お月さまと ぞう

小川未明




 しょうちゃんと よしさんが、ごもんの ところへ たらいを だして、みずを いれると、まんまるな つきの かおが うつって、にこにこと わらいました。
「さあ、わたしを よく みて ください。」
と、つきが いいました。
おおきな おつきさまね。」
と、よしさんが よろこびました。
「あの くろいのが うさぎかしらん。」
と、しょうちゃんが あたまを かしげました。
「ほんとうの うさぎ?」
と、よしさんが ききました。
「ああ、ぼうえんきょうが あると、よく わかるのだよ。」
 しょうちゃんは あおむいて、おつきさまを ながめました。
「わたし、くびが いたく なるから、おたらいのを みましょうよ。」
 この とき、あちらが がやがやしました。
「ごらん、ぞうが きた。」
と、しょうちゃんが びっくりしました。
 おおきな ぞうが、おうらいを あるいて きました。サーカスが、どこかへ いくのです。
 ちかちか ひかる、あおい きものを きた おねえさんと、くろい ズボンを はいた おとこが、むちを もって、ついて きます。
「こわいわ。」
と、よしさんは おうちへ はいろうと しました。
「ぞうは おりこうだから こわく ないよ。」
と、しょうちゃんは とめました。
 ごもんの まえに くると、ぞうは こちらを むいて、ながい はなで たらいの みずを すうと のみほしました。
「あら、おつきさまを のんで しまったわ。」
と、よしさんが いいました。
「おいたを しては いけません。」
と、ぞうは おねえさんの むちで、ピシリと たたかれました。





底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社
   1978(昭和53)年2月10日第1刷発行
   1982(昭和57)年9月10日第5刷発行
初出:「コドモノヒカリ」
   1937(昭和12)年10月
※表題は底本では、「おつきさまと ぞう」となっています。
※初出時の表題は「オ月サマト象」です。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:Juki
2012年7月16日作成
2012年9月27日修正
青空文庫作成ファイル:
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