旗がしきりにゆれている
ハタハタと、又ハタハタと
時には風が吹いて来て
ゴトンと音を立ててゆく
外はほんとに暗いのだ
自分よ、或る夜の事を思い出せ
そしてぞうっと身ぶる
今夜の雪は青白い
すごい黒さが沁みている
海の妖婆が踊るよな
暗い恐ろしい夜となる
日本海と太平洋の沖の方に
何か変りはないだろうか。
海辺の街の病める友は
こんな夜なら寂しかろう
母がはなれているのさ
悲しくなって来るだろう
窓の近くに横たわり
眠りもせずに、うつうつと
ものを思えるその時は
そうっと窓の近くにて
海の妖婆が笑うだろう
私も自分がさびしくて
忘れようにも忘られず
ぞうっと身ぶる
一〇・三・四稿