うみぼうずは しょうたいの わからない おばけです。
まっくろな からだを して、
だから、みんなから きらわれて います。なにか
さかなや、
「やい、おれさまの いるのが わからぬか。」
と、うみぼうずは
「また、むほうものの うみぼうずが さわぎだした。こまった ものですね。」
と、りゅうぐうの ごてんに すむ おひめさまは、まゆを おひそめに なりました。
「これは かなわん。」
と いって、どこかへ にげだしました。
たいや いかや いわしなどの
「おひめさま、どうぞ おたすけください。」
と、ごもんの ところへ あつまりました。どんなに つよい かみさまも
「すこしの あいだ おまちなさい。」
と、おひめさまは おっしゃいました。
うみぼうずは、ところきらわず あばれまわった ものだから、だんだん つかれて きました。
この とき、どこからとも なく、いい おんがくが きこえて きました。
「はてな。」
と、うみぼうずは、あたまを あげて あちらを みると、
うみぼうずは いましがた じぶんが あばれたのを おひめさまたちに みられたのかと おもうと、きはずかしく なって じっとして いられず、くらい
たちまち、くろくもが きえ、あらしが しずまって、
「どうして こんな えらい あれが したんでしょう。」
と、たけちゃんが おばあさんに ききました。
「うみぼうずが あばれたんだよ。」
と、おばあさんは おっしゃいました。
そこへ、さんちゃんと きみこさんが あそびに きました。
「はしの ところへ いって みようよ。」
と、さんちゃんが いいました。
「きっと、
と、きみこさんが いいました。
三
「すごいな。」
と、さんちゃんが かたを いからせました。
「あんな ものが ながれて きた。なんでしょう。」
と、きみこさんが あちらを さしました。くろい まるい ものが、ぶかぶかと みえたり かくれたり して いました。
「うみぼうずで ないかしらん。」
と、たけちゃんが いいました。
「うみぼうずって なによ。」
と、きみこさんが ききました。
「
と、たけちゃんは、おばあさんから きいた ことを はなしました。
「ごらんなさい。そんな ものじゃ ない。なにかの あきだるよ。」
と、きみこさんが わらいました。
あきだわらや、みかんの かわや、いろんな ものが ながれて きました。
「ぼくが
と、たけちゃんが いいました。
「きみの おうま どう したの。」
と、さんちゃんが ききました。
「ぼくの いらなく なった おもちゃだよ。」
と、たけちゃんは、
「わたしも いつか、おにんぎょうさんを すてたのよ。」
と いいました。
「みんな
と、さんちゃんが いいました。
「
と、三
こちらは、ひろい ひろい
そして、これらの けものたちは、うみぼうずの けらいに なって いました。
ちょうど
「おや、こいつは なんだろう。みょうな ものが ながれて きたぞ。」
と、うみへびが かたわの うまを みつけて、ぐるぐると おもちゃの まわりを およぎました。この こえを ききつけて、わにざめが どこからか やって きて、
「まてまて。そう がつがつするな。みた ことの ない ものだ。ひとつ たいしょうの お
と、うみへびは のらりくらりと しながら、ひかる はらを なみまに みせて いました。
「は、は、は。この ちびに そんな ねうちが あるだろうか。」
と、わにざめが わらいました。
この とき、うみぼうずは ひとり
どうして うつくしい ものには、わからずやの うみぼうずも かなわないのでしょう。じつに ふしぎでは ありませんか。
うみぼうずは さかなや けものたちに、じぶんを
「
と、うみへびは おもちゃの うまを もって きました。
たいくつで いねむりを して いた うみぼうずは、
「は、は、は。これは うみうまの かたわの
と わらいました。
「いいえ、
と、うみへびは いいました。
「なるほど、そうかも しれぬ。どれ、たましいを いれて、はなしを さして みよう。」
うみぼうずは ふしぎな じゅつを つかって、おうまに ものを いわせました。
「おまえは どこの ものだ。」
「わたしは たけちゃんに かわいがられた おもちゃです。」
「どうして そんな かたわに なった。」
と、うみぼうずが ききました。
「ポチが くわえて ふりまわしたり、タマが じゃれて ひっかいたからです。」
と、おうまが いいました。
「なぜ おまえは おこらないのか。」
「いぬや ねこは、わるいと いう ことを しりません。」
と、おうまが こたえました。
「おかしな やつだな。おれが かわりに かたきを うって やろう。みちあんないを せい。」
と、うみぼうずが いいました。
「あの なつかしい
と、おうまは おどろきました。
「だまって ついて くれば いい。」
と、うみぼうずは にらみつけて、くろくもを よびました。たちまち
くもの
「さあ、でかけるぞ。」
と、うみぼうずは
あそんでいた たけちゃんや きみこさんが びっくりしました。
「あっ、ひかった。」
「
と、きみこさんが いいきらぬ うちに ゴロゴロと いう
「また あとで あそぼうね。」
と、ふたりは あわてて おうちへ はいりました。
たけちゃんは くつを ぬいで かけあがると、おばあさんの おへやへ いって、
「また うみぼうずが あばれだしたね。」
と いいました。
しんぶんを みて いらしった おばあさんは、めがねを はずしながら、
「もう、
と おっしゃいました。
「そう すると、うみぼうずは あばれなく なるの。」
と、たけちゃんが ききました。
「うみぼうずかい。
と、おばあさんは いわれました。
そう きくと たけちゃんは、きらいな うみぼうずだけれど、ひとりぼっちなのが なんだか かわいそうな
「おばあさん、かみなりは とおくへ いったようだね。」
と、たけちゃんは
「あたりが あかるく なったから、もう こっちへは きませんよ。」
と、おばあさんは おっしゃいました。
そう きくと、たけちゃんは あんしんして、また おもてへ でました。
すると、あちらの
「おや あの 一つの くもは、ちんばの おうまみたいだ。」
と、たけちゃんは じっと
その くもは、いつか
ちょうど この とき、
「じぶんの
と、いらだたしそうに きいて いました。
おうまは、とおく
「
と いって、のはらを さしました。
「そうか。あの
たちまち、たきのような
ぴか ぴか、ゴロ ゴロ。
「は、は、は、このくらい あぶらを しぼれば、たいてい ちぢみあがるだろう。」
と、うみぼうずは きもちよさそうに わらいました。
「もしもし
と、わにざめが いいました。くいしんぼうの わにざめは はやく
「かたわの うまめが うそを いったのです。」
と、わにざめは いいました。
「なぜ おまえは、うそを いうのか。」
と、うみぼうずは おうまを しかりました。
「いいえ、うそでは ありません。この
と、おうまは こたえました。
「じゃ、わたしが おりて みましょう。」
と、うみへびが いって、さっそく じぶんの のって いる くもを、
なるほど、いろいろの とりが ないて います。おんがくかいが あるようでした。うみへびは いままで こんな いい こえを たくさん きいた ことが ありません。また、そこここに いろとりどりの くだものが みのって いました。すべて、
「なかなか いい ところだな。こんな ところに すんだら、さぞ おもしろかろう。」
と、うみへびは おもいました。
この とき、うみぼうずが はやく もどれと あいずを したので、うみへびは いそいで、おうまを のこした まま
「ぐずぐずしては おれぬ。ひめたちが こちらへ やって くるようだ。」
と、はにかみやの うみぼうずが
ほんとうに
「
と、わにざめが そばへ きて いいました。
「まったく いい ところさ。みんなに みせたかったよ。おれは おちついて すみたいと おもった。」
と、うみへびが こたえました。
「そうか。そんなに いい ところなの。それでは おいしい ものが たくさん あったろう。」
「あったとも、いい においの する くだものが、
「それは いい ものを みたね。にんげんは なにを して いたかい。」
と、わにざめは ききました。
「なにぶん、かみなりは なるし、
と、うみへびが いいました。
この とき、みんなの のって いる くろい くもは、たかい
「おれは はやく かえりたい。ひょうざんが こいしく なって きた。」
と、しろくまは ねっしんに
「そうとも、にんげんの せかいなど、ながく いる ところでは ない。にんげんほど うそつきで よくばりで たがいに けんかを する やつは、どこにも いないだろう。うみへびの あとを おい、
と、
「
と、うみへびが わらいました。
「あれほど げんきが ありながら、どうして おひめさまが こわいのだろう。」
と、わにざめが ふしぎがりました。
「それは ふしぎで ない。やさしくて ただしい ほうが、わんりょくで つよいのより えらいに ちがいないから。」
と、うみへびは いいました。
いえの そとで、きみこさんや みつこさんや たけちゃんたちが あそんで いました。
「ごらんなさい。まあ、きれいだこと。あの くも ながい たもとのように みえない。」
と、きみこさんが
「きっと、こんばん およめいりが あるのだろう。」
と、たけちゃんが いいました。
そう きくと、みんなは おせっくの おざしきに かざる、うつくしい おひめさまを そうぞうしました。そして、いま くもの
「いつかも うちの おばあさんが、
と、たけちゃんが いいました。
みんなは、しばらく
「あちらは ごくらくでしょう。」
と、みつこさんが いいました。
「ごくらくって どんな とこなの。」
と、きみこさんが ききました。
「いい ところ。まい
と、みつこさんが いいました。
「あの
と、たけちゃんが いいました。
「にんげんの いけない とこよ。」
「そんな とおい とこなの。」
「ひこうきに のったら いけるだろう。」
めいめいが おもった ことを いって、
「わたし、あの
と、みつこさんが いいました。
「きょねん、わたしが
と、きみこさんが いいました。
そして、その ばん、きみこさんは おうちへ かえって、うみぼうずと おひめさまの はなしを すると、おとうさんは、
「おもしろい おはなしだね。けれど、
と いわれました。
「やはり、うみぼうずや おひめさまが いるのですか。」
と、きみこさんが いいました。
「そうだよ。かみさまと ちがい、にんげんだから そう やさしい うつくしい おひめさまは すくないけれど、もっと たちの よく ない うみぼうずは たくさん いると おもうよ。」
と、おとうさんは いわれました。
きみこさんは、
「うみぼうず、おまえが わるいのだ。」
と いう、
おどろいて そちらを みると、二、三
きみこさんは、あだ
「おぼえて いろ。」
と、うみぼうずは あいてを にらみつけました。
「おまえが ひとの まりを なくしたのでは ないか。
「ふん、なにが こわいもんか。」
うみぼうずは りきみかえって あちらへ いって しまいました。
「まあ、なんて らんぼうな
と、きみこさんは おもいました。
おうちへ かえって、おもてで、みんなと あそんだ ときでした。
「たけちゃん、うみぼうずを しって いない?」
と、きみこさんが ききました。
「いつか おばあさんの はなした?」
「いいえ、ほんとうの うみぼうずよ。」
「そんな もの いるものか。」
「いてよ、
と、きみこさんが いうと、そばに いた みつこさんが、
「ああ わかった。」
と いわぬばかりに、パチパチと
「さんちゃん、きみ しって いる。」
と、たけちゃんが さんちゃんに いいました。
「だれの ことだろうな。ぼくも しらないよ。」
と、さんちゃんは くびを かしげました。
「きみこさん、わたし みたわ。あとで あれは うみぼうずだと、ほかの
と、みつこさんが つぎのような はなしを しました。
「やきゅうぼうを かぶった かわいらしい 一
「その とき、ほかに、だれか いなかった。」
と、たけちゃんが ききました。
「いたけれど、らんぼうされるのを こわがって、みんな だまって いたわ。」
「そして、どう した。」
と、さんちゃんが いいました。
「うみぼうずは とうとう
「かわいそうに。」
と、きみこさんは
「おまえは よわむしだから、すぐ おかあさんなんて いうのだろう。こんな ところで よんだって きこえるものかと、うみぼうずは わらって いたわ。」
「わるい やつだなあ。」
と、さんちゃんは おこりました。
「するとね。どこかの やさしい おばさんが とんで きて、どう したのと いって
と、みつこさんは はなしました。
ある
「きみ、その いぬを どうするの。」
と ききました。
「
と、うみぼうずが いいました。
「なぜ そんな ことを するの。」
「こいつが まいあさ かきねを くぐって、ぼくの
「でも、ころすのは かわいそうじゃ ないか。」
「しかたが ないだろう。こらして やるんだ。おまえも いっしょに おいでよ。」
と、うみぼうずが いいました。
「そんな らんぼうを するなら、ぼく いっしょに いかない。」
と、せの ひくい
「いやなら こなくても いいよ。その かわり、ぼくも これから おまえの いう ことを きかないからな。」
と、うみぼうずは くりくりと した
ちょうど ここを とおりかけた みつこさんは、この ようすを みて、じぶんも うみぼうずが にくらしく なって、なにか いって やりたかったけれど、やはり
「それは たいへんだわ。」
と、きみこさんは
「うんこを したぐらいで、いぬを ころそうなんて、ほんとうに らんぼうだよ。」
と、たけちゃんが おこりました。
「まだ
と、みつこさんは みんなを せきたてました。
「その とき、みつこさんが とめれば よかったのよ。」
と、きみこさんが いいました。
「だって、うみぼうずは つよそうでしょう。わたし、そんな ゆうきが なかったわ。」
「いくら つよくても、むちゃな らんぼうを するのを、だまって みては いられないよ。」
と、さんちゃんが いいました。
「そうだ、ぼくと さんちゃんとなら、うみぼうずを やっつけられるね。」
と、たけちゃんが さんちゃんに さんせいしました。
「いえ、けんかしては だめよ。それより はやく いって とめましょう。」
と、きみこさんが かけだしたので、みんなも いっしょに
すると あちらから つりざおと バケツを もって、
「きみ、いぬを つれた
と、さんちゃんが ききました。
その
「さっき、あっちの はしの ところで みたよ。」
と こたえました。
「ありがとう。」
みんなは、すみれや たんぽぽの さいて いる
はしの ところまで くると、
「あそこへ いくのは うみぼうずでは ない。いぬを つれて いないから きっと
と、さんちゃんが いいました。
ふたりの すがたは だんだん かすんで しまいました。この とき、きみこさんが、
「どこかで クンクン いぬの なきごえが するじゃ ないの。」
と いって、
「ああ、ないて いる。きっと どこかに いるんだよ。」
と、たけちゃんも
「ここだ、みんな はやく おいで。」
と、たけちゃんが さけびました。
「たすけて やろうよ。」
と、たけちゃんが
「おちると あぶないよ。」
と、さんちゃんは いって、たけちゃんの うわぎを しっかりと つかんで いました。
「たけちゃん、だいじょうぶ。」
と、きみこさんが
「いま そこへ だいて いくからね。」
たけちゃんは、ぬれて ぶるぶる ふるえて いる いぬを だいて
「よく ながされなかったね。」
と、みつこさんは ハンケチを だして、いぬを ふきに かかると、きみこさんも いっしょに ぬれた からだを ふいて やりました。
「うみぼうずは きっと しんだと おもったろう。でも、たすかって よかった。」
と、さんちゃんは よろこびました。そして、みんなが いぬを とりまいて すわりました。とんぼが のぞきながら あたまの
「だれか この いぬを かって やらない。」
と、きみこさんが いいました。
「ぼく ほしいんだけど、ポチで おばあさんが こりたから、ゆるして くださらない だろう。」
と、たけちゃんが いいました。
「どうして。」
「だって、よその にわとりや うさぎを とって きて、いつも おばあさんが あやまりに いくんだもの。やっと ねえさんの おともだちに ポチを もらって もらったんだよ。」
「わたし、おかあさんに きいて みるわ。みんなも きて たのんで くださらない。」
と、みつこさんが いいました。
「たのんで あげるよ。いい おかあさんだから きっと きいて くださるだろう。」
と、さんちゃんが こたえました。
それから みんなで みつこさんの おうちへ いったけれど、おかあさんは すぐ うんとは おっしゃいませんでした。
「いきものを かうのは、なかなか せわの いる ものですよ。」
と いわれました。その とき、さんちゃんは、
「おばさん、みんなが なんでも シロの せわを しますよ。」
と いいました。
「おや、もう シロと いう
と、おかあさんは おわらいに なりました。そして、とうとう しょうちして くださいました。
ある あさ シロは、みつこさんに ついて
「あっ、この いぬは おまえの とこの いぬかい。」
と、うみぼうずは びっくりして ききました。みつこさんは ふしぎに ゆうきが でて、じっと うみぼうずの かおを にらみながら、
「あんたが この いぬを
と いいました。
なんと おもったか、うみぼうずは かおを
あつい
すると みつこさんが、
「まあ うみぼうずよ、かんしんだわ。」
と いったので、たけちゃんも その ほうを ふりむくと、おじいさんの
「ああ、あの
と、たけちゃんが いいました。
「だって、いぬを
「きっと、あとで こうかいを したのだろう。」
そう きくと、みつこさんは、このあいだ かおを
「やはり
と、さんちゃんが いいました。
「どうして。」
と、たけちゃんが ききました。
すると、きみこさんが、
「かみなりさまに おねがいしても
と いいました。
「おねがいが たりないのかも しれないわ。」
と、みつこさんが いいました。
「かみさま、どうぞ
と、みんなで
この ありさまを
その とき、うみぼうずは
「みんなが おねがいして います。はやく
と、おひめさまは おたのみに なりました。うみぼうずは ものぐさそうに かおを むけると、
「にんげんが なまいきだから こまらせて やるのさ。つみの ない くじらや おとなしい おっとせいを いじめるばかりか、なんでも じぶんたちは できると いばって いる。
と、うみぼうずは わらいました。
「そうとも、にんげんぐらい じぶんかってな ものは ない。たいしょうが たまに
と、うみへびが
「なかには ものの わからぬ
と、おひめさまが いわれると、うみぼうずは あたまを たれて きいて いました。
「あなたが みんなの ねがいを きいて くださるなら わたしたちは あなたを
と、おひめさまは いわれました。
「なに、
と、にっこり うなずくと、うみぼうずは たちあがりました。そして けらいたちを よびあつめました。
たちまち あらしが さけび、くろくもが まきおこりました。ぴかぴか ゴロゴロ かみなりを とどろかして、うみぼうずは りくを めがけて しんぐんしました。みるまに、
「おうい、
と、はるか