土に噛りついても故国は遠い
負いつ 負われつ
おれもおまえも負傷した兵士
おまえが先か
おれが先か
おれもおまえも知らない
おれたちは故国へ帰ろう
おれたちは同じ仲間のものだ
お前を助けるのは俺
俺を助けるのはお前だ
おれたちは故国へ帰ろう
この北満の凍土の上に
おれとお前の血は流れて凍る
おお赤い血
真紅のおれたちの血の
おれたちは千里のこなたに凍土を噛む
故国はおれたちをバンザイと見送りはしたが
ほんとうに喜こんで見送った奴は
俺達の仲間ではない
おれたちは屠殺場へ送られてきた
馬
豚
牛だ!
いつ殺されるかも知らない
おれたちは今殺されかけている
おれたちは故国へ帰ろう
土に噛りついても故国は遠い
だがおれたちは故国へ帰ろう
戦争とはこういうものだ
戦地ではおれたちの仲間がどうして殺されたか
あんな罪もない者を
殺すのがどんなに嫌でも
何故殺せと命ずるのか
殺す相手も
殺される相手も
同じ労働者の仲間
おれたちにはいま仲間を殺す理由はない
この戦争をやめろ
兵士は故国へ
おれたちの仲間
中国の仲間
そしてソヴェート・ロシアの仲間の
共同の戦線こそ勝利を固めよ
おお おれたちは今銃創の苦るしさに凍土を噛み
傷口から垂れた血の氷柱を砕きつつ
故国の仲間に呼びかけたい
おれたちは故国へ帰ろう
お前もおれもがんばろう
(『プロレタリア文学』一九三二年二月号に発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)