむろに彼の女の心臓の上に置きました。
「私の体は魚のやうにひややかでも、私の心臓は人間のやうに暖かなのです。此れが私の、あなたを恋ひして居る証拠です。」
の女がう云つた時、ふと貴公子のてのひらは、一塊の雪の中に、炎々と燃えて居る火のやうな熱を感じました。ちやうど人魚の左の胸をでゝ居た彼の指先は、その肋骨ろっこつの下にとどろく心臓の活気を受けて、あやうく働きを止めようとした体中の血管に、再び生き生きとした循環を起させました。
「私の心臓はく迄熱く、私の情熱は斯く迄激しくいて居ながら、私の皮膚は絶ゆる隙間すきまなく、忌まはしい寒気におののいて居ます。さうしてたま/\、うるわしい人間の姿を眺めても、人魚に生れた浅ましさには、宿業しゅくごうの報いにつて、其の人を愛する事を永劫えいごうに禁ぜられて居るのです。私がいか程あなたを慕ひこがれても、神にのろはれて海中の魚族にちた身の上では、ただ煩悩ぼんのうの炎に狂ひ、妄想の奴隷どれいとなつて、もだえ苦しむばかりなのです。貴公子よ、どうぞ私を大洋の住みへ帰して、此の切なさと恥かしさから逃がして下さい。青いつめたい波の底に隠れてしまへば、私は自分の運命の、かなしつらさを忘れる事が出来るでせう。此の願さへ聴き届けて下さるなら、私は最後の御恩報じに、あなたの前で神通力を現はして見せませう。」
「おゝ、どうぞお前の神通力を示してくれ。其の代りには、私はどんな願ひでも聴いて上げよう。」
と、うつかり貴公子が口をすべらせると、人魚はさもさも嬉しげに、両手を合はせて幾度か伏し拝みながら、
「貴公子よ、それでは私はもうお別れをいたします。私が今、魔法を使つて姿を変へてしまつたら、あなたはさぞかし其れをお悔みなさるでせう。しもあなたが、もう一遍人魚を見たいと思ふなら、欧洲行きの汽船に乗つて、船が南洋の赤道直下を過ぎる時、月のよい晩に甲板かんぱんの上から、人知れず私を海へ放して下さい。私はきつと、波の間に再び人魚の姿を示して、あなたに御礼を申しませう。」
云ふかと思ふと、人魚の体は海月くらげのやうに淡くなつて、やがて氷の溶けるが如く消え失せた跡に、二三尺の、小さな海蛇うみへびが、水甕みずがめの中を浮きつ沈みつ、緑青ろくしょう色の背を光らせおよいで居ました。

人魚の教へに従つて、貴公子が香港ホンコンからイギリス行きの汽船にとうじたのは、その年の春の初めでした。或る夜、船がシンガポールの港を発して、赤道直下を走つて居る時、甲板にえる月明を浴びながら、人気ひとけのないふなばたに歩み寄つた貴公子は、そつとふところから小型なガラスのびんを出して、中に封じてある海蛇をつまみ上げました。蛇は別れを惜しむが如く、二三度貴公子の手頸てくびからみ着きましたが、程なく彼の指先を離れると、油のやうな静かな海上を、しばらくするすると滑つて行きます。さうして、月の光を砕いて居る黄金おうごん瀲波れんぱを分けて、細鱗さいりんひらめかせつゝうねつて居るうちに、いつしか水中へ影を没してしまひました。
それから物の五六分過ぎた時分でした。渺茫びょうぼうとした遥かな沖合の、最もまばゆく、最も鋭く反射して居る水の表面へ、銀の飛沫しぶきをざんぶと立てゝ、飛びの魚の跳ねるやうに、身をひるがえした精悍せいかんな生き物がありました。天井の玉兎ぎょくとの海にちたかと疑はれるまで、皎々きょうきょうと輝く※(「女+堯」、第4水準2-5-82)ようじょうな姿態に驚かされて、貴公子が其の方を振り向いた瞬間に、人魚はもはや全身の半ば以上を煙波えんぱに埋め、双手もろてを高くかざしながら、「あゝ」と※(「口+幼」、第4水準2-3-74)がいゆう[#「口+艾」、U+54CE、66-5]一声して、くるくると水中に渦を巻きつゝ沈んで行きました。
船は、貴公子の胸の奥に一縷いちるのぞみを載せたまゝ、恋ひしいなつかしい欧羅巴ヨーロッパの方へ、人魚の故郷の地中海の方へ、次第次第に航路を進めて居るのでした。





底本:「日本幻想文学集成※(丸5、1-13-5) 谷崎潤一郎」国書刊行会
   1991(平成3)年7月13日初版第1刷発行
底本の親本:「谷崎潤一郎全集 第四卷」中央公論社
   1967(昭和42)年2月25日発行
初出:「中央公論」
   1917(大正6)年1月
※ルビは新仮名とする底本の扱いにそって、ルビの拗音、促音は小書きしました。
入力:HAR
校正:深白
2024年6月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について

「玄+鳥」、U+4CBB    39-15
「王+戔」、U+7416    41-10、60-11
「口+艾」、U+54CE    66-5


●図書カード