1. 最初の容易な所と、最後の雜則の部を除いては、和文獨譯、獨文和譯は、ほとんど全部解答を作つて見ました。或種の、ちよつと説明を要するやうな概念や思想には、老婆心までに、言ひ換へや、註釋をも附加しました。
2. 教授事項の分解的説明だけは、これは紙數を要する關係上、全然省いて、直接必要な、譯語譯文だけにとどめました。
3. 「譯語」の提供にはかなり注意を拂つたつもりです。何か好い別案がおありになれば私自身に直接御教示下されば幸甚の至りに存じます。
4. 直譯がわかり切つてゐる場合には、「一たい全たい何の事を云つてゐるのか?」といふ見地を主として考慮して、なるべく意譯をしました。
5. 仕事は、正直に云ひますと、實は全部私一人では出來なかつたので、川村義雄氏・藤田榮氏におねがひし、後で私が大部分眼を通しました。なほ今後よくしらべまして、追々に直して行かうと思ひます。皆樣方にもお氣附の點がありましたらどうかお知らせ下さい。
6. 教程そのものも、すでに一回是正を行ひましたが、私自身教室で使つて見た經驗で、なほ多少誤や、誤植や、用語の不妥當な點も發見してをります。これは今年は間に合ひませんから、次版に於ては徹底的に掃除しようと思つてをります。
昭和十年三月七日
[#改丁]關口存男識
和譯P.51
6. zwischen den Zeilen lesen(眼光紙背に徹す) hineinlesen(勝手な意味を捏造して讀むこと)46P.52
【1】a.仕事は一週間後に始めて仕上がる。――b.私は三ヶ月すれば八十歳になる。【3】a.私はほんの十分間ばかり彼を訪問した。――b.私は三ヶ月のパスを持つてゐる。
【4】a.彼の呼聲に應じて三人の手下が現れる。――b.鐡橋の上を軍用列車が續々と通る。
【5】a.彼は全然聽いてゐない。それどころか聽いてゐる間に眠り込む。――b.暫くたつと彼は再び歸つて來る。
47
【1】a.彼は中央停車場に到着する。――b.彼等〔貴君達〕はその間に或る丘に到達してゐた。――c.彼は時限正しく事務所へ出勤する。――d.消防は火事場に現れた。――e.彼は安樂椅子に坐る。――f.彼は〔木製の〕植木鉢の間に隱れる。(帳の蔭に、机の下に、等々)。――g.主人公が畫面に現れる。――h.彼は私の宅に引越して來る。【2】a.月が森の蔭から立ち出でる。――b.犬が机の下から這出る。
【3】a.子供は母と並んでチヨコチヨコ歩む。――b.牧夫は家畜を前に追ひ立てて行く。――c.汽船が帆船を後に曳いて行く。
48P.53
【1】a.道はジグザグに走つてゐる。――b.此處に一列にお並びなさい!――c.彼の作品は最初五册になつて現れた。――d.ストライキとは集團的罷業である。【2】a.彼の小膽はむしろ卑怯に墮する。――b.彼の愚劣さは昂じて狂氣となる。――c.魔法使は狼に化ける。――d.彼は彼の成功をたゞちに小金に兩替することを知つてゐる。[例へば大臣になつた人がやめてから講演して廻つて儲ける等々]。
【3】[#「【3】」は底本では「 3】」]教育の缺乏;彈藥の豫備;素材の需要;建築材料の豐富さ;知識の貧弱さ。
【4】a.彼には色々と私の氣に喰はぬ點がある。――b.私の伯母は澤山外國語を使ふ、これは年寄の癖である[ドイツではフランス語をドイツ化して振廻すのは宮廷全盛時代の遺物となつてゐる]。――c.私は彼の健全な常識には全く驚くの外はない。
【5】a.私は兩親に宛てて[手紙を]書く。――b.彼は當該官廳に交渉する。――c.シルレルの「歡喜に寄す」。
【6】a.それはむしろ吾々の子供達に對する犯罪であらう。[そんなことをすれば子供達にすまない]――b.私は彼に復讐する。――c.彼は現代の精神に背馳するものである。――d.彼は自分の不滿を私にあたり散らす。
【7】a.彼は私を待つ。――b.彼は私の全快を祈る。――c.彼は私の年をあてこする。[お孫さんは幾人あるかなどといふ等]。――d.彼はこの點に私の注意を促す。――e.彼は彼の活動を彼の家政の財政的改善に集中する。
【8】a.彼は怒りのあまりに震へる。――b.彼は興奮の餘り吃る。――c.私は怠屈で死に相だ。――d.子供は好奇心の餘りぢつとしてゐられない。――e.彼は悦びに堪へずして泣く。
【9】a.彼は私を怖れる。――b.お前、あいつには要心しろよ。――c.彼女は私にこの人間を警戒するやうに注意する。――d.兵士が敵から逃る。――e.人々は彼を見ると敬意を表して席を詰める。
【10】a.彼の處女作はフランスの影響を受けて出來た。――b.私は私の一生を努力と勞働のもとに過す。
【11】a.私は此の人達のところは怠屈だ。――b.私はもう決してこの人達の間に立ち交はりたくない。――c.彼は此等の愚物の中にあつて只一人の分別ある男だ。
【12】a.彼は彼の旅行計畫に關して何等詳細を洩らさない。――b.この點に關しては學者達の意見は一致してゐない。
【13】彼は多くの工場の外になほ一つの鑛山を所有してゐる。
和譯P.58
2.結果はそのうちに目に見えて來るだらう。5.Wink 指圖、指命。
9.noch vor dem Examen = sogar vor dem Examen.
和譯P.59
3.m
和譯P.62
3.Ski 發音は Schi,但し英語通りスキーとも云ふ。9.Spielen 賭博。
和譯P.65
2.Reichskanzler 聯邦宰相。3.auf Lebenslang 生涯。4.an ...... arbeiten あるものを追々に仕上げて行くの意に用ふ。74P.73
1.結婚式服。晴着。2.家大なれば寧日なし。3.無理な事は自然にやむ。4.彼はなんでも眞面目に取る。5.名は體を表はす[頭髮亂麻の如くなれば心もまた亂麻の如し]。6.素直な馬には拍車をかけてはならない。7.智者の知惠にも及ばぬ事を、童心は無心に遂げ行ふ。[理窟では例へどんな頭のいゝ人間にも解らない筈のことを無邪氣な者は現に何の理窟も云はずに天眞爛漫にやつてのけてゐる]。75P.74
1.全獨逸が勝利に歡喜する。2.全ベルリンは飜り湧き立つ旗の海原であつた。3.昔のお前の母の樣な娘は歐洲を半分めぐつても見つかるまい。76
1.彼の生活は享樂づくめであつた。2.それらは凡て概念的な抽象の人意的所産のみである。3.博學と自己反省が過ぎて彼等は自分自身に對する信頼を失つて了つたのだ。78
1.色々のよき品。2.いはゆる公人といふ奴はそもそも良心など持つてゐない。79
1.それは美しいある朝であつた、生々とした青いそして明るい。2.朝あけの初めの光、死んだ樣な、輝きのないそして見るからに毒々しい光がどんよりと浪と雲の上を掠めるのであつた。3.それは美しく優さしき乙女であつた。4.私のなくなつた母はしつかりした婦人だつた。80
a.大きい、富裕な、強力な(等々の)國家。b.大きい、富裕にして強力なる(この三性質を備へた)國家。備考 1.第二の大地震。2.初めて暑かつた夏の日。3.さる老紳士。4.兩若人。5.他の諸要因。
83
1.歌は了つた[噫我等が事歇みぬ焉]。2.窓は閉つてゐる。3.彼、今や亡し。4.希望は去つた。5.彼は去つた。6.彼は既にゐなかつた。7.彼は上機嫌である。[或は、彼は今や時めいてゐる]8.彼は零落してゐる。[或は、洒落れて:この子供はウンコが出ちやつてゐる。]9.蓋が取れた。10.彼女の毛髮はごしやごしやである。11.樂隊が眞先に進む。12.私がそこに居合せた。13.誰も居合せなかつた。14.私は彼が嫌だ。15.吾々は出揃つた。85
注意事項
貴下よりいづれ御通信あるべきことを期待しつゝ、貴下の忠實なる僚友 S. W. として擱筆す。
和譯P.78
4.Ehrlichkeit 道義心、人格。streitig machen = anzweifeln, in Frage stellen. 6.ihm geschieht nichts = es geschieht ihm nichts に對する倒置形。7.doch =きつと。87
備考1.これ實に我等全ての運命である[これまことになべて我等がさだめにこそありけれ]。2.彼の商賣は不斷の自我否認を要した。(「とぼける事」、「さあらぬ體に裝う事」、「自分を引込めて表に出さぬ事」を sich verleugnen といふ)。
3.病氣をすると人は自我意識に立歸る。
【2】1.私の代りに[例:Was w
rdest du an meiner Statt getan haben? 若し君が僕だつたらどうしたらうか?]

2.私の代りに[例:Anstatt meiner geht mein Bruder hin.]――但し普通の「私の代りに」にはどちらを用ひてもよろしい。
88
[例]1.お前のためにしてやるのだから、よく心に留めて置くがいゝ。2.僕のためになら別におかまひ下さる必要はありません。和譯P.81
1.als seiner unw
4.die Stelle =その箇處を(die fragliche Stelle)
和譯P.83
5.君はみんながあんなに笑つてゐるのが聞こゑないか? だつて君は又しても又しても變な腰つきをしてズボンをせり上げるんだもの。和譯P.86
12.Anordnung 申し渡し、達し、云ひつけ。Unwillen erregen 不滿を買ふ。和譯P.89
3.Gl
10.in der T
r 戸口に、即ち im T
rrahmen 戸の枠の中に。11.Schutzinsel 交叉點等に設けた安全地帶。12.kennt「味を覺えた」と譯して下さい。13.命令一つ下す必要もなく云々(brauchte は或は接續法第二式ではないかと云ふ疑問も生ずるかも知れませんが、かういふ時は直接法も用ひます、第二式を使ふならばむしろ gebraucht h
tte です。)



和譯P.89
15.解説――普通教育が普及して有象無象に讀み書きが出來出すといふことは、つまり讀者層の水準が下がることを意味する、書く方も程度を下げて書く、程度を下げて書いてゐると書く人自身の考へ方も程度が下がつて來る。102
【2】1.無報酬の助言だからと云つて輕蔑なすつてはいけません。2.私の助言を輕蔑なすつてはいけません。無報酬の助言なのですから。
和譯P.92
3.この長い道を無駄足ふむ必要がない樣にと、いつ私が家にゐるかと彼はその點を詳しくきゝただした。4.今度來た先生は私の名と專攻を問ふて、しかもその口調に妙に皮肉な調子を交へた。5.Mordskerl 偉い奴、すばらしい男、(俗語)。6.人間なる現象が(現象人間、モ可ナラン)如何に弱小にしてあさましく且つ頼りなきものであるかといふ考へが人類の最初の宗教を生んだ。7.魂の本來の座が人體の何處に在るかといふ詮索は當然(zwangsl
ufig = notwendig)人腦の解剖の機縁となつた。8.es ist wieder etwas los 又は何か起つたな、より。

107P.95
注意事項【3】要するにその點は一向心配はございません;さてその事業は頗る不利なやうに見えた。【5】第一分册は只今現れた、そして該書は各書店に於て閲覽に供してある。
2.Selbst ist der Mann. 男子は獨立獨行。

和譯P.96
2.先づ以て吾人はインターナシヨナルの積極的諸提案を認識する必要がある、それを(提議を)公平に判斷し得るためには。3.戰爭が人類の惡性な疾患であるといふ事實は否定出來ない。
4.この瞬間に三人の警官が戸口に現れてこの男を捕縛した。
5.母は臺所で働き子供達は庭で遊ぶ。
6.彼は自分で私の所へ來ることが出來なかつたので、私に使者を寄越した。
7.食糧品の値段が騰貴する毎に、私の母は病める子供の如く嘆く。
8.金が出來てもはや働く必要がなくなると、たちまち人生は退屈なものとなる。
9.子供が氣が狂つたやうに搖籃の中でわめいてゐるのに、母は知らん顏をして庭で働いてゐる。
10.丁寧に握手するのではなくて、亂暴に握手しなければならぬ人間がある。しかもその握手には、ひつかく爪がある位でいゝ。[Tatze 猛獸の大きな前足――どいつもこいつもに係り合つてゐるときりが無い、ちよいちよい皮肉を云つて嫌がらせる位で丁度いゝのだ]。
110P.97
1.こいつは一風變つた人間だね!2.親父が怒つたの怒らないの!
3.一同は歡喜して僕を迎へる、實際數年來姿を見せなかつたのだから[hell は offen ――むき出しの、あらはの意]。
4.いゝぢやないの? だつてあたし達のお母さん達だつて十三・四の時にもうお嫁に行つたんですもの。
115P.99
備考 運命が決した曉には、人間の手出しは一切無用である[Zutun おせつかい、蛇足的行爲]。119P.102
「自動詞多きことに注意せよ」とあるは「自動詞に sein で完了時稱を作るもの多きことに注意せよ」――の誤り。和譯P.102
1.もう暫く書齋で待つてゐて呉れ給へ、僕はまだ朝飯を食つてゐないんだから。2.昨晩娘はとても素晴らしく歌つた、だから父が今彼女をほめてゐる。
3.今度はお前この小説を讀んでよろしい、私は讀んで了つたから。
4.誰だ私の幾何の本を土の上に投り出したのは? こんなに汚くなつたぢやないか。
5.諸君早く梯子をよこし給へ、泥坊は屋根に上つた。
6.私は彼に挨拶せずにこの酒場を出るわけにはゆかぬ、彼は私を見つけてしまつた。[館、亭、樓等のつく公開的建築を Lokal といふ]。
7.失した財布をヒヨツコリ又見つけると隨分うれしいものだ!
8.彼が立派な馬車[又は自動車]を買つたことをお聞きになりましたか? どこにそんな金があつたのでせうね。
9.君の隣人は退屈な男だ、一度旅行中に知合つたことがあるが。
10.彼等はもう家へ歸る。彼等は全く勞れてゐる、一日中工場で働いたのだから。
11.もうこの男に恥をかゝせる必要はない、神が制裁して了つたのだから。
12.この小説の日本譯はもう出てゐますか? 誰が一體飜譯したのですか?
13.彼が一人の子供を助けたことがあるといふ話は我我は既に屡
耳にしてゐる。

14.樹々は青み、鳥は森に歌ひ、ばら色の雲が空にたなびく。五月が來た。
15.既に屡
手紙を書いて遣つたに拘ず、弟は依然として返事をしない。

121P.104
【3】a.私が此處にかうしてゐられるのは彼のおかげだ、彼が私の命を救つて呉れたのだから。b.我々は到る處彼を尋ねたが、何處にも彼は發見されない。
【4】a.私が其處に坐つてゐられたのは彼のおかげだつた、彼が私の命を救つて呉れたのであつた。
b.我々は到る處彼を探したのだつたが、彼は何處にも見あたらなかつた。
【5】a.私は昨日彼を訪問した。
b.彼は二三日前に到着した。
c.此處には嘗て一つの城が立つてゐたことがある。[125項參照]
122
1.そんな事柄はいつの世にもあつたことだ。2.此の問題の純社會的解決が試みられたことは獨逸には未だ嘗てなかつた。
3.私は隨分前から此の人間に對して反感を持つてゐた。
4.もしもし、私はまだ人にこんな圖々しいことをされたことはありませんよ。
5.彼は殆んど死ぬまで孤獨だつた。
和譯P.105
1.だが要するに、貧乏と金持はいつの時代にも存在したものだ。それはどうにもしようがない。2.毒舌家は何時の代にもあつた。吾々の時代だけが例外だとお思ひなさるか?
3.無爲の徒の平和はいつの世にもあつた、しかし正眞正銘の平和はあらゆる社會的差別の撤廢、社會的正義に依つて始めて齎されるであらう。
4.人は私を或は貶し或は褒た。しかし、どのみち私に非常な御かげを蒙つてゐることは自認せざるを得ないだらう。
5.屡
人間は萬物の靈長であると云はれたが、しかしこれは全然主觀的な觀方であつた。

6.彼は既に再三私の新居に私を訪れたが、家の裏にある小さな庭はまだ見てゐない。
7.この別莊はおそらく五度乃至六度その所有者を變へた、從つて私は第五番目乃至第六番目の家主である。
8.この人間は友人として助言者としてまだ一度も私の役に立つたことがない、だから今度は敵としても大した危害を加へることは出來まい。
9.この特權を吾々は開闢以來所有してゐるのだ。今突然それを放棄しなければならぬとは一體何を吾々がしたのか?
10.不撓不屈の精神は常に病める虚弱な肉體の中に宿つてゐたといふことは統計的事實である。かるが故に健全なる精神は健全なる肉體に宿るといふ言葉は嘘である[mens = Geist; sana = gesund; in = in; corpore = K
rper; sano = gesund]。

123
1.この理を解せざる者は、既にその精神的健康を失つたといふ可きである。2.子供を持たないものは眞の愛を味はつたとは云ひ難い。
3.自分の魂から湧き出でたものでなければ、心の糧を得たとは云ひ難い。
4.牧師がアーメンと云ふ丁度その瞬間に亭主が出來上がるのあつて、それ以前でもそれ以後でもない。
5.報酬が取れぬとなれば、私は數ヶ月、ただ働きしたことになる。
6.信ぜよ、然らば汝は啖へるなり[我が國にも武士は食はねど高楊子といふのがあるが、キリスト教にもかうした強情我慢の思想がある]。
124
1.一寸でもお前の行李(の側)を離れたら、そしたらもうお前は行李の持主ではなくなるよ。2.おれに向つてさういふ口を利くのだな? よし、おれはもうお前とは縁を切つたよ。
3.夜中に彼が死ねば、我々はこの長靴は見おさめだ。
125
1.この場所に多分ナポレオンが立つてゐたのだと思ふと私は悚然として襟を正したくなる。2.願を掛ければ早速その驗のあつた時代に一人の王樣がゐて、その娘達は皆美しかつた[helfen = wirken]。
126
君が明日の晝、私の所へ來る時分には、私はこの本をきつと終まで讀んで了つてゐるよ。127
女學校を了へてしまふと、大抵の娘達はすぐ家婦になる。和譯P.113
1.彼は一家の主となつて以來、めつたにこの倶樂部に現れない。2.この異國の植物は自國の土と自國の空の下でではなくて、この國の温室の中で育つた。
3.この警官は何等の理由なくゴムの棍棒を使用した、そしてこの騷動はまさにそれに依つて持ち上がつたのだ。
4.部屋の窓を皆あけてテーブルや椅子を掃除しろと先刻云ひつけたらう? どうだ、出來たのか?
5.私はその期間ずつと田舍にゐたので、都會の出來事は全然と云つてもいゝ程知らない。
6.お前達はまだ皆子供だ。身體は大きくなつたが、氣持はいはばまだ搖籃の中にある。
7.子供達の自己意識が目ざめると同時に、吾人は彼等を人形の如くではなく一個人、一人格として取扱つてかまはない。
8.騎兵は、敵部隊を粉碎するためには、敵が逃亡を企てるや忽ちその行動を開始しなくてはならぬ、敵が既に逃げて了つてからでは不可ない、それではもう晩すぎるのだ。
9.その地帶は着陸には最不適當である、それは高い樹木と電線にはさまれた細い一片の草地である、それにも拘らず旅客機は滑らかに着陸した。
10.たつた今貴下の自動車が事故を起しました、運轉手は生命は別條ないが重傷です、貴下は即刻私について警視廳まで出頭せられたい。
139
活動その者1.私は全生涯を旅行し通した。
2.何をしたか? 游いだ[游ぐことを爲した]きりだ。
3.彼は市場で馬に騎つた。
4.嘗て此處には赤旗がひるがへつてゐた。
5.私の若い時代は、夏休にはいつも田舍を歩いたものだ。
6.彼は私の脇腹を蹴とばした。
或る場所への到達
1.私は先づ巴里へ、それからローマへ行つた。
2.どうして島に到達したか? 游いで着きました。
3.彼は馬で市場へ行つた。
4.建物はあつと云ふ間に空中に吹き飛ばされた。
5.彼はもう私の所にゐない、彼は監獄へ行つて了つた。
6.彼はかたはらへ退いた(座をはづした)。
和譯P.115
1.しばらく走つたり飛んだりすると、その後は隨分勞れる。2.大變だ:一人の男が水に飛込んだ、そして游げなかつたので、溺死した。
3.この若い雀はまだ飛んだことがない、彼はそれを今日始めて試みた、すると彼は地に落ちた、即ち彼は不時着をしたのだ。
4.若い雀は今日立派に飛行試驗に及第した、彼は首尾よく隣家の雨樋の中へ飛び込んだ。
5.仕事をするに際して、その努力の對象に充分注意が行屆かないとか或はあまり急ぎ過ぎたりするときまつて結果がかんばしくない。
6.母は息子の病んだことを聞いて速刻彼の所へ急いで出掛けた、從つてそんなにすぐ歸つては來ないだらう。[zur
ck sein は zur
ckkommen を状態語法(214項)で云つたもので、意味は同じ]


142
【1】1.彼は行つた。 彼は歩みつかれた。
2.彼は落ちた。
彼は轉げて子供を殺した。
3.彼は笑つた。
彼は脊を笑ひ曲げて了つた[ころげるやうにして笑つた]。
【2】1.運命は偶然[#「偶然」は底本では「遇然」]彼の手に怖るべき權力を握らせた。
2.吾々はこれで一時間も兩脚が胴體にめり込む程立ちつゞけて[#「立ちつゞけて」は底本では「立ちつヾけて」]ゐる。
【3】1.彼は重大な要件で赴いた。(彼は彼の道を歩んだ)
2.彼は英雄的な死を(おだやかな死を、自然死を)遂げた。
3.馬は毎日の歩みを歩んだ[Trab は Schritt(なみ足)より少し速い所謂「速歩」]
146
南、沙漠の炎暑に堪え北、氷雪を侮りし彼も
今は狹き船室に捕はれて
波のまにまにゆらるゝなり
和譯P.119
1.失業の除去乃至減少は我が祖國にとつて最大の意義を持つ問題である。2.仕事の内には明かに健康に有害であるがそれにも拘らず爲さねばならぬ類のものが澤山ある。
3.それは實に無用の穿鑿(あげ足とり的なあらさがし)であつて、それを究明するに必要な暇が今私にない。
4.すると彼ははからずも鐡格子の戸口に出た、その金鍍金した[#「金鍍金した」は底本では「金渡金した」]鐡棒の間からは別の庭が見渡せるのであつた。
5.技術のあらゆる進歩は所有階級の富をのみ増進させる、この階級には技術家も或る程度は含まれてゐる。
6.吾々は今や全てを序へる強き拳、萬人をして服せしめるだけの意志の男(決意の人)を必要とする。
7.私は何んの役にも立ない人形は必要としない、善良で強健な女、その手は常に洗ひ、掃き、拭き、そして整頓するところの女を必要とする。
8.不幸が起つたならば人はそれを神のお告げと見なくてはならぬ、我々はこれを恐れる必要はないが、その神意をとくと理解しなくてはならない。
9.こちらで充分信頼してゐない友達は、やはりそのことに薄々感づいてゐて、こちらに信頼を置かない、これが自然の趨勢である。
10.今現に貴下がその側に立つてゐるその同じ窓から今朝[heute Nacht は今晩にあらず]一人の泥棒が庭に墜ちて片脚を折つた。
11.或る絶壁に懸つた寂しい小徑で私に襲ひかかつた盜賊は自分で谷底へ墜落した。
12.相對主義は主張する、萬物は相對的であると。しかし、それを念頭に置いて始めて全てが相對的となるところの其の何物かが存在しなくてはならぬ。
13.何等知識のない小兒と雖も疑問としないところの事實を、これ程頭のある人間がどうして非認し得るか私にはわからない。
14.旅客が使用しなかつた乘車劵は二日間にして無效になる。
15.この外科醫の助手たらんことを欲するものは自身既に一人前でなければならぬ[ein Mann, welcher = wer]
147
【3】改變そのものを公に許すといふ、この思想[漸進的改善の本能]は、例へばカトリック等、諸々の宗教、同樣に又保守的或は少なくとも安定的であることを己が眞の權利であると主張してゐる諸國家には頗る人氣がわるかつた。148
1.政府は常に農民階級を壓迫して來てゐたが、その状態は革命運動に極めて好都合であつた。2.大地が搖ぎその上にある全てを投げ落す、この現象を地震と稱す。
3.往々にして幹、枝、小枝及び葉の間に何等の差別をも設けない植物が有るが、かゝる[#「かゝる」は底本では「かヽる」]場合を吾々は例へば、よくある仙人掌に見ることが出來る。
149
【1】1.このことをお前に告げる私が自身で其の場に居合せたのだ。2.今私にそんなことを云ふお前は、やがてそれを後悔するだらう。
3.先程それを私に云つたところのお前達は、もうそれを忘れて了つてゐる。
【2】1.それをお前に云ふところの私が實に自身でそれを經驗したのだ。
2.今そんなことを私に語るお前は、やがてはきつと後悔しなくてはなるまい。
3.一寸前に私にそれを斷言したお前達は、それに就てもはや何も知らぬ振をする。
4.かよわい女に過ぎない私が、それでもそれをやつてのけたのです。
150
1.ローマ人を悦ばした如き劇は、ゲルマン人には知られてなかつた。2.他の諸國に見るが如き激烈なる黨爭は我が國に於ては表面化するに至らない。
3.今日午後パリの歴史に未だ曾て見られなかつた樣な物凄い颶風がパリを襲つた。

1.これは王樣すら、これ以上のものは飮むまいと思はれる程の葡萄酒である。
2.彼女は彼を、彼がその生涯に於てとにかくまだ聞いたことの無かつた程の愉快な報知を以つて驚ろかした。
和譯P.124
1.私は他の誰をも愛さない、たゞ十年間も苦樂を共にして來たお前をのみ愛する。2.富裕な私の友は大きな家に住み、他の何人も持ち得ない樣な圖書館を持つてゐる。
3.貴下が讃美する如き理想主義は今日の世界には不可能なものであり、かつ幾分時代遲れである。
4.そいつあよかつた。それは實に君の如き人物のみが發し得る一言なのだ。
5.吾々の父は今日歸宅する、母はいつも父が好んでゐたやうな物ばかりを料理した。
6.彼は世間にも自分にも堅氣になると誓つた。そして金のある間は彼はおとなしかつた、それからしかし彼の財布が少し瘠せて來た、この瞬間をこそむしろ彼は男一疋がどんなものであるか一度彼の全ての朋輩に示さうと思つて待ち構へてゐたのであつた。
7.すると主筆自から私の所へやつて來た、そして私を歡迎した、かくの如き光榮は私の全く豫期しないことであつた。
8.醫者は彼にあらゆる運動を避けるべく嚴重に命じたこの事態は吾々全ての心配を裏書するものである。
9.障害克服の第一歩は成程その障害を知ることにある、しかしこの第一歩は暇を持たなくては不可能なことである。
10.何故國家は失業市民に支拂ふ巨額の金で彼等を直接給養しないのであるか、かゝる手段は非常な節約となるであらうが。
151
注意事項【2】扶持がきかせるお爲め口(そのパンを我れ喰ふ、その唄を我れ歌う)[wes は wer の二格]。心の中に滿つることが言葉となつて口に現れるのだ[wes は was の二格]




1.それではこれが、お前の精一杯か?
2.人生をして始めて人生らしくするところの全ての甘美なるものが私に禁ぜられてゐる。

2.私はこの決心を固持し、そして、およそそれに依つて生ずる限りの苦惱を耐え忍ぶだけの勇氣を持つ。
3.彼に缺けてゐる青春の力を彼は判斷の鋭さでもつて補ふ。
4.私の幼時が私に齎らした悦びと悲しみの全てを、それ以來とうに忘れて了つた。
5.彼女が嘗て聞いたことのある限りの眞夜中の怪談が全て彼女の記憶の内に目覺めて來た。[前置詞を用ひぬ場合]1.そんな罰を受けるやうな何を一體私がしたのだ。2.お前の中にある善なるものと高邁なものの全てが沒落した。
152
3.彼の言ひ分にも何處か尤もな點があるにちがひない。和譯P.128
1.人は望んでゐることを信じたがるものだと獨逸の諺が云ふ。2.吾人は衣服、靴、書籍その他吾人に屬する全ての物を大切にしなくてはならぬ。
3.父に於て默せしところのものがその子に於て顯る。我往々にして伜がさながら暴露されたる父の祕密なるが如きをみたり。[例へば謹嚴な牧師の子に稀代の道樂息子が出來れば、もつて親父の内的生活に如何なる程度のなまぐさ根生が[#「根生が」はママ]生殺しになつてゐたかが解る等]。
4.私が今、私が嘗て受けた限りの侮辱、恥辱、輕蔑、憎惡、虐待を考へ合せると――どうして私がそれに耐え得たか、われながら不思議なくらゐだ。
5.あなたは今即刻家へ歸つて、貴方が私から受け取つた限りの手紙を早速全部お燒き捨てなさい。
6.一度的に中たつたからとて、それ位のことでは到底名射手とはいはれない。
7.老紳士はロイド眼鏡をかけて、自分の前に大きな古い本をおいて、それを熱心に讀み耽つてゐた。
8.私は只私が放置しておけないことをやつただけである。だから君は僕を少しもほめることは要らない。
9.吾々はこの教授の講義をもはや聽かうとは思はない、如何となれば、この人の言ふことはどの教科書にも書いてあるから。
10.私はこの作家の著作には特別な執着を持つてゐる、なんとなれば、彼は人を深く考へさせるところの多くを云つてゐるからだ。[einen = man]
153
1.お客樣がその場でお支拂下さらない場合には、手前共の方では内金を頂くことになつてをります、もつともその場でお支拂になるやうなことはまづめつたにございませんな。2.彼女は簡單に顛末を物語つた、彼はそれを聞いてすつかり考へ込んで了つた。
3.彼はただちに家へ急いだ、その際彼は勿論彼のステッキを置き忘れて行つた。
4.彼は急いでゐた、そしてこれは彼によくあることだが、ステッキを置き忘れたのであつた。
5.彼は、それは彼の習慣であつたが、裸で寢床に横はつてゐた。
6.死せる民族は、その精神がまだ生きてゐる際には、これは例へばギリシヤ人に關しては誰も否定はしないだらうが、現在生きてゐる民族同樣に各國民間の友交交易の[#「友交交易の」はママ]中につながりを持つものだ。[wie dies は Geist が lebendig なことを指す]
154
本質とは何ぞや? 本質とは、或る物が、依つて以てその物たる所以の點である。和譯P.131
1.翌日男爵は豫め約束しておいた訪問をなした。2.皆は喋り、喫煙しながら、近所の酒屋からとつて來てあつた新鮮な麥酒を呑んだ。
3.彼是する間に吾々の工場の施設を視察し了つたお客が、この瞬間再び部屋の中へ入つて來た。
4.學期の最後の日に彼女は彼の所へやつて來た、彼は自分の方で彼女を誘ひに行かうと思つてゐたのであるが。彼女は一つ凶報を受けたのであつた、そして出來るだけ早く彼にそれを告げるやうに云ひつかつてゐたのであつた。
5.妹の顏を一目見ただけで萬事を知るには充分であつた:母は死んだのだ、彼の來方はおそすぎたのだ。
6.その前日約束した通り、その友が來た時は、まだ晝飯を喰べてなかつた。
7.二人の婦人はその自動車をある菩提樹の蔭に乘り捨てて、草原の上を散策した。
8.將來この妻を娶る者は世界第一の幸運兒であるといふのが一般の聲であつた。そして今や彼は愈
その問題の男になつたのだ。

9.かう云つた後彼は私の答も聞かずに急いで部屋を立去つた。
10.ドクトル・ピヒレルは旅行中に、嘗て自分が手術してやつた男の小さな娘に出逢つた。
和譯P.134
1.君は[#「君は」は底本では「君はの」]その本を終まで讀んで了つたら、私に返すだらうね。2.そして裁判官が君の勝利を宣言するだらうその嚴肅な瞬間に、君は君と君の家族を破滅に陷入れて了つてゐるだらう[裁判に勝つて費用倒れになることをいふ。]
3.彼は財布を落したとこぼして「十マルク借せ[#「借せ」はママ]」と私に云ふ、「財布を再び見つけたら、きつと金は返す積りだ」と。
4.この若い人達は、いづれ凡そ人間が當然經驗せざるを得ないところの事柄を經驗して了つたら、彼等の愚劣さを悟るであらう。
5.お前達が一所に教會に行つて、牧師がアーメンと云へば、それで、天下晴れての夫婦になつたのだ。
177
7.この鬼婆奴、地獄へでも下りをらう。8.[所謂海へ山への意]和譯P.142
1.夜間忍び寄る敵を鐡條網が喰ひとめる。――2.吾々が敵の塹壕眞近に迫つた時、ある砲彈坑[漏斗形をなせるより]の中から黒い影が立ち現れた。――
3.中隊は默々として號令を待つてゐる。號笛一聲、中隊は[塹壕から]飛び出す。
4.彼は前後左右を窺つてそして遂に一つの彈砲孔を發見する。彼はその中へ匍ひ込んで、深くホツと息をする。――
5.飛行機が一寸の間彼等の頭上を旋回する[#「旋回する」は底本では「施回する」]、それから爆彈が一つ落ちて來る。6.[不要、削除]
和譯P.144
1.ライプチヒに滯在してゐる間、私は毎晩若い友と散歩に出て、この町のあらゆる名所を見物した。2.彼は以前はとにかく健全なる常識のあの種の分量が備つてゐた、しかし年齡と共にそれは全く失はれた。
3.下手な商賣振りが危機をもたらすことは避けがたい、そしてそんな營業は間もなく滅びる。
4.彼は今や父の事業の失敗を整理するといふ思ひ切つた工作に着手する。
5.資本主義的國家秩序の解消は成程極めて徐々にではあるが、しかし確實に歩一歩と進捗してゐる、此の點は吾人の如何ともする能はざる所である。
6.彼はそれには危險が伴ふことを知つて、仕事にとりかゝることを躊躇してゐる。
7.彼の云ふことを眞面目に受けとることに私が躊躇するのは當然だ、そして私はそんなことは絶對に成立し得ないといふ私の主張を捨てない。――
8.彼は自分の仕事の現状を知らない、そして相變らず無我夢中である。若し他日正氣づくことがあれば、彼は自からと、自からの家族とそして全てを亡ぼしたことを發見するであらう。――
9.彼は狐の如く狡猾である、彼が若しひよつと何處かに地歩を占めることがあれば、彼はたゞちに、その全ての地面は法律上[當然]彼の所有に屬することを證明すべき百の理由を見出すだらう。[zehn は單に數多きことを云ふ]
10.するとこの家の主人が自から入り來つて、私に握手をし、私を親愛なる同僚と呼んでから、お掛け下さいと云つた。
179
辯士は、斯くする中にもはや許されてゐる十分間が過ぎて了つて、まだ他の辯士が發言したがつてゐたので、議長の督促に應じて、まだ云ふことは澤山あるがと云ひながら演説を中止した。182
【1】1.一通り通過する。私は大病に罹つたことがある。2.逸走する。馬は騎手を乘せたまま逸走した。3.旅行して通過する。私はただ一度この町を旅行して通つた。4.駈け拔ける。かうなつてはもう外の道が殘つてゐないので、彼は斷然走つて突破する。【2】1.貫徹する。彼はその意志を貫徹する。2.しみ通る。厚い毛皮にもかゝはらず寒さがしみ通る。3.燃え透る。戀の焔が燃え通る[戀はすぐに色に出る]。4.終まで持ちこたへる、彼の主義が貫徹する。
【3】1.敷詰める、うづめる。彼はその記事をいろんなあてこすりでうづめる。2.駈け廻る。商船や軍艦が縱横無盡に海を駈け廻る。3.彼は隣近所をやたらに問ひ廻る。4.彼は隣近所を一順問ふて廻はる。
【4】1.ふざけて明かす。吾々は一晩中與太り通した。2.騷いで送る。夜ぴて歡樂に耽る。3.あゆみ横切る。彼は廣間を歩み横ぎる。4.私の自動車は町中を走り廻る。
【5】1.彼は歩み通る。2.彼は部屋を歩み通る。3.寒氣が浸み通る。3.寒氣が服を通す(現在完了の助動詞は[自]sein,[他]haben)[自]Die K
lte ist durchgedrungen.[他]Die K
lte hat das Kleid durchdrungen.


【6】1.彼は壁を破つて大きな穴を開ける。彼は敵の線を突破する。2.勇敢な雀が部屋を[#「部屋を」は底本では「部 を」]を飛び拔けた。彼は手紙を一渡りさつと見る。
184
【1】1.移る。彼は敵側に投じた。2.渡す。船頭が私を向側へ渡す。3.溢れる。彼の目から涙が溢れる。4.溢れる。河が溢れる。【2】1.彼は小説を飜譯する。2.彼は法を犯す。3.彼は事柄を誇張する。4.彼は問題の點を看過(或ひは默過)する。
【3】1.[自]彼は敵側に移る。[他]彼は最も重要な點を見逃す。2.[自]樽が溢れる。[他]水が野畑を沒する。(現在完了1.[自]Er ist zum Feinde
bergegangen.[他]Er hat den wichtigsten Punkt
bergangen. 2.[自]Das Fass ist
bergelaufen.[他]Das Wasser hat Feld und Wiese
berlaufen.)




185
【1】1.裏向ける。私は掌を飜す。2.くつがへす。舊い社會秩序が覆へされる。【2】1.古い塀が墓地を圍んでゐる。2.回避する。人は法網をくぐる。
186
【1】1.太陽が沒する。2.つつかいをかふ。人はこの樹に一本の太い杙棒をつつかふ。【2】1.に服する。彼は好んで危險に赴く。2.彼は言行をもつて私を支援する。
188
【1】1.街路に跫音が反響する。2.海は空の紺碧を反映してゐる。【2】1.それは私の趣味に逆ふ。2.彼は自家撞着してゐる。
189
【1】1.容器が一杯になる。2.私はコツプを滿たさうと思ふ。和譯P.148
1.この國は極めて面白い、しかし私の樣に只一度限りの旅行で、しかも飛行船で通つたのでは大して語る程のものも持たない。2.彼は至る處へ行つた、彼は全地球上のあらゆる方向にその足跡を印した、そして今や吾々にその旅を物語る。
3.この富裕なユダヤ人は病で死んだ、そして彼の子女に、彼がその全生涯を通じて貪り集めたところの莫大なる財産を殘した。
4.私の同僚は、如何なる點でも私に及ばない愚物にすぎない。ただ飮むことでは私を凌駕する、否彼はその點ではそもそも全僚友の上にある。
5.彼はとうから私と交際したがつてゐるのだが、彼とつき合ふことは私にとつては好ましくない、私は彼と顏を合せる機會を常に何んとかして回避して來た。
6.彼はゲーテのファウストの邦譯を企てた、しかし彼は間もなく、それは彼の力量以上であると見て取つたので、中止せざるを得なかつた。
7.犬は何でも主人の所へくはへて持つて來るといふ本能を持つてゐる、といふのは、君が棒切とか又はそんなものを水の中へ遠く投げると犬はきつとそれを持ち返る。何度繰返しても同じことをする。
8.彼は兵士である、そしてまた兵士で終る積りでゐる。山々が大砲の響にこだまするやうなときは、彼がその生き甲斐を感ずる時だ。[in seinem Element 得意の境地にある]
9.此の藝術家は十年間も只一つの像の制作にとりかかつてゐた、日夜、絶間なく。そして、いまだ彼の畢生の作を完成するに至らずして死んだ。
10.將軍は全戰線を驅け廻つて兵士に一人一人呼びかけ彼らに神と祖國のために英雄的犧牲的戰死を遂げよとはげます、そして彼の鋭い聲は戰場のどよめきの中に響き渡る。
2.そんな積りは毛頭ございません。3.そんな場合にはまだ出喰はしたことがありません。4.その點なら彼に充分信用がおけます。5.その方面の心配は一向ございません。
193
【1】2.いつもその日働きをしてゐる身であれば、その日暮しになるのも無理のないことではあるまいか。3.今に見ろ、其奴の頭を俺は斧で眞二つに叩き割つてやる。
4.此の人達は一向頼りにならない。斯ういふ人達は別に我々の邪魔にもならず、また益にもならない。
【2】1.私は義務のそれ以外には何等の掟にも服しない。
2.私の決心は決まつてゐる、が私の父のそれはまだぐらついてゐる。
3.神の愛は父のそれと同樣にこまやかである。
194
【3】1.私は、お前がよく知つてゐるその男の息子だ。2.私は、お前をも胎内に宿したその女の息子だ。
3.私は、全ての人が知つてゐる人達の息子だ。
4.彼の衣類の大部分と彼の子供達に屬するその半分通り。
【4】1.私の辯護人と私の相手の男の辯護人との交渉の結果示談が成立した。(haben ハ hat ノ誤)
2.私は心配してゐる、お前の件もさうだが、お前の兄弟のそれのためにも。
3.彼は以前の同盟者ではなく新しい同盟者を見出した。
4.彼女はよく昔のことゞも[#「ことゞも」は底本で「ことヾも」]を、特に學校時代のそれを思出す。
195
1.彼女の夫は極度に嫉妬する。例へば誰でもものゝ十五分も彼女と二人きりでゐたとなると、早速彼は彼女に喰つてかゝる。2.彼は既に二三人に嫌疑をかけてゐる、彼はあの男ではないか此の男ではないかと云つた。[bei ihm は「彼のもと」ではなくて「彼の腦裡では」の意]
3.そんなことは毎日の樣に起る。新聞は毎日、斯く斯くの場所で誰某氏の自動車が、なん才かん才の子どもを轢いたと報道する。
和譯P.154
1.[#「1.」は底本で「 .」]私は、今回の戰爭中に、物事を偏見なしに見て全てのありきたりの考へ方を忘れるとか或は少なくとも吟味反省することを覺えたところの人々のために、そしてその樣な人に就て語らうと思ふ。2.ところで僕はほんの一つお願ひがあるんだが、それは内緒でないと云ひかねることだ。
3.新聞はベルリン在住のフランス人に對するベルリン市民の不法、暴行を報じてゐる。警官は當人達自身の安全のためにフランス人達を拘留せざるを得なくなつた。
4.馬鹿や阿呆に對しては己が賢明なる所以を明かにする道は一つしかない、してそれは吾々が彼等と全然口をきかないといふことだ。
5.この劇作家が登場させる人物はそろひもそろつて辯舌さわやかな人達のみで、かつ行動の動機をとてもまことしやかに述べ立てるものだから、見物の方では大抵の場合一番最後に喋つた人物の方に味方して了ふ。
6.この概念は決して四角な圓といつた樣な意見に於て矛盾するわけではない。
7.彼の力は巨人のそれであり、彼の勇氣は獅子のそれであつた。
8.ギリシヤ本土の住民の民謠と島嶼地帶のそれの民謠とは根本的に相違した特徴を持つてゐる。
9.私はお前の脅迫もお前の一味の脅迫も何のそのだ。
10.ある悲劇的體驗から女性全般を忌み憤つて近づけない絶對的な女性の敵、そんなものは只小説に出て來るだけである。
196
【2】1.吾々はこの眞相を明かにする手段を發見するだらう。2.吾々はこれに善處する手段を發見するだらう。
3.吾々はそのことを成し遂げる手段を發見するだらう。
【3】3.では、吾々の間に起つたことはもう言ふまい:さつぱりと水に流さう。[Schwamm は海綿で作つた黒板拭を言ふ。Schw. dar
ber とは Streichen wir mit Schwamm dar
ber!]――あいつの云ふことにはやはり本當なところがあると思ふ、私はそれを信じないわけにはいかない。Das regnet! こいつはひどく降るなあ。


和譯P.156
1.人はいざといふ場合には自分の所有物を破壞しても差支なからう、如何となれば、所有と云へば吾人はある物權に對する、それを破壞する權能をも含めた全幅の支配權を考へるのが常だから。2.これなどは實に下らない樂觀主義であつて、如何なる事實もそれを裏書しはしない、この點に就ては後に再び述ベるであらう。
3.それとそして何等かの意味に於てそれに關聯する事柄が社會學の對象である。
4.哲學は、他の諸科學が自明の事實として、その本來の目的を追求するためには前提とせざるを得ないところのそのものを特に取扱ふ。
5.著者はスペースを節約しなくてはならぬ、從つて既に他者が云つて了つたことについてはもはや呶々の言を費したくない。
197
1.乞食が貧乏詩人に出合つた、さうするとこの詩人は乞食に施物を乞ふた。[dieser, jener ノ區別ヲ明瞭ナラシメルタメワザト奇拔ナ事實ヲ擇ンダノデス]2.彼は知らない女に話しかけた、彼女は驚いてふり返つた。
3.夫と妻が自分達だけになると前者は後者に向つてどこか惡いのかと尋ねた。
198
【1】solcher hohe Gast は斯くの如き hoher Gast であつて solcher は Gast のみではなく hoher Gast 總體にかゝります。然るに solcher, hoher Gast(Komma と hoher に注意!)となると solcher Gast であり hoher Gast である、即ち二つの形容詞が別々に名詞にかゝります、――第二表の solcher, uns allen w. Gast は後に述べた方です。【5】1.風邪そのものは大しておそろしくない。[「風邪そのもの」= Erk
ltung als solche 又は Erk
ltung als Erk
ltung 又は Erk. an und f
r sich][#「[「風邪そのもの」」は底本では「(「風邪そのもの」」]




2.人は妻に欺かれた夫共を輕蔑する、自分自身でさう(その一人に;自分自身でそれに)なるまでは。(人ノ事ダカラ笑ツテヰラレル)。
3.醫者は彼に二三ヶ月南フランスで暮すことをすゝめた、彼はしかしそれは(そんなこと、そのやうな贅澤)は彼の金力には及ばぬと返答した。
4.彼女は私と私の兄弟を博士と呼んだ、私の兄はほんとにさうなんだけど、私はしかしさうではない。
199
1.今晩私は公に演説しろと云はれてゐる、これは何んと云つても選擧などゝいふものゝ習慣だ。2.「彼はお前にきつと何か遺産を殘すだらう」と叔父ウルリヒは彼女に云つた。
「さあどうでせうかね、ウールリヒ叔父さん!」と彼女は嘆息した「金持と偉い方とかいふものは、何んと云つても皆利己主義者なんだわ」
和譯P.159
1.このビルデング[Haus はよくビル、アパートもしくはデパート等を指す。]の三階に最新型のマルキストと古臭い哲學者が住んでゐる。[#「住んでゐる。」は底本では「生んでゐる。」]哲學者の方はいつも貧乏だがマルキストは大金持になつた。2.合同運動といふ奴は所謂民族の自由運動とは全然別な特質をもつてゐる。後者はいゝ氣持な浮れ氣分で始まるが、前者は多少たりとも物になり相な運動なら、合同の最も合理的な形式は何んぞやといふ極く地味な問題に向けられてゐる。
3.健康程有難いものはないと。たとへ健康を持つてゐたところで本當の使途を知らない人々の信仰第一箇條がこれである。
4.俺は偶然ここに居て、俺の不利益になるやうなお前の云草をすつかり聞いて了つた。やい、貴樣にきくが、何の權利があつてそんな惡口を云ふのだ。
5.哲學を研究することは決して不合理な不可知な世界を合理的、概念的な世界に換へることなど[etwa]ではなくて、むしろ世界の超合理的な一面に對する感じを鋭どめ、不可知のものは不可知とし祕密は祕密として己も體驗し又他にも體驗せしめることである。
201
1.大衆はたゞ恬然として誰憚らず出鱈目を云つてのける樣な民衆指導者の言にのみ信を置く。2.人はただ斷乎たる行動に出る人物を信頼する。
3.私は義務のそれ以外の何等の掟にも從はぬ。
和譯P.161
1.大宣傳をするところの企業にのみ信を置くといふ、これが即ち一般人の許すべからざる無智である。2.名詞の位置にその代表として立つところのその語を代名詞と呼ぶ。
3.如何なる眞理と雖も、それを認めるところの人々、或はより適切に云へば、それを認める意思のある人々にとつてのみ妥當である。
4.私はかうみてゐる、即ち人はそもそも常に最も理解するところの少ないものに關しても最も素晴しい與太を飛ばすものだ。
5.生涯一人の女の持つ魅力を歎賞せざるを得ないとなれば隨分退窟なことだが、若しそもそもいまだ嘗つて彼女が持つたこともない魅力を歎賞してゐなくてはならないとなると猶更退屈なことだ。[況んや美しからざる妻君をやの意]
202
1.吾々の子どもは嘗て吾々がやつた同じ愚をまた始めからやり直す。2.あいつはちつとも昔と變らないね、フランツの奴は。[gut は多少馬鹿にした愛稱である]
【1】1.國家が教會を支持すれば、教會も亦國家を支持する義務があるわけだ。(ihrerseit sauch ハ ihrerseits auch ト訂正)
2.彼は大統領自身ではなく、その代理人と面會したに過ぎなかつた。
【2】1.英語とドイツ語は同一語系から發してゐる。
2.英語とドイツ語は同一系統に屬する。
3.印度歐羅巴人種は[#「印度歐羅巴人種は」は底本では「印度歐巴羅人種は」]源は同一種族であり同一言語を使用してゐた。
【3】1.ゆるゆる急げとドイツの諺は云ふ。同じことを意味する日本語に於ける好一對は何んといふか。
208
11.Dietrich 合鍵
von, durch, mit の差はほゞ[#「ほゞ」は底本では「ほヾ」]この頃に述べた方針に從つて使ひ分けるといふ意味で、その使ひ分けにはかなり微妙な語感を要しますから、ある具體的な場合を捕へてこの場合は必ず von だ、或は durch だ等と斷言することは危險です、大體の據り處を示したものと思つて下さい。
209
1.彼は善美なりし往時を述懷する[想ひ起す意味もあれば:又この方がむしろ普通ですが、追懷的に言及する意味もあります]
Man tanzt,に就て:必ずしも「誰かが」踊つてゐるの意のみならず「皆が」「吾々が」「私が」「お前が」etc. の場合にも用ひることに關して注意を喚起されたし。
P.166 1.Die Kellert
r wird vom Koch aufgeschlossen.

――コツクが地下室の戸をあける。
2.Sein Name wird
berall genannt.

――どこへ行つても彼の名を耳にする。
3.Eines Tages werde ich von einem l
ngst vergessenen Jugendfreund aufgesucht.

――ある日久しく忘れてゐた竹馬の友が私の所へやつて來た。
4.Der Sohn wird von dem Vater mit einem unerwarteten Geschenk
berrascht.

――父が子息に思ひがけない時に思ひがけない贈物をする。
5.Es wird heute den ganzen Tag gearbeitet,[den ganzen Tag ガアルカラトテ Heute wird der ganze Tag gearbeitet. トスベカラズ]――今日は一日働く。
6.Das Gesch
ft des altersschwachen Vaters wird von dem (durch den) Sohn geleitet.

――息子が老衰した父の代りに店をあづかる。(或は事業を指導する。)[ワザワザ Gesch
ft トイフト大抵營業、店舖ヲ指シマス。]

7.Eine musterg
ltige Weltgeschichte wurde von dem ber
hmten Universit
tsprofessor geschrieben.



――有名な大學教授が模範的な世界史を書いた。
8.Der Talgrund wird von einem Waldstrom durchbraust.
Es wird der Talgrund von einem Waldstrom durchbraust.
――溪流が谷底をざわめき流れる。
――溪流が谷底をざわめき流れる。
9.Der M
iggang wird von unserem Lehrer verdammt.[#「M
iggang」は底本では「M
igang」]






――吾々の先生はずぼらはいけないと云ふ。
10.Es wurde gesegelt, gerudert und geschwommen.
――或はヨットを操り、或はボートをこぎ、或は泳いだ。
和譯P.166
1.アダム・スミスの説は、人間の行爲は全て利己主義の命ずるが儘に行はれるといふ例の有名な前提から出發してゐる。2.レマルクの映畫「西部戰線異状なし」は一再ならず政府委員によつて上映を禁止された。
3.一國民の一致結束は、擧つて死地に赴くといふ際に於て最も力強いものである。
4.思惟や認識が行はれる場合にはあらかじめ限界が劃される必要がある[定義のことを云ふ]。限定[定義]無しに思惟に何んの據所もなく、第一認識などは成立しない。
5.彼の大規模な計畫の實行は只一つの偶發事に依つて妨げられたに過ぎない。
P.168 1.娘や、心配することはないよ、私がお前さんの夫と話してみよう。かうした世間的な人物といふものはいつの時代にも私達女の意の儘になつて來たものだからね。
2.第一に重要なことはそもそも着手することが出來ることだ。まづ一たび筆なり鍬なり手にとつて最初の一筆なり一鍬なりをおろして了へば仕事はずつとずつと容易になつて來る。
3.大衆が藝術を引下げると一般に主張されてゐるのは正しくない、藝術家が大衆を引下げるのである、そして藝術が衰微した時代には必ずそれは藝術家に依つて滅されて了つたのである。
4.本邦では、未だ嘗て古い憲法を再吟味し近代的事態に適合させる試みが爲されたことがない。
5.人間の徳は、それが習慣になつて了はない間は確かな所有ではない。[solange sie nicht zur Gewohnheit geworden ist]
211P.170

4.彼は正座したまゝ悚然と感動に打たれて了つた。

2.[ausbauen 充實する、完成する、擴充する、abbauen 緊縮する、淘汰する、馘首する]
3.ピアノはたつた今調律(し)たばかりなのに、もう音階が狂つてゐる(あたり前でない)。
212
1.[#「1.」は底本では「 .」]私の樣に度々手術を受けると遂には少しも怖しくなくなる。2.いつ貴君は入學許可されたのか?
備考: 若し Wann sind Sie immatrikuliert? と問はれたら、意地惡く出ようと思へばわざわざこれを worden の省略を見ずに前項に述べた完了状態と誤解した振りをして Jetzt!(今在校生です)と答へることも出來よう、けれども問ふた人にしてみれば今在校生(状態)はわかり切つた話で、實は入學した期日を問はうとするのです。これで210項と212項との差が解りませう。
213
1.此の樣な重大な處置は充分考慮される必要がある。2.私は小さな[#「小さな」は底本では「小な」]子どもを四人持つてるが、こいつらも皆なそれぞれ手がかゝる。
3.かういふ機微な關係はよほど愼重に取扱ふ必要がある。
P.171 1.觀衆は娯まされ感動させられることを欲する。觀衆が慰安を欲してゐる際に努力など要求すると彼等は不滿足である。
214
1.彼は博物館に行つた、入場した、廣間をいくつも通り拔けた、そして二階に着いた。[以下すべて状態語法は、日本語では必ずそれに該當する動作語法を用ひないと日本語として妙になります。]2.彼は足を滑らした、よろめいた、キヤット[#「キヤット」はママ]云つた、前へのめつた、そして地面に倒れた。
和譯
1.既に此の夏仕事は始まつた、まだしばらくはかかるだらうが結局立派な建物がたつだらう。2.彼にとつては、階段を自分の部屋へ昇つて行き、戸を後にしめてさて、愈
自分の身體が自分のものになるといふ瞬間程有難いものはなかつた。

3.獵區Xに於ける野猪狩りに於て、ある山林學生が野獸の追跡中に地面に倒れた。その際彼の銃が發射して、彈丸が仲間の背後から胸の中へ通貫した。後者は其場で死亡した。
4.「水!」これが彼の發し得た唯一の言葉であつた。一滴の水に彼の生命は懸つてゐたのである。仲間は水を持つて來て、彼の顏に水を浴せ、彼に飮ませた、かくてドクトル・バールトは助かつた。
5.すると一人の綺麗な少女が彼の前にやつて來た。彼女は一寸おぢぎをして、彼にバラの花を渡した、そして、彼が彼女に禮も云ひ得ないうちに、再び人込みの中に紛れ去つた。
6.人々は長い間彼を待つてゐた。彼は來た、彼等に云ひたいことを云はせ、それをぢつと聽いた後、ちよつと考へて、それから手紙を二三書くと、それで問題は片づいた。
215
A.der alte (Strau
和譯P.175
1.人は時代の變轉を感じ、そして其の背後に常住不變の永遠性なるものを感ずる。2.お孃さん、あなたの將來の幸福を祝して乾盃[盃を打ち合せる、anklingen とも云ふ]することをこの見知らぬ[私に]お許し下さい。
3.凡そ吾人が人腦の營みを把捉するところとして又しても結局個々の事象、從つて有限者を手にせざるはないのである。全體を把握し、況んや概念で表現する等に至つては到底[#「到底」は底本では「頭底」]不可能なことである。[wo wir は wo wir auch, wo wir immer(例へどこで……しようとも)――解釋:精神活動(學問、宗教、藝術、政治、交際)の野は廣い、何處を wo 把へ packen てもそれは單なる一側面(Einzelnes, Endliches)であるに過ぎない。]
P.175 4.現代に於ける本當の不幸者とは貧乏人ではなくむしろ失業者である。
5.議長は再三言葉を愼しめと注意した、しかしその議員は宰相を莫迦と怒鳴り續けた。[zur Ordnung rufen 議長が鈴を振つて一同もしくは辯士に何等かの注意を與へること]
6.全歐洲諸國家を打つて一丸とし、一つの共和國にするといふことは多くのドイツ學者の理想であつた。
7.この老人は再び無一文となつた、そして嘗て彼に好意を示したことのある昔の知己を二三訪ねた。
8.以前は、それはもう(schon)よほど金持で、うんと金を使ふとかそれとも官吏仲間に親類でもないと自分が官吏に(einer = es od. ein solcher)なるわけに行かなかつた。
9.彼はある貧しい牧師の息子に生れた、學者となり失業者となり同時に狂人となつた、そして有名な犯罪人として果てた。
10.強慾者や我利々々亡者は他人をも彼等に對して業慾にし利己的にならせ、親友を失ひ、それに依つてわれとわが不爲めを招く。
220P.177
――文例――1.人間の頭腦の諸活動はその大規模なる關聯に於て悦ばしき總體を構成してゐる[ein erfreuliches Ganzes 宗教は法律の基礎をなし、法律は宗教を保護し、學問は宗教と對立し、この兩者をまた哲學が結びつける等々、精神界の全野を見渡せばその規模の廣大なる、その各領域の各
相異れる、これを總體として見渡すときは實に百花燎亂の趣がある]

2.私は貴君に目新しい重要事を告げなくてはならぬ。
3.大臣は多數の有名な專門家を招致した。
4.數千の獨逸捕虜はまだ國外に殘つてゐる。
221
――文例――1.我々獨逸人は神を怖るゝのみ、それ以外世の何物をも怖れない[Bismarck の言]
2.意譯:人間は結局お金を追かけ、お金に執着するものなのだ、あゝ我々貧乏人よ――金の世の中、金あつての世の中、妾達貧乏人はつらいわね。(Goethe, Faust).
3.さあ大變!誰が貴樣のやうな馬鹿野郎に俺の祕密を洩したのだ?[Ungl
ckseliger = Elender あさましき者よ]

222
――文例――1.彼は偉いことを企らんでゐる。
2.西部戰線異状なし(同前)
3.彼は私に、どんな重要なことを告げるかと思つたら、ごく何んでもないことを告げたに過ぎなかつた。
4.これ實に或る掛け替へのないものの損失を意味するものと云ふべきだ。

2.私は眞に自分で經驗した事以外は何も物語らない。

2.新聞記者と雖も時には嘘を書いたことを悔む場合がある。
223
1.諸君、君達の方では何か變つたことがあるか?[Kinder は必ずしも子供達に非ず]2.俺が一體どんな惡いことをしたからと云つて、まるで殺人犯人の樣に逃げ隱れする必要があるのだ。[um ...... verbergen? = dass ich mich gleich einem M
rder verbergen mu
?]


3.お前は、俺の力で出來る以外の何を俺から要求しようといふのだ?

1.あすこでは何んだつて片端しから批評されて了ふのだからたまつたものではない。
2.やれ、やれ!世の中といふ處は何が起るか解つたものぢやない od. 世の中には色んなことも起れば起るものだなあ。直譯:やれやれ!何が凡そ(alles)この世に可能でないか[何んでも可能だ、どんな突飛なことでも起り兼ねない――反語としてならば nicht を入れるし、間投文としてならば nicht を除くのが論理ですが、御覽の通りの「反語的間投文」には入れることもあり入れないこともあるわけです]
3.この二三百年來、吾々の社會生活は何んと散文的現實的かつ物質的になつて了つたことよ!
aufs beste 最もよく、出來るだけよく(及び auf sch
nste, aufs eiligste, etc.)
im folgenden 左に、次に[述べるところの……]
im ganzen 大體に於て、概して
im fr
heren 以前、曩に、前に(fr
her に同じ)
im
brigen 因みに、但し(
brigens に同じ)
vor kurzem 曩日、最近
von neuem 又もや、改めて
in kurzem そのうちに、最近
im wesentlichen 大體に於て
seit langem 以前から、ずつと
von langem her (同前)
nicht im geringsten 毫末も[#「毫末も」は底本では「毫未も」][……しない]
nicht im entferntesten (同上)

im folgenden 左に、次に[述べるところの……]
im ganzen 大體に於て、概して
im fr


im


vor kurzem 曩日、最近
von neuem 又もや、改めて
in kurzem そのうちに、最近
im wesentlichen 大體に於て
seit langem 以前から、ずつと
von langem her (同前)
nicht im geringsten 毫末も[#「毫末も」は底本では「毫未も」][……しない]
nicht im entferntesten (同上)
和譯P.179
1.この婆さんは戰爭のためにすつかり逆上してゐた。今にフランス人が攻め寄せて來るとか、今に食糧品が缺乏するとか、そんなことばかり話してゐた。2.人間の心といふものは、實に千篇一律のやうでゐてしかも又とても複雜した物である。
3.小さなリーゼは片眼をキュツと細くした、彼女は何かいたづらを思ひつくと、かうするのが癖であつた。
4.この小女が泣きやまない乳呑兒をなだめようとする樣子には何處かお母さんのやうなところがあつた。
5.成程彼は勘定書や手紙は滿足に書いた、しかしその物腰には商人的飛躍(景氣のよさ)、手腕、お愛想[#「お愛想」は底本では「お愛相」]、人づきのよさと云つたやうなものが全然なかつた。
6.彼の樣な經驗を積んだ男からは必ず爲になることが澤山學べる。
7.二流三流の戲曲すらも一流の顏觸れで固めると、見違へる程品がよくなつて、本當にいゝものになることがある。[St
ck = Theaterst
ck, Besetzung 英語 casting role 配役、Kr
fte(主として複數を用ふ)= Personal, Mannschaft 一座、一行、顏觸]



8.我々は自然界に於て或る物を決して個々別々な物としては見ない、我々は全てを、その前に、その側に、その背後に、その下に、或ひはその上にあるところの他の何物かと關聯して見るのである。
9.風俗習慣も又時代と共に遷つて來た。長い間の習慣は破棄せられ、新しきもの、往々にして又外來の事物までが取入れられて來た。
10.個々の點では勿論新法律はかなりの難點がある、しかし大體に於てそれは無難である。
225P.180
【1】1.彼の行動の快適な方面。2.この方面の有利(Vorteilhafte)な點。3.近代社會生活の特質。【2】崇高美;滑稽美;無限(無限感);グロ;エロ;神性(聖の概念)
和譯
1.この國に於ては、他の多くの國に於ける程、兵役の壓迫的方面に關する苦情を聞かない。2.「健康程有難いものはない。」これ程屡
聞かされる空辭はない、そしてこれ程人性の下劣な點、動物的側面を雄辯に物語るものはない。

3.ぢつと坐つて落附いて働けないといふことは、これが即ちこの事務生活なるものの不便な點である。
4.彼はこの討議のとりとめなさ、移り變りの激しさを充分感づいたにも拘らず、それでも熱心に傾聽した。[どうもこの議論は話があつちこつちへ飛んで、結局何のことを云つてゐるのやら解らないとは思ひながらも、云々。]
5.ベルリンに行つてウンテル・デン・リンデン街を散歩すれば現代獨逸の特色がほゞつかめる。
6.適法といふ件に關しては彼は確かな感じを持つてゐた、そして不快な不躾な全ては彼にとつて堪え得べからざるものであつた。[das Schickliche は was sich schickt und was sich nicht schickt で、「處置の當を得たるもの」「機宜に適する處置」の意、要するに das Bedenkliche(所謂“どうかと思はれる”こと)の反對と思へばよろしい。]
7.自由はたゞ夢の世界にあるのみ、そして所謂美なるものは今日では只歌謠の中にのみ華やかである。
8.純人間感(先づ人情、純情)が粗野、粗暴、邪惡、特に慘虐、不劣に抗して支配するところ、そこに神がある。[od. それが神の顯れである。]
9.そしてこの人達の話題の中心は何であるか? つまらないことを話題にするのが低級といふのではない。つまらないことから出立して有意義な話題へと向上しないのみか、せつかく有意義なことを引きずり下ろしてつまらなく見せて了ふといふ點が下劣なのである。誰か何か内容のあることを云ふものが居ると、彼等はそれを御丁寧千萬にも適當に修正を加へて、これを先づ俗つぽいことに飜譯すると、それで始めて話が解るといふ人達である。――而して彼等の最も得意とする世界は個人批評である。
10.吾々が急進的なもの、革命的なものを嫌ふと、早速もう既成制度の味方(保守主義者)と呼ばれる。
11.崇高から滑稽へは只一歩であるとフランスの諺に謂ふ。[眞面目くさつてゐるもの程、うつかりするとすぐ滑稽に見える危險を孕んでゐる。]
226
1.彼の父は自分の身を愛する。[彼の父は彼を愛する。]2.彼の文體は天下一品である。(sich gleich sein = einzig in seiner Art sein)[彼の文體は彼にのみ獨特である(比類がない)。]

和譯P.183
1.人間は生來怠惰である。人間は普通以上の何事かを爲し遂げるには自分自身に打克たねばならぬ。2.人づき合ひは一つの術であつて、己自身を確かと手中に收攬するすべを心得てゐるといふことの證左である。[sich selbst in der Hand haben は、きまるべき時にはきまり、許すべきところには心を許し、笑ふべき所には笑ひ、泣くべき所に泣き、放縮自在、自分が自分でどうにでもなる樣に固く心をいましめてゐることである。―― 一體ドイツ人は sich といふ概念を頗る哲學的に使ひこなして、日本語で一見堅苦しく幽玄に響くことが多い故、教師は再歸動詞の課の前にわざわざ再歸代名詞の課を設けた所以に想を致されて、學生をして或る種の微妙な表現に興味を持たせる如くに御指導下さい。]
3.彼は學生時代自分で自分の下男をつとめ、女中を勤めてゐたので、それに依て彼は一切の細かい家庭の仕事の詳しい知識を得てゐたのだつた。[sich = f
r sich selbst(自分自身にとつて)]

4.クリスマスの頃彼は、自分自身からも亦彼が結びつけられてゐる一切の係累からも氣持をそらせたいといふ欲望にかられた。そして彼はウインタースポーツ場に出かけた。[von sich Abstand gewinnen 現在の自分を綺麗さつぱりと忘れて、所謂「氣持の轉換」を行ふことを云ふ。sich が現在までの古き自分である點に注意。](猶 an die er gebunden war ノ an ガ落チテヰル版ガアリマス。)
5.見て視ず聞いて聽かず、只ぼんやりと夢の如くこの世をおくつてゐるものならばいざ知らず、いやしくも多少たりともあたりのものが見え、目先も利く人間であれば、ついでに己が内を省み、過ぎ來し方を省ることも必要だ。
和譯P.184
1.初生兒の生聲は、凡そ人間なるものの發する最初の聲である。2.彼はその病める母にこの悲報を告げる決心がつかなかつた。
3.お前はまだ春秋に富む身だ、だから經驗ある者の忠言を卻けては[#「卻けては」は底本では「郤けては」]ならぬ。
4.彼女の母は死んでゐた、そして彼は人が死んだ際に起る樣々な面倒事の世話を彼女にしてやつた。
5.彼は今や遂に最も困難な仕事を畢へた、そしてほつとして口笛を吹いた。
和譯P.187
1.經濟問題に興味を有する會員は毎水曜日に行はれる討論會に隨時參加する權利がある。――2.ドイツの青年がフランス革命當時陷つてゐた精神的状態は想像するに難くない。――3.この國では食事の際極く細い二本の棒切を用ひますか?――4.彼は決して新聞を讀まない、從つて最近我々の政界に起つた事柄に就ては殆ど何一つ知らない。――5.學童は、遲刻をした際には既に十分恥ぢてゐる;吾々教師はむしろ彼等を憐むべきであつて、罰すべきではない。233
1.この本は極く樂に讀める。――2.此の品は賣れ行きが速い。――3.これはかういふ風に云ひ廻はす。――4.目前の不幸は凌ぎ易い。[tragen = ertragen]――5.Die Krone wird nach ...... Hauses vererbt. 6.wird nach ...... Hausgesetzes geregelt.234
1.此處は全く夢見心地がいゝ、(此處はぼんやりしてゐるには丁度いゝ處だ)、あたりも靜かだしするから。――2.この隅は全く坐り具合がよろしい。――3.教授が喋るのを聞いてゐると非常に寢心地がよいものだ。――4.アスフアルトの街路は特にドライブし心地がよい。235
1.お前達はそれをおそらくそんな風に考へたのだらう。――2.彼はおそろしく己惚れてゐる。[彼は自分がよほど(wunder)大したもの(was)だと思ひ(bildet)込んでゐる(ein)。]――3.恐縮ながら只一つお願ひがあります。和譯P.190
1.煙草に火をつける度に、彼の手は顫へた。――2.だが一日中其日のパンを稼ぐために奔走しなければならぬといふことは憂鬱だ。――3.老學者は彼の花嫁の寫眞を眺めんとて大きなロイド眼鏡をかけた。――4.彼女は富裕であつたので、つけ上がつて主人顏をしないやうな男を探すか、それとも―― 一そ獨身で暮すかの何れかを擇ぶべく斷乎として決心してゐた。――5.貴君が歐洲滯在中莫大な勞力を費やして獲得なさつた知識は、遺憾ながら何の價値もありません。238P.192
【用例】1.あなた方男達は、どの方もこの方もまるでそつくりなのね。――2.吾々はお互に力を借りなければならないのだ。――3.この婦人達はお互に扶け合ふ。――4.この婦人達はお互に憎しみ合ふ。――5.我等はお互に義理をたて合つて死ぬ。239
【用例】1.この人達はお互に攻撃し合ふ。――2.詩人達はお互にお世辭を云ひ合ふ。――3.人間はお互がお互を必要とする。(人間は相見互だ)
1.二臺の自動車が衝突する。――2.各國は相互に交際する。――3.齒車は相互にかみ合ふ。――4.何も彼もごつちやになる。――5.空間に於ては萬物は相互に上、下、前、後、中間、横といふ關係にある。
244
a.彼は私を殺さうと思つたのだ。b.いや、彼はそんなことは思はなかつた。
c.私は君に屡
無心を云はねばならなかつた。

d.全くだよ、どうして(そもそも)「ねばならなかつた」かだ。(必要もないのに無心を云つた事があるの意)
和譯P.197
1.聯邦内閣は閣議に於て、緊急令の發布を決しようとしたが、併し或る種の考慮からさうするに至らなかつた。2.千九百五年には、我々露西亞人は感傷的理想主義的革命を試ると云ふ失策を演じた。我々はそれを血で贖はねばならなかつた。
3.どつちみち私はこの町に定住しなければならない。しかし今日までのところまだ適當な住居を見付けることが出來ないでゐる。
4.私はこの會の一員として、いつも自由に此處へ這入ることが許されてゐた。その權利が今たちまち停止されるとは、私が何か不正なことでもしたのか。
5.いや、貴方は思ひ違ひをしてゐらつしやる。當時我々の間に云ひ交はされた事をよく覺えておいでにならないのだ。我々はあの最後の決定で論爭をたゞ延期しようとしたにすぎないのであつて、決定的に解決した積りではなかつたのだ。
和譯P.197
1.私は何故か知らん、この人間が厭やだ。つまり好かないのだ。嘗つて彼を好いたためしもなし、今後とも決して彼を好くやうなことはないであらう。2.彼は鐡のやうな意志を持つた男であつて、消極的なことは一切嫌つた。運命すらも彼の意思には從ふかと見えた、如何となれば、彼は未だ嘗て「ねばならなかつた」ことなどは一度もなく、たゞ「と欲した」ばかりである。
3.彼が未だ嘗て出來なかつたことを、他の人がしでかすのを見せつけられては、彼としては大していゝ氣持はしないだらう。
4.彼は勿論さうすることを許されてゐたのではなくて、どうせ見付かり、又見付かつた上は罰せられることを承知の上で敢行したまでだ。
5.貴方が只今仰せになつた、そしてそれが缺けてゐることを私の缺點としてお數へ上げになつたその點は、私は不注意から看過したのではなくして、たゞ故意に度外視したまでの話です。
245
5.注意事項【2】彼は本當ならば畫家としても音樂家としても、それどころか學者としても認められることが出來るところであつたのだ。246
1.彼は彼自身の兄弟の家族を滅ぼさうとしたほどの冷酷無情な男であつた。2.それがまさに、貴君が嘗つて一度も注意しようとなさらなかつた點なのだ。
3.政府がこの瞬間まで公表も自由を持つてゐたところの點は、勿論甚だ僅少である。
247
1.彼は即刻皇帝に引見されることを知つて、その心構へをする。2.彼は、政府はその樣なことは公表しないであらうと私に保證する。
和譯P.199
1.これが、彼並びに彼の家族について私が聞知し得た總てである。2.君は、僕の數次の警告にも拘はらず、事態を此處にまで到らしめてしまつたのだから、君の家庭問題はもう構つてやらないつもりだ。
3.彼の白状するところによると、機會がとてもすばらしかつたので、彼はそれを全然利用せずにそのまゝ見逃してしまふ氣にはなれなかつたのださうである。
4.輿論の要求は、暴力行爲を犯した者を除いて一切の政治犯人を釋放せよと云ふにあつた。
5.我々は最も傑れた二三の獨逸の劇場から、平面圖と横斷圖を取りよせて、それからもつともいゝ點を採り、缺陷ありと思はれる點を捨て、かくして多少人前に出せるやうな設計圖を完成した。

2.彼が店から出たときに、辻で號外と呼ぶのを聞いた。
3.私の父が君によろしくと云つてゐた。

2.彼は私の原稿を抽出しに入れてゐる。
3.彼は腹に金鎖をぶらさげてゐる。
4.彼は指に婚約の指輪をはめてゐる。
5.彼は腰にサーベルをさげてゐる。

251P.202-203
1.私は彼を既に數ヶ月前に知つた。2.汽車は鐡橋の眞中で立往生してゐた。
3.彼はこの町でおなごりに最後の散歩をした。
4.腹がへるなら、乞食でもしに行きあがれ。[k
nnen には、ことに俗語では m
ssen と同樣の用法あり、即ち「……せよ」の意で。]


5.彼女は町の半分通りをドライブして廻つた。
252
不定法+ lernen は「追々と……するやうになる」或は「……出來るやうになる(k

1.君はなほ彼の言葉の深い意味が理解出來るやうにならねばならぬ。
2.これで貴君は私の力量が肌身にこたへたでせう。
3.母はたつた今、買入れに出かけました。
4.娘や、そんなにゆつくり構へ込んでゐると、嫁に行き損なつてしまひますよ。
253[#「253」は底本では「353」]P.203
1.奧樣、貴女の眼には温い同情の涙が光つてゐるのがみえます。2.彼は背後に木の枝がざわつくのを聞いたので、素破と跳ね起きた。
3.彼は、たゞ大都會のみが生みだし、且つ大都會を好ましいものにするところの或種の興奮に襲はれた。
4.沈默も時には術たることを失はない。しかし默つてゐるときが一番悧巧だと云つたやうな或る種の人々が主張してゐる程大した術ではない。
5.問題はいさゝか込み入つてゐる。この際は只根本的省察を加へて始めて解答發見の一助ともなるであらう。
6.只追々育つて行く若人達に對する温い愛のみが私の長年の教師生活の苦惱を和げる一助ともなつたのであつた。
7.子供を仔細に觀察すると、彼等の本質は大人のそれとは、たゞ自我意識の感受手段と表現手段との不完全さに多少の程度があるといふことのみに依つて區別されるといふことが解る。
8.我々は歴史的に條件づけられた社會に生きてゐるのだ。我々は誰も彼も、生れながらの自由な生のまゝの感じをもつて、老朽した世界の、それ自身拘束を有し、かつ同時に吾人をも拘束する力を持つた形式の内に適合順應する心懸けがなくてはならぬ。
9.娘の持參金を何の理由もなしに人に呉れてやるやうな奴は、娘の縁談が外れても敢て異とするに當るまい。
10.私は勿論こゝの當局が恐らくは千度も云ふのを聞いた:それはいまに出來る、それは必ずさうなる、あれもこれもそのうちにはいづれなんとかなると。ところがいくら待つても駄目だ、ちつとも出來ない、どうにもならない、なんともならない。
11.よくかういふ抗議をきく:假令詩人がどんなに理想を念頭に置いて仕事をしたつて、たとへ批評家がどんなに觀念に則つて批評をしたつて駄目だ。制約や條件に縛られてゐる實演藝術(音樂、演劇等々)は結局お客の要求を基礎としてゐるのだから。
254P.205
1.これは一體何んとしたことだ。
255P.205
1.彼は云はんと欲する所は、至極簡單なのだ。2.私はそのことを聞いたとき、殆んど倒れさうになつた。――彼の演説は私にはどうも氣に入らなかつた。未だどうも一向薪に火がつかない。
3.彼が獨裁官となつた只今では、彼の敵がどれも彼の友人であつたと主張する。――貴樣など見るも汚らはしい!お前のやうな奴は、知らなかつたことにしておく。(これ切りの縁と思へ)
4.斯の如き重大な擧は、愼重に考慮する必要がある。
5.彼が此の中にゐなければ、私の眼玉は節穴だと云はれてもいゝ。そんなことが萬一私の同意のもとに行はれるなんてことがあれば、私は惡人と呼ばれてもいゝ。
6.彼は立去らうとしてゐる。
7.彼は云ひたいことを云ふがいゝ。
8.あんな奴のことなんか己は知らぬ。彼は妥協などとはもつての外だといふ――彼は仕立おろしの着物を着てゐる。これには何か譯があるぞ。
和譯P.206
1.“それはまるで一切こちらのことに容喙してもらひたくないと云つた樣な赤の他人にする返事としか思はれないぢやありませんか”と彼女が言つた。2.この機械はもう古い。これは恐らくノアの洪水以前の代物だ。始終うとうとしてゐる。
3.彼は表へ出ようと思つた。ところが玄關の戸がどうしても開かなかつた。
4.君はそれを否認するんだね。宜しい。では君は二重歩行者[Doppelg
nger とは草木も眠る丑三の頃になるとねてゐる體から別な體が拔け出して勝手な眞似をして廻るといふ迷信、同時によく似た人がゐると一方を他の Doppelg
nger だ;或は alter ego(anders Ich)だ等といふ]に違ひない。如何となればこの人が同じ時刻に犯行の現場で君を見たと主張してゐるから。


5.次には、なほまた同樣に考慮を必要とする他の點が控へてゐる。
6.彼は決して平和主義者ではない。彼は參謀本部の通信員であり、獨逸海軍の擴張を獨逸の國際的地位にとつて缺くべからざるものとし、一方的軍縮を斷然排撃した。
7.政界に於ては、純官僚内閣の任命が期待されてゐる。この波瀾重疊の時代に官僚内閣とは――およそ無意味な話だ。
8.以前は戰爭の功績や慘虐を誇示したものだ。今は誰も彼もが現在の社會組織に對する辛辣な嘲笑に依つて、將來に對して己を辯護せんと努めるのであつた。今となると誰もが既に戰爭勃發の當初に於て反戰論者だつたと主張する。
256P.207
2.專門家すら往々思ひ違ひをする事がある。――犯人は奧地へ逃げ込んだのかも知れぬ。――時には彼は萬引もし兼ねぬ。――さうかもしれぬ。――彼はいつ此處へ來るかも知れぬ。3.彼はもう一歩も進めない。
4.彼は眞相を白状せざるを得ない。――私は貴君にいくら感謝してもし足りない。
5.おい僕に十マルク呉れろ。――新しい眞理が、世に擴まるまでには、時日を要する。(かなり待たねばならぬ)
和譯P.207
1.所謂樂天主義者は勿論この事を認めようとはしない。しかしながら事實に對しては結局逆らふ[眼を閉づ、心を閉ざす]わけには行かない。2.彼はあらゆる種類の慈善機關に幾十萬金を獻じた、そのくせまたどうかすると一文でも値切りかねまじき吝嗇漢であつた。
3.例へば私が屡
言つた如く、若い聲樂家に往々或る種の非常にすぐれた、完全無缺と云つた音聲が生れつき備はつてゐることがある。併し彼の聲の他の音階は強さと明朗さと幅音とに於てはやゝ劣つてゐると認められることもないではない。しかしてこの音階こそ、彼は特に練習して、他の音階に匹敵するやうになる如く努力しなければならぬのである。

和譯P.207
4.貴方は前に比べるとずつと落付いて來ましたね。昔はよく幾日も幾日も不機嫌で無愛想に見えたことがありました。5.彼の服裝には別にこれと云つて目に立つ點はなかつた。たゞつば廣の、非常にでかい麥藁帽が多少奇異な感じを與へないでもなかつた。
6.差當りまづ案として、模型として且つ附屬の説明書として存在するにすぎない新案特許に對しては、よほど用心して眉唾で臨む必要がある。
7.さあ眞底を白状しろ、でないと僕は君をも君の一味をも密告するかもしれないぞ。
257P.208
1.生きとし生けるものは凡て晩かれ早かれ死なねばならぬ。――もう私は出掛けなければならぬ。2.物事に無理を利かせようとしては駄目だ。――君は僕の眞意を篤と理解しなくては駄目だ。――君は僕を助けてくれ、後生だから!
3.それは彼が自分で知つてゐるはづだ。――それは一體誰であつたのだらう。
4.人もあらうに君を競爭相手にしなければならぬとは!――はて、不思議なことをきくものかな。(はて、これは心得ぬことを承る)
5.消防夫達は大火傷をして、病院へ運び込まれた。
6.俺はどうしても生きてゐなくてはならないか? いや、ならないといふ法は何處にもない。
7.僕はもう歸らなければならぬ。
8.必要がある。やむを得ないとあれば、それは結局やむを得ないのだ。(しやうのないことはしやうがない。どうにもならぬことはどうにもならぬ)
和譯P.208
1.彼はこれらの人々と共にまだ一ヶ月と暮さぬ中に、彼等にとつて彼が、時には彼にとつて彼等がもうどうにも我慢が出來なくなつた。お互の了見や傾向が又しても又しても角突合ひをしてゐる間柄であつて見れば、どうせさうならざるを得ないのだが。[so ...... als ...... お互にどうせさうならざるを得ないのが常である如く、御多分に洩ず(so)堪えがたくなつた。]2.我々の友人を是非喇叭を吹いて迎へよう。さうすれば彼はきつと喜ぶだらう。[Tusch は樂隊などの短かい力強い儀禮的な吹奏を云ふ。]
3.彼が我々に語つて聞かせた話は、之はきつと自分で體驗した話に相違ない。如何となれば、單なる作り事にしては話が多少細かすぎるやうに思はれる。
4.貴君が多少成功の緒におつきになつた丁度その時に斯う云ふ不幸が起るとは、實に遺憾千萬です。
5.彼は、どう善意に解しても、つむじ曲りとしか名付けようのないやうな惡戲をした。例へば冬の晩劇場で車と云ふ車を全部買切り、他の人達が寒さに凍え、わいわい罵りながら[#「罵りながら」は底本では「罵りなが」]徒歩でぶらぶら歸つて行くと、彼はとても痛快がつた。
6.彼は同一時代の人間、例へば我々の時代の人間でも、必ずしも同じ歴史上の一段階に所屬するものではないといふ見解を述べるのが好きである。
7.すると醫者が立ちあがつて云つた、「私はもう町へ歸らねばなりません。患者達が待つてゐますから。」
8.「かるが故に我々は最後の血の一滴に到るまでも戰はなくてはならぬ」と大佐は卓を叩いて云つた「そしていよいよとなれば我々の皇帝のために死なう!」
258
2.彼はたゞベルを鳴しさへすれば女中がすぐやつて來た。――彼は長く待つまでもなく、すぐ女中がやつて來た。3.私は一緒に行つてかまひませんか。
和譯P.209
1.人間精神の最高の勝利、最も普遍的な自然の理法の眞の認識は、特權學者階級の私有物であつてはならぬ、それは全文明人類の多幸な共有財産とならねばならぬ。2.腕利きの下働きか助手などが必要な場合には、私にさう云つて下さりさへすれば、私はすぐこの二三軒先に住んで居りますから。
3.今更それを彼に云ふ必要は全々ない。如何となれば彼はもう既にそれを知つてゐる。
4.證明書の無い者は、此處へ這入つてはならぬ。
259P.210
1.彼はきつと思ひ違ひしてゐるのだらう。――彼女は丁度起きたところらしかつた。――彼はそんなことをして、一體どうする積りだつたのだらう。2.彼は言ひたいことを云ふがよい。――そんなこと誰が知るもんか(そんなことは惡魔でも知るがよい、Kuckuck は惡魔の異名)。――そんなことは彼が自分でやれば好いぢやないか。――彼は用心するがよい。
3.君が何と云つても、――私が何と云つても彼女は承認しようとはしなかつた。
4.お這入り[#「お這入り」は底本では「お這り」]下さるやうに申しあげろ。――どうか彼がいつも健康で居りまするやうに。
5.彼は私が好きだつた。
6.彼は私が好きだつた。
和譯P.210
1.佛蘭西政府が今日午後に至るまで未だロンドン會議への英國の招待に對して承諾の返答をしなかつたのは、多少不審に思はれるかも知れないが、しかしそれにはそれ相應の理由があるのだ。2.私はこれで彼のためには出來るだけのことをしつてやつた。あとは彼が自分でするがよい。自分のことは自分でするものだ。
3.農場の人々がラヂオを上手に取り扱ひ、文學者の寄合ふカフェーの客が大いにプロレタリア的な素朴主義を奉じてゐようとも、彼とこれとの間には數千年間の時代の開きがある。
和譯
4.彼はいつも全く氣持のよい青年だつた。オスカルは彼が好きだつた。何か思ひ出せない時には、こつそり寫させてくれたし、又先が云へなくてつかへると、こつそり横から「つけて」[例へばプロムプターが役者に向つてする樣に――「つける」は舞臺用語]くれた。そして何か旨いものを持つてゐると分けてくれた。260P.211
(1.)彼はカルルと呼ばるべきである。彼をカルルと呼ぶことにする。1.よろしい、御滿足の行くやうに致しませう。――彼をこつちへつれて來たまへ。一寸きめつけてやりたいことがある。――あの野郎にあて違ひをさせて呉れよう。
2.彼女は靜かに部屋を出て行つた。如何となれば彼女は目に涙が出たのを兩親に見られたくなかつたからである。
3.彼がそれをしたのださうだ。――このまゝで行けばこれが一體どうなる事だらう。[「どうならせる積りか」と考ふべし]―― 一切の望みを失ひたくないなら、今が行動すべき時機である。
4.彼は、著作家になつたものか、畫家になつたものかと迷つた。
5.汝父母を敬はざるべからず。
6.一身の都合上他の人々と一緒に暮す必要のある人は、社交の掟に從はねばならぬ。
7.私は愈
死ぬとなれば、英雄の如くに死ぬ。ほんたうなら彼は疾くに此處に來て居るべき筈だ、だつてもう十二時半だぜ。

8.この小包をすぐ印刷屋へやつて貰ひたい。
9.何んだこれは、――それは何と云ふことだ。――それは何と云ふことだ。――こんなことをして一體何の積りなんだらう。
和譯P.212
1.イーダー、これはうちの庭師が作つた新種のダリヤだ。これに名前をつけてもらひたい。よく考へてお置き。2.十人の少女が十四日間、手紙を開封し、整理し、宛名を封筒へ書き寫す仕事にかゝり切りであつた。如何となれば、どの投書家にも皆少くとも證書の形で選外賞をやらうといふことになつたからである。
3.併しあらゆる個別化的の地上の束縛を撤廢せよ云ふ事になつて來たので、表現主義者は人間をその個人的特殊性に於ても、その症徴的生活形態に於ても描かうとしない。この兩者は既に印象派藝術に依つて試みられたものである。今度は愈
魂の根底へ、人間本質の超時代的、超感覺的方面へと意識的に遡らねばならぬといふ事になつて來たのだ。

4.國民をして萎微凋落せしめざらんとならば、精神教育と並んで感情生活をも尊重しなければならぬ。
5.そもそも歐洲強化工作に於て一進歩を遂げんとならば、それは經濟的協調と云ふ側から持ち來されねばならぬ。
6.舞臺脚本をしてトーキーとしても效果を收めしめんとならば、それを映畫的に完全に改修しなければならぬ。映畫館の觀衆は劇場の觀衆とは見方も聞き方も全然違ふ。
7.たとへ藝術家と雖も公の安寧秩序に對する義務の拘束を少くとも或る種の限界までは意識せねばならぬ。
261
1.獨逸からモーターを取寄せた。―― 一緒にお出かけになるかどうか、彼は伺つて來いと申しました。――彼は己の懷中時計をぶらんぶらんと振る。2.彼は私に落付いて仕事させない。――君はどこに帽子をほつたらかして來たのか。――濟んだことは濟んだこととしておかう。
3.かりにそれを本當として、さてそれだからどうだといふのだ。
4.私は惡口を云はせてはおかぬぞ。そんなことを甘受するわけには行かぬ。――彼は名簿へ自分の名を登録してもらつた。――彼は直に改宗させられた。――私は殺されるのは厭だ。
5.そいつは傾聽の價値ある申し出でだ。
6.そんなことは先づそのまゝにして默つて置くのが一番安全だ。
7.犯人は何の痕跡も殘さなかつた。
和譯P.213
1.私の妻が私に離婚を請求せんとしてゐるなんて無遠慮な想像を君は何うしてするに至つたのか。2.彼はボーイに、守衞を通じて自動車を二薹注文させるやうに命令した。
3.或る廣場に郵便局があつた。彼は馭者に車を止めさせ、電報を打つた。
4.彼は小さな地所を借り、ロンドンの博覽會から移動式木製家屋を取寄せ、それを組立てる。
5.父は息子の詫びを認めようとしなかつた。
6.まあいゝさ。併し僕がその際に蒙つた屈辱は將來とも忘れることはあるまい。
7.僕は貴君にまさかさう安々と私の全財産を取り上げられて默つてゐるわけにはゆかぬ。
8.私は私の勞働に依つて私の生計費を稼ぐ權利をさうおめおめと侵害されてゐるわけには[#「わけには」は底本では「けわには」]ゆかぬ。
9.何も御存知ないこの人々は、魂と云ふものは、胃や腹やその他人體の補足的部分とは利害を異にするものだなどとは夢にも想つて見たことはないらしい。
10.凡そ世に我慢の出來ないこととてはないが、只あまり幸福な日々の續きすぎるのだけは耐えられないものである。
265P.215
1.御一緒に參りませう。2.神樣に感謝致しませう。3.お互ひにしつかりくつゝいてゐませう。4.では我々はすぐ出發しませう。266
1.皇帝萬歳!2.奴め、破滅しろ。267
1.氣をつけ!2.他言は無用ぢや、合點か。3.さあ飮んだ飮んだ。4.さあどんどん働いたり。5.さあおあがり下さい、お爺さん。でないとスープが冷めますぜ。268
1.色んなことを中途はんぱにやらかすより、寧ろ一つことを完全にやり遂げるに如かず。2.フリツツ、さきを讀んで。3.乞食するより盜め。269
1.酒をもつて來い。2.酒をもつて來い。3.彼をつまみ出せ。4.テーブルをこちらへ入れろ。5.馬を厩へ入れろ。6.あり金を出せ。7.壓制を屠れ。270
1.とつとと出て失せろ。2.荷ごしらへをして、出て失せろ。271
1.君これを皆書き寫すんだ、わかつたか。2.君これを全部書き寫すんだよ。和譯P.216
1.埃だらけの空氣や惡臭ある空氣を呼吸することを避けよ。夏は窓を開いて働け。冬は扉も窓も同時に開いて、日に幾度も室内の空氣を入換へよ。2.讀み書きする際には上體を眞直にし、頭を必要以上に傾けるな。書物は目から少くとも三十五センチメートルは離しておかねばならぬ。
3.立法家に告ぐ:とにかく人間は大體に於ては正しいことを欲するものと假定せよ。たゞ個々の場合にはそんなことをあてにして呉れるな。
4.であるからして常に落付いて禍に對して覺悟してをれ。それから――これは特に重要であり、そして多くの人が信ずる程困難ではないことなのだが、――禍が起つたらいつもその善い方面を認めよ。
5.さあ早く下へ降りて、家の前に何が起つたのか見て來い。
6.それとも一そ寢るか。床へ入つて布團を引かぶるんだ。明日になつたら物の觀方がすつかり變つて來るよ。
7.落付け、ビクビクするな。やい、眞すぐに進むんだ。何んだこれつぱちの砲彈が!
280P.223
1.彼が入つて來い(彼が入つて來るやうに)。2.皇帝萬歳(皇帝の高齡に達し給はんことを)。
3.汝の意志は神聖であれ。
4.そんな心算は毛頭ござらぬ。
5.神が我等の皇帝を守らんことを。
備考 【1】(皇帝皇后萬歳)(彼等は入るべきなり=彼等を入れろ)
【2】(こひ願くば我が願ひを叶へて、汝等の同盟の第三者たらしめよ〔お前達二人の仲間に加へて呉れい〕。)
和譯 1.主はそれを與へそれを奪ひ給へり、主の御名は賛へらるべきかな!
2.天に在します吾等の父よ、御名をあがめさせ給へ、御國を來らせ給へ、御心の天になる如く地にもならせ給へ。
3.地上の子等の最高の幸福はそれよろしく人格たるべきなり。
4.かるが故にとはの契りを換さんとするものは、心をもつて心の伴侶を探り當てしや否やを徐ろに吟味すべし。幻は須臾にして消え、悔は千載に殘る。
5.友をもつて許し、友をもつて許さるゝてふ
この凡そ至難なる業を成就したるもの、
一人のやさしき妻を贏ち得たるものは、
來つてその悦びを吾等と共に分て、
しかり、世に唯一つの魂とたりともよし、
そを眞に我がものとなづけむ程のものは!
いまだかつてそのことを爲し得ざりしものは
むしろ泣きつゝこの場を去るにしかず。[鐘の歌]
6.女が憎みを持つ時、男は女を怖れよ、如何となれば、男はその氣持の根本に於て「惡人」たるに引き換へ女は「下劣」だからである。
7.全てが、凡そ人間として考へ得べきもの、凡そ人間として目に見得べきもの、凡そ人間として心に感じ得べきものに變へられること、これを以て眞理への意志と心得よ!汝等、汝等自身の五感を窮極まで考へ盡さざるべからず。(思惟をもつて五感の意味する所を究明せよ、感能の窮極的意義を探り當てよ。)
8.己が祖國を愛するものは、それをこの非常時に於て日頃に倍する勤勉と熱心に依つて示せ。
281P.224
和譯 1.その骨折りが厭なら、彼はおとなしく家に引込んでゐたがよからう。2.彼はまあ大臣なり或はその他自分の好きな何なりに成るがいゝさ。
3.彼と結婚したい人が彼と結婚するがいゝ、妾はさうやたらの人はお斷りですよ。
282P.225
1.彼がどんなことを云はうと私は説きつけられはしない。2.どんな奴が來ようと私は一歩も讓らぬ。


2.彼はいつなり好きな時來るがいゝ。
3.假令彼女が何んと云つても」。[過去ノ文脈中ニノミ用フ。]


2.假令彼が何んと云つたにしろ。
283
1.假に君が云ふ通りだとして、さてそれだからどうだと云ふのだ?2.では今君が云つたやうなことにして置かう。
3.この考慮[疑念]は當分先づ問題にしないで置かう(假に姑く置く)。
4.A―Bを一直線とせよ、そして其の線上の點Cはこの兩端から等距離にあるとせよ。
284
1.神が彼を健在ならしめ給はんことを。2.讀者よ乞ふ、暫く我慢せよ。
和譯P.226
1.では吾々は各々己が路を行くとしよう。吾々は公然の敵となつた、吾々はお互に堂々たる敵手とならう。2.暫くの間ぢつと聽いてゐた勇敢な男は、如何なる犧牲を忍んでも貧者に正義を與へるべく決心した。
3.公爵は私に問題の土地を假令どんな値段であらうと彼の隣人から買い取ることを命じた。
4.彼は其の家の前に立ちどまつてゐた。入つて行つたものだらうか否か? すると――窓側、カーテンの後でざわと音がした:さては今までの樣子を見られたのだ!かうなると彼はどうともならばなれ、敢然その家の中へ突入した。
5.世界史の訓ふるところは結局かういふ公式に還元出來る:即ち能と無能、成功と失敗、勝利と敗北、富と貧。この觀方、否、事實をしも「悲觀主義」なる名稱で片附けようと云ふのならば、或はまあ[immerhin]さうするのもよからうが、それは結局弱者を慰め、そして又[und zwar]愚者共を迷はすにとゞまるであらう。
285
1.君!おねがひだ、僕達の交渉はこの邊で打切らうぢやないか。[Herr! ハ、カナリ亂暴ナ呼掛ケ。]2.眞に神を愛するものは、神の方から彼を愛して返すことを望んではならぬ。
3.彼は巴里から、ドイツの青年は政治化され過激化される必要があるといふ綱領を携へて來た。
4.彼は、吾々が一度彼を訪問するやうにといふ希望を口にした。
286P.228
【1】(彼も彼の敵を愛し、彼の敵も亦彼を愛してゐると彼は主張する。)【2】(彼は彼自身の兄弟が彼を裏切るなどといふことは不可能であると自分できめこんだ。)
【3】お母アが、おぢさんの加減はどうだつて問うてお出でつて[さう云つて]たよ。
【4】(私は彼に、私には堅い決心があること、また、私の爲すべきことも承知してゐる旨を答へた。――私は彼に、私の心はかたくきまつてゐるんだし、また私の爲すべきことも知つてゐるのだから、[ト譯スレバ區別ガワカル]さう答へようと思ふ。)
【5】(彼は私に、彼が[最近]買つたといふ家に保險を付けようと思ふと語つた。――彼は私に、彼が[以前]買つておいた[それは私が確かに知つてゐる]家に保險を付けようと思ふと語つた。)
【6】(彼は一文も無いと云ふ。彼は一文も無いと言つた。彼は一文も無いと云ふ。彼は一文も無いと云つた。)
P.229 【7】彼女は彼に、彼女が彼に渡す[と彼女の稱する]手紙を當分[何分の沙汰をするまで]大切に保存するやうに命じた。
【8】(彼女は、彼女がベルリンに來次第彼を尋ねるであらうと通知した。)
【9】(彼は彼が反猶太人主義者だと私に云つた。)
288P.230
【1】das Gesch
【3】Gl
ubiger(債權者)

和譯 1.私の子供に關する心配が私を不安にするなどとお思ひになつてはいけません!(――, da
die Sorgen um meine Kinder mich beunruhigten!)

2.私自身に關する不安が何故私が服從しないかといふ原因であるとお思ひになつてはいけません!(――, da
die Sorgen um meine eigene Person die Ursache seien, [od. w
ren])


3.吾々の間に誤解が起らないやうにと彼は自分で契約書を起草した。
4.お前の全ての以前の愛人達もお前に就ては同じ經驗をしたと彼は私に語つたよ。
5.奇蹟を信じる人達は往々、聖徒が、特に彼等が癩病を病んでゐる際には非常にいゝ匂を發散すると主張する。[コレハ實際アツタ迷信デス。]
6.どんな女でも生れながらの本能的な淑徳を備へてゐるもので、これが彼女(等)に何をしてはいけない、何を喋つてはならぬ、かういふことは考へることすらいけないと告げるのである、これが彼の腦裡に於ける確信ある事實の一つであつた。
P.231 7.彼は神とか神的なものとかを、「これまた同樣理解するといふよりはむしろ體驗に依つて感得するの外なき」音樂と同じやうな或種の調和的事象として定義するのが常であつた。
8.これは例へば、地球の周圍を太陽が旋廻するといふ昔の臆説によく似た視覺的誤謬である。
9.自由なる概念に該當するものは現實界には何等存在しないのであるが、しかし實際問題としてこの概念は最も必要缺くべからざる假定であるといふ今日の實はまだなかなか一般に普及するに到らない見地に到達する迄には、かなり迂餘曲折が必要であつた。
10.或種の人種は他の人種のために勞働すべく永劫かけて運命づけられてゐるといふ主張をば、人もあらうに基督教の僧侶すら持して來たものである。
290P.232
1.或人が彼のタバコに關する知識を笑つた。どういふ處から彼は一體そんな通になつたのだらうと云つて。[edel ハ單ニ Tabak ノ枕詞ノ如キモノナリ。例 die edle Kochkunst(お料理)]2.彼女はまだ二十歳にもなつてゐなかつたのに、己惚は一寸もなかつた。妾、そんなもの持つたことは絶對にないわ、てわけである。
和譯
1.秋になつて木葉が散る頃には、――斯くドイツ皇帝が豫言したのであつた、――戰爭は終るだらうと。ところでもう[秋ドコロカ]既に新春に入つた。2.「誰が來ても居ないと云つて呉れ」――「さう申し上げたのですが、しかし強つて將軍閣下にお會ひしたいとお仰るのです、何か名譽問題なのだ相で」
3.彼が歸宅すると一通の電報が机の上にあつた。ハヽキトクスグキセイセヨ。
4.私は屡
、なぜソヴエト國民經濟の現状を研究しにロシヤへ行かないのかと尋ねられた。私はそれに對して一律にかう答へた、そんなことは全然無意味だらうと。精々見られるのは技術の成功ぐらゐなものだ。技術のことはしかし私は皆目解らない、また技術は國民經濟學者である私には大した關はりはない。私の興味は經濟であつて、それは工藝とは全然別物であると。

5.ドイツ政治家、要人の最近の演説に對して本日詳細な批判を加へてゐる「ル・タン」紙は、これら全ての示威は、國粹主義の煽動に對する政府の斷乎たる反撃の開始だと見てゐる。只遺憾ながら、と同紙は云ふ、この反動は既に手遲れで、國粹主義のアヂが獨逸の威望、信用、外交に加へて了つた重大損害を挽回するにはもはや遲すぎたと。
和譯P.234
1.あゝ若し吾々が自から慰めるための宗教といふものを持たないとしたら、人生はおそらくほんとに憂鬱なものであらう。2.若し私が平常の時間に家に歸つて來たのであつたら、彼は戸口で私に出會つてゐたにちがひない。
3.若し人間が自分自身よりもより多く他人のことを考へるとすれば、所謂社會問題は解決されるだらう、そして他の方法では、そもそも社會問題などといふものは解決されるものではあるまい。
4.若し肉體的に健全な者のみが幸福であり得るとするならば、世の中に眞に下らないことにならう、如何となれば今日何人と雖も完全に健康ではないからだ。
5.何も知らぬ人々がそれを聞いて驚くのは無理もない、彼等はその間にひそかに行はれたことを知らないのだから。そして若し彼等がそれを知つたならば、大方それどころではなくもつと驚くだらう。
6.彼は一路、大洋へ乘り出して了はうかとも思つた、けれどもまあ[schon]ベルリンといふことになつて了つた(ベルリンが既に彼の諦めであつた)。全然自由の身だと考へたのだつたら彼は實は別な大陸[アメリカ、アフリカ etc.]へ行つて、今までのとは似ても付かない生活を始めるところであつたのだ。
7.若しも私が無限の彼方まで見ることが出來る望遠鏡を覗くことが出來るとすれば、空間は數學者の新しい假説に依れば自然と[少しづつ= stetig]歪んでゐる相だからして、遂には私自身の後頭部が見えるはずなんである。
8.神の名を毎日口ずさむ僧侶にとつては神は彼等がこれを口にしながら實は何者をも考へないところの單なる空辭にすぎず、單なる名に過ぎなくなる。若し眞實に神の偉大さが彼等の心に徹してゐたら[沁み渡つてゐたら]、彼等は默して畏敬のあまり神の御名を口にする氣がなくなるはずである。
293P.236
1.彼は恰も何等おそれるものがないかの如くに語る。2.彼は恰もその事件を何等意に介さないが如くに端坐してゐた。
和譯
1.彼の顏面は眞赤になつた。そして彼の拳は恰も彼が次の瞬間には席を蹴つて立たんとするかの如く知らず知らず椅子の背を鷲づかみにしてゐた。2.彼は恰も雷鳴に打たれた如く佇んだ。
3.彼は河のさゞめきに聽き入つた、するとあたかも涯しなき海原の岸に憩つてゐるかの如き想ひがした。
4.彼女は最初の瞬間からカルルに對しても其の他の一座に對しても恰も古い知己であるのみか、あらゆる點に於て親密の全階程を通過し終つた仲であるかの樣な心おきない態度をもつて終始した。
5.王女は立ち上がつた、そして彼女の(bei ihr)常にそして、今も現にさうだが、あたかも頭と同じ材料で出來てゐて、その上にラツクが塗つてあるかの如くに妙にのつぺりとした髮の毛を整へた。
6.アダム・スミスが事の根本即ち利己主義を摘出し來つて、而して「凡ての人間行爲特に實業的又國民經濟的特性を有するそれは、恰もその主要動機が專ら利己主義にあるかの如くに觀察し得る」と云つた樣にその假説を定義したのは實に手に入つたものと云ふの外はない。[sicher =百發百中の;Takt =手腕]
7.近頃また私が王侯の召使である、王侯の奴僕であると云ふ人がゐる。そんなことが大した問題になる譯でもあるまいに!一體私が暴君にでも使へてゐると[#「使へてゐると」はママ]云ふのか? 專制君主にでも?
P.237 8.ワイマル社交界のある若い美人の話が出た、すると出席者の一人が、私は今にも彼女に惚れ相で危くて仕樣がない、尤も頭の方ではさう感心した御婦人でもなさ相ですがね、と云つた。
「いやあ」とゲーテは笑つて云つた「戀と頭は別問題でせう」
294
1.あゝ、彼が私の所へ來て呉れれば!2.あゝ、若し私が中世紀に生きてゐたら!
3.おゝ、冀くば若き愛の美しき時が永遠に縁ぐみてあらんことを!
4.あゝ、まだ彼奴を助ける餘地があつたらなあ。
5.おゝ、私に一言云はして呉れたら。
6.(版ニ依ルト六番ガ入ツテ居リマスガ、御取リ下サイ。無關係ナモノガ間違ツテ入ツタノデス。)
295P.237
1.誰も彼に反對しなかつた。それは又無駄でもあつたらうが。2.お前のためには俺は何んでもするさ。(その機會さへあれば)
3.彼にそんなことをやらせてはいけなかつたんだ。(若し私の考へ通りに行つたとすれば=「私なら」そんなことはさせなかつた)

2.お前が居なかつたら俺は破滅だつたよ。

和譯P.238
1.今となつてはお前に白状せざるを得ないが、俺はあんなに急いで引受けるべきぢやなかつたんだ。2.彼はいつそ彼の頸玉にすがりつきたかつた、それ程彼は急激な悦びに襲はれたのであつた。
3.そら儲け口だといふので勢込んで駈け出したフリツの野郎を全く君達に見せたかつたよ。あの兒は平常とは打つて變つて、まるで狂人みたいだつたよ。
4.それは凡そ世に見る限りの最も明敏な假定であつて、しかも誰が聞いてもそんなものはいつだつて自分でも發見出來たらうと考へる程に單純なものである。
5.で、よし今ぢや二十年前程達者に喋べれないにしたところで、私だとてまさか口に故障がある譯ぢやありませんからね。いやどうして、二十年前は、あなた、其頃はあなたにお聞かせしたかつたですよ。
6.失業のために家にはもう何も食ふものがなかつた。とゞのつまりは聖書まで質屋へかつぎ出さなくてはならないところだつた。
296P.238
1.彼は、哲學論文の中になら或は出て來かねない樣な用語を用ひる。2.我が黨には君をおいて外には、當選し相な風に受けとれる程の人氣を持つた候補者はない。
297
1.嘗て彼は危く入獄し[逮捕され]かけたことがあつた。2.よし反對してみたところで尚更彼女を怒らすのみであつたらうから彼は彼女に讓歩した。
298
1.Ausweis =鑑札、證明書。299P.239
1.もうお前は逃がさないぞ、たとへ百の遁辭を構へようとも。2.眞理は行きて求めざるべからず、たとへそれが支那にありとも。[西洋人ハ支那ヲ世界ノ涯ト思ツテヰル、邦語ノ所謂「金の草鞋云々」ニ該當スベシ。]
3.それはきつと俺が邪魔して見せる、たとへ命を棒に振つても。
和譯P.239
1.「私が私の全作品の中で他人のものを取つて來たやうな性格、思想、文句が一つでもあつたら指摘して見ろ」と彼は云つた。2.彼は錠を閉めたそして今しも怖ろしい話を聞いたばかりの子供が夜の階段を忍び行くやうな同じ名状し難い恐怖の念を抱きつゝ暗い梯子段を昇つて行つた。
3.たとへどんな馬鹿者でも、たとへどんなに惡意を持つた奴でも、誰か偉い人が、極く普通の人間ですら苟も常識、常感を有する限り、まさかやるまいと思はれるやうな飛んでもない無茶苦茶をやつたと申立てさへすれば、すぐにこれを絶對確實な證人と見做して了ふといふことは、實に情ない傾向である。
4.彼と私は先程ボクシングの稽古をしてゐました。私はもう少しで彼の鼻柱を打碎くところだつた。
5.鐡砲をお放しなさい、だつてあなたは何もあたらない、それに、冗談ぢやない[wei
Gott]先程兎を狙つてすんでのことに子供を撃ち殺さうとなすつたあの時に危なく起りかけた樣な不幸をいづれそのうちに一度惹き起しますよ。

[三行目ノ sie ハ Sie; noch einmal =いづれ一度]
6.大國土と大國民の全意力を自からに集中し獨占してゐるところのスターリンは、最近軍事最高委員に對する頌徳演説の中に於て次の如く云つた。即ち、ロシヤは五十年乃至百年後れてゐる、そしてロシヤはこの退歩を最短期間内に――彼は十年と云つた――克服しなければならぬと。同じ演説を二百年前にペーター大帝が行つたとしてもさこそと受取れたであらう。
7.一體氣の利いた皮肉といふものは、當人自身が其のお笑ひ草に多少たりとも何等かの關係があつたのでなければ[h
tte denn]書けるはずのものではない。

8.何か共通の利益になることが議せられるとか議題になつてゐるとかでない限り公開の場所にて彼の姿を見受けることはない。
9.英人乃至フランス人が劇場の切符賣場や電車へたかる際には概して穩かに先を競ふなどの振舞のないことを見た者の眼には、同じ場合に獨逸人が捲き起す殺倒[#「殺倒」はママ]・喧騷は常に驚異である、尤も警官が全體を監視してゐる際は別だが。
10.一介の小兒と雖も欺くといふことは、たとへその當人の爲になるにしても私には耐へられぬことだ。
11.官立學校は生徒の反國家的行動の全てに對して對抗すべきは當然の權利である。假令必要の場合は法規の適用を以つて、威嚇し或はこれを實行するもよい、とにかく學校の内的生活を攪亂する事柄は近づけるべきではないのだ。
300P.240
1.一度それをお試しになつては如何ですか。2.若しお差支へなければ、今日にも御一緒に彼を訪問いたしますが。
3.お前が若し若い男達に不躾な冗談を云はせる機會を與へないやうにおしだといゝんだけど。

2.彼は滿足して呉れてもよささうなものだと思ふが。
3.殆どお前に惚れたい程の氣がするよ。
4.彼に就ては大していゝ評判は出來ないね。
5.そんなことは全然打捨つておいたがいゝでせう。
6.彼はそれを信じないだらう。
7.彼は葡萄酒が一杯呑みたいんだが。
8.本當はそんなことを仰しやらない方が好いと思ひますけど。
9.私の爲めと思つて一つやつて頂けませんか。
10.お前が私の兄弟ならばと思ふんだが。
11.さう云ふのならばまだ多少聞える。
12.この事柄には何處か多少本當の所があるのかもしれぬ。
P.241 13.彼は私の味方をしなければならないところなんだが。
301P.241
2.さてこれで切拔けたと、やれやれ。3.やれやれ!これでまあ、ゆつくり腰を据ゑて赤葡萄酒の一杯も飮めるといふわけかな。
和譯
1.この國の景色に就て私は皆樣に特別これといふお傳へする程のものを存じませぬ、その代りに精神生活となると、この方はかなりございます。2.彼女が氣に入らないと云ふのですか。しかしお父さん、結婚するのは私で、あなたではないと思ひますがどうでせう。
3.俺は今まで民衆に對して罪を犯したなどとは思つてゐないが、しかし俺はどうせ民衆の友ではないんだ相でね。
4.何處へ行かうか。お前さへよければ、パリをもう一度見たいんだが、學生の頃一度行つたことがあるので。
5.Sterner 氏、若し貴下がその他の諸點に關しても同樣適應な訓令をお與へ下されば私は非常に有難いのですが。
6.しばらくお掛け下すつた方が萬事一層穩便にお話し出來るとお思ひになりませんか。
7.あるスキー教科書に次の如き名句が載つてゐる「決して天候を豫言するな、一度適中すれば自分を天氣豫報の天才だと思はないとも限らぬ」。實際これが非常に危險なのだ。
8.とは云ひながら、彼の云ふところを聞いてゐると、彼の云分にも多少の理があると思ひたくなつて來る。
9.缺損は私の見積りに依れば約百萬に達するかもしれぬ。
10.この問題は科學の現状からすれば、かなり確實に答へる事ができると思ふ。
305
息子は親父よりも常にその時代の方により多くの共通點を持つて來る。307
1.深く立ち入る程益


308
1.彼は思つた程悧巧ではない。――2.もつと安い部屋をお借りなさい!
309
1.彼女は最初はよろこんだといふよりも驚いたのであつた。――2.彼は嚴格と云ふよりはむしろ殘酷なのである。――3.此處の氣候は涼しいといふより寒い方だ。310
1.ある場合には、女といふものは男より遙かに男らしいものである。――2.老人は時に小兒よりもずつと無邪氣なことがある。――3.自然は神祕である。然し吾人の心はなほ一層神祕である。311
1.彼の吝嗇は親父のそれと全然同樣である。――2.俺の問も滑稽ならお前の答だつて滑稽だ。――3.言語は人類と同樣に古い。

312
1.私は世界に就て全然考へないにしては年が行き過ぎてゐる、けれども獨自の世界觀を樹立するにしてはまだ若すぎる。――2.彼は圖々しくも自分の罪を私に轉嫁した。
313
1.實の兄と三ヶ月違ひなどといふことは不可能である。――2.彼の腦は私のよりも腦の襞の二曲がり分乃至三曲がり分だけ複雜だ。――3.彼に對する大赦命令の到着は二三秒遲れたために間に合はなかつた。315
過去の大人物は決して死んではゐない、むしろ現在はその生存時以上に生きてゐると云つて好い。316
1.彼の中には或る何物かがあつて、それが彼を社交生活に引付けそしてその社交の中に所謂『必要なる禍』以上の何物かを見させたのであつた。――2.私は私の骨折の報酬として少なくとも接吻を要求する。――3.苟しくも吾等の救世主キリストがさう仰言つたのだ。[#「仰言つたのだ。」は底本では「仰言つたのだ」]317
1.夏は彼はトマト以外は何も食はない。――2.俺はお前以外の友は持たない。――3.動搖してゐる時代には、國家權力が社會秩序の破壞者に讓歩をする程危險なことはない。318
1.御歡待は、それが心からの御提供であるだけに、私達も有難くお受けすることに致します。2.この國は冬の寒さもさることながら、夏もそれに劣らず暑い。
和譯
1.思出といふものは暗室のレンズの樣な働きをする。即ち凡てのものを收縮し、そしてそれに依つて原物よりも遙かに美しい畫像を作り上げる。2.醫者が病氣を治すのには、結局患者自身の元氣といふものが最も心強い助太刀となるわけだ。
3.この人達は着物を換へると同樣に屡
意見を變へる。――4.底止する所を知らざると同時に多少馬鹿らしくもあるナポレオン崇拜の原因は彼の偉さといふよりはむしろ彼のトントン拍子な出世にある。――5.私は全て暴力に依る改變を憎む、何んとなればその際には良き多くのものが獲得されると共に一面破壞せられるのだから。――6.彼等は重大なことをよく冗談にして了ふが、彼等のお得意の道樂が愚弄されると決して默つてゐない。――7.吾々が他人を愛するのは、彼等が吾々に爲した善事のためにではなくて、むしろ吾々が彼等にしてやつた善事のためである事が多い。――8.彼は僧侶といふよりはむしろ世間人で、實際着物以外に僧侶らしい點は大してなかつた。――9.全て高邁な努力はそれ自身價値を持ちそれ自身の中に報酬がある。――10.當時始めて「五箇年計畫を四箇年で」といふスローガンが唱へられた、そして哀れなロシヤ人達は空腹帶をもう一孔固く締め直した。

319

322
1.最も大膽な企業家と雖もこの考へは思ひつかなかつたに違ひない。――2.彼は、どう慾目に見ても狂氣の沙汰としか云はれない樣な事柄をした。備考(お前は澤山債權者を背負つてゐるか? 濱の眞砂子と雖も物の數ではないほど背負つてゐる。)
323
【1】(崇高極まりなき瞬間。世にも比なき美女。)【3】第二位を占める大國。三番目に好い葡萄酒。【4】1.彼はクラス内でも圖拔けて好い生徒だ。――2.考へ得る限り世に最も卑劣なる男。【5】彼はどんな馬鹿とでも選り嫌ひなく仲よくする。和譯
1.Stuttgart と Cannstatt 間のカンシュタット國道が交通量最大のドイツ國道である事を統計家が突き止めた。同國道一日の通行馬車は約二千六百薹に上る。――2.他人の不幸をまのあたりに見せつけられるよりは、幸福を見せつけられる方が往々にして遙かに憂鬱なことがある、そして吾々が寂しく悲しくしてゐる時に他人の愉快な仲の好い樣を目撃する際に吾人はおそらく最も頼りない、除外され無視されたやうな氣がする。――3.古參の大尉は何時まで經つても例の少佐の辻といふ所に立つてゐる、そしてその辻こそは多くの者を投げ倒す最も激しい風が吹く場所なのだ。――4.そもそも私が私の地位にあつて主義の人たらんとしたならば私は恥じるでせう、もし貴君が私を日和見主義とお呼びになるならば私はその稱號も亦忝けなく頂戴する、といふのは、日和見主義者とは何か? それは即ち自分が最も必要且つ合目的と見なす所の事柄を遂行するために最も有利なる機會を利用する人物の謂である、そしてこれがとりもなほさずあらゆる外交の要訣なのだ。――5.マルクス[#「マルクス」は底本では「マクス」]は生産過程が亂脈であると觀た。故に若し彼が矯正しようと欲したなら、彼は何等か生産計畫を樹立すべきであつたらう。ところが、それをしないで、彼は生産手段の大衆の手への移管を要求する。しかし大衆も又何等の生産計畫を持たない。かゝる計畫なしには一般者に如何に計畫的生産の最善の意志があらうとも無政府的に生産する以外には道があるまい。――6.そのミスはとても貞淑、敏感且つはにかみ屋であつたので、我々人間が此の世に生を享ける際の直接の原因を成してゐる事物の關係などに至つては、ちよつと遠廻はしに匂はせただけでももうひどく氣持を傷けるのであつた。324
1.一人の男が戸をノツクする。――2.誰か戸をノツクする。――3.戸にノツクの音がする。【注意事項】【2】Das war ein Donnern und Blitzen!(その雷鳴電光の激しかつたことと云つたら!)
和譯
1.「家の中で何處かコトコト音がする。何んだらうか?」――「それはたゞ風が薹所の戸をバタバタさせてゐるのだ」――2.私は眞夜中に行く。どうか三度ノツクしたら戸を開けて呉れ。――3.たつた今まで眞面目くさつてゐた教師の顏がおかし相にピクピクし始めた。――4.さう云ふ風に云ふといかにも不合理に聽えるが、しかし事實は本當にさうなんだ。――5.今朝(昨夜)十二時過ぎて間もなく吾々は警鐘に目醒まされた、劇場が火事だと叫ぶ聲がした。――6.此の侮辱的な言葉を聞いたアンナは、何を馬鹿なと笑つてすませるか、それとも口惜しいと云つて泣くかの二途に思ひ迷つてゐるやうに見えた。――7.全戰線は銃火の音に鳴りしきり、その間に百雷の如き砲聲が殷々と轟く。――8.彼は着物のまゝでベツトへ身を投げた、しかし彼は長い間眠れなかつた。今日一日見聞きした事柄のための昂奮の未だ消えやらぬ彼の心は波打ち響きそして未だにざわめきつゞけるのであつた。――9.一群の兒童が校庭に集合してゐた、そしてそのざわめく騷々しさは蜂の巣を突いたやうであつた。――10.ベンヂン室にゐて機械油を罐にあけてゐた若いツェッペリーン船員の心臟は青いブルーズの下で動悸を打つた。彼の周圍はガタガタ震へ搖れそしてぐらついた、彼は殆ど體を支へ切れない程であつた。326
1.好[惡]況なり。(健康、運命、景氣)[アマーリエさん、御機嫌は如何ですか。]――2.重大關心事である(ない)。[いゝ成績を持つて歸ることは彼にとつて重大なことである。]――3.重大關心事である。[お前の好意など問題ぢやない。]――4.或事が重大だ。[1.名聲や成功を彼は重大視しなかつた。2.要するに何をするかではなく、そのやり方が大切なのだ。]――5.或人にとつて或事が主眼目である。[往々にして國民の福祉なんか問題にせず、己自身の名聲を目的とする民衆指導者がゐる。]――6.問題は云々だ、要は云々にあり。[彼は採決の直前に居眠りから目覺め、問題の何なるかを知らぬ儘で、投票を行つた。]――7.云々するに至る。[首都の各所に於て血腥い[#「血腥い」は底本では「血醒い」]爭鬪を見るに至つた。]――8.云々にかゝはる場合である。[皇國の興廢此の一擧にあり。]和譯
1.その日は非常に變りやすいお天氣だつた。前夜はひどく霜が置いた、午前中は雪で、午後は再び晴れた、けれども暮れかけると空は再び曇つて程なく雨になつた。――2.正義に飢ゑ渇く者は幸なりと聖書に云つてあるが、これは勿論、過激で熱狂的であれといふ意味にとつてはならない。――3.「この町の御感想は?」と私は彼に尋ねた。「感心しませんね」と彼は答へた「まるで氣違病院にでもゐる樣です。私は此處へ來たことを多少後悔してゐます。」――4.進軍命令は歡呼の聲をもつて迎へられた、そしてあちらでもこちらでも「有難い、愈

327
1.此處で踊りがあつた。――2.君、こんな處でさぼつてゐちやいかん!――3.あなた、眼をおさましなさいよ、今朝うちへ泥坊が這入つたのですよ。――4.請願が許可された。――5.彼の事は一言も問題にならなかつた。――6.この私の期待は裏切られた。
1. Man tanzte hier. (Hier tanzte man.) ――2. Du, man faulenzt hier nicht! ――3. Du, wach’ doch blo
auf, bei uns ist man heut’ nacht eingebrochen! ――4. Man gab dem Ansuchen statt. Dem Ansuchen gab man statt. ――5. Seiner gedachte man nicht mit einem Wort. ――6. Dieser meiner Erwartung hat man nicht entsprochen.

328
1.昔一人の王樣がありました。――2.人間は努力する限り迷ふ(迷ひは努力の證左なり)。――3.理解があり、まともな感じがありさへすれば、表現法の苦心などしなくても意を傳へ得る。[同所]――4.雷鳴の如く、劍撃の響の如くまた岸打つ怒濤の如き雄叫びがどよめき渡る。ラインへ、ラインへ、獨逸のラインへ!と。【注意事項】 昔ある所に二人の馬鹿な下僕がありまして、ある時お月樣を磨かうと思ひ立ちました。
329
【1】(この近くにガソリンスタンドがある。――昔一人の樵夫がゐた。――吾等の首都には多くの外人がゐる。)
1.市門の外なる泉の傍に一本の菩提樹が立つてゐる。――2.眞理は中間にある。――3.この城の中に嘗て偉い王樣がゐた。そしてこの全地方を支配してゐた。――4.ハンスの野郎一體何處にゐるのか知ら。アヽ、あんな所にゐた。
【2】(世の中には只二つの眞理がある。即ち第一には絶對的眞理は存在しないといふのが一つ、第二には、絶對的眞理は存在しないと云ふ主張すら又必ずしも本當である必要はないといふのが一つ。)
備考(今日の晝食にははうれんさうが[お惣菜に]出た。――何がおかしいのだ? 何もおかしいことはない。――彼は、人がたかつてゐると必ず駈けつける。――どうだ、何か變つたことはないか?)
和譯
1.吾々ヂヤーナリストは今日の世界に於ける一種獨特な存在だ。いやどうも實に愉快なものです。蜜蜂のやうにブンブンと、しよつちゆう何だかんだ云ひながら頭の中で世界中を跨にかけて飛び廻る。旨い汁があればチユツと吸ふし、氣に喰はぬ奴が居ればチクリと刺す。もつともかゝる生活は大英雄を作るには適さないかも知れないが、それでも吾々の樣な變り種もなくてはならないとしたものです。2.この有難い土地といふものの中には眞の祝福が藏されてゐる。土地は只に倦むことなく不斷に穀物や草木を生やすのみではない、眼の利く學者は大地からたとへこれまで既にずゐ分とほじくり返し掘り發かれてゐるにも拘らず、それでも未だに多くの考古資料を收穫するのである。
3.人間は萬事に慣れるものだといふことは千古の訓言である。しかしこれは感心した言葉ではない。この不斷の習慣習性の一本調子の中には、かなり無神經な、かなりひだるげな物倦さがこもつてゐるから、世に無關心な習性に墮し去つた事柄が如何に多々あるかを思へばうたゝ戰慄を禁じ得ざるものがある。
4.大衆の不滿は交々移り變る歴代内閣の水車の上に澎湃として溢れ、これを或は左に或は右に轉ぜしめて、もつて應接に遑なからしめるのである。そこには常に此の不滿に依つて支持せられる在野黨の蟠居するありて、いづれお鉢の廻り來るを待つてゐる、愈
廻つて來たとなると又候一つの新しい在野黨が擡頭して、そして又同じことを繰返すのである。

5.今度來た料理女はたゞ自分だけで心得てゐる門外不出の處方を胸に祕めてゐる、一體どんなものを料理の中へこつそり入れるのか第一人に話もしない。この點誰一人として彼女と肩を並べるものはない。
6.世の中には必ずしも道理のあることのみが行はれるとは限らない。だから、それが現に行はれたことだからと云つてたゞちにもつて道理があるとは云へないのである。
7.新しきは頓に擡頭して其の勢衝るべからず、古きは、おくゆかしきは地を拂ひて去り、世はその面目を改め、人も亦思想を一新す。
8.狹苦しい所にゐると了見も狹くなる、人間はその目の着けどころに依つてどんなに偉くでもなれるのである。
331
Kommilitone, m. 同窓生。332
これまた凡てを一擧に掴得せんとするのが如何に誤つた遣り口であるかを證する好個の例證である。
334
1.そは一見自家撞着の如くにして實は然らず。――2.かれは馬鹿である。過去に於ても馬鹿であつたし、今後と雖も終世馬鹿であることをやめないであらう。

336
【4】私に會ひたいと云つて來たのは誰だつたか?和譯P.260
[#「P.260」は底本で「S. 260」] 1.いや、委員諸君の選擇は實に當を得たものだ。――2.自然界に於ては往々にして個々の物體が殊に美しく目立つことがないではない。けれども、かうした效果を惹起するのは、其の物體のみではなく、其の物體の左右、背後、上方にあつて如上の效果を助成する所の凡てのものと其の物體とが結びついてゐるところを見るからである。(注意:Verbindung mit dem, ......※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、100-4]……との結合“と考へる。)――3.ロスタン作『ロマンチックな人々』といふ面白い喜劇を御存じですか? お互ひに其の子女間の接近を希望してゐる二人の隣同士が、自分たちの邸の間に塀を作つて、まるでお互ひに目の仇と云つたやうな風を裝ひます、すると此の障害、否此の確執反目が子達を驅つて、親父たちの意志如何にかゝはらず(實はむしろ親父たちの思ふ壺にはまつて)生死を堵しての[#「堵しての」はママ]戀愛關係に陷入らしめることになるのです。337
1.私は此の通りおまへの爲めを思つてゐるのだよ。2.かれの兩親は目下のところ苦しい境遇にゐる。3.かれは自分の使命をとても眞劍に考へてゐた。4.かれは凡ゆる偉人の行爲を見習はうとしてゐる。5.私は此處ではとても辛抱が續かない。6.私たちの先生は發音の事はさうやかましく云はない。7.かれに對して攻撃を敢てする者があれば吾輩が相手になつて遣はす。8.かれは將官にまでも漕ぎつけた。9.餘所の家へ來た以上はさう簡單に寛ろぐわけにも行かない。10.停車場まではどれ位ありますか? 11.私は彼の姿を認めたけれども、その時はちよつと會釋だけにとゞめて置いた。12.かれは色んな女と關係があるといふ噂であつた。13.私は、親父がさうしろと云ふものだから、朝五時に起床する。14.ビスマルクは誰でも來いの狩獵家であり、騎手であり、泳ぎ手であり、劍術使ひであり、大食家であり大酒呑みであつた。15.かれはさう大した高い所へ眼をつけてゐるわけではない。16.朝日はいやになつたから、一度敷島でも試して見ようか。17.私は少し胸が惡い。18.此のホテルはとても泊り心地が好い。19.家の主人は、どうぞおかけになつて、御ゆつくりなすつて下さいと云つた。20.かれは有無を云はせず唐突に私をぶんなぐつた。備考 おまへの母に向つてそんな仕打ちをするものではありませんよ。――それは君、自分で彼奴と解決をつけたが好いよ、おれは知らんこつた。
338
【1】1.では愈
【2】1.村の小學教師ほどみぢめなものはない。2.戀は異なもの味なもの。3.家庭生活といふものは何處が斯う好い所のあるものだなあ!4.私は彼を氣の毒に思つた。5.とは云ひながらも惜しい人物だ、實直な人だつたからね。6.彼が事休す焉。7.軍縮の何のと云つたつて、實際は枯尾花みたいなもので、政策上の手品さ。8.彼は今や樂觀を許さざる状態にある。9.私は彼の氣持がどんなだかを知つてゐる。[此ノ際ノ um ハ、具體的ニ、心ヲ中心トスル其ノ附近、即チ「心ノ周圍」ヲ考ヘル事ガデキル。]此場合の問題は非常な重要性を帶びた件である。[之レモ、直譯スレバ、ソレハ非常ナ重要性ノ件『ヲ中心トシテ』ソレ自身ヲ論議ス、(即チ論議ガ行ハレル)トナリ、um ノ具體的な意味ガハツキリワカル。]
【3】此處では、飮手は揃つてゐるが、只飮物が不足してゐるきりだ。――私には必要な表現手段が見當らぬ。――兵隊にはマントも無く、天幕も無かつた。
【4】あいつの云ふ事なんぞそんなに氣にしなくつたつて好いよ。
【5】1.かれはまだなかなか口を割らない。2.別れる際になつて彼は妙な事を願ひ出た。3.諸君は、あちらで、いつまでも陣地戰ばかりやつてゐないで、ちよつと事を捗らせてはどうかね。4.返事を躊躇してはいけないぞ。5.かれは立つたまゝ、睫毛一つ動かさなかつた。
【6】1.さつさと云つてしまへ!2.彼奴をおつぽり出しちまへ!3.洗濯物を取り入れろ、雨が降つて來たぞ。4.此の男を引致し監獄に入れてしまへ。5.此の野郎を町中引つ張り廻はせ。6.遠慮や氣兼ねはもう此の邊であつさり拔きにしませう。7.裏切り者を倒せ!8.それを横へ除けろ!(片附けろ)
340
2.かれは不敬罪大逆罪の廉で十年の禁錮に處せられた。3.文意を明瞭ならしめんが爲めに私は此處にコンマを打つた。4.認識のための認識といふやつは暇な理論家の仕事である。5.感謝どころか、私の受けたものは嘲笑のみであつた。かれは私を子供代りに引き取る。6.動議は否決されて與黨には有利になり野黨には不利となつた。7.此の方法によれば仕事をずつと容易にすることができる。8.或種の困難は信念によつてのみ克服することができる。遺言によつて伯父の所有が全部かれの手に這入る。9.それはかれがかれの以前の勢力によつて初めて達成することが出來たのだ。10.此の青年は其の語學上の知識のおかげでなほ現在以上の仕事にも用ひることができる。11.震災の結果全經營が停頓した。12.[#「12.」は底本では「11.」]あなたの御望み通り、計畫の實行は見合はせるやうに手配しておきました。13.[#「13.」は底本では「12.」]傳説によると此の沙漠は曾て湖水だつたと云ふ。14.鐡道の沿線には少しばかりの貧しい農園以外に殆んど何も見當らない。15.驛の近くに古い兵營がある。16.閘門の川下に、岸に接して一軒の氣持の好い別莊がある。17.私は、環状線の内側ではなく外側に住んでゐます。18.あなたは死後の生命存續(即ち靈魂の不滅、後生の存在)を信じますか? 19.かれは反對黨の凡ゆる抗議にも拘らずその意志を貫徹した。20.かれの爾餘の長所には無關係であるが、詩才といふ奴だけは彼は持つてゐない。(unbeschadet は“或物を傷けることなく”)21.煙草倉庫をも含めて、集團家屋全體が灰燼に歸した。22.二個の名詞 Reichtum, Irrtum を除いて、tum に終る名詞は凡て中性である。23.なほ一層の輸送迅速を期するため我々は荷物自動車、或は飛行機をすら用ひる。24.私の再三の警告にも拘らず、君は必要の監視を怠つたのだ。25.總會の機會に古い問題が又蒸し返された。26.目的地を前に見て復び引返さなければならなかつた。27.花咲く荒野の眞中にポツンと一つ農園が在る。28.路を少し離れたところに池がある。29.港の北方に燈薹がある。30.國務祕書は聯邦大統領の名に於て(の名代として)かれの棺の上に花束を置いた。31.日本政府側に於ては本件は既に解決したものと觀てゐる。32.彼女は彼女の忰の幸福を欣ぶ。(……に就て)33.書棚は立派な書物で一杯である。341
1.さあ一緒に行かう。2.巴里へ!(大戰勃發當時のスローガン)3.かれは事務所から出て來る。4.かれは私の所へやつて來る。5.かれは仕事を終へて來た。(von =から;但し aus が『中から』であるに反し von は『去る』、『離れる』といふ意の von)6.昨日以來雨が降つてゐる。7.かれは私のところに住んでゐる。8.君以外に私を助けて呉れる者は無い。9.かれは私と向き合つて坐つてゐた。かれはかれの父の正面に着席してゐた。10.仕事は數日中に出來上るでせう。11.家の附屬の庭園も或る猶太人のものである。12.私たちは、不要の家財道具全部をつけて、かれに私たちの家を讓り渡した。13.兵隊共は、嚴達に背いて掠奪を行つた。14.君の次には君の兄弟が適任だ。15.私は指令通りに行動したきりです。342
1.私は晩までゐます。發車までにはまだ時間があるよ。2.問ふは問ふ時の恥。3.俺に取つては、貴樣を投げ倒す位のことはわけない事だ。4.lavieren すると云ふのは、逆風を受けて電光形に帆走することだ。5.回教徒はお祈りをする際に聖地メツカの方に面を向ける。6.例外なき規則はなし。7.環状線は市の周圍を廻る。8.かれは私の命に反して行動する。343
1.此の問題に關して。2.此の點に關して。3.かれの從來の所信とは反對に。4.議長に代つて。5.伯林市の名に於て。6.自己の經驗を基礎として。7.社會の爲めに。8.他町村と協力して。9.緊張せる經濟危機に鑑みて。10.多少の例外を除けば。11.辭書の助けを借りずに。12.食糧品が不足なので。13.問題の點に關して。14.同僚一同の[#「同僚一同の」は底本では「同暸一同の」]向うを張つて、(面あてに)15.日本人側では。16.友人一同に對する好意から。17.法律に則つて。18.暴君は國民を虐げて生きる。19.吾人は、廣く行はれてゐる慣例に結びつけて(にちなんで)この用語を採用することにする。20.今年の憲法發布祝賀際は、Von Stein 男爵の記念を兼ねて催される。21.かれはその祕密を喋舌り散らして我々の一家に迷惑をかけた。22.かれは長男と協力して工場を經營してゐる。344
1.今日からおまへは私の盟友だ。2.唯物論の見地から見れば、凡そ宗教ほど無用なものはない。3.此の嘘吐きは、數世紀に亙つて史實を毒してしまつた。4.此の仕事をやつてゐれば君も茲數年は食ひはぐれまい。5.ドイツ人は、外部に向つて大抵打ち解けないが、家族だけ寄つた内輪では胸襟を開く。6.樂手達は、それよりもずつと家屋を離れた庭の中に勢揃ひしてゐた。7.ずつと圓天井にまでかけて、繪やトロフィーといつたやうなものがギツシリ懸かつてゐた。8.かれは既に幼少の頃から艱難と缺乏とに慣らされてゐた。345
1.かれは窓から飛び出した。2.彼は門を這入つて行つた。3.かれらは市を出た。4.屋根は到る所焔を吐いてゐた。5.民衆は暴君を國外に追ひ出した。6.旅人は車から上體をのり出して其の騷ぎを見物してゐた。346
【動詞】1.總體は數個の部分から成つてゐる。2.かれは固く所信を持して降らない。3.かれのは、たゞ約束するだけが御愛想なのである。【形容詞】1.かれはおろしたての帽子をかぶつて得意がつてゐる。2.ドイツには有名な大學が澤山ある。3.ドイツ語には、p で始まる單語が非常に少ない。
350
1.戰爭と平和。2.人には語らしめよ、犬には吠えしめよ!3.許可をえて或ひは許可をえずに。4.吾々は神に祈らう、何故なら吾々は皆哀れな罪人なのだから。5.彼はこのことが解つてゐるのだが、それをさうと白状しない。6.私は家に居ようと思つたのだが、勿體ないほどのいゝお天氣なのでね。7.私は押込盜人ではありません、たかが掏摸です。1.貴方は私の主君であり王であります、ですから私は喜んで貴方の命に服するつもりです。2.狐が死ねば、その皮が値打(遊戲の名)。
351
1.それが然し誤りなのだ。2.それが然し誤りなのだ。3.つまりそれが誤りなのだ。5.それがつまり誤りなのだ。6.ところが(之に反して)僕の主張には確實な根據がある。7.だからこれ以上此の問題で爭ふのは全然無益である。352
1.彼はナチ、即ち、國粹社會主義者だ。2.彼は獨逸人だ、詳しく云へば獨逸のヴエストフアーレン生れだ。3.子供はまだ歩けない、まして走ることなぞできるものでない。4.彼女の夫は藝術家だつた、つまり見世物師・輕業師・藝人・道化といつた類ひのものだつたのだ。5.國際聯盟のお歴々は軍縮乃至は軍擴問題を討議してゐる。354
1.失業問題は獨逸のみならず、また全世界の主要關心事である。2.騎手は徒歩では歩かない、と云ふ命題は眞でも僞でもない。騎手をどう考へるかが先決問題だ。3.忙しい讀者がよい讀者なことは滅多にない。彼等には何でも氣に入ることもあれば何も氣に入らぬこともある、彼等は吾々を半可に理解することもあれば全然理解しないこともある、或ひはまた――これが一番いけないことだが――吾々を間違つて理解することもある。(ヴイーラント)4.對象そのものではなくて、對象についての吾々の見解、これがてんやわんやな興奮の原因なのだ。5.吾々にとつては逃げ道は一つしかない、事の眞相を僞はるか、乃至は法を曲げるかである。6.私は獨逸も故國、日本も故國だ。7.彼はそのことによつて侮辱されたとは感ぜずに寧ろ不愉快な印象を受けたのだ。8.彼の話す獨逸語は文法上の誤りは犯してゐないが、良い獨逸語ではない。9.彼の主張には正しい方面もあるが間違つた方面もある。10.彼の意見と私の意見とは一致してゐる所もあれば、矛盾してゐるところもある。11.彼の言ふことは、全然間違つてはゐないにしろ、しかし少くとも誤解は招き易い。12.君の主張は、それを君が大眞面目で主張してゐるらしく思はれるだけに尚更僕には滑稽に見えてならない。13.そのことなら僕も百度も聞いてゐるが、それでもそれを信ずる氣にはなれない。14.學問をすればするほど言ふことが變になる。15.彼を家の婿にすることはできない、第一彼は貧乏だし、その次には金がない。355
1.だから名譽心の強い貪慾な人間は時には非常に勤勉なことがあるが、完全に不變な均齊に仕事を運ばせる働き手であることはごく稀である。2.さうだ、勿論祖母(おばあさん)はそのために驚いたよ。しかしそれが嬉しくて驚いたのかといふ問題は、これはまあお預けにしておかう。3.信仰が教會の原理であるごとく、權力は國家の原理である。4.世界の生活條件を改善する可能性がもしもあるものとすれば、今こそは正にその時だと私は考へる。5.彼自身も軍人として前途有望な人間であつたが彼の敵もまた同樣に外交家として前途多望であつた。6.また、自分自身の不幸を一瞥して笑ひを禁じえぬ人は、涙を禁じえぬ人よりも人間が大きい。7.彼女が自然から與へられた優雅な美と、彼女の父が幸運によつて惠まれた巨大な富については言ふまでもないが、また彼の一家には昔からの財産である高貴な裝飾も傳はつてゐると云ふ噂があつた。8.文化は富の地盤にのみ生長する、富は資本の蓄積によつてのみ生ずる、資本の蓄積は勞働力に相應する賃銀を貰はない勞働者の勞働を蓄積することによつて、從つて、不正によつてのみ生ずる。9.私はこの本をすでに幾度も讀んだが、今日の日までまだよくその内容を掴めない。10.彼の意見が支離滅裂で矛盾だらけなことを彼女は彼に説いてきかせた、しかし彼は彼女の言はうとすることが解らないやうな顏をして、劍士が佯撃によつてするやうに言を左右に托しつゝ巧みにその鋭鋒を避けるのであつた。357P.274-276
1.人妻に子供がゐないと、退屈をして碌なことをしない。2.壁と家具は黒油を塗つた同じ木材で出來てゐて、卓布が置いてなかつたので小ざつぱりとした簡素な印象を與へた。3.水甕は毀れるまでの井戸通ひ。4.彼の借金は百萬マルク以上にも上つたので、世間の人は彼に「マイナス成金」といふ名を奉つた。5.私が娘をやりたいと思ふ人は、いはゆる「胸に愛情」をもつてゐるだけでなく、戸棚にパンをもつてゐる人でなくては困る。6.何故僕が敵から逃げたかつて? それは、僕に二つの達者な脚があつたからさ。7.君達がまだ寢床に入つてゐる間に、僕は野外で素晴しい朝を樂しんできたよ。8.人はよく子供を教育してゐるつもりでゐるが、實は子供の方がこつちを教育してゐるのだ。9.あらゆる物體は、その状態を變化する力の作用が現はれない限り、靜止の状態を持續する。10.一體彼はどんな本を讀んでゐるのだらう? 扉がカタリと鳴る度毎に、彼はそれを閉ぢて横へのける。11.讀み了へたら本を返してくれませんか。12.人は私を議長に選擧しようとしてゐる、私が何もいはぬ男だといふことを知つてゐるものだから尚更。13.議會の兩院の何れにおいても、全議員の三分の一以上の出席がなければ、會議を開いたり採決をしたりすることはできない。14.あらゆる日本臣民は信仰の自由を有す、但し社會の安寧秩序と臣民としての義務に抵觸する場合はこの限りに非ず。15.彼が目を醒ますと、暴風雨の前觸れとして遠くから雷が鳴り響いてきた。16.急使が歸つてくるまでには不安極まる恐ろしい數時間が經過した。17.何も信じなくなつてから初めて私は宗教的な心境になつた。18.最近數日間の精神的緊張、來る可き運命に對する覺悟の試みも、それが直接の現實となつた今となつては、消え失せてしまつた。19.彼は自働車を電信柱に乘りあてたので、自働車は目茶目茶に壞れてしまつた。20.會社の代表者會議は、すでに提案された減俸案を果して實行すべきか否かを討議した。21.政府の提出した議案はまづ委員會で審議し、しかる後決定すべきものだ。22.老練な演説家とは、或事について巧みに話をするといふだけでなく、或事について巧みに沈默することを知る人である。23.私のところの女中は私の留守中に姿をくらましてしまつた、しかも一生涯私に彼女の事を忘れさせない爲めにか、序に私の金時計まで失敬して行きやがつた。24.人(ひと)を議(ぎ)すること勿(なか)れ恐(おそら)くは爾曹(なんぢら)も亦(また)議(ぎ)せられん(馬太傳七ノ一)。25.私が入らうとすると、扉が私のすぐ鼻先でピシヤン!と閉まつてしまつた。358P.276
1.凡(おほよ)そ女(をんな)を見(み)て色情(しきじやう)を起(おこ)す者(もの)は中心(こころのうち)すでに姦淫(かんいん)したる也(なり)。(馬太傳五ノ二八)2.犬(いぬ)に聖書(きよきもの)を與(あた)ふる勿(なか)れまた豕(ぶた)の前(まへ)に爾曹(なんぢら)の眞珠(しんぢゆ)投與(なげあたふ)る勿(なか)れ恐(おそ)らくは足(あし)にて之(これ)を踐(ふみ)ふりかへりて爾曹(なんぢら)を噬(かみ)やぶらん(馬太傳七ノ六)。3.夫(それ)天(てん)の父(ちち)は其日(そのひ)を善者(よきもの)にも惡者(あしきもの)にも照(てら)し雨(あめ)を義(ただ)しき者(もの)にも義(ただし)からざる者(もの)にも降(ふら)せ給(たま)へり(馬太傳五ノ四五)。4.主(しゆ)の名(な)に託(より)て來(きた)る者(もの)は福(さいはひ)なり(馬太傳二一ノ九)。5.私が彼を憎み、心の底から輕蔑してゐるといふいことを彼に言つてやらう。6.貴方の新聞の方で働かせて戴けないでせうか?
359P.277-278
1.しかし貴方が私を愛して下さり、私は貴方の遊び相手として、貴方の食卓に貴方と並んで腰をかけ、貴方の黄金の小皿から食べ、貴方の盃から飮み、貴方の臥床に寢ることを許して下されば、もしも貴方がそれを私に約束して下されば、私は下りていつて黄金の珠を拾つて參ります。(グリム:蛙の王)2.坑内から蜿々として續いて出る炭搬車のやうに電車が無限につゞき、無數のアーク燈が同時にパツと點火され、家屋の正面に金文字の目もあやな黒い看板に一面に填められてゐるのを凝つと見てゐると、自分の物と名のつくものは何一つない裸一貫の彼とのギヤップがあまりに大きいので、心ならずも彼の氣持はなごやかになるのであつた:俺はこの世界から除外されてゐる、俺はこの渦卷の中へまき込まれてゐない、俺は惡魔との契約によつてこの世界に身を賣つてはゐないのだ。360
1.本章の規定は、軍規と齟齬せざる限り、陸海軍軍人に適用されるものとす。2.貴下の御
361
【1】1.奧さん、今日はの[#「今日はの」はママ]挨拶をし後れて申譯けありません。2.病弱な肉體には健全な精神は宿りえない、と唯物論者は主張するが、この主張は額面通りに受け取るには及ばない。
3.諸君、本日の會議におきまして私が發言致しますのは、議題が由々しき重大問題であると愚考致したがためであります。
4.模倣は空腹と戀愛についで、人類發展の最も力強い原動力といふことができる。後の二つのものがあるがために存在の繼續と力と發明の才を刺激する生存競爭が起るものとすれば、模倣本能は文化の洗煉と普及の原因である。
【2】1.部屋はまつくらで、心臟の鼓動が聞こえる程靜かだつた。
2.新しい帽子を手に入れたフランツの子供らしい喜びは一日中それを被らずにはゐられないほどである。
【3】1.鸛がとうとう弟を連れてきたといふ報せを聞くと、少女は今ではもう必要のなくなつたお人形のロロ・マリアーンヒエン・クルト・イレーンヒエン等々悉く手早く人形車から放りだして、新客を迎へる準備をした。
2.この町ではどうしてかう靜かなんだらう。何時もの習慣では、かういふ選擧の時には、候補者達が有名者の御機嫌を伺つたり、選擧人に握手をしたり、演説をしたり、いろんな約束を振り撒いたり、そのほか何だか荐りに騷ぎ立てる筈だのに。
【4】1.その農園には深い沈默が支配してゐた、時々犬が吠えたかと思ふと、直ぐまた止むのであつた。
2.吾々の國家は古くなつてボロボロになつた機械だ、前に受けた衝動の餘勢でのろのろと動いてゐるが、一度でも打撃を受けたら立ち所に瓦壞してしまふだらう。
3.彼女は彼の部屋へ驅け込んだ、しかし彼の姿はそこには見えなかつた、彼女は子供部屋へ驅け込んだ――しかしそこにも彼の姿は見られなかつた。
【5】1.ゲーテの詩が自然から生れたものとすれば、シルレルの詩は精神から生れたものだ。
2.失敗をすると世の中を見る目ができるが、成功するとその目がくらむ。
【6】1.僕が君をプラットホームに通ずる改札口で見かけたと彼に話して聞かせた。
2.彼は彼女の自動車がガードの下を通るのを見た。
3.彼が新聞で見たところでは雙方共大々的妥協の態度を示したらしい
362
1.あまり妥協的にやると、しまひには他人から輕蔑はされないまでも無視される結果になる。2.吾々の心の性能のうちで、物尺や秤では測定できないにしても、少くとも合理的に把捉できる特殊性能を明らかにしようといふ場合にのみ、心理學は多少役に立つ。3.個々の人々の英雄的志操と犧牲心も、前以て豫測は出來ないにせよ、ゆるやかに、だが確實に近づきつゝある國家の崩壞をもはや支へることはできまい。4.人間の精神的社會生活は、正直にいへば、優越を矜らんとする絶え間なき鬪爭である、尤も大抵は下らない優越であるが。5.吾々が今尚そのお蔭を蒙つてゐる最古の文化國埃及は三千年或ひはそれよりもつと前に劇的演技に見物人を送つた。363
例 一つの困難を征服したと思ふと、早くも他の困難が迫つてきた。1.彼は自動車を電柱に乘り當てて、目茶目茶に毀してしまつた。2.彼の家庭の事情を探索した結果、彼は彼の父が彼の生れた當時及びその後數年間ナンシイに住居してゐたことが明らかになつた、そこで息子の國籍が獨逸にあるかどうかが疑はしくなつた。3.その小舟は幾度も九天の彼方に向つて擔ぎ上げられ、それから眞つ倒さまに底知れぬ海中に突き落された。4.彼の息子をあんまり不良不良と云つて叱りつけたのでそのうちに息子はほんたうに不良にならうと決心したらしく、お金箱の金をさらつて逐電してしまつた。5.彼は疲れすぎてゐた。何時もならばしようと思へば何時間でも机に坐つて勉強することができたのに、今度はそれができなかつた。6.彼はまづ巴里にいつた、そこで彼は一人のロシアの畫家と知合になつた、ところがこの畫家は彼を露西亞に連れていつた。7.彼は美はしい詩が好きで、單調な沈んだ聲で獨り口ずさむのを好んだ。8.その夫人は熱心に祈祷書を讀んだ、たゞ二人の子供に手を燒いてゐるらしく前に押しやつたり、また自分の傍へ引き寄せたりした、それに一體葬列の秩序を保つことが彼女に大切に思はれたらしかつた。9.私は彼等に旅券を見せたが、それは何の役にも立たなかつた、彼等は私を馬から曳きずり下ろし、私の上衣と長靴を剥ぎ、時計と財布を奪つた、そして丁度私の馬嚢を調べてゐる時、私たちの背後で怖ろしい聲が、待て!とどなつた。
備考 謀反人の指導者達は一般の情勢には殆ど通じてゐないらしく、最初は官軍を見て賊軍と思ひ誤つたほどであつた。
366P.283
[#「P.283」は底本では「S. 283」] 1.彼は反駁を受けると、其の通りだと思つても怒つて了ふといふ種類の男であつた。2.理想的なもの、非現實的なものはもつとも價値あるものである。それ故に吾々は不可能なことを要求しなくてはならぬ、たとへそれが矛盾に導く際と雖も。3.私はこの書を訴へ告白のつもりで書いたのではない。
戰爭によつて破壞された――砲彈から逃れた場合でも尚―― 一つの世代に關する報告の試みにすぎない。
367
1.彼は何を目論んでも必ずそれを貫徹する。2.彼はずゐぶん努力したが、どうしても成功しなかつた。3.何時彼のところへ出掛けても、日中には面會できなかつた。4.何處に火事があらうと、消防隊は即座に現場へ駈けつける。
1.彼が何をいはうと、誰一人として信ずる者がなかつた。2.ずゐぶん逆説的な言分だが、事實は事實でどうにも仕方がない。
368
1.ずゐぶん多くの時間と勞力を教職に奪はれたが、それでも私は文筆活動を中絶しなかつた。2.政局騷然たる時代には檢閲も止むをえない非常手段だらうが、テロ的檢閲はどう見ても賞めたやり方ではない。1.まだ水が殘つてゐるなら、行つて少し持つてきてくれ。2.彼はできるだけ目前の状態を長引かさうと試みた。3.それは御好きなだけ貴方の御手許においてよろしいです。4.彼女はとび上つて、彼女の小さな脚の許す限り速く、部屋から驅け出た。5.できるだけ大きな聲で讀め。
369
1.彼等は何處へ行つても薔薇を踏んだ。2.これは分りきつたことなのに、よく等閑に附される。3.彼が人間であらうとお化けであらうと、また魔王そのものであらうと、私は彼に反抗する!4.これは逆説的な言ひ方だが、ラヂオは古代を再び近代化した、その理由はいろいろあるが、中でも、ラヂオが殆どすべての聽衆を再び話者に近づけたといふ點である。5.私が明日の朝目が覺めた時、大木兎(みみづく)になつて、耳の代りに二つの毛束をつけ、嘴に鼠をくはへてゐようとも、私はそれに滿足して、なあに、怪しからん事は世の中にもつともつとあるぞと考へるだらう。6.悲しむべきことではあるが、世の中の事と云ふものは嘘なしには立ち行かない。371
1.嘘みたいな話かも知れませんが、實はあの猫の額ほどの土地を買うために私は一萬マルク支拂はねばなりませんでした。2.この人々の前でどんなありさうもない事を喋つても、彼等はその都度:それはほんたうに違ひない!と叫んだ。3.貴方がたはお笑ひになるかもしれませんが、私はこれよりどうにもならないのです。4.學問は理性を滿足させるかもしれない、しかし氣持の方は學問では充たされない。5.何事が起らうと、僕は君を放さぬ。6.詩人の魂がゾーフオクレスのやうな高い内容をもつてゐれば、どう轉んでも、その影響は道徳的だ。372
1.吾々の力量内にないことは、たとへどれほど努力を傾倒しても、到達できるものでない。2.どんな卑しい動機からにせよ亞米利加で誰かを片附けようとすれば、追放法令のお蔭で、移民局の迅速な救助を期待できる。和譯
1.彼は、人間が群をなして押し集まり、もろびと擧つて偉大な共通の感情――たとへその感情がどれほど大ざつぱな荒つぽいものであらうとも――を呼吸するやうなあらゆる場所を好んだ2.私の見るところでは、新聞記者といはれる方々は危險な人間である、だから取るにも足らぬ私個人としては新聞記事の材料を提供しないやうに努力するつもりだが、彼等の好意を得て置くことはよいことである。
3.今日の勞働者は、獨り急進的な分子のみならず、一般に勞働時間の短縮と勞賃の値上げを要求するばかりか、これら二つの要求が完全に貫徹した際でも、或ひは直接或ひは間接に、意識的に斷乎として完全無制限な社會化を實現せんとして鬪つてゐる。
4.まだ六時にもならなかつたと思ふが、それでも開いてゐる店はなかつた。商人の中には初めつから店を開けない者が澤山あつた。たとへ開けてもそれはほんの一時間位の間だつた。
5.嘘を吐くのは實に恥づべき惡癖である。何故かといふに、第一にあまり非道く嘘を吐くとすぐ曝露する、第二に、嘘を吐く習慣のある者がたまに眞實のことをいつても人が信じなくなるからである。
6.友情は二十代の人間にのみ見られる徳である。勿論六十になつても死ぬほど女に惚れる男はあるが、眞の友情は三十を過ぎればもはや取り結ぶことはできない。
7.私の所望するのは品物の正味の値段で、決して掛値は致しません、だからたとへ天子樣がラッパを吹いて天から降りて來なさらうと、二十七マルク以下ではあの栗毛の牝馬をあの男に讓り渡すわけにはいきません。
373
1.ほんの小さな子供に向つても、またそれが本人の爲めになることにしろ、嘘をいふのは僕は耐へられない。2.たとへ三千世界の危急存亡に關しようとも、貴樣の如き奴に二度と彼女の着物の裾にだに手を觸れさせてなることか。3.學内の生活を妨げるすべてのものは、要すれば懲戒手段の豫告・實施を以てしても、これを學内から遠ざけねばならぬ。4.彼がこの擧に出ることだけはどうあつても制止しなくてはならぬ、たとへそのために吾々の友情關係が害されようとも。374
1.なるほど私は多くのことを知つてゐる、しかし私はすべてを知りたいのだ。2.なるほど私は福音は聞いた、しかしそれを信ずる氣持は私にない。3.なるほどそれは無意味なことかもしれないが、然しこの無意味には意味がある。375
1.刹那の勢から生れ出たにしろ、また計畫的に準備してできたものにしろ、それは素晴らしい思ひ付きであつた。2.國家といふものは先づ自己の存在を主張するための權力である。だから國家の定めた法律は、否應なく守らなくてはならない。3.生物たると無生物たるとを問はず、あらゆる物體は地球の中心に向う傾向をもつてゐる。4.あゝ、職が見付かつてくれるといゝな、どんなのだつて構はないのだが。376
1.どんな歪んだ鍋にだつて合ふ蓋があるものだ(相手が見つからぬといふ事はない)。2.どんな野獸にだつて惻隱の情はある。3.どんな隱れた隅でも私の知らぬ所はなかつた。4.天網恢々疎にして漏らさず。377
1.君の云ふ通りの事情だとして、さてそれが僕に何のかゝはりがあるんだ? 2.弟のことは拔きにしても、僕はこの戰爭のために大切な親戚の男を一人失つた。3.聯邦諸國は同樣に非常な苦境に陷つてゐる。プロイセンだけでも昨年度は二千萬の赤字を出した、今年度にしてもそれ以下の赤字ではすむまい。4.財産があつてもなくても、私は彼女と結婚する、アーメン。378
1.妻がそれで滿足だといふのなら、私は敢て反對はしない。2.君が不思議に思ふのも無理はない、どうしてさうなつたのかを知らないのだから。もしもその譯を知つたら、君はおそらくもつと驚くだらう。3.たとひ貴方が牧師樣でありませうと、私は自由の農夫で、決してあなたに劣りません。4.立派な人間はたとへどんな衣服を身に着けてゐても、愛せずにはゐられない。379
1.宣傳手段としての藝術。2.彼は手癖が惡い。380
1.それをしたのは私ではない。2.彼もそのことをいつた一人だ。3.そのことを知つてゐるのは彼一人きりだ。4.その責は彼一人に在る。5.すでに前提からして間違つてゐる。6.そんなことは子供にだつて解る。7.彼はとうとう皇帝にまで嘆願書を捧げた。8.まして獨裁政治に自由な國民が甘んずるわけがない。9.私の云はうとしたのは正にその點だ。10.彼は自分の生れた地方からさへ足を踏み出したことがない。11.今日までの彼の生涯は幸運の連續である。12.彼の演説といつたら引用文づくめだつた。13.彼の話題は藝術一般である。381
1.惡いのは僕ではない(ほかの誰かだ)。2.子供ですらそのことを知つてゐる(まして大人は尚更だ)。3.私のいはうとしたのは正にその點だ(それ以外の事ではない)。4.すでに第一印象からしてもういけなかつた(まして第二、第三の印象に到つてはいふに及ばない)。5.(すでに第一印象がとてもよくなかつた)況んや第二、第三の印象においてをや。6.彼は名詞の格變化さへできない(まして文を作ることなぞできるものではない)。7.(他の人ばかりでなく)僕もその場に居合せた。384
1.昨晩寢る一寸前に強い地震があつた。2.彼は心臟を患つてゐるので體操や水泳ができなかつた。3.下車する時に私に手を貸す下男が一人もゐなかつた。385
1.犧牲に供するとは、自分の大事なものを呉れてやることである。2.眞に偉大な敵を見出すのは眞に偉大な愛を見出すのと同樣に困難である。3.愉快な同年輩の友達と一緒に勉強競爭をするのは家で獨りで勉強するのとはまた格別なものである。4.幾つもの事を中途半端にするよりは只一つの事を完全にする方がよい。386
1.お歴々と同舟はこちとら迷惑。2.他人の褌で角力はとり易い。3.踊りが好きな人にはバイオリンを彈いてやるのも樂だ。4.後から文句はいくらでもつく。5.かういふ祕密はそつとしておくに限る。6.枝が折れてくれれば、實(み)は取り放題。7.獅子と獲物を分けるのは樂でない。387
1.後で云々するのは易い。2.岡目八目。3.君がいくら云つても、人は君の言葉を信じないよ。4.貧乏人の子に生れた者はいくら働いたつて無駄だ、貧乏がすぐに追ひついてしまふ。388
1.社會一般が去就に迷ひ暗中模索をしてゐる状態、築き上げてはまたぶち壞し、出來上つたと思ふと消え行くあはたゞしさ、何等後に殘る成果もないのに無暗に前進したがる傾向――これこそ、明かに現代の姿である。2.獨逸語には音を模倣した幾多の言葉がある:低く微かに囁く s

389
1.未だかつて會つた記憶のない見知らぬ男が路上で私に挨拶した。2.彼女は豫期しない任務を課せられたが、シユーマン夫人が手傳つて上げようと申し出た。390
1.彼はそこで首相やその他顯官たちにも會つたことを想ひ出した。2.祭日は母のところで過すことになつてゐたのだが、その前の數日は旅行しようと彼は決心した。和譯
1.美しい娘が通りかゝると振り向いては見るが後を追つかけないのがふつうだ。第一、さういふ美しい女ならとつくに相手が一人や二人はあらうし、豫約者も五人や十人はあらうといふもの、さういふ連中と競爭するなんて初めつから見込のないことなんだから。2.彼が長い間彼女に與へてやると稱してゐた保護なるものもいざどたん場となると彼女から奪はれてしまつた。
3.神が人間の智慧の目に見えぬやうに思召してゐることを人間が強ひて理窟で解らうとする努力が少くなれば、今度は神の方から積極的にそれを神の叡智によつて教へてくれるやうになる。
4.百姓は獸糞を掃除する熊手に凭れて牛小屋のなかから外を見てゐた。
5.誰でもよくすることだが、何んといふ理由もなく彼はポケットへ手を差し込んだ。すると彼のよく知つてゐるものが手先に觸れた。彼はそれを引き出して見た。それは古い懷中時計だつた。彼はそれを家のフアイヤプレースの棚にのせてきたことをはつきり記憶してゐるのだが。奇妙なこともあるものだ。
391
Es wird berichtet, da

和譯
1.獨逸宮廷の年代記で讀んだことだが、中世紀の派手好みな君主たちはうまい洒落のストックを絶やさぬために見榮も外聞もすてて侏儒や不具者を召しかゝへた。2.客觀とは、たとへば樹木、家屋、家具のやうに私の外にある事物のみを指すばかりでなく、私自身の躯、私の頭、頭の中の腦、私の表象、知覺、感情、意志表示までも指すのである。これらのものに對立するのが主觀で、主觀とは表象を表象し、知覺を知覺し、感情を感情し、意志を意志するものといふことができる。
3.シュレーゲルがデンマルク演劇改善のために――獨逸の詩人がデンマルクの演劇改善を論ずるのである!――色々な提案――獨逸演劇改善のために提案をすべき機會が彼に惠まれなかつたといふ點は長く獨逸の痛恨事とならう――をしてゐるが、その中でも先づ第一の、且つ最も重要な提案は興行の成績如何によつて俳優への報酬を加減するのはよくないといふ點である。
392
1.彼は何にもまどはされぬだけの自信をもつてゐる。2.我が獨逸には完成すべき交通路がなほ多く殘されてゐる。和譯
1.彼女(彼等)の方から反對を受ける心配は毫もなかつた。2.この本はどこの書店にいつても手に入る。
3.所用の額は調達困難だ。
4.もしかすると彼の口から何かひき出せるかもしれない。
5.これはどうにもならぬ。
6.彼女は既に姿をかくしてどこにも見當らなかつた。
7.彼相手にはうつかり冗談も云へなかつた。
8.彼には金をもつていつてもだめだ。
9.初めつから私の云ふ事聞いてゐてくれたら、餘計な質問はせずにすんだらうに。
10.運轉の安全を阻害する如き酒類を飮用したる後に自動車のハンドルを握りまたオートバイに乘り、それによつて事故を惹き起したる運轉手は直ちに運轉手免許證を沒取さるゝものとす。
393
彼女は爛漫たる目もあやなる花環を髮につけてゐたので恰もうるはしい春の姿を見るやうであつた。394
1.私には克服すべき困難がまだいくつもある。2.彼には投票權がない。3.大臣は皇帝を輔弼し、それに對する責任を負う。4.はやく行き給へ、一刻も猶豫できぬ躯ぢやないか。5.私は一日中何もすることがない。6.この奇妙な態度はどう云ふつもりなのか、一つ僕に聞かしてくれ。7.僕は省みて何等やましい所がない。8.お醫者なら、吾々がみんな病氣になつたら、それだけ患者がふえるのだから、喜ぶだらう。9.議會が解散になると、勅命によつて改めて選擧を行ふことになる。10.この娑婆の運命に順應せんとする者は、惱みが人生の常態であるといふ不易の事實を心得なくてはならぬ。
geben を伴ふ成句。
1.人は乞食に飮食物をやる。2.彼は自分の優越を相手に知らせるのにたゞ好意ある皮肉といふ穩やかな形式をとつただけだつた。3.この出來事のために彼はひどく考へさせられて、一晩中瞼を閉ぢることができなかつた。4.滿洲の突發事件は吾々に色んなことを考へさせる。
es gibt, finden を伴ふ場合。
1.何か可笑しいことがあるのか? 何も可笑しいことはない。2.かういふ人達の所へ行けば思ふ存分酒を飮んだり煙草を吸つたりすることが出來る。
kommen を伴ふ場合。
1.旅館や料理店で定食を食ふと、全く見も知らぬ人間の間に坐らされる。2.全く偶然らしく裝ひながら彼は私の昔の事に話を持つて行つた。
bekommen を伴ふ場合。
1.僕は今日の晝飯にとても澤山御馳走にありついた。2.この一日の間に彼は色んな愉快なことや不愉快なことを聞かされた。
395
1.假に時間の浪費は勘定に入れないにしても、勞力だけでも大變なことになるだらう。2.吾々は卵と腸詰附きのポテトー・ケーキを食べた――大變な御馳走だ。ポテトー・ケーキはいはずもがな、僕が卵に御目にかからなくなつてからこれで二年になる。396
1.獨逸の飜譯術は二つの方向をとつてきた、その一つは自由なゆとりのある、字句に拘泥しないもので他は逐語譯的忠實譯である、歴史的な名を引用していへば、ヴイーラント的飜譯とフオス的飜譯との二種である。2.天然炭が―― 一般に流布してゐる誤謬を是正していへば――直ちに以て炭素なのではなくて、炭素化合物の寄せ集つたものである。398
1.うで卵。2.増大する不安。3.彼は露骨にファッシヨ的な考へ方をもつてゐる。4.彼女の着物は目もまばゆいほど白い。399
【1】1.禁斷の木の實。2.到達した目標。3.詐欺にかゝつた詐欺師。4.傷つけられた誇り。5.應用心理學。6.人氣者。7.好かれる子供。8.嵐にざわめく森。【2】1.新來の客。2.昨夜。3.沈鐘。4.失敗に歸した暴動。5.降つたばかりの雪。6.最近死んだ彼の妻。7.自由を獲得した州。8.それによつて生じた間隙。
【3】1.學者。2.彼は不機嫌だ。3.その子供はとても悧怜だ。4.彼は有名だ。5.彼女は困惑してゐる。6.それは無意味だ(つまらない)。7.不可能です!8.彼はあくまでもさう確信してゐる。9.彼はそつと私の方を見る。10.突然彼が現れた。11.彼は巧みに逃げを打つ。
400
【1】1.ぐらつく家屋。2.勞動[#「勞動」はママ]階級。3.支配的見解。4.當月。5.來年。6.一時的現象。7.沸騰水。8.危急。9.緊急用件。10.既存の状態。11.降りつゞく雨。【2】1.傳染病。2.可愛らしい少女。3.原動力。4.隣室。5.造形藝術。6.肯定の答へ。7.適切な表現(用語)。8.それは實に癪にさはる。9.彼の外貌はいやらしい。10.彼には企業心といふものが殆どない。11.形勢不穩、憂慮すべきものあり。12.目がまはるほどの高さ。
401
1.吾々に課せられる職業上の要求と吾々の嗜好乃至能力との不釣合は、人格の内的機構を根本的に破壞する體の險呑な葛藤を惹起する。2.二三の外國新聞によつて流布された滿洲事變に關する噂は何等基礎のないものである。3.一方では筋肉に他方では骨膜に合成してゐる腱によつて筋肉は骨に結びつけられてゐる。402
一方を他方に比較すれば、兩者が全然同一物を意味することが直ぐ分る。403
1.不意に背後を衝かれて、後方部隊は早くも動搖し始めた。2.法律の保護を剥奪され、市民權喪失を宣告された彼は遂にアフリカに移住した。3.城の遊園の直ぐ傍を、高塀によつてそこから隔てられたきりで街道が通つてゐた。1.彼が街路際の泥溝に四肢を延ばして横たはつてゐるのを私は見た。2.腕を頭の下に敷いて彼は寢床に横になつてゐた。3.彼は一方の脚を他方の上に高くのせ、肘をその膝について、兩眼を手で蔽ひながらしばらく椅子にかけてゐた。
それは頤髯を生やしたユダヤ人でマントを着た小男で、黒いビロード帽を被り、手にはステッキをにぎつてゐた。
褐色の、きちんと躯についた乘馬服を着、圓い羽根附き帽を被り、鞭を手にした彼女の姿は昔の童話の魔法の鏡の中からやさしく微笑みかける勇壯な女丈夫の姿を偲ばせる。
褐色の、きちんと躯についた乘馬服を着、圓い羽根附き帽を被り、鞭を手にした彼女の姿は昔の童話の魔法の鏡の中からやさしく微笑みかける勇壯な女丈夫の姿を偲ばせる。
404
1.吾々の市の威信に關しては何人よりも私自身の方が重視してゐる。しかし諸般の事柄をよく考へてみると、この事件が市の威信とどういふ關係があるのか、私には其處がどうもよく呑み込めないのだ。2.これは一つの原理を、やかましく云へばその下に包括できないやうな場合にも當て嵌めようとするもので、間違つたやり方だ。405
1.誰かが忍び足で階段を昇つてくる。2.一隊の獵人が馬に乘つてやつてくる。3.一人の女中が扉口から駈けこんできた。4.一臺の辻馬車がやつてきた。406
1.商人といふものはづるい。2.彼は商人になる(である、依然商人だ)。3.『ヴエニスの商人』。407
1.船室の窓がすぐ水面の上にあつて、その窓の光が明るい四角形をなして河に映つてゐた。2.ヴアン・ゴッホはアルルの片田舍に住んでゐた。南國の炎日は容赦なく彼の無帽の頭に照りつけた。彼はそれに目もくれず、身も魂も打ち込めて、此處を先途と畫筆を走らせた。3.祖母――祖母の傍には此のとてもモダンな一座に奇妙な對照をなしてゐる、泣き聲で話す、頬の落ち窪んだ初老の婦人だけがゐた――を除けばこの一座は三つのグループに分れてゐた。408
1.ライプチヒの大學では冬の學期に六千人以上の學生を入學させたが、現在の講堂數ではとてもこの人數を收容できない。2.約百人ばかりの國粹青年團體操乃至スポーツ協會の連中が皆一樣の正服を着て、停車場街を歩調を齊へて行進してゐた。これは現時のヨーロッパの何處にでも見られる光景の一つだ。3.高價な寶石がとくに目立つてゐる念珠から推してもその婦人は高貴の生れに違ひなかつた、この想像は彼女の品位ある擧措によつてなほ一層強められた。
國家の強制なしに教會としても今後も存續しうるや否やといふことは新教の大問題である。ルッテルはこのことをはつきり意識してゐたので、まづさしづめ、神の言葉なる聖書を嚴格な權威として獨逸人に課した、この權威はしかしその後數世紀の正教において固定形式化した獨斷論として現はれた。
409
1.ポケットには金がざくざくしてゐる。2.食卓には死んだ蠅が一抔[#「一抔」はママ]ころがつてゐる。3.壁には繪が一抔[#「一抔」はママ]懸つてゐる。4.部屋は上品な婦人連で一抔だ[#「一抔だ」はママ]。410
1.この叢書は一册二マルクだ。2.この布は一ヤード三マルクだ。3.この赤葡萄酒は一壜四マルクだ。4.一行五プエニヒでは天才的なことばかりも書けまいぢやないか。412
5.Gesuch =願件。7.(224項ノ和譯7ヲ見ヨ。)8.おゝ、汝が如何なる家柄の者なるかを悟れ! 9.然り、我等は同心同族だ。10.彼はいつも機嫌が好い。





413
das Prinzip der Voraussetzungslosigkeit =無前提といふ原則。(哲學で云へば、一つの體系が何等かの未知數的なものを前提としてゐると、その前提が崩れれば體系そのものも崩れるから、さうした出立點(即ち前提)なしで行かうといふ主義が試みられることがある、それを云ふ。)1.沙漠の如き苦役勞作の各週に散在する日曜といふ此の掛け替へのない安息の緑地。2.人間は、彼の實力よりも遙かに大なる活動範圍を有する『空想力』といふ險呑千萬な天資を享けてゐる。3.かれの著述は昨年はまだ新人といふ魅力を持つてゐたからよかつたが、今年はもうそれほどの興味もそゝらなかつた。4.不人情と云はれて見ると、私も遉が聞き捨てには出來なかつた。5.彼は私に、自己の優越性を、たゞ好意ある皮肉といふ穩便な形式で匂はせたにすぎなかつた。

415
備考 Seine Ankunft =彼が到着すること。Seine Hinrichtung =彼を死刑に處すること。Sein Blick =彼が見ること。(かれの視線)Sein Anblick =彼を見ること。(Sein Anblick schmerzt mich =私は彼を見ると悲慘な氣がする etc.)和譯
1.支那道徳は、其の眞髓ならびに孔子の著書がヨーロッパ人に紹介されてからといふものは、基督教道徳を熟知する人々が其の優秀なる所以を激賞し、大いに認めるやうになつた。(ihrer は主語二格的)2.我々は、我々自身を觀察せんと努めれば努めるほど、結局そもそも何物をも觀察してゐないと云ふことが益
たしかになつて來る。茲に一人の心理學者がゐて、己れ自身の意識を凝視せんと試みたとすれば、結局彼は、とにかく觀察しようと思ふ事は思ふが、その思ふ事が何の成果も伴はないといふ面白い事實を看取するだらう。一人の人間が、何か斯う具體的な外界の事物をぢつと打眺めてゐる處を念頭に描いて見ると、これは極くあたりまへで大した問題はない。ところが、自己觀察などに沒頭してゐる男を想像してごらんなさい、とてもおかしくて堪つたものぢやない。その男の場合は、ちやうど例の自分の髷をぐいと掴んで、我れと我が身を泥沼の中から引き上げようとするミユンヒハウゼンのそれにそつくりだ。(M
nchhausen の滑稽旅行談[B
rger 譯、レクラムにあり]は、嘘の連發で有名。あるとき馬に乘つたまま沼に飛び込んだが、岸に足がかりがないので、自分の頭髮を自分でつかんで馬もろともに沼から引き上げて岸に置いた、といふ話がある。)



3.關係關係でかたまつた世界はさう簡單に消えてなくなるものではない、自由は何遍でも何遍でも發奮蹶起し直して、反對思想並びに過去の習性惰性が試みる間斷なき抵抗に對して自己を主張しなければならないのである。であるからして新たなる且つ最初の現實性は、理念的な性質のものであり、現實そのものが理想概念として現はれ、一方理念的實在は、單に主觀的に現實界をより良く欲する意志としてではなく、むしろ現實の樞核・精髓として現はれるのである。
416
2.彼女は大悟徹底の眼差を以て深淵の縁に佇んだ。4.斯くの如き奇蹟に直面しては、われら哀れなる人間共は、祈りおのゝく心もて立ちすくむのみである。
5.彼は鵜の眼鷹の眼で樣子を窺つた。
6.彼はたゞ不思議さうな眼つきをしてあたりを見廻すのみであつた。
7.私は從容自若として這入つて入つた。
8.かれらは平然として殺戮する。
9.一同は脱帽して遺骸の周圍に立つた。







417
【1】1.我々は總勢十二人です。2.我々は彼等を二十名殺した。3.彼の本當の專門は一幕物である。彼はその一幕物を十五種も書いた。【2】1.例はかなり出てゐる。2.さうした場合はざらにある。3.さうした證據は彼は充分手に握つてゐる。
【3】1.これは少々結構の度が過ぎて反つて結構でなくなつた感がある。2.龍には羽がありますか? またいくつありますか? 3.さうした例外は非常に澤山ある。4.彼等の方が我々よりは多勢だ。5.なんと我輩の敵の多きことよ!
418
1.命は寶の至上に非ず、禍の至大は罪なる哉。2.夜はその尊きかうべに群星の眼も綾なる光を打ちまとひ、四圍を壓しつ徐ろに入り來りては日の間のいたでを癒すなり。なごやかにしてものしづかなるそよぎは來り、色彩の眼を打つきらびやかさは色褪せつ。いと重げなる巖の鋭き岩角すら、夜はいともやさしく隈どられて物おぼろげにぞ憩ふなる。
419
1.そこへ持つて來て、おまけに勝利を告げる號外などが舞ひ込んで來ると、歡呼の聲はしばし果つべしとも思はれる程であつた。2.然し此處でも亦長居は許されなかつた。
3.もはや留めやうにも留めようがない。
4.日本藝術が近頃しきりとやかましく云はれる。
5.なぜこんな作品をそんなに大騷ぎするのだらう?
6.そんな事はさう大してやかましくは云はれないだらう。
7.そんな事をさう大騷ぎして取り上げるのは滑稽だ。
420
1.美しい女優は何時でも大丈夫見物に受ける。2.筋肉に神經がなければ動かすことが出來ない。
3.さう云ふ行爲は我等の品位を傷けるだらう。
4.其の件なら僕は自信があります。
5.あなたは疲れておいでになる、それは歩きつけないからです。
6.あゝ、おれは生きてゐるのが邪魔くさくなつた!
7.彼は、正氣づくと、やをら半身を擡げた。
8.彼は遺産の配前を失つた。
9.敵艦隊が見えた。
10.あいつが相手では商談は纒まりやうがない。
11.彼は彼女がいやになつたので置き去りにした。
12.彼は約束を覺えてゐる。
13.彼は、僕の警告を忘れて、まだ相變らずあんな人間と交際してゐる。
14.僕はどうも僕自身の立場がはつきりしない。
15.僕はちつとも疚しいところはない。
16.君達のうちで誰か速記の出來る者はゐないか?
17.我輩は手先の如く働く一隊の屈竟な手下を從へてゐるのだ。
18.犯人に手を貸す者は、罪の一部が身に振りかゝる。
19.彼は謀殺未遂の嫌疑を受けた。
20.此の名簿はまだ追加の必要がある。
21.警察は犯人を逮捕した。
22.おまへの死んだ親父は、おまへゆゑに三度の食事も喉を通らなかつたのだぞ。
23.おれたちにしてみりやあ、時々うさ晴らしに酒でも飮まなきやあやりきれねえよ。
24.おまへの作文は文法上の誤りだらけだよ。
25.どうだ、おれでは相手に取つて不足があるか。
26.かれは大逆罪との判決を受けた。
27.科學的認識の進歩は成程すばらしい。けれどもそれは奇蹟なき(殺風景な)世界に導く。(Wunderbar ト Wunder bar トノ Wortwitz デス。)
【注意事項】
【1】(何んとしたらこの人間を追拂ふことが出來るだらう?)(僕はそれに慣れてゐる。)(彼はそれで滿足してゐる。)
【2】(彼の品行には點の打ち所がない。)
【3】(私にとつては人生は生き甲斐なきものだ。)(大洋横斷飛行は命を棒に振るだけの値打がある。)(おまへは竊盜の罪を犯した。)(おまへはおれの爲めに一度盜んでくれる義理がある。)
和譯P.315
1.私は貴君を私に對する凡ての義務から解除してあげます(einen einer Sache entbinden)。2.彼は非常な科學的教養を有してゐるらしい(sich einer Sache erfreuen)。
3.彼は一寸皮肉を云はないではゐられなかつた(sich einer Sache erwehren)。
4.それはあんまりだ!僕が不公平だなんて!(einen einer Sache beschuldigen)
5.あなたはどうしてもさう云ふ好くない考へをお止しになる譯には參りませんか?(sich einer Sache entschlagen)
6.彼は、つひうつかりしてゐたら、いつの間にか非常に困つた立場に立つてゐた(sich dessen versehen, 熟語)。
7.たとへ戀愛に於ても、あり札全部を出し盡して、凡ての利益を放棄してしまふのは危險である(sich eines Dinges entbl
en)。


8.劇はあらゆる不必要な點を剥ぎ捨てて、肝心な所だけを力強く表現すべきである(sich eines Dinges entkleiden)。
9.かうしたものを見せられると、つひ皮肉な微笑を禁ずることができなくなる(sich einer Sache enthalten)。
10.彼が其の問題に多少の冷靜な考察を吝まなかつたならば、おそらく失敗はしなかつたらうと思はれる(etwas einer Sache w
rdigen)。

11.彼は彼女から彼女の唯一つ武器を取り上げてゐた(einen eines Dinges berauben)。
12.かれは一つの要職を取り上げられた(einen eines Dinges entheben)。
422
【1】1.君、ちつとは男らしくし給へよ。2.諸君、居眠りして呉れては困るよ。3.そりやあ君、ひどい嵐だつたぜ。4.そりやああなた、大した時代でしたよ。あなたなどには御想像もつかないでせうがね。【3】2.彼は、まさかこんなだとは思はなかつた。
【4】1.長説教は信者がすぐ退屈する。2.神を念ずる心はかれに取つては本當に生活の中心なのであつた。3.彼は、自分の知らない事は凡て第二義的だと思つてゐる。
423
【1】1.彼の烱眼は何一つ見のがさぬ。2.彼は机の抽斗から一通の書類を取り出した。3.彼は刀を取り落とした。4.子供は母親の隙を見て逃げ出してしまつた。5.彼は彼のギターから、とても好い音をおびき出すすべを心得てゐる。(妙なる音を發せしめる)6.彼の記憶は、やはり思ひ違ひから發したものであつた。7.我々どもには全部合點の行かない現象を人は奇蹟と呼ぶ。8.人間も植物も、共に慈母なる大地から生えて出たものである。9.彼は貴族出身である。10.彼は胸の奧から吐き出すやうにホツと溜息をついた。【2】1.彼女は言葉巧みに説いて、彼の髷を廢めさせた。(彼女は彼から彼の髷を説き除けた。)2.彼は酒を廢めた。3.一伍一什を聞いた彼は、たゞお氣の毒樣と云はんばかりの苦笑をもたらしたのみであつた。4.手下の者たちに訊いて見ても、彼の素性を探知することはできなかつた。5.彼の許へは、兩親が苦心して溜めた僅かばかりの金子が送り屆けられた。6.我々は既に數歩を先んじてゐるのだから、此の有利な地位はたとへどんな巨額を以てしても買收などとは思ひも寄らぬことだ。7.我々は、反對黨の議席を出來るだけ多く奪取しなければならぬ。8.農民は固い土地から其の食餌を鬪ひ取らねばならぬのだ。9.吾人はまづ彼の手から此の危險な武器を巧妙に卷き上げることが必要である。10.母は先づ何よりも私に馬に乘るのだけは止したが好いと云つてとめた。
【3】3.タバコも酒も飮まない人たちは、國家から、その最も收益多き間接國税を奪つてゐるのも同然である。
424
1.彼は極東の樂天地たる美はしい日本のことばかり考へてゐるのであつた。2.彼は、世界に隱れもなき人物たる蒋介石元帥の副官である。425
id = es; mihi = mir; honori = honos 又は honor(Ehre)の Dativ; est = ist. ―― es gereicht mir zur Ehre =それは私にとつて光榮である;私は面目を施す。1.かれはその事を持ち出して私を難詰した。
2.私はそれをたゞお前に對する好意からしただけだ。
3.私はまるで此の世を遠ざかつたやうな氣持がする。
4.彼女は、彼の云ふなりにならうと腹を決めた。
5.私たちはたゞ二部屋使へたきりだ。
6.では愈
問題の核心に觸れることに致しませう。

7.さうですとも、此の(妾の)心を打ち任せるほどの相手ともある以上は、勿論さう云つたやうな樣子の人でなくてはなりませぬ。
8.いや、わたしは別におまへに危害を加へようとは思はぬ。
9.これは決しておまへの損になる虞れはないのだよ。(身の爲めにこそなれ、決して不爲めになる虞れはない。)
10.あいつはおれに當てつけてそんなことをしたのだ。
426
1.『な、な、なんだつて?』田中は開いた口が塞がらなかつた。2.ヤーコプソンは、まるで死んだやうな氣持を味はつたのであつた。
3.彼はフエルナーゲルデイング夫人のパラソルを失敬した。
427
1.さもあらばあれ。閑話休題。それはともあれ[かくもあれ]。2.彼は多分さうに違ひないと思つて、さうなのを別に不思議とも思はなかつた。
3.安心したまへ、それは何とかなる。(それは何とか解決できる。おれが何とか解決してやる。)
4.君はまた朝つぱらからブウブウ云ひ始めたね。では我輩は旗を卷いて逃げる。(此ノ際ノ dem ハ Brummen ナル名詞ヲ受ケル普通ノ das ト考ヘルコトモ出來マスガ、茲デハ、タトヘバ Du f
ngst den Tag mit Brummen an, das ist abscheulich! ト云フノト同ジ勢デ、ソノ das ト同ジツモリデ dem ト云ツタモノト受取ラレタシ。)

5.僕の事を何とお書きにならうと、それはあなたの御勝手です。僕は平然として之れに臨むのみです。
428
1.かれの口調には、或る種の眞似がたい抑揚が特有である。2.個性なる概念には、科學的にはどうしても取扱ひ樣のない何者かがこもつてゐる。
3.ロマンチックな浮かれ氣分といふやつは私の性に合はない。
4.かれの理想主義的な素質に對して私は非常に共鳴するところがある。
5.精神の世界も亦可視の世界と同樣、衝動と反動の法則に從ふものである。
6.かれには到底かれの敵手に刄向ふ力はない、況んや凌駕するに於てをやだ。
429
1.彼はその重いトランクを擔つて長い階段を上つた。2.彼は客を導いて廣い階段を上り、廣間に入つた。
3.幹の眞直ぐな樅の樹が岸壁一面に生えのびてゐた。
4.涙が一つぽろぽろと彼女の頬を傳つて落ちた。
5.彼は踵をかへして暑い街路を歸つていつた。
430
1.お前は何時までもどこをうろついてゐたのか?2.議會の會期は三ヶ月に亙る。
3.どれほど認められた眞理でもその壽命は二十年が關の山だ。
4.彼女は一寸の間默つて私の顏を見つめた。
5.一寸寄つて行きませんか。
431
1.彼は今朝死んだ。2.毎日時間を違へず食事の用意ができてゐる。
3.かういふ事は毎日起る。
4.かういつてるうちにも彼は入つてくるかもしれない。
5.劇場支配人は、ついでに日曜日も上演をつゞけては、と思つた。

432
1.數歩隔つた所に牛乳車があつた。2.彼は決鬪に倒れてその後十五分ばかり經つて死んだ。
3.僕に比較すれば君の方がかなり進歩してゐる。
4.僕はこの二三軒先きに住んでゐます。
5.僕は今度の厄介な告訴沙汰ですつからかんになつて、そのくせ事は一向捗らない。
433
Das geht mich[#「mich」は底本では「nich」] nichts an.(それは僕に何のかゝはりもないことだ。)
Er taugt [zu] nichts.(彼はやくざだ。)
Er bildet sich viel ein.(彼は大變自惚れてゐる。)
Das schadet nichts.(それはちつとも構はない。)
Er gilt etwas.(彼は相當のはゞ利きだ。)
Er bildet sich viel ein.(彼は大變自惚れてゐる。)
Das schadet nichts.(それはちつとも構はない。)
Er gilt etwas.(彼は相當のはゞ利きだ。)
1.僕が僕の妻に接吻したところで、誰に何のさしさはりもあるまい。
2.彼はたつての懇願も效めがなかつた。
3.彼は全力を盡してやつてみたが、それも甲斐なく終つた。
4.彼は怖ろしく自惚れが強い。
5.彼等はその結果がどうならうと一向平氣だつた。
6.林檎なら私んとこでどつさりあげますよ。
7.死んだ後で世界がどうならうと糞喰へだ。
8.音樂ときたら奴はからきし分らない。
9.一緒に一杯やらうぢやないか。
10.そのためにかゝつた金は一錢もない。
434
Falten schlagen 襞になる、折り目が出來る;eine Br

einem Rede und Antwort stehen 答辯(辯明)する;einem Modell stehen ある人(藝術家)のモデルになる;Gevatter stehen 名親を勤める;Schildwache stehen 歩哨に立つ(番兵をする);Schlange stehen[木戸口、改札口等で人群が]列を作つて立つ;seinen Mann stehen ひけをとらない、お相手を承る、尋常に出で合ふ(酒、喧嘩、等々で)
和譯
1.マリーや、お前はゴム吸口に穴をあけてないぢやないか、それでは坊やがいくら飮まうたつて飮めやしないよ。2.コゼンツァのほとり、ブゼントーの河添ひに、夜は沈鬱なる歌聲に更け行き、河水のせゝらぎ之れに應へつゝ、闇に渦を卷きて谺す。
3.逸樂の仙境で雪が降れば、その雪は綺麗な砂糖である。また雹が降るとその雹は無花果の[#「無花果の」は底本では「無果花の」]實、乾葡萄、巴旦杏の混つた角砂糖である。
435
1.私は手がたゞれるほど書きなぐつた。2.彼女は目を赤く泣きはらしてゐた。
3.吾々は鹿を追つて疲らせた。
4.彼女に接吻されて僕は目をさました。
5.彼は長く坐つて脚がしびれた。
6.こゝにゐると凍えて死んぢまふ!
7.社會民主主義者は私有財産は神聖なりと宣言した。
8.僕はいつまでも立たされて脚が硬ばつてしまつた。
9.彼は唇がからからになるほど口笛をふき、息も絶えるほど叫んだが、答へがなかつた。
10.兒童たちは皆たるんだ靴下と踏み減らした靴を穿いてゐる。
436
【1】1.彼は一臺の辻馬車を招き寄せた。2.僕はどうしても出てゆく。うんと走つてこの癪な氣持を吹きとばすのだ。
3.競爭して、軈て彼奴を倒してやらう。
4.散々欠伸をした末やつと一つの芝居が終つたかと思ふと、其の次にはまたそれよりももつと退屈な第二の芝居がおつ始まる。
【2】1.誰として進み出る者がない。
2.彼は椅子にかけ直す。
3.火が燃え透る。
4.彼はとうとう叩き上げた。
5.今度は僕も軍人としてこの規律生活に慣れなくてはならない。
6.火焔が建物の前面をめらめらと燃え上つた。
7.どうして盜人がこんな所から忍び込むことができたのだらうか?
8.まづ状況を見極めてかゝらなくてはだめだ。
9.吾々は雄々しく人生を乘り切りたいと思ふ。
10.共産主義者の示威進出は益
甚しくなる。

【3】1.吾々は一時間も前から脚が棒になつて胴體に突きさゝるほどの立ち詰めだ。
2.吾々はまづ甘言を以て吾々の敵の手から武器を取り上げなくてはならぬ。
3.彼は祕書に次から次へと手紙を口述してタイプライターに打たせる(書き取らせる)。
4.哲學者の哲學的思索なるもののお蔭で神樣はこの世界から追ひ出されてしまつた。
5.彼は僕の手紙を讀んで惡意ありと判斷した。
437
1.今僕は大切な用事で出掛けるのだ。2.彼女は嬉し涙を流す。
3.彼女は甘い夢を見てゐる。
4.彼は悲壯な最期をとげた。
5.吾々は今生死を賭しての戰ひをやつてゐるのだ。
6.舊態依然たり。
7.はつきりと物を言ひなさい!
8.吾々の現在の生活は生活などとは呼ばれないものだ。
9.彼女のダンスは一風變つてゐる。
10.彼はぐつすりねむつてゐる。

438
1.左翼は勇敢に統一戰線を保持した。2.成功すれば嬉しい、失敗すれば憂鬱だ。
3.人は往々己が弱身をカムフラージュして逆に相手に喰つてかゝるものである。
4.職業上の仕事では人は本當に滿足しない。
5.象徴的表現は、言ひ表はすと云ふよりも、むしろ感じを起させると云ふのでなければならならぬ。
6.毒は場合によつて殺しもすれば醫しもする。
7.お歸りになつたら使ひをよこして下さい。
8.彼とは數年前から絶交してゐる。
9.彼の場合は悲劇的な感さへ起させる。
10.彼はまるでお面のやうな感じのする顏をもつてゐる。
11.僕はしきりに彼に話し掛けようとした。
12.彼は自分の思想を更に敷衍するためにゲーテの言葉を引用した。
13.僕等の先生が來てないから今日は僕等はお休みだ。
14.客は控への室に携帶品を置かなくてはならぬ。
15.距離は緩和し、美化する。これは空間ばかりでなく時間の上でも其の通りである。
439
【1】(Er nennt mich seinen Busenfreund. 彼は僕を刎頸の友と呼ぶ。Er schilt mich einen Verr

Sie schimpft ihn einen Streber. 彼女は彼を野心家だといつてけなす)。
【2】(Ich lehre dich das Japanische. 僕は君に日本語を教へる。Er fragt mich nie etwas. 彼は僕に決して質問しない。Ich mu
dich etwas bitten. 僕は君にお願ひがあるのだが。)

440
1.一中隊は約三百人の人員である。2.この兒は生れてまだ一月にしかならない。
3.この支柱は三米半の長さである。
4.君の上衣は一文の値打もない。
446
ことにあの厄介な計算に至つてはまつたく僕の手に負へなかつた。日光が窓の前の栗の樹の葉蔭から緑金色に數字の上に射し込み、僕が大急ぎで繰越額から〆額まで、下から上へ、上から下へと加へ算をしてゐると、とても奇想が涌いて出て、そのためによく頭が混亂してほんとに三まで數へることが出來ないことがあつた。何故かといふに8はいつも、大きな髮飾りをつけ、コルセットを固く締めた例のおばさんのやうにみえ、意地惡の7にいたつては永久に後ろを指さしてゐる道標か絞首臺みたいだつた。一番面白いのは9で、うかうかしてゐると直ぐまるで6みたいに逆立をしやがる、ところが2の奴が、疑問符みたいに人の惡い顏をして僕にかう訊ねてゐるやうだつた:「結局お前はどうなるんだい、可哀さうな0君? この瘠せた1やそのほかの數字がなかつたら、結局お前は永久に零ぢやないか!」(Die b
447
1.滿洲は二大戰役の壇場であつた。2.君は吾々三人のうちで一番心底が立派だ。
3.その兵士は四つん這ひになつて彈孔から彈孔へと進んだ。
451

彼は君の三倍も狡猾だ。
453
Das kommt aus zweierlei Ursachen.
それは二樣の原因から來てゐる。
Der Vater hat uns allerlei sch
ne Sachen mitgebracht.
父は僕達にいろいろな結構なものを土産にもつてきてくれた。
Der Vater hat uns allerlei sch

父は僕達にいろいろな結構なものを土産にもつてきてくれた。
和譯
1.フリードリヒ第二世はフリードリヒ第一世、所謂「兵士の王」の息子であつた。2.「もう何時ですか?」「もう五時半です、正確にいふと五時十五分です。」
3.「今日は何日ですか?」「今日は六月三日です。」「何時お立ちになりなすか?」「この月の末、つまり二十九か三十日です。」
4.新しく發見された島の經緯度は北緯八十一度十二分、東經五十度五十五分である。
5.一週間前から三階に三十代の男が住んでゐる。
6.「この百マルク紙幣をこまかくしてくれませんか。折あしくこれ以上こまかいのがないんです。」「承知いたしました。貴方さまのお勘定は二十ニマルクになります……ではどうぞおあらためを願ひます!二十二マルクと三マルクで二十五マルク、それに五マルクを加へて三十マルク、それに二十マルク足して五十マルク、それに五十マルク加へて百マルク。間違はございませんか。では七十八マルクのお返しです。どうも有難う御座いました。」
7.加算の符號+は※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-17]plus“または※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-17]und“と讀み、等式符號=は※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-18]ist“(※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-18]sind“)または※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-18]macht“または※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-19]gibt“と讀む。
8.二つの數の差を求めるには引算を行ふ。引算の符號(−)は※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-21]minus“または※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-21]weniger“または※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-21]von“と讀む。
9.掛算をするには九九を知つてゐなければならない。掛算は加算を簡單にしたものにすぎない。掛算の符號(×)は※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、155-25]mal“と讀む。したがつて5×8=40は f
nfmal acht ist vierzig と讀む。十の自乘は zehn im Quadrat と讀む。十五の三乘は f
nfzehn hoch drei または f
nfzehn zur Dritten と讀む。三乘はまた Kubus(立方)ともいふ。



10.割算の符號は重點(:)または重點に横線を入れたもの(÷)である。その讀み方は dividiert durch または geteilt durch または單に durch である。問題:百五を十五で割れば商は幾らか?
11.
のやうな普通の分數のほかに少數といふものがある(例:0.37。これは null Komma sieben und drei
ig または null Komma drei sieben と讀む)。普通の分數を書き表すにはまづ横線を引き、その上に分子を、その下に分母を書く。小數の場合では分子は十もしくは十の自乘である。


456
1.その軍隊は人員三百名である。2.その橋の長さは約一粁である。
3.砂糖を三ポンド下さい。
4.一吋は十二分の一呎である。
和譯
1.被告は千マルクの罰金刑に處された。2.農夫は家畜商人に二十一匹の牛を賣つた。
3.この暴動に三千人以上の軍人と武裝した市民が參加してゐた。
4.大勢の學童が學校から出てきた。
5.貴方は昨日こゝに角砂糖を一箱置き忘れてゆきました。
6.僕は彼に約一萬マルクを立て替へて貰つた。
7.市場には澤山の木造の屋臺店が出てゐる。
8.一群の勇敢な騎馬武者が市門から突出した。
9.「占めた、これこそほんたうに棚からぼた餅といふ奴だ!これがみんな俺達のものだぞ。かうなれば一人當り――まてよ――丁度何時のもの二倍だ!」(レマルク:西部戰線異常なし)
10.だが一番有難たかつたのは一人頭の煙草の分配量が二倍になつたことだ。一人頭に葉卷が十本、紙卷が二十本、嚼み煙草が二切れ、こいつはどうして相當なもんだ。(レマルク:西部戰線異状なし)
458
1.萬人の友は誰人の友にも非ず。2.彼はどうも大した人間らしい印象を與へなかつた。
459
1.一度覺え込んだ脚本は、それが客を引き何とかして小屋を一杯にする間は、たてつゞけに上演される。2.犯人は姿をくらましたが、まだ町のどこかに潛んでゐるに違ひない。
3.これにたいしては政府は何等かの對策を講じなくてはならぬ。
460
1.そのごつた返しの眞つ只中で各人は自分に課された任務を果した。2.彼は叫んだ:「誰か俺についてくる者があるか? 自分の命よりも祖國を尊ぶ者は名乘つて出よ!」――しかし誰も名乘り出る者がなかつた。
3.人皆右往左往し、助けまどひ逃げまどふ。
4.花嫁花婿に關する迷信はずゐぶん澤山ある。たとへばどちらかがエンゲーヂリングを失くすると、その失くした方が死ぬ、などがその一つである。
461
1.二三日前に、買つた傘が早くもこはれてしまつた。2.さてどうしたものだらう? 一本しかない雨傘がこはれてしまつた!
3.君自身の傘を持つてつてくれ、僕のはごめんだぜ。
4.僕は雨傘を澤山持つてゐるから、そいつを一つ一つ覺えてゐるわけには行かないよ。
464
1.誰か扉の前に立つてゐる。2.それには何か譯がありさうだ。
3.僕等は今は客にもゆかなければ客を呼びもしない。
4.君は何時もどこか工合が惡い、何時もどこか痛い。

465
1.或者は泣き、或者は[#「或者は」は底本では「或物は」]笑ふ。2.彼女は人事不省に陷つては我に歸り、我に歸つては又人事不省に陷つた。
3.一方には幸福なことでも他方には不幸なこともある。
和譯
1.彼が言つた後で一座を支配した困惑はとてもたまらないものだつた、そこで人々は次ぎ次ぎと目立たぬやうにその部屋から出て行つた。2.多くの商館が沒落したために彼は次ぎ次ぎと手痛い損失を受けた。
3.知識と信仰との爭ひはまだ一般には行はれてゐなかつたが、これら二つの言葉とそれに關聯した思想は時には姿を見せることもあつた、そして世間蔑視に徹底した人間は、どちらも信頼するに足りない、と主張した。
4.その二人の若人は同じ年配でどちらも美しかつたが、似通つたところは少しもなかつた。
5.多くの婦人が男裝して十九世紀初頭の自由戰爭に雄々しく參加した。
466
1.正常な手段で儲けた金と君のその金とは金の素性が違ふ、君は安心してその金を持つてゐることはできまい。2.約束することとその約束を實行することとは別物だ。
3.閲讀必ずしも理解に非ず。
[#改丁]P.18.
(1)Das ist das Zimmer des Kindes.(2)Das ist eine Pflanze.(3)Das ist nur ein Tier.(4)Auch der Arzt ist ein Mensch. (Der Arzt ist auch ein Mensch.)(5)Die Erde ist die Tochter der Sonne.(6)Die Sonne ist die Mutter der Erde.(7)Die Schwester ist dem Bruder


P.19.
(1)Auch der Affe ist ein Tier.(2)Die Tochter des Advokaten ist noch ein Kind.(3)Ist das ein Affe oder ein Mensch?(4)※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、161-17]Ist der Mensch ein Tier?“ ※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、161-17]Ja, der Mensch ist auch ein Tier.“(5)Der Knabe gibt dem Affen einen Apfel.(6)Der Franzose hat das Talent eines Advokaten.(7)※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、161-20]Ist die Sonne ein Planet?“ ※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、161-20]Nein, die Sonne ist nicht ein Planet, sondern ein Fixstern.“(8)Der Vater des Soldaten ist Advokat.(9)Das ist das Zimmer des Pr

P.22.
(1)Dieser Vater hat nur eine Tochter.(2)Jener Fixstern hat nur einen Planeten.(3)Solcher Sohn (Solch ein Sohn) ist dem Vater un


P.23.
(1)Dieser Mann ist ein Jude.(2)Sie ist nicht eine Frau, sondern ein Fr


P.24.
(1)※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、162-21]Pr











P.26.
(1)Er ist nicht solch ein Dummkopf.(2)Was ist denn das f









P.27.
(1)Kein Land ist augenblicklich so arm wie Deutschland.(2)Hier ist kein W

P.29.
(1)Der Hund ist seinem J


P.31.
(1)Ich tue meine Pflicht und murre nicht.(2)Du kennst wohl diesen Menschen nicht.(3)Wir schmeicheln nicht, wir reden blo


P.33.
(1)Der Vater lobt und segnet den Mut des Sohnes.(2)Er antwortet kurz: ※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、164-22]Ja, mein Vater.“(3)Sie verleugnet die Tatsache, aber das schadet nichts.(4)Ihr verleumdet euren Busenfreund.(5)Dieser Student achtet[#「achtet」は底本では「achttet」] seinen Kameraden nicht.(6)Der Mensch betet, Gott rettet.(7)Der Fels bildet eine Br
P.34.
(1)Du fa





P.38.
(1)Die Freunde unserer Eltern sind alle reich.(2)Die Menschen sind nicht immer den G










P.39.
(1)Ich schenke Herrn Tanaka ein Pferd.(2)Die Herren Advokaten besuchen den B





P.44.
(1)Ein Rat bricht das Stillschweigen und ergreift das Wort.(2)Nimmst du die Stra









P.46.
(1)Er ist nicht feige, er tr





















P.48.
(1)Der Lindenbaum wird gro


P.51.
(1)Die U-Bahn l


















P.56.
(1)Worin steckt das Schwert? Es steckt in einer Scheide. (od. in der Scheide.)(2)Er sieht auf die Wand, darauf steht: ※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、168-4]Nicht rauchen!“(3)Dies ist das Arbeitszimmer. Darin arbeitet der Vater.(4)Solch eine Behauptung ist falsch, daran glaubt kein Mensch. (niemand glaubt daran)(5)Du findest in der N


P.58.
(1)Mein Vater wird den Pr








P.60.
(1)Jeden Menschen kann man l







P.63.
(1)Kann eine Stadt Kulturmittelpunkt hei











P.64.
(1)Der Vater verbietet (es) den Kindern (seinen Kindern), laut zu sprechen. (2)Der Lehrer befiehlt dem Schuldiener, die Fenster zu







P.65.
(1)Sie m





















P.73.
(1)Wer ist dieser gl




















P.78.
(1)Ich will dir eine sehr (od. ganz) leichte Aufgabe geben.(2)Ich habe die Absicht, ihn am fr






P.81.
(1)Ich will eigentlich zuhause arbeiten, aber mein Vater braucht meiner nicht. (od. braucht mich nicht.)(2)Die Vertreter der deutschen Regierung werden unser und unserer Partei mit keinem Wort gedenken.(3)Ich darf den Auftrag meines Vaters, statt seiner (an seiner Statt, anstelle seiner, an seiner Stelle, anstatt seiner, etc.) in der heutigen Sitzung zu erscheinen, nicht vergessen.(4)Ich werde wahrscheinlich ihrer




P.83.
(1)Sie werden in drei oder vier Monaten ganz bestimmt in meine H















P.87.
(1)Er fa












P.90.
(1)Da die Autobusse alle voll waren, mu



















P.92.
(1)Sie wei




















P.96.
(1)Heute bleibe ich zuhause, weil ich m



















P.103.
(1)Warum hat der Offizier diesen Soldaten gestraft (od. bestraft)? Nun, weil er ihm nicht gehorcht hat.(2)Ich habe soeben die Postkarte meines Kollegen erhalten. Er ist augenblicklich in Berlin.(3)Hat er dir erz











P.106.
(1)Man hat oft behauptet, da


















P.113.
(1)Da die Zeitungen der Stadt melden, da











P.115.
(1)Ich habe eine ganze Stunde geschwommen und gerudert, und jetzt bin ich ganz m





P.120.
(1)Die Sitzung von heute mu














P.124.
(1)Wenn er kein Geld mehr hat, dann kommt er jedesmal zu mir, der ich ein Freund von seinem Bruder bin.(2)Du, der du







P.128.
(1)Wer ein Hindernis















P.131.
(1)Sie zeigte mir einen Korb, den sie selbst verfertigt hatte.(2)Am Nachmittage dieses Tages brachte mir ein Bote das Rezept, das mir der Arzt am vorigen Tage versprochen hatte.(3)Sein Kollege erz









P.134.
(1)Wenn dieser Dampfer au


P.145.
(1)Wenn man eine steinerne Treppe heruntersteigt, kommt man an einen alten Teich.(2)Man bringt eine Leiter heran: ein Kind ist in den Brunnen heruntergefallen.(3)Die Wache hielt ihn auf; er holte den Ausweis aus der Tasche hervor.(4)Der Bach ist hier sehr breit; ich kann nicht hin


P.149.
(1)Seine Worte durchdringt einem das Herz und erf














P.154.
(1)Das gr




















P.156.
(1)Er nahm meine Einladung an unter dem Vorbehalt, den Zeitpunkt sp
















P.159.
(1)Diese Rose ist ein Beweis deiner Liebe gegen mich, darum will ich sie als einen solchen sorgf










P.161.
(1)Das gemeine Volk schenkt nur demjenigen Glauben, der entschlossen l







P.167.
(1)Der gr






















P.169.
(1)Da der Sklave fr


P.175.
(1)Nur durch einen
















P.180.
(1)Was gibt es Neues? Steht nichts Interessantes in der Zeitung?(2)Erza:hlen Sie uns bitte etwas Interessantes, Herr Professor! An etwas Langweiligem haben wir schon genug.(3)Wer etwas Gro










P.184.
(1)Ich sa












P.187.
(1)Ich freue mich



































P.190.
(1)Mein kleiner Bruder sprang






P.193.
(1)Sie sind stark, wenn sie einander helfen, und schwach, wenn sie einander schaden.(2)Wenn ihr so miteinander streitet, wird euer Vaterland dar















P.195.
(8) Das Kinderm





















P.197.
(1)Die Reichsregierung hat wegen gewisser Umst




P.198.
(1)Ihr macht meine Heldentat mit Unrecht l









P.200.
(1)Das ist alles, was er f






P.204.
(1)Ich habe Demagogen oft vor dem Zusammenbruch unseres Vaterlandes warnen h











P.216.
(1)Liefere immer gute Waren und nimm den Preis nicht zu hoch; billige und doch gute Waren finden immer noch ihre K










P.224.
(1)Man verachtet die Bezeichnung Bauer. Aber wer ein echter, ernsthafter Bauer sein will, der vermeide wohlklingende Bezeichnungen wie Landwirte, geschweige denn ※[#下側の右ダブル引用符、U+201E、197-14]Agrarier“, und nenne sich einfach Bauer.(2)Wer den Tadel des Amerikanismus nicht scheut, der suche durch ostensible Schaustellung seines Geldverm



P.226.
(1)Der passive Widerstand, meine Herren, ist ein Widerspruch in sich selbst, das ist mit andern Worten ein Widerstand, der nicht widersteht; ein Widerstand, der kein Widerstand ist. Aber wenn ihr euch durchaus daf













P.231.
(1)Der Arzt erz




















P.234.
(1)Es ist gut, da













































P.247.
(1)Ich staunte, als ich den folgenden Tag auf meinen Vater sah. Er war zwar nicht jung zu nennen, aber









P.251.
(1)Da ich die Gefahr, die ich schon lange bef
























P.255.
(1)Im Gebirge donnert und blitzt es, aber im Tale ist es ganz still. Wem es nur daran gelegen ist, sein Leben in Frieden zuzubringen, der trachte nie nach oben.(2)Heute friert es, aber ich friere gar nicht. Es scheint also, da












P.272.
(1)Wenn ein so ehrlicher Mann wie er l

























P.276.
(1)Falls der Brief nicht bestellbar sein sollte, bitte, senden Sie ihn an den Absender zur




























P.286.
(1)Man fasse die Beziehung zwischen Gedanken und Sprache, wie man will, immerhin kann man von dem empirischen Standpunkte aus behaupten, das& der Weg der Sprache sich nicht immer mit dem des Gedankens vollkommen deckt.(2)Wo auch immer die Ursache der internationalen schlechten Gesch















P.295.
(1)Nun gilt es, den Weg, den wir uns schon l






P.298.
(1)Der Mann war ein Riese gegen mich, soda


P.305.
(1)Gewohnheit hei











P.333.
(1)Die meisten Parteien treiben einen politischen Kampf um des politischen Kampfes willen. Eine stellt Forderungen an die andere, die sie nicht einmal selber zu erf















