墓場が用意された!

――×××組合のダラ幹を葬れ――

今野大力




歴史!
「歴史がこうであったから
 これはこうであるべきだ」
てめい等はまるでブルジョア学者と同じように
そこからどんな論理や哲学をひきずり出そうというのだ
歴史がたとえどうあろうと
俺達の現実にとって
俺達がこれから築いて行こうとしている
仕事のために
役になんか立ちそうもない
役に立つどころか、てめい等も御存知のない位
立派に反動を働こうなんて
おお、そんなぐちッぽい歴史の講義なんて持ち出しては貰うま(ママ)

「おいらの組合には輝ける歴史があった
 おいらの組合には伝統の力があった
 おいらの組合にはそういう者がいなかった
 おいらの組合は何ごとでも民主主義デモクラシーだった」
ええ、何とでも抜かしてござれ!
ダース、一ダース、落武者共のような愚痴を並べて
いくらしゃべろうと何になる
てめい等には、ほんにお睦ましい仲のいい、お談ぎの出来る組合なんて
そんなものは、いつのことだ。

俺達にそんなものは無用である

俺たちの組合はあくまでも
労働者同盟、同志のもの
労働者――被搾取者――被支配者
永き屈辱の歴史にゆがめられようとした
プロレタリアの血盟に
やがては来る(近づきつつある!)唯一の正当なる革命の母体として
築かれ行く城砦とりでである
しかも俺達の組合は
小さなてめい等集団グループ棲家すみかじゃない
俺達の組合は鉄火の組織に鍛えられ
そして俺達の組合は鋼鉄はがねの規律を重んずる
そして俺達の組合に怪しげな妥協は許されない

輝ける歴史(?)
そんなこともあったろうよ
俺達の歴史の頁は
大地にへたばらされて
水をぶっかけられ
鞭を加えられ
(それ位はまだ生やさしい!)
どんなことをされようとも
口は奴等に封じられた
ガリ版は奴等にふんだくられた
無言のままに
無言の顔と顔で非合法で
お互がはっきりと共同の仇敵を記憶の底に焼きつけ
必ず奮起を誓って来た
どの行もどの一字も
血みどろの惨苦に染め出され、出されつつある
俺達の歴史はそうした歴史だ!
許された特あつらえの窓口から
昔をなつかしく願望して
過去を偲び、現実を思う
そして現実からは遠く未来に飛躍する
その雰囲気こそ彼等の終生の歴史である
べらぼうめ!
何というだらしなさだ
何という不規律だ
百パーセントの・合法主義者の・現実主義者レアリスト
左翼社会民主主義者の
いくじない闘争方針は
俺達にとって俺達の重荷となり
遂には俺達正面の敵となる

俺達は青年
俺達は同志
俺達は赤旗を守る

俺達は生れ
俺達は育ち
俺達は鍛えられ
俺達は闘争する
俺達の得るものは
「未来であり全世界である!」
そうだ!
彼等には歴史の墓場が用意された!

一九三〇年九月六日国際共産青年デーの前夜





底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
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