東京で西京漬けと呼んでいるのは、京都産の白味噌に魚類を漬け込んだものを言う。白味噌は京都が本場で、京都以外でできているものもないではないが、品が落ちる――となっている。白味噌は辛味噌からみると、大豆と
〔家庭で漬けようとする場合の心得〕
○白味噌ばかりでは甘味が足りないから、相当多量に砂糖を加えること。
○白味噌の有する水分では足りないから、冷酒を加えて、糠味噌ぐらいのやわらかさに溶くこと。
○魚類は切り身に一旦塩を振って、塩が中身まで通った時分(約五時間ぐらい)に程々に漬け込むこと。漬かり加減は春の陽気で、まる二日目くらいから五、六日目までがよい。冷蔵庫に置くか否かでは大変な相違があるから、この辺のことは各自が常識で考えなければならない。
○味噌漬けの魚は焼くのが一番の良法である。焼くときに味噌から出して味噌を洗い落とす。
○網に直 にのせて焼くことは禁物である。網にくっついて始末がわるくなるからである。
○金串は扇の骨形に刺す。ぜひとも金串に刺して焼くことである。どんな焼き魚でも、そうした方が美しく焼けて、どんなに焼きやすいか知れない。
○火のおこり方が激しい味噌漬けは焦げやすいから遠火で焼くのがよい。火にかけて、魚の上を金物のなべぶたで覆うと、とてもうまく蒸し焼き風に火が通って、まちがいなく焼ける。
○金属製のなべぶたをかぶせて焼くことは、いついかなる魚を焼くときにも利用するのがよい。
一大秘訣とでも言うべきであるからである。
(昭和十四年)