しゃしんやさん

小川未明




 あつい でした。しょうちゃんは あおぎりの の したで、すべりだいに のって あそんで いました。
 そこへ、かみの ながい しゃしんやさんが はいって きて、
「ひとつ うつさせて くださいませんか。」
と たのみました。この しゃしんやさんは きかいを さげて、ごようを ききに あるくのです。
どもを とって もらいましょうか。」
と、おかあさんは おっしゃいました。
「かしこまりました。」
 しゃしんやさんは、しょうちゃんを すべりだいの うえへ かけさせ、おねえさんに ランドセルを しょわせて、したへ たたせました。
 おねえさんは 小学しょうがくねんせいです。
「ぼっちゃん、おくちを ふさいで。」
と、しゃしんやさんが いいますと、しょうちゃんは、ああんと くちを あけました。
「ぼっちゃん、いい ですから、わらって くださいね。」
と、しゃしんやさんが いいますと、しょうちゃんは、したを ぺろりと だしました。
 これを みて いた おともだちは、しょうちゃんの わんぱくに あきれました。
しょうちゃん ごらんなさい、おねえちゃんは おぎょうぎが いいこと。」
と、おかあさんが おっしゃいました。
「いいえ、ぼっちゃんも おぎょうぎが よろしいですよ。さあ、うつしますから。」
と、しゃしんやさんが うつそうと しました。
 すると、しょうちゃんは するすると すべりだいを すべりました。しゃしんやさんは こまって しまいました。
「この つぎに しましょうか。」
と、おかあさんは おっしゃいました。
 かんがえて いた しゃしんやさんは、すっかり うつす よういを してから、
「さあ、おじょうさんも ぼっちゃんも、ようく おかあさんの おかおを ごらんなさい。」
と いいました。
 ふたりは、やさしい おかあさんの おかおを みました。かたときも わすれない おかあさんだからです。
 その とたん、パチンと おとが して、
「よく とれました。」
と、しゃしんやさんは あいさつを いたしました。





底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社
   1978(昭和53)年2月10日第1刷発行
   1982(昭和57)年9月10日第5刷発行
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:Juki
2012年7月16日作成
2012年9月28日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について


●図書カード